ズルいチート勇者なんか好きになってあげないんだから!

せんのあすむ

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認めたくない

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 魔王の異変に魔族たちも戸惑ってるのか、私達の姿が見えても右往左往するばかりで襲ってくる様子がなかった。だからこれ幸いと皆で城砦を後にする。
「ポメリア…ティアンカ……」
 私は、ドゥケの腕に抱えられたまま崩れていく城を見詰めてた。
 でも、そこに、がれきを押しのけながら盛り上がってくる影が。
「あれは……!?」
 さっきのことを思えば、当然、それは魔王なんだろうけど、でも、そこに見えたのは、あの赤ん坊の面影なんかどこにもない、節くれだった岩のような筋肉に包まれ、歪にねじくれた手足を持ち、真っ黒な髪が地面に届くまで伸びた、異形の巨人だった。
 それが、周囲を窺うように頭を巡らせる。こちらの方に向いた時には、溶けた鉄のような真っ赤な目が光を放っているのも見えた。
 だけど魔王は、私たちには目もくれず、喉を突き出すようにして天に向かって、
「ごぉおおおおおおおおおおおおおおーっっ!!!」
 って吠えた。
 それから今度は地面に向かって、くあっと口を開き、眩い光がそこから迸った。
 光の帯が地面を引き裂くのが分かる。でも―――――
「なんなの、これ…? 何が起こってるの……!?」
 それが正直な気持ちだった。もう何が何だか分からない。
 魔王にまつわる伝承の中には、こんな話はなかった気がする。どれもこれも勇者が魔王を滅ぼして、バーディナムが傷付いた世界を癒して、人々を癒して、平和になるっていうのがだいたいの話だったはずなのに。
「カッセルが何かしたってこと……? でも、何をどうしたらこんなことになるの? カッセルがこんなことしたんなら、どうして彼はこんなことができるの……?」
 今はとにかく離れなきゃと、みんな必死で走る中、私はドゥケに抱きかかえられたまま呟いていた。
「分からない…! だけど、伝承で語られていたことが全てじゃないってことかもしれない。俺たちは、伝承では語られなかった<真実>を目の当たりにしてるのかもな…!」
 応えるドゥケに、私は尋ねてしまう。
「真実…? 真実って……?」
「俺には分からないが、きっとそうなんだろう」
 そんな私たちに割り込むようにしてアリスリスが、
「んなのどうでもいい! 魔王もあの裏切り者もぶっ飛ばす! おろせ! 私を動けるようにしろ!!」
 って私の体の上で叫んでた。
 泣きながら。
 悔しくて悔しくて、叫ばずにはいられないんだろうなって思った。
「アリスリス……」
 私が抱きしめると、
「うあああ~」
 って声を上げて泣き出した。
 彼女も分かってるんだと思う。とんでもないことになったって。私たちでもどうにもならないことになったんだって。分かってるけど認めたくないんだろうな。
 だってそれは、私も同じだから。

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