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細けぇこたぁいいんだよ

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『私がこの子の面倒見るよ』

実にあっさりと真尋はそう言った。彼女はそういうタイプだった。あれこれ面倒なことを思案するよりも、まずやってみる。その上で必要なことを随時考えるという人間だった。

でも、その前に。

「でもその前に、日登美ひとみにもちゃんと事情を話しとかなきゃね」

日登美とは、もう一人の友人、栗田猪日登美くんだいひとみのことだった。自分が知ってしまったことなら彼女にも話しておかないと、後でいろいろ煩いからだ。信用はできるし困った時には頼りにもなるけれど、ちょっと僻みっぽい一面もあるから。

とは言え、やはりこうやって璃音りおんと直に対面しないと信じてもらえない可能性は高い。連絡を取ってみたけれど、真尋と違って次の土曜日までは都合がつかないようだった。

「ま、それは仕方ないか。日登美の方の都合だし分かってくれるだろ」

携帯の通話を切りながら真尋はそう言った。

実は彼女は、小説を書いて生計を立てている<作家>だった。それほど有名というほどではないけれど、作品がアニメ化されたという程ではないけれど、コミカライズ化はされているし、少なくとも贅沢さえしなければ作家としての仕事だけで生活ができる程度には売れてもいた。だから仕事は自宅で行っていたのだ。

現在手掛けている小説についても原稿を書き上げる目処が立ったことで、日登美の休みとも噛み合い、久しぶりに麗亜れいあのところに遊びに来ることにしたのだった。麗亜が一人暮らして、一番部屋が片付いているから。自分のところは資料やら何やらで雑然としているし、日登美は実家暮らしで気を遣うというのもある。

「じゃあ、明日から早速、出社前にこの子を連れて私のところに顔を出してよ」

と言ったものの、まずは璃音に慣れてもらわないといけない。だから今夜はこのまま泊まっていくことにした。念の為にといつも仕事で使っているノートPCを持ってきていたから仕事もできる。

「よろしくね、璃音ちゃん」

そう声を掛けたけれど、璃音は怯えて麗亜の後ろに隠れてしまった。これはなかなか前途多難だ。

「でも、すごく大人しい子だからそんなに煩わせることはないと思う。ご飯は食べるけど、トイレは行かないし」

「へえ? 食べたものはどこに消えるんだろ?」

「さあ。分かんない。だけど人形が生きてるっていう時点で有り得ないことが起こってる訳だし、その辺りの細かいことは考えても無駄かなって割り切るようにはしてる」

「なるほど、『細けぇこたぁいいんだよ』ってことね。承知した」

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