ラブレター ~追憶のププリーヌ~

せんのあすむ

文字の大きさ
83 / 83

想いの行方

しおりを挟む
ジルが見付けてくれたそこには、こう記されていた。

『神暦十三年。アーティナス王国のフェリネリア王女からレオニティウス皇太子に、魔法人形の形で個人的な信書が送られた。内容は王女からの熱烈な想いが綴られたものであった。

ププリヌセア=メヒーネスト=アレコヌイスト=ホディ=アシャレナーハム=レホ=クーデルウス=メシュナアハ=トヒナ=ウル=レショネーソン。

意訳すると、『愛するあなたへ。このふみがあなたのもとに届くころには、私はもうこの世にいないでしょう。だけど私の想いは永遠となり、いつかあなたのお傍へまいります』となる。

しかし、約定を破りしアーティナス王国の王女と皇太子との親交など認めるわけにはいかない。よって、魔法人形については我が国で再利用させてもらうものの、書状については皇太子には伝えないものとする』

とね。

紛れもなくそれは、私のことだった。

どうやらなにか行き違いがあって、国同士の関係が壊れてしまったみたいだね。そして私は、結局、王女様の気持ちを王子様に届けることができなかったと……

ありそうな結末だと思った。十分に想定できる話だった。だから私は、別にショックでもなんでもなかった。なのに、

「王女様、かわいそう……」

私が内容を読み上げると、セリスが悲しげに声を上げる。

まだ子供だけど、でも生まれた時から冒険者として生きてきてすでにベテランの域に達していつつ、彼女は優しい心根を持っていた。さらに、

「手紙くらい届けてやってもいいのによ」

カインも、不満そうに口にする。

ああ、いい子達だな……

すると、アーストンが言う。

「でも、これが人生ってもんだ。王女様や王子様でさえ、何でも自分の思い通りになるってわけじゃない」

「……うん」

「そうだね……」

カインとセリスが頷くと、ジルに目を向けて、

「でも同時に、お前達の母親のジルがこうして人間として生きられてるように、『絶対に無理だ』と言われることでも、できたりすることもあるというのもやっぱり事実なんだ。だから、なってみないと分からないというのも人生なのさ」

微笑んでみせる。

ああ、そうだな。アーストンの言うとおりだ。どういう結末になるかなんて、なってみないと分からない。

カインとセリスが改めて頷くのを確かめて、アーストンは私の方に向き直り、

「プリムラ。取り敢えずこれで旅は終わりかもしれない。お前がこれで満足して旅を終えるとしても、俺達はそれはそれでいいと思う。でも、もし、さらに旅を続けたいと思うなら俺はお前に付き合うよ。だってほら、まだ分かってないこともいくつもあるじゃん。お前がセレイネス王国に行くことになった経緯とか、ゼンキクア王国に行くことになった経緯とか」

と告げて、さらに、

「なにより、お前がどうして記憶を失うことになったのか。とか、俺も正直、気になってるしよ」

と言ったんだ。

だから私も、

「確かに。私もそれは少し気になる……」

と応えてた。そんな私に、アーストンは、ニカッと大きな笑顔を浮かべながら、

「なら、決まりだ。取り敢えずは、セレイネス王国に行くことになった経緯からかな。それだったら、ここにも手掛かりがあるかもしれねえ」

言って、ジルもカインもセリスも頷いてくれたのだった。



こうして何十年にも亘った一つの旅が終わり、そこからまた、新たな旅が始まることになった。

次の旅は、それこそ、カインやセリスが大きくなって、誰かと結婚して、子供ができて、その子供達も一緒に旅をすることになるかもしれない。

それ自体が、人間の営みなんだろうな。

ああでも、その前に、スリガンに今回のことを報告しに行かなきゃいけないし、トーマとライアーネにも報告しなきゃいけないし、シェリーナやルビン、ボーデン、ナフィにも報告しなきゃ。

なんだ。することはいっぱいあるじゃないか。呑気になんて構えてはいられない。

不死不滅の魔法人形である私は、 人間ほどは焦らなくていいのかもしれない。だけど、そんな私にも<想い>というものはあって、それに従って動くというのはありなんだろうな。

引き続き王宮図書館で調べると、しばらく王宮の小間使いとして働かされていた私は、<ローウェン王国>という国の王女に気に入られて、無期限で貸し出されることになったのが分かった。でもそこから先は分からなくて、

「じゃあ、まずはスリガンのところに戻ってから、そっから先は改めて考えることにしよう」

アーストンの掛け声と共に、王宮図書館を後にする。

そんな私達の前には、果てしない世界がただただ広がっていたのだった。






~Fin~

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...