ラブレター ~追憶のププリーヌ~

せんのあすむ

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ともだち

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「すまねえ、俺、あの時は薬で眠らされてたらしくて全然気付かなくてよ」

海賊見習いだった男の人がそう言うと、今度は、

「ごめんね。あなたを助け出すのに13年もかかっちゃった…」

って、泣き虫メイドだった女の人が、やっぱり泣きながらそう言った。

それから二人は、私があの貴族の屋敷から連れ出された後で何があったのかを話してくれた。

海賊見習いだった男の子は、

『これだけあればしばらくは生活できるだろう。そしてどこか大きな町で仕事を探すといい』

とお金を持たされて屋敷から出されて、私が連れ去られたんだってことはピンと来たけどもうどうすることもできないと思って諦めることにしたそうだった。だけど泣き虫メイドの女の子はどうしても納得出来なくて自分で屋敷を抜け出して、海賊見習いだった男の子の後をついて行ったんだって。

最初は迷惑がってた男の子も、その時からあんまり泣かなくなった女の子が勝手についてくるのは好きにしたらいいって言って、一緒に旅をしたってことだった。

その旅の中でいろんな経験をしていろんな人と会って、それから仕事を見付ける為に行った町で、大きな図書館にいた本の虫の人と出会って、私のことを知ってるのが分かって、泣き虫メイドだった女の子はその図書館で働いて、海賊見習いだった男の子はその街の建築現場で働いて、仕事が終わったら私のことをいろいろ調べたんだって。

もちろん私がどこに連れて行かれたのかはすぐに分かったけど、その頃はまだ私は魔法を調べる為ってことでいろいろされてた時だったから全然助け出す方法なんか見付けられなくて。

そんなことしてる間に本の虫の人の娘さんがすごい天才だってことで王様のところで働くことになって、それでようやく私を助け出すための計画を立て始めたらしい。その本の虫の娘さんが、子供な学者さんだった。

そういう中で、私が実は大した力も持ってないことも分かってきて、昔の本とかを読むためにしか使えないってことになって、同じように昔の本とかを調べてた子供な学者さんが私のところに来て、いよいよ準備が始まったんだって。

海賊見習いだった男の人は兵士になってどこの馬車が使えるかっていうのを調べたり、泣き虫メイドだった女の子はまたメイドになって、私の傍に。そのことは、気味の悪い人形だっていうことでメイドさんたちからは私は嫌われてたから、希望すれば割とすぐにチャンスは巡ってきたらしかった。

そうしてるうちに北の方の大国も私を狙って動き出してるっていうのが分かって、実際に攻め込んで来たらその時のどさくさに紛れてってことで後はその時が来るのを待つだけだったって話だった。

そして本当に北の方の国が攻めてきて、今に至ると。

でもこれからどうするつもりなんだろう。

私がそんなことを思ってると、子供な学者さんが言った。

「ねえ、ププリーヌ。あなたがちゃんと王子様のところに行けたのかどうか、調べてみない?」

え? それは確かに私も少しだけ気になったりもしたことあるけど…

「そんなこと分かるの?」

それが正直な印象だった。だって私が作られたのは千年も前のことでしょう? そんな昔に王子様のところにラブレターが届いたかどうかなんて、どうやって調べるんだろう。

なのに子供な学者さんはまた言った。

「もちろん普通のラブレターだったらたぶん無理だと思うけど、あなたのように魔法で作られた人形のラブレターなんて、その頃だってそんなにあることじゃなかったと思うの。だとしたら、その時の記録を残してるかもしれないでしょ?」

ふ~ん。そんなものなのかな。

「実は、あなたを魔法使いに作らせた王女様のことは分かってるの。あなたが文字を読み解いてくれたことで、古い書物の解読が進んで、そこにあなたのことが書かれてたのよ。正確には、たぶんあなたのことだろうなっていう魔法の人形のことだけど」

へえ、そうなんだ。

「その王女様の名前は、マリアモニカ=ネルクレフォンゾ=ファオレスニーティシカ=ブレボニー。実はレリエラの国がある場所にかつてあった国の王女様だったんだよ。だから、レリエラももしかしたらその王女様の子孫かも知れないの。もしそうだとしてもかなり傍系だとは思うけどね。直系の王族は、その王女様が亡くなってから二百年後くらいに国が滅んだ時に絶えてしまったみたいだから。でもその国の王族の傍系の人達が、レリエラの国の王族とか貴族だったりすることが分かったの」

へ~。

そんなにすごく興味があったわけじゃなかったけど、よくそこまで調べたねっていうのは素直に感心した。でもそうか、泣き虫メイドだったこの女の人がね~。

「ナフィからその話を聞いた時に、私は覚悟を決めたの。あなたを絶対に助け出すって。それまでは絶対に泣かないって。でも… でも……」

そう言ったメイドさんの目から涙がぽろぽろと溢れてきた。ああ、やっぱり今でも泣き虫なんだなと思った。

「こいつ、ホントにほとんど泣かなかったんだぜ。あんなに泣き虫だったのによ。だからまあ、今くらいはいいかなって俺も思うよ」

海賊見習いだった男の人が少し優しそうに笑いながらそう言ってた。しかも、

「俺たち、結婚してるんだ。今は国なしだから正式って訳じゃないけどさ。子供もいるんだぜ。今はナフィの知り合いのところに預かってもらってる。実はその知り合いってのも、お前に縁のある人なんだ」

だって。そうか、子供もいるんだ。人間だもんね。子供作らないとすぐいなくなっちゃうもんね。でも、私に縁のある人? 誰だろう。

「とにかく、今はまずその人のところに向かう。俺たちも本当の名前に戻って、その人のところの雇われ人ってことで動くことになる。その人は貿易商なんだ。それでお前を連れて仕事ということであっちこっちの国を調べるって寸法さ」

すごいね。そこまで用意できてるんだね。

なんかその話を聞いてるうちに、私も一緒に行ってもいいかなって気になってきた。この人たちは私を利用しようとしてるんじゃないっていうのが分かったからかもしれない。ただ、友達として私のことを気にかけてくれてるんだって。

…ともだち……?

自分でそんなこと考えて、なんだかすごく違和感を感じてしまった。初めて使う言葉のような気がした。そうだ。私には友達なんていなかった。昔はいたのかも知れないけど、もしかしたら私を作らせた王女様が私の友達だったのかも知れないけど、今はもう全然思い出せないから。だからいなかったのと同じだと思う。

そうか、友達か。友達だったら、『海賊見習いだった男の人』とか『泣き虫メイドだった女の人』とか『子供な学者さん』とかじゃおかしいかな。だから私は、

「ねえ、あなたたちの名前をもう一度教えて。ちゃんと覚えたいの」

って、三人に向かって言ってたのだった。

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