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妖蟲暗夢
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僕はたぶん。不安だったんだと思う。自分が母に必要とされてないんじゃないかとか、要らない子なんじゃないかとか。
その不安が、あれを引き寄せてしまったんだろうか。
あれは、僕がまだ小学一年生の頃だったと思う。普通は一年生の時のことなんて覚えてる人は少ないんだろうけど、僕にとってあれはあまりにも強烈過ぎて、脳裏に焼き付いてるんだろうな。
あの当時、僕は山間の集落に住んでいた。父が知り合いから借りたという借家に住んでて、毎日、学校までは片道一時間を一人で歩いて通ってた。
自動車が一台、辛うじて通れるような、アスファルトじゃなくてコンクリートで舗装された、本当に田舎道。一時間歩いても誰ともすれ違わないなんて当たり前の場所だった。
しかも途中は木々が生い茂る鬱蒼とした中を通り抜けないといけない場所もあって、子供心には本当に怖い道だったのを覚えてる。
だから僕は、両親に何度も自動車で送り迎えして欲しいとお願いしたんだと思う。だけど両親はそれを聞き入れてくれなかった。父は仕事があるからと、母は家の用事があるからと。
父のことは元々好きじゃなかったから別にショックでもなかったけど、母にそう言われたのはショックだった気がする。
諦めて、とぼとぼ一人で山道を歩いたけどさ。
そんな中、秋が近付いたある日、僕は真っ暗な家で一人で留守番をしていることに気が付いた。どうしてそんなことになったのか覚えてないけど、とにかく家には僕一人しかいなかったんだ。
すごく不安なまま、でも仕方なく一人で母を待ってた時、客間に何かの気配を感じて僕はそちらに向かった。もしかしたら母がいつの間にか帰ってきてたのかと思って。
だけど、そこにいたのは母じゃなかった。虫だった。カマキリだった。僕はそのカマキリを、茫然と見上げてた。
だってそのカマキリは、大人くらいの大きさがあったから。
「ひ……!」
僕は悲鳴を上げることもできなくてそこから逃げようとした。逃げようとした先はお風呂場だった。でもドアを開けたら今度はクモがいた。どうやってそこに入ったのか分からないような、お風呂場にみっちりと詰まってるクモだった。
次に僕は台所に逃げた。そしたらそこにはやっぱり大きなゴキブリがいた。普通のゴキブリは気持ち悪くてイヤだけど、天井に届くくらいの大きなゴキブリは、単純に怖かった。
そして僕は居間に逃げ込んだ。でもそこにも虫がいた。たぶんタガメだと思った。針みたいな口を突き刺して小さな魚とかの血を吸うと聞いてて怖いと思ってた虫だった。
最後に僕は寝室に逃げ込んだ。だけどやっぱりそこにも虫がいて、僕は家の中は駄目だと思って寝室の窓から外に逃げようと思った。
するとそこに、洗濯をしてる母の姿があった。
「おかあさん! たすけて! 虫が、かいぶつみたいなでっかい虫が!!」
僕が思い切り叫んだのに、母はまったく気付かないみたいに洗濯を続けてた。
「おかあさん!」
必死に母を呼ぶ僕の背後から、寝室にいた虫、コオロギが迫ってくるのが分かった。
で、僕はそこで目が覚めたんだ。
「あ…ゆめ……?」
ただの怖い夢だったことに気付いた僕は、洗濯機の音がしてるのに気付いて寝室の窓から外を見たら、そこに母の姿があった。
「よかった…」
そんな風に思いながら、僕は布団を片付けるために掛け布団を畳んで、それから敷布団を畳もうと持ち上げた時、
「……!?」
と息を呑んだ。
だって、僕が持ち上げた布団の下には、下敷きになって潰れて死んだコオロギがいたから。
『ゆめだけど…ゆめじゃない……?』
「なんてことがあったんだ」
「うわ~、なにそれ、ちょっとぞくっと来たよ~」
子供の頃に僕がしたちょっと不思議な体験を、結婚することが決まった彼女に話したんだ。
彼女は自分の体を抱き締めるようにして怖がりながらも、
「それ、怪談ネタにはもってこいだね」
と笑ってた。
だけどその時、
「あ~あ、残念」
と、僕の耳に誰かの声が聞こえてきた気がした。
女の子の声っぽかったけど、僕の知らない声だった。
『え?』と思って部屋を見回してみるけど、僕と彼女以外誰もいない。
すると僕の背中を、何か冷たいものが奔り抜けたのだった。
FIN~
その不安が、あれを引き寄せてしまったんだろうか。
あれは、僕がまだ小学一年生の頃だったと思う。普通は一年生の時のことなんて覚えてる人は少ないんだろうけど、僕にとってあれはあまりにも強烈過ぎて、脳裏に焼き付いてるんだろうな。
あの当時、僕は山間の集落に住んでいた。父が知り合いから借りたという借家に住んでて、毎日、学校までは片道一時間を一人で歩いて通ってた。
自動車が一台、辛うじて通れるような、アスファルトじゃなくてコンクリートで舗装された、本当に田舎道。一時間歩いても誰ともすれ違わないなんて当たり前の場所だった。
しかも途中は木々が生い茂る鬱蒼とした中を通り抜けないといけない場所もあって、子供心には本当に怖い道だったのを覚えてる。
だから僕は、両親に何度も自動車で送り迎えして欲しいとお願いしたんだと思う。だけど両親はそれを聞き入れてくれなかった。父は仕事があるからと、母は家の用事があるからと。
父のことは元々好きじゃなかったから別にショックでもなかったけど、母にそう言われたのはショックだった気がする。
諦めて、とぼとぼ一人で山道を歩いたけどさ。
そんな中、秋が近付いたある日、僕は真っ暗な家で一人で留守番をしていることに気が付いた。どうしてそんなことになったのか覚えてないけど、とにかく家には僕一人しかいなかったんだ。
すごく不安なまま、でも仕方なく一人で母を待ってた時、客間に何かの気配を感じて僕はそちらに向かった。もしかしたら母がいつの間にか帰ってきてたのかと思って。
だけど、そこにいたのは母じゃなかった。虫だった。カマキリだった。僕はそのカマキリを、茫然と見上げてた。
だってそのカマキリは、大人くらいの大きさがあったから。
「ひ……!」
僕は悲鳴を上げることもできなくてそこから逃げようとした。逃げようとした先はお風呂場だった。でもドアを開けたら今度はクモがいた。どうやってそこに入ったのか分からないような、お風呂場にみっちりと詰まってるクモだった。
次に僕は台所に逃げた。そしたらそこにはやっぱり大きなゴキブリがいた。普通のゴキブリは気持ち悪くてイヤだけど、天井に届くくらいの大きなゴキブリは、単純に怖かった。
そして僕は居間に逃げ込んだ。でもそこにも虫がいた。たぶんタガメだと思った。針みたいな口を突き刺して小さな魚とかの血を吸うと聞いてて怖いと思ってた虫だった。
最後に僕は寝室に逃げ込んだ。だけどやっぱりそこにも虫がいて、僕は家の中は駄目だと思って寝室の窓から外に逃げようと思った。
するとそこに、洗濯をしてる母の姿があった。
「おかあさん! たすけて! 虫が、かいぶつみたいなでっかい虫が!!」
僕が思い切り叫んだのに、母はまったく気付かないみたいに洗濯を続けてた。
「おかあさん!」
必死に母を呼ぶ僕の背後から、寝室にいた虫、コオロギが迫ってくるのが分かった。
で、僕はそこで目が覚めたんだ。
「あ…ゆめ……?」
ただの怖い夢だったことに気付いた僕は、洗濯機の音がしてるのに気付いて寝室の窓から外を見たら、そこに母の姿があった。
「よかった…」
そんな風に思いながら、僕は布団を片付けるために掛け布団を畳んで、それから敷布団を畳もうと持ち上げた時、
「……!?」
と息を呑んだ。
だって、僕が持ち上げた布団の下には、下敷きになって潰れて死んだコオロギがいたから。
『ゆめだけど…ゆめじゃない……?』
「なんてことがあったんだ」
「うわ~、なにそれ、ちょっとぞくっと来たよ~」
子供の頃に僕がしたちょっと不思議な体験を、結婚することが決まった彼女に話したんだ。
彼女は自分の体を抱き締めるようにして怖がりながらも、
「それ、怪談ネタにはもってこいだね」
と笑ってた。
だけどその時、
「あ~あ、残念」
と、僕の耳に誰かの声が聞こえてきた気がした。
女の子の声っぽかったけど、僕の知らない声だった。
『え?』と思って部屋を見回してみるけど、僕と彼女以外誰もいない。
すると僕の背中を、何か冷たいものが奔り抜けたのだった。
FIN~
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