【完結】死神探偵 紅の事件 ~シリアルキラーと探偵遊戯~

夢追子(@電子コミック配信中)

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第八幕 三 「あまりに異様な光景というか、あれは忘れられそうにありませんよ」

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     三

「俺は、横山君と一緒に、先日聞けなかった質問を今日こそ聞こうと思って、温室へ行こうとしていたんです。午後にまた会議があるので、どうしてもその前に彼に話を聞こうと思って、でも、温室へ行く途中で尋常じゃない様子の水島さんと彼女に会って、それで一緒に温室に行きました。後は、水島さんの話の通りです。」
 事実の確認といった様子の便宜上の取調べは進んでいく。
 壁にもたれかかっている琉衣も、警部の質問には答えを返していたが、明るい表情は影を潜め、一気に年を取ってしまったような物憂げで大人びた表情だけが顔には現れていた。
「私は、リンと一緒に朝食を取るために食堂へ行く道すがら、皆さんと合流しました。ですが、あまり事件性を感じなかったために、警部殿の到着を待たずにこの広間で過ごしていましたよ。」
 軽く微笑を浮かべたヒョウは、嫌悪感だけを浮かべる警部に答える。
 警部は、もうそれ以上ヒョウと言葉を交わすのも嫌なようで、室内からヒョウの存在を抹消するように無視を決め込んだ。
 加勢を得ようとするかのように霧崎に視線を合わせ、警部は続ける。
「発見時、温室の中が真っ紅に染まっていたというのは?」
 警部の視線に促され、霧崎は頷いた。
「はい、警部。俺達が鍵を開けて入った時、温室の中は真っ紅でした。あまりに異様な光景というか、あれは忘れられそうにありませんよ。バラの花が一面真っ赤に染まって、初めは、真紅のバラだけが集められているのかと思ったほどでしたけど。よく見たら、床も壁も赤く染まっていて、その中で巧さんが天井から首を吊ってぶら下がっていたんです。」
 その情景が脳裏に浮かんだようで、霧崎は言葉を止めると頭を振った。一度、深呼吸をして落ち着きを取り戻しながら先を続ける。
「紅いと言っても、血ではなかったように思います。俺は、温室内には血の匂いを感じませんでした。あまりの光景に圧倒されていましたが、一応、巧さんの生死だけを確かめて、状況の観察をしていたら、そこへ雨が降るように水が撒かれたんです。呆然としている俺達の前で、紅い色は洗い落とされていきました。」
 重々しく息を吐いて話を結ぶ。霧崎の肩には、その時の名残である濡れた髪を拭いたタオルが掛かったままになっている。
 警部も霧崎につられるように重々しく頷いた。
「大体の事は分かった。君の言うとおり、現場に残っていた紅い色の痕跡は血ではなくインクのようなものだろうと鑑識が言っていたよ。まだ断定は出来んがね。水を撒いたのはスプリンクラーで、どうやらあの温室内に水を撒くのに使っていたものだそうだ。」
「きっと、あの温室を紅く染めたのも、そのスプリンクラーに何か仕掛けをしたものじゃないでしょうか?僕は見ていないので、断定は出来ませんし、理由は分かりませんが。」
 今まで口を開かずにいたプロファイラーが、やっと会話に参加し始める。ノートパソコンの画面を警部にも見えるように回転させる。
 画面には、園芸用スプリンクラー販売のホームページが表示されていた。
「このように蛇口に直接つけたりして、タイマーで水を撒くそうです。少し細工をすれば、赤い水を撒くことも可能だと思います。」
 画面を凝視した後、警部はとりあえず頷いた。
「分かった。後で鑑識に調べさせよう。」
 警部が頷いたことで、竹川は画面を再び自分の元に来るようにパソコンを回転させた。
 警部が何度目かの咳払いを響かせる。
「検死の結果を見ないことには断定は出来ませんが、状況から考えて巧さんの死は自殺である可能性が高いと思います。遺書などはまだ発見されていませんが、何か心当たりはありませんか?」
 室内の全員に、警部は平等に質問を向けた。
 巧との付き合いの浅い探偵やプロファイラーたちから、付き合いの長いメイドや秘書にいたるまで。
だが、誰からも明確な返事は返らなかった。首を傾げるだけで、それ以上の言葉はない。
しばらく重々しい空気が流れ、各々の口は閉じられた。
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