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よくできた玩具

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「なにそれ? よくできたオモチャ……にしてはよくできすぎ…か?」

真尋まひろの戸惑いは当然だろう。麗亜れいあの胸に抱かれたは、彼女の視線から隠れようとでもするかのようにさらに体を縮めていた。はっきりと動いているのが分かる。

そんな璃音りおんを抱き締めて麗亜は言った。

玩具おもちゃでも手品でもないよ。この子はちゃんと生きてるの。人形だけど生きてる……

名前は璃音。今は私の家族なんだ」

その口ぶりに、真尋も何かが納得いったような表情になった。麗亜が冗談や嘘やドッキリで言ってるのではないことが分かったからだった。

「その子、球体間接人形ってやつだよね? にしても生きてる人形か~。私もマンガやアニメではよく見るしそういうのがいたら楽しいかなって思ってたけど、まさか本当にいるなんてね~」

それは、真尋が璃音の存在を受け入れたという意味の言葉だった。それができるタイプだったから気が合ったけれど、実際にこうして受け入れてもらえるまではやはり不安だった。でもそんな不安が杞憂だったことが、麗亜は泣きそうなほど嬉しかった。

「良かった…真尋が真尋で本当に良かった……」

だが、ホッとしている麗亜を見て面白くないのは真尋だった。

「こんな面白そうなこと、なんで隠してたんだよ。もっと早く言ってよ。そしたらいろいろ協力したのに」

ぶっきらぼうな感じだったけれど、それが真尋だということを麗亜は知っていた。本当に言いたいことは『いろいろ協力した』の部分だということが分かる。

「ごめん…でもこんな突拍子もないこと、さすがにね……」

困ったような表情でそう言う麗亜に、真尋も「ま、それもそうか」と苦笑いを返した。

「にしても、何を困ってるの?」

状況は分かった。となれば次は具体的に何が必要かという話に進む。璃音の存在をどうこう推測するとかそういう面倒臭いことは、真尋は好きじゃなかった。『いるものはいる』で構わない。問題はその次だ。自分には何ができるかということだ。

彼女が何を訊いているのか麗亜にも分かる。だから前置きは抜きにして言った。

「実は、私が仕事に行ってる間、この子を一人にしてしまうのが可哀想で……」

「ああ、なるほど」

ここで、『仕事だから仕方ない』で済ましてしまわないのが麗亜という人間だということを真尋も知っていた。諦めてしまう前に取りうる手段を模索するのが麗亜なのだと。

真尋は顎に手をやって、少し思案する姿を見せた。それからおもむろに口を開いた。

「じゃあ、麗亜が仕事に行ってる間、私がこの子の面倒見るよ」

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