【完結】死神探偵 紅の事件 ~シリアルキラーと探偵遊戯~

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第三幕 二 「この事件に旨い結末をつけるためにお前達を呼んだのだ」

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     二

「そんなモノ、一介の探偵の手に負えるものでもないでしょう?」
 驚きの後、やっと落ち着きを取り戻し始めた室内で、一人の探偵が呆れたたような声を出した。
 それは、精一杯虚勢を張っているような榊原だった。
「事件の早期解決だって?警察が組織力をもってしても捕まえられない殺人鬼を、どうやって探し出すっていうんです?」
 努めて冷静に、榊原は続ける。あまりにとんでもない事態に、口元に張り付いているのは皮肉げな笑みだけだ。
「探偵というのは少数精鋭なんですよ。組織力を駆使しても痕跡の見つからないモノを、どうやって探すんですか?警察による情報統制のおかげで、情報一つ集まらないっていうのに。」
 榊原の口から溢れるのは正論だった。
 琉衣も霧崎も、榊原に加勢するべく頷いている。
 だが、探偵達の反論にも一行に孝造は耳を貸そうとしなかった。
「分かっておる。だから、お前達に頼んだのだ。この事件、警察の情報統制のおかげで、一行に解決せん。犯人を断定したというのに、発表すらままならん。敷地内で秘書が死んだだけでも評判が悪いというのに、その上事件が解決せんことにはつまらぬ噂が広がるばかりだ。そこで、この事件に旨い結末をつけるためにお前達を呼んだのだ。」
「結末?」
 孝造の予期せぬ言葉に、探偵達の顔が曇り始める。
 しかし、孝造はそれに構うことなく続けた。
「そうだ。説得力のある情報や証拠を集めて、事件を解決してくれ。一番はその殺人鬼を捕まえることだが、それは難しいだろう?だったら、別の可能性を探れということだ。」
「実力もあり宣伝力のある探偵の言葉ならば、その結末に箔も付くということですね?」
 今まで一言も発していなかったヒョウが微笑みを孝造に向けていた。
 孝造に向けられていた不信感のこもった視線が、一斉にヒョウに向けられる。
 ヒョウは大袈裟に肩を竦めて見せた。
「孝造氏はお困りのようですから、人助けの好きな皆さんにはうってつけの依頼ではないですか?」
 涼しげな声音は微笑みとともに探偵達に届く。
 榊原はヒョウを睥睨して鼻で笑った。
「アンタにこそ向いてるんじゃないか?」
「それはどうも。」
 軽く受け流すヒョウ。
 二人の口論はそれ以上続かなかった。
 二人の口論が終了すると、それまで渋い顔で黙っていた霧崎が唸り始める。
「うーん、しかしですね。それは、神聖な真実を穢すことになります。」
 理想主義の霧崎らしい発言が、面と向かって孝造に投げかけられる。
 孝造は迎え撃つように威圧するように霧崎を睨みつけた。
「どういう意味だ?」
「死の押し売り師の逮捕。それは、警察や探偵の悲願ですから、俺も警部も努力はします。それに、この事件に別の可能性があるのなら、俺はそれを見逃すつもりもありません。だが、孝造さん、貴方の言い方では、どうも無理矢理事件を解決させろと聞こえるんですよ。こじつけでも何でもいいからと。」
 真っ直ぐに見つめる霧崎の瞳には、高潔な理想が輝いている。
 だが、そんな高潔な理想の輝きに、孝造は軽く鼻を鳴らすだけだった。
「くだらん。」
 素っ気なく呟くと、霧崎から視線を外し、ため息を吐き出す。
「お前のキレイ事などどうでもいいが、事件を解決してくれるなら何でもいい。初めに言ったと思うが、今回の依頼は成功報酬だ。あとはお前らの好きにしろ。」
 孝造はこれで議論は終わりだというように、椅子から立ち上がる。
「おい、水島。」
 一方的に強制的に議論を終らせ、秘書を呼びつける孝造。
 秘書の水島は文句一つなく、孝造の命令に従う。
「はい。」
 まだ納得のいかない探偵たちを尻目に退室する孝造。
 水島は、孝造を見送った後、探偵達に振り返った。
「では、皆様。私共は、この後予定がありますので失礼致します。屋敷の者には伝えておきますので、敷地内の調査や情報収集などはご自由になさって構いません。尚、何か分かりましたら、私共は夕食には帰って参りますので、その時に報告なさってください。」
 一礼して足早に立ち去っていく水島。
 一切の隙も見せない男の背中には、誰も声一つ掛けられなかった。
 広い室内に残されたのは、七人。
 警察と探偵。
 置き去りにされたような者達は、閉められた扉をしばらく万感の思いで見つめていた。
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