ラブレター ~追憶のププリーヌ~

せんのあすむ

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気が抜けて

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『セレイネスの王子様は人でなし。王女様の手紙をこんな形で捨てるなんて……』

ゼンキクアのお城の跡で見付けた落書きに、私は茫然としてた。だってそれは、私の字で書かれてたから。

『私はここにいたことがあるのか……?』

まったく覚えてない。

もっとも、私に文字をしたためたお姫様の顔も、宛先の王子様の名前も覚えてないくらいだから、正直、なくなってる記憶の部分で私がどこで何をしてたのかなんて、私にも分からないけど。

でも、そうなるとゼンキクアって、それくらい古くからある国ってこと? ただ、本当に私がここにいて、ここでこの落書きを書いたという証拠は何もないのか。

壁の一部として使われてる石に書かれてるだけで、必ずしもお城ができてから書いたとは限らない。私が落書きした石が使われたっていう可能性だってある。

ただ、もしそうだとしてもそんなに遠くから石を持ってくるとも思えないし、このお城自体もゼンキクアができる前からあったものを直して使ってたってことも考えられるかな。

だけど、魔法そのものは、他のところよりかなり後まで残ってたことは確かって気もする。

どちらにしても、ここか、この近くに私は来てたことがあるのか……?

まさかの発見に、やっぱりどう反応していいのか分からなかった。

『セレイネスの王子様は人でなし。王女様の手紙をこんな形で捨てるなんて……』

この文言からすると、王女様が私を送った相手は<セレイネスの王子様>ってことなのか。そしてその王子様が私を捨てて、結果、私はこの辺りに来ることになったと。

捨てた? 王子様が私を? 王女様からの手紙を……?

もしそれが本当なら、『人でなし』って書きたくなるもの分かる気がする。王女様にとっては思いの詰まったラブレターだったはずだ。だって、命が限られた中で書いたものだから。そんなラブレターを捨てるなんて、酷い人だって私でも思う。

…いや、私だったのか。

いずれにせよ、なんだか気が抜けてしまった感じがする。私自身はそんなに真剣じゃなかったとは言っても、トーマやライアーネはそれまでの自分を捨ててまで、特にライアーネなんて自分の国を捨ててまで私のことを助けようとしてくれてたのに、その私が、<王子様に捨てられたラブレター>だったとか、ひどすぎないかな……。

このことをどうするか、二人に教えるべきかどうか思案してるうちに、朝になってしまってたみたい。

「プリムラ……?」

名前を呼ばれてハッと振り返った先に、トーマとライアーネと小さいアーストンがいたのだった。

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