【完結】死神探偵 紅の事件 ~シリアルキラーと探偵遊戯~

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最終幕 二 「では、事件解決の目処がついたということですか?」

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     二

「では、事件解決の目処がついたということですか?」
「そうですね。」
 何の躊躇もない即答。
 このヒョウの返答には、水島は僅かながら驚きの顔を見せた。
 水島の驚きに構わず、ヒョウはマイペースで続ける。
「そういうわけで、こちらに伺ったんですよ。貴方には、ここ数日、非常にお世話になりました。ですから、そのお礼を兼ねて、私の知り合いのカウンセラーを紹介しようと思ったんです。」
「カウンセラーですか?」
 水島は不信感をヒョウに向ける。一方的な申し出すぎて、会話が成立していない。相互理解の成立がなく、ヒョウのペースと事情で勝手に話が進んでいる。
 ヒョウは微笑のまま、頷く。
「はい。白衣などという物騒なものは着ませんし、見た目も医者やカウンセラーには見えません。金額の折り合いさえつけば、どんな無理も聞いてくれます。秘密厳守でして、外部に漏らすことはありません。腕も確かです。」
 華麗に軽やかにセールストークを繰り広げるヒョウ。外見も口調もセールスマンとは程遠いが、説得力だけはセールスマンに勝っていた。
「カウンセラーが必要になりましたら、そちらに連絡下さい。あの男は、紹介状を持つ客しか相手にしませんが、私から口利きをしましょう。その名刺があって、私の名前を出せば、多少の無理も通ると思います。」
「待ってください。私には必要ありませんよ。私はカウンセラーに診てもらうような必要がありません。」
 話に無理矢理割り込んで、水島は抗議の声を上げる。
 ヒョウは当たり前だと言わんばかりに大仰に頷く。
「ええ。分かっています。貴方に治療が必要なのではない。ですか、貴方には必要だと思ってお渡ししたんです。より厳密に言えば、カウンセラーの治療が必要なのは、吉岡孝造氏です。」
「どういう意味です?」
 薄いレンズ越しの視線に、鋭さと冷たさが加わる。
 ヒョウは視線に堪えた様子もなく、涼しげな声音で答える。
「巧サンの遺体と対面した時の、孝造氏の頭痛。私は、あの頭痛は心因性のものではないかと思いました。それに、孝造氏は巧サンの自殺の後から、部屋に籠もりっきりで、外に出てくる気配がありません。本当によく似た親子だと、私は正直感心しています。」
 そこでヒョウは挑発的に、足を組みかえる。
「貴方の主人である孝造氏に、カウンセラーの必要はありませんか?」
 ようやくヒョウの主張に納得がいったのか、水島はヒョウの名刺を眺めながら大きく息をついた。
 名刺とヒョウに交互に視線を向け、水島は重くなった口を開く。
「お心遣い感謝します。必要があれば、ご連絡します。」
「いえいえ。」
 会話が和やかに収束する。
 ヒョウは満足そうに頷き、水島は名刺を懐から取り出した名刺ケースにしまった。
「金額さえある程度用意すれば、何でもやる男ですから安心なさってください。例えば、精神的なショックで欠落した記憶の断片を更に厳重に封印することも、記憶の断片を取り戻させることも可能です。催眠療法も、ショック療法も、客の注文に応えるための手段をいくつも持っている男ですから。」
 和やかな微笑で物騒な言葉を並べるヒョウ。
 和やかに収束したはずの会話の火種に、再びヒョウは着火していた。
「どういう意味ですか?」
 水島の片眉が、少し持ち上げられる。
 その時、ヒョウの微笑に唐突な変化が起き始めた。微笑はあまりにも華やかに、あまりにも美しく狂気染みて歪み始める。
「他意はないと言いたいところですが、今のは言葉どおりの意味ですよ。しかし、巧サンがああなってしまった以上、孝造氏も記憶が戻れば罪の重さに耐え切れなくなってしまうのかもしれませんね。」
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