11 / 83
ともだち
しおりを挟む
「すまねえ、俺、あの時は薬で眠らされてたらしくて全然気付かなくてよ」
海賊見習いだった男の人がそう言うと、今度は、
「ごめんね。あなたを助け出すのに13年もかかっちゃった…」
って、泣き虫メイドだった女の人が、やっぱり泣きながらそう言った。
それから二人は、私があの貴族の屋敷から連れ出された後で何があったのかを話してくれた。
海賊見習いだった男の子は、
『これだけあればしばらくは生活できるだろう。そしてどこか大きな町で仕事を探すといい』
とお金を持たされて屋敷から出されて、私が連れ去られたんだってことはピンと来たけどもうどうすることもできないと思って諦めることにしたそうだった。だけど泣き虫メイドの女の子はどうしても納得出来なくて自分で屋敷を抜け出して、海賊見習いだった男の子の後をついて行ったんだって。
最初は迷惑がってた男の子も、その時からあんまり泣かなくなった女の子が勝手についてくるのは好きにしたらいいって言って、一緒に旅をしたってことだった。
その旅の中でいろんな経験をしていろんな人と会って、それから仕事を見付ける為に行った町で、大きな図書館にいた本の虫の人と出会って、私のことを知ってるのが分かって、泣き虫メイドだった女の子はその図書館で働いて、海賊見習いだった男の子はその街の建築現場で働いて、仕事が終わったら私のことをいろいろ調べたんだって。
もちろん私がどこに連れて行かれたのかはすぐに分かったけど、その頃はまだ私は魔法を調べる為ってことでいろいろされてた時だったから全然助け出す方法なんか見付けられなくて。
そんなことしてる間に本の虫の人の娘さんがすごい天才だってことで王様のところで働くことになって、それでようやく私を助け出すための計画を立て始めたらしい。その本の虫の娘さんが、子供な学者さんだった。
そういう中で、私が実は大した力も持ってないことも分かってきて、昔の本とかを読むためにしか使えないってことになって、同じように昔の本とかを調べてた子供な学者さんが私のところに来て、いよいよ準備が始まったんだって。
海賊見習いだった男の人は兵士になってどこの馬車が使えるかっていうのを調べたり、泣き虫メイドだった女の子はまたメイドになって、私の傍に。そのことは、気味の悪い人形だっていうことでメイドさんたちからは私は嫌われてたから、希望すれば割とすぐにチャンスは巡ってきたらしかった。
そうしてるうちに北の方の大国も私を狙って動き出してるっていうのが分かって、実際に攻め込んで来たらその時のどさくさに紛れてってことで後はその時が来るのを待つだけだったって話だった。
そして本当に北の方の国が攻めてきて、今に至ると。
でもこれからどうするつもりなんだろう。
私がそんなことを思ってると、子供な学者さんが言った。
「ねえ、ププリーヌ。あなたがちゃんと王子様のところに行けたのかどうか、調べてみない?」
え? それは確かに私も少しだけ気になったりもしたことあるけど…
「そんなこと分かるの?」
それが正直な印象だった。だって私が作られたのは千年も前のことでしょう? そんな昔に王子様のところにラブレターが届いたかどうかなんて、どうやって調べるんだろう。
なのに子供な学者さんはまた言った。
「もちろん普通のラブレターだったらたぶん無理だと思うけど、あなたのように魔法で作られた人形のラブレターなんて、その頃だってそんなにあることじゃなかったと思うの。だとしたら、その時の記録を残してるかもしれないでしょ?」
ふ~ん。そんなものなのかな。
「実は、あなたを魔法使いに作らせた王女様のことは分かってるの。あなたが文字を読み解いてくれたことで、古い書物の解読が進んで、そこにあなたのことが書かれてたのよ。正確には、たぶんあなたのことだろうなっていう魔法の人形のことだけど」
へえ、そうなんだ。
「その王女様の名前は、マリアモニカ=ネルクレフォンゾ=ファオレスニーティシカ=ブレボニー。実はレリエラの国がある場所にかつてあった国の王女様だったんだよ。だから、レリエラももしかしたらその王女様の子孫かも知れないの。もしそうだとしてもかなり傍系だとは思うけどね。直系の王族は、その王女様が亡くなってから二百年後くらいに国が滅んだ時に絶えてしまったみたいだから。でもその国の王族の傍系の人達が、レリエラの国の王族とか貴族だったりすることが分かったの」
へ~。
そんなにすごく興味があったわけじゃなかったけど、よくそこまで調べたねっていうのは素直に感心した。でもそうか、泣き虫メイドだったこの女の人がね~。
「ナフィからその話を聞いた時に、私は覚悟を決めたの。あなたを絶対に助け出すって。それまでは絶対に泣かないって。でも… でも……」
そう言ったメイドさんの目から涙がぽろぽろと溢れてきた。ああ、やっぱり今でも泣き虫なんだなと思った。
「こいつ、ホントにほとんど泣かなかったんだぜ。あんなに泣き虫だったのによ。だからまあ、今くらいはいいかなって俺も思うよ」
海賊見習いだった男の人が少し優しそうに笑いながらそう言ってた。しかも、
「俺たち、結婚してるんだ。今は国なしだから正式って訳じゃないけどさ。子供もいるんだぜ。今はナフィの知り合いのところに預かってもらってる。実はその知り合いってのも、お前に縁のある人なんだ」
だって。そうか、子供もいるんだ。人間だもんね。子供作らないとすぐいなくなっちゃうもんね。でも、私に縁のある人? 誰だろう。
「とにかく、今はまずその人のところに向かう。俺たちも本当の名前に戻って、その人のところの雇われ人ってことで動くことになる。その人は貿易商なんだ。それでお前を連れて仕事ということであっちこっちの国を調べるって寸法さ」
すごいね。そこまで用意できてるんだね。
なんかその話を聞いてるうちに、私も一緒に行ってもいいかなって気になってきた。この人たちは私を利用しようとしてるんじゃないっていうのが分かったからかもしれない。ただ、友達として私のことを気にかけてくれてるんだって。
…ともだち……?
自分でそんなこと考えて、なんだかすごく違和感を感じてしまった。初めて使う言葉のような気がした。そうだ。私には友達なんていなかった。昔はいたのかも知れないけど、もしかしたら私を作らせた王女様が私の友達だったのかも知れないけど、今はもう全然思い出せないから。だからいなかったのと同じだと思う。
そうか、友達か。友達だったら、『海賊見習いだった男の人』とか『泣き虫メイドだった女の人』とか『子供な学者さん』とかじゃおかしいかな。だから私は、
「ねえ、あなたたちの名前をもう一度教えて。ちゃんと覚えたいの」
って、三人に向かって言ってたのだった。
海賊見習いだった男の人がそう言うと、今度は、
「ごめんね。あなたを助け出すのに13年もかかっちゃった…」
って、泣き虫メイドだった女の人が、やっぱり泣きながらそう言った。
それから二人は、私があの貴族の屋敷から連れ出された後で何があったのかを話してくれた。
海賊見習いだった男の子は、
『これだけあればしばらくは生活できるだろう。そしてどこか大きな町で仕事を探すといい』
とお金を持たされて屋敷から出されて、私が連れ去られたんだってことはピンと来たけどもうどうすることもできないと思って諦めることにしたそうだった。だけど泣き虫メイドの女の子はどうしても納得出来なくて自分で屋敷を抜け出して、海賊見習いだった男の子の後をついて行ったんだって。
最初は迷惑がってた男の子も、その時からあんまり泣かなくなった女の子が勝手についてくるのは好きにしたらいいって言って、一緒に旅をしたってことだった。
その旅の中でいろんな経験をしていろんな人と会って、それから仕事を見付ける為に行った町で、大きな図書館にいた本の虫の人と出会って、私のことを知ってるのが分かって、泣き虫メイドだった女の子はその図書館で働いて、海賊見習いだった男の子はその街の建築現場で働いて、仕事が終わったら私のことをいろいろ調べたんだって。
もちろん私がどこに連れて行かれたのかはすぐに分かったけど、その頃はまだ私は魔法を調べる為ってことでいろいろされてた時だったから全然助け出す方法なんか見付けられなくて。
そんなことしてる間に本の虫の人の娘さんがすごい天才だってことで王様のところで働くことになって、それでようやく私を助け出すための計画を立て始めたらしい。その本の虫の娘さんが、子供な学者さんだった。
そういう中で、私が実は大した力も持ってないことも分かってきて、昔の本とかを読むためにしか使えないってことになって、同じように昔の本とかを調べてた子供な学者さんが私のところに来て、いよいよ準備が始まったんだって。
海賊見習いだった男の人は兵士になってどこの馬車が使えるかっていうのを調べたり、泣き虫メイドだった女の子はまたメイドになって、私の傍に。そのことは、気味の悪い人形だっていうことでメイドさんたちからは私は嫌われてたから、希望すれば割とすぐにチャンスは巡ってきたらしかった。
そうしてるうちに北の方の大国も私を狙って動き出してるっていうのが分かって、実際に攻め込んで来たらその時のどさくさに紛れてってことで後はその時が来るのを待つだけだったって話だった。
そして本当に北の方の国が攻めてきて、今に至ると。
でもこれからどうするつもりなんだろう。
私がそんなことを思ってると、子供な学者さんが言った。
「ねえ、ププリーヌ。あなたがちゃんと王子様のところに行けたのかどうか、調べてみない?」
え? それは確かに私も少しだけ気になったりもしたことあるけど…
「そんなこと分かるの?」
それが正直な印象だった。だって私が作られたのは千年も前のことでしょう? そんな昔に王子様のところにラブレターが届いたかどうかなんて、どうやって調べるんだろう。
なのに子供な学者さんはまた言った。
「もちろん普通のラブレターだったらたぶん無理だと思うけど、あなたのように魔法で作られた人形のラブレターなんて、その頃だってそんなにあることじゃなかったと思うの。だとしたら、その時の記録を残してるかもしれないでしょ?」
ふ~ん。そんなものなのかな。
「実は、あなたを魔法使いに作らせた王女様のことは分かってるの。あなたが文字を読み解いてくれたことで、古い書物の解読が進んで、そこにあなたのことが書かれてたのよ。正確には、たぶんあなたのことだろうなっていう魔法の人形のことだけど」
へえ、そうなんだ。
「その王女様の名前は、マリアモニカ=ネルクレフォンゾ=ファオレスニーティシカ=ブレボニー。実はレリエラの国がある場所にかつてあった国の王女様だったんだよ。だから、レリエラももしかしたらその王女様の子孫かも知れないの。もしそうだとしてもかなり傍系だとは思うけどね。直系の王族は、その王女様が亡くなってから二百年後くらいに国が滅んだ時に絶えてしまったみたいだから。でもその国の王族の傍系の人達が、レリエラの国の王族とか貴族だったりすることが分かったの」
へ~。
そんなにすごく興味があったわけじゃなかったけど、よくそこまで調べたねっていうのは素直に感心した。でもそうか、泣き虫メイドだったこの女の人がね~。
「ナフィからその話を聞いた時に、私は覚悟を決めたの。あなたを絶対に助け出すって。それまでは絶対に泣かないって。でも… でも……」
そう言ったメイドさんの目から涙がぽろぽろと溢れてきた。ああ、やっぱり今でも泣き虫なんだなと思った。
「こいつ、ホントにほとんど泣かなかったんだぜ。あんなに泣き虫だったのによ。だからまあ、今くらいはいいかなって俺も思うよ」
海賊見習いだった男の人が少し優しそうに笑いながらそう言ってた。しかも、
「俺たち、結婚してるんだ。今は国なしだから正式って訳じゃないけどさ。子供もいるんだぜ。今はナフィの知り合いのところに預かってもらってる。実はその知り合いってのも、お前に縁のある人なんだ」
だって。そうか、子供もいるんだ。人間だもんね。子供作らないとすぐいなくなっちゃうもんね。でも、私に縁のある人? 誰だろう。
「とにかく、今はまずその人のところに向かう。俺たちも本当の名前に戻って、その人のところの雇われ人ってことで動くことになる。その人は貿易商なんだ。それでお前を連れて仕事ということであっちこっちの国を調べるって寸法さ」
すごいね。そこまで用意できてるんだね。
なんかその話を聞いてるうちに、私も一緒に行ってもいいかなって気になってきた。この人たちは私を利用しようとしてるんじゃないっていうのが分かったからかもしれない。ただ、友達として私のことを気にかけてくれてるんだって。
…ともだち……?
自分でそんなこと考えて、なんだかすごく違和感を感じてしまった。初めて使う言葉のような気がした。そうだ。私には友達なんていなかった。昔はいたのかも知れないけど、もしかしたら私を作らせた王女様が私の友達だったのかも知れないけど、今はもう全然思い出せないから。だからいなかったのと同じだと思う。
そうか、友達か。友達だったら、『海賊見習いだった男の人』とか『泣き虫メイドだった女の人』とか『子供な学者さん』とかじゃおかしいかな。だから私は、
「ねえ、あなたたちの名前をもう一度教えて。ちゃんと覚えたいの」
って、三人に向かって言ってたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる