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ヤモリ荘
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「篠村が住んでいるアパートは、ヤモリ荘だな」
「ヤモリ…荘?」
講義の後のランチタイム。食堂でうどんとおにぎりを頼んだ私は、一つ年上の男の先輩、平岡雄二と一緒に食事をしていた。学部は違うけど高校も同じで、委員会が一緒だったから何となく話すようになったのだ。大学のことや共通の教養科目のことを聞いたりと、ずいぶんお世話になった。すらっとした長身は女の子にもてるだろう。黒縁メガネをコンタクトにして、服装を替えればイケメンなのにちょっとダサいイメージがある。いつも難しい顔しているから怖く見えるけれど、これでいて面倒見が良い。秀才とまではいわないけれど、まずまずの成績なので羨ましい限りだ。
「うちの大学でも世話になったことがある奴はいるはずだが…もう卒業してるかもな」
「確かにヤモリはたくさんいますが、何でヤモリ荘?ヤモリがいっぱいいるからですか?」
「ヤモリがあのアパートの火事を食い止めたことがあるんだと」
ずるずるっとうどんをすすっていた私の動きが止まる。今、何て言いました?
「ヤモリが…火事を?」
「火をつけようとした犯人をヤモリが襲ってな。怖がってたって話だ」
犯人がと付け加えて先輩はかつ丼をかきこむ。よく噛まないとダメだろうになどと思っても、煩いと言われるだけなので口は閉じておく。私はヤモリが群がる様子を思い浮かべて鳥肌が立った。ちょっと、かなり怖い。
「放火犯が驚いている間に住人と大家が出てきて、その場で取り押さえたんだそうだ。ヤモリの様子を見ていた野次馬が、これはヤモリのおかげだって喜んでな」
「信じられない話ですね」
「他にもなくしたものが出て来たとか、壊れた家電が直っていたとか。本当かどうかはわからんが、一時ずいぶん噂になった。やたらヤモリの噂があるんで、ヤモリ荘って名で通ってる」
「実際、ヤモリ多いですしね。部屋の中にも入ってきますよ」
そう言ってから、今朝の隣の住人、矢川さんの言動を思い出した。ヤモリが留守中部屋を守ってくれるだなんて話たら、笑うかもしれない。もしかしたら面白がるかな。どう思うだろうかと考えたらおかしくなって、こっそりと笑う。味噌汁をずずっと飲んでから、先輩は顔をあげ、私の後ろの方に目を向けてからちょっと顔をしかめた。
「篠村お前さ、喧嘩したのか?」
「え?」
ぎくりとして視線をあげると箸を持った先輩が不機嫌そうな顔で、後ろを振り向くように促す。私はゆっくり振り返って、喧嘩した彼氏の姿をちらっと確認してからすぐに器を口につけてお汁を飲む。
「さっきから、お前のこと気にしてるぞ」
「喧嘩っつうか…合わないかなって」
「合わないってどういうことだよ」
「お金の価値観が違いすぎる」
簡単に彼氏の部屋を飛び出したいきさつを話すと、先輩は呆れたような顔をしていた。
「もうちょっと話した方が良いんじゃないのか?」
「いや、もう、良いです」
資産家の彼と自分じゃ合わなくて当たり前だといじけていると、先輩が立ち上がった。
「ケジメはつけろよ」
それだけ言うとさっと立ち上がって次の講義の準備があるからと行ってしまった。もうちょっと相談にのってくれても良いのにと、ため息をつくと私は食べ終わった食器を持って片づけに行く。話しかけたそうにしている彼のことは、気づかぬふりをしてさっさと通り過ぎた。
通り過ぎる時に、ああ、合鍵は返さなきゃいけないなって、彼氏とおそろいのクマのキーホルダーがついた銀色の鍵を思い浮かべてため息をついた。
「ヤモリ…荘?」
講義の後のランチタイム。食堂でうどんとおにぎりを頼んだ私は、一つ年上の男の先輩、平岡雄二と一緒に食事をしていた。学部は違うけど高校も同じで、委員会が一緒だったから何となく話すようになったのだ。大学のことや共通の教養科目のことを聞いたりと、ずいぶんお世話になった。すらっとした長身は女の子にもてるだろう。黒縁メガネをコンタクトにして、服装を替えればイケメンなのにちょっとダサいイメージがある。いつも難しい顔しているから怖く見えるけれど、これでいて面倒見が良い。秀才とまではいわないけれど、まずまずの成績なので羨ましい限りだ。
「うちの大学でも世話になったことがある奴はいるはずだが…もう卒業してるかもな」
「確かにヤモリはたくさんいますが、何でヤモリ荘?ヤモリがいっぱいいるからですか?」
「ヤモリがあのアパートの火事を食い止めたことがあるんだと」
ずるずるっとうどんをすすっていた私の動きが止まる。今、何て言いました?
「ヤモリが…火事を?」
「火をつけようとした犯人をヤモリが襲ってな。怖がってたって話だ」
犯人がと付け加えて先輩はかつ丼をかきこむ。よく噛まないとダメだろうになどと思っても、煩いと言われるだけなので口は閉じておく。私はヤモリが群がる様子を思い浮かべて鳥肌が立った。ちょっと、かなり怖い。
「放火犯が驚いている間に住人と大家が出てきて、その場で取り押さえたんだそうだ。ヤモリの様子を見ていた野次馬が、これはヤモリのおかげだって喜んでな」
「信じられない話ですね」
「他にもなくしたものが出て来たとか、壊れた家電が直っていたとか。本当かどうかはわからんが、一時ずいぶん噂になった。やたらヤモリの噂があるんで、ヤモリ荘って名で通ってる」
「実際、ヤモリ多いですしね。部屋の中にも入ってきますよ」
そう言ってから、今朝の隣の住人、矢川さんの言動を思い出した。ヤモリが留守中部屋を守ってくれるだなんて話たら、笑うかもしれない。もしかしたら面白がるかな。どう思うだろうかと考えたらおかしくなって、こっそりと笑う。味噌汁をずずっと飲んでから、先輩は顔をあげ、私の後ろの方に目を向けてからちょっと顔をしかめた。
「篠村お前さ、喧嘩したのか?」
「え?」
ぎくりとして視線をあげると箸を持った先輩が不機嫌そうな顔で、後ろを振り向くように促す。私はゆっくり振り返って、喧嘩した彼氏の姿をちらっと確認してからすぐに器を口につけてお汁を飲む。
「さっきから、お前のこと気にしてるぞ」
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「合わないってどういうことだよ」
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「もうちょっと話した方が良いんじゃないのか?」
「いや、もう、良いです」
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「ケジメはつけろよ」
それだけ言うとさっと立ち上がって次の講義の準備があるからと行ってしまった。もうちょっと相談にのってくれても良いのにと、ため息をつくと私は食べ終わった食器を持って片づけに行く。話しかけたそうにしている彼のことは、気づかぬふりをしてさっさと通り過ぎた。
通り過ぎる時に、ああ、合鍵は返さなきゃいけないなって、彼氏とおそろいのクマのキーホルダーがついた銀色の鍵を思い浮かべてため息をついた。
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