ラブレター ~追憶のププリーヌ~

せんのあすむ

文字の大きさ
72 / 83

凶暴な獣

しおりを挟む
その遺跡に棲み付いたという凶暴な獣は、<大トカゲ>だった。

体長は人間の大人の倍以上、体重はそれこそ三人分以上。なのに動きは素早い上に硬い鱗に覆われて、一人や二人じゃ簡単には勝てない相手だ。

だけど、

「俺達なら、大丈夫」

アーストンは自信満々だ。

何しろ、不死不滅の魔法人形である私がいるからね。私を囮にしてその隙にアーストンとジルとカインとセリスで総攻撃すればいい。

それを『酷い』とか『ズルイ』とか言う人間もいるかもだけど、関係ないよ。私自身がそれを望んでるし、一番確実なんだから。

アーストン達は、もちろん自分のためでもあるけど、同時に、私のためにも冒険者を続けてくれてるんだ。だったら、死なない滅びない私が囮役をするくらい、なんてことない。

何より、そういう、確実に生き延びる方策を確実に取れるような者じゃなくちゃ冒険者は務まらない。生きてる人間を囮に使うのは<非情>の誹りを受けるのも当然だとしても、私はそうじゃないからね。

死なない滅びない私のためにアーストン達が危険に曝されるのは本末転倒だよ。

でもまあ、冒険者じゃなくて研究者であるスリガンが、

「お気を付けて」

と私を案じるのも、まあ、当然なんだろうけどね。

それでも、

「大丈夫…」

私はきっぱりと言って、アーストン達と一緒に遺跡へと向かった。

もちろん、先頭は私、続いて槍を構えたアーストン、そしてナイフを手にしたカイン、ボウガンを手にしたセリス、そして殿しんがりはアーストンと同じく槍を構えたジルという布陣。

普段は剣を使うことの多いアーストンだけど、大型の獣が相手だとやっぱり間合いが取れる槍が有利ってことで。剣も腰に下げつつね。

でも今回は、まず、<大トカゲ>がどの程度のものかを確認するのが目的。事前の情報だけだと、大きさや数が食い違ってたりってことがあるから。

こういう慎重さも大事。無謀な冒険者は長生きできない。

だけど私には関係ないから、どんどん先に進む。

すると、崩れた壁の陰から、のそり、と現れたものがあった。<大トカゲ>だ。

大きい。話に聞いていた以上の大きさだ。何しろ<大トカゲ>は、百年くらい生きる上に死ぬまで成長し続けるらしいから、過去には、体長は大人の三倍、体重は大人五人分とかいうとんでもないのもいたそうだ。

今回はそこまでじゃなかったけど、大きいのは間違いない。

でも、アーストン達は慌てない。

「よし、三人は高いところから攻撃だ! 足元には気を付けろ!」

大きすぎる<大トカゲ>は、高いところに上れない。

それを活かした戦法なのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...