七千億EXPのレアキャラ ~いらっしゃいませ、どうぞご覧下さいませ~

太陽に弱ぃひと

文字の大きさ
29 / 53
【初級者 編】

繰り返しの日々 2

しおりを挟む
 ◇

 ここ毎日のことなのだが、帰宅して先ずリーザへ、一言。
 勿論、タマも一緒だ。

「リーザさん、ただ今帰りました」
「ただ、ただいまぉ!」

「――おかえり。怪我はないかい?」

 マイコが一礼すると、リーザが安否を心配する。これは米子がリーザの店で暮らしてから、毎日行われる挨拶のようなもの。街に入ると毎日出入り口にて出迎えてくれるのはタマで、街からはタマも同行し帰宅している。

 取って付けたような会話だが、孤独感を感じる米子には家族と暮らしているかのような錯覚と、今日も生きていたという実感が湧く。

「着替えだけしてきますね。少しだけ待っていてください」

「ん? 前にも言ったけど、店のことは気にしなくていいんだよ? 店なんかよりシャワーでも浴びてスッキリして、ゆっくり食事でも――」

 米子はリーザの声を掻き消すように言う。
 
「いいえ。わたしは鑑定も錬金も出来ませんが、受け付けくらいなら出来ますので……それにリーザさんの力になりたいんです」

 リーザは日没となればログアウトして現実世界へ。居候として暮らす米子は少しでもリーザに協力出来ればと、二週間ほど前から店の受け付けを始めた。

 当然ながら、米子には鑑定も錬金も出来ない。出来ることは受け付け後の物品を預かり保管庫へ移すだけのだが、店の営業時間が長くなったことにより売り上げは増えたと言える。

 リーザとしても予約品の鑑定や錬金は時間に縛られることなく作業が行えるため、受付のみでも有り難いと思っているのだ。

「まあ、マイコのお陰で売り上げは増えたよ。それにあんた見た目がいいから人気あるしね。けど毎日そんなに疲れ切って帰ってくるのにさ……大変じゃないかい?」
「わたしは全然平気ですよ! ほら、元気いっぱいです! それにタマもいますし」
「はいはいぉ! おいらにお任せあれ」
 
 米子は自身の元気さをアピールするために、訳の分からぬ体操をタマと同調したかのように行い、リーザへ大丈夫だと伝える。その行為がその場限りの振る舞いだと知りながらも、首を縦に振らなければ納得しない米子の性格を考慮すると、邪険にするわけにもいかない様子。

「――ったく。けど無理はするんじゃないよ、いいね?」
「はい! すぐ着替えてきますね」


 
 ――――――



 店を閉めるのは午後九時、が決まり。たまに店内で寝てしまうこともあるが、最近慣れてきたのか眠ってしまうようなことは無くなってきた。もしかしたら戦闘を行い成長したからこそ、体力の上昇とともに疲れなくなってきているのかもしれない。

 店の戸締まりをして店内の清掃を行い、シャワーを浴びたら適当に食事を済ませ、ベッドへ入る頃には日の変わる午前〇時に。

「今日も一日終わったね、タマ。お疲れ様」
「はいぉ……おいら寝、るぉ」

 タマの生態から考えると眠けがあるのか疑いたくもなるが、午前〇時過ぎには必ずと言って良いほど動きが鈍くなる。プレイヤーだった時には、いつ何時呼び出しても『眠い』など口にしたことは無かったのだが、マスターである米子の変化に伴いタマにも何らかの形で変化が起きたのだろう。

 その変化とは見た目は変わらず実体化したことや、眠気が襲う素振りを見せたりすることである。他に気づいた点をあげるならば、ぬいぐるみゆえ外見から表情を伺うことは皆無だが、喜怒哀楽を動作や口調などで感じ取れるようになった。

 そう感じ取れるのは別に米子が特別な子だからではなく、リーザやベニネコのようなプレイヤーにも感じ取れているようだ。他のサポーターとは一線を画す‟何か”が、タマにはあるはず。

「うん。おやすみ、タマ」

 返事もなく座ったまま、電池の切れたオモチャのようにピタリと停止するタマ。このまま夜が明けるまでどれだけ大きな物音を立てようと、決して目を覚ますことはない。

 毎日がこの繰り返しで一日が終わってゆく。

(明日は、空音の森へ行ってみようかな? 結構強くなってきたし問題ないよね?)

 こう、毎晩のように明日の課題を決めている米子。
 明日は街はずれにある森へ赴き、経験値稼ぎをすることに決めた。

 明日のためにもしっかり寝る。これは日々の暮らしから、現実世界でも必ず決まった時間に就眠していた健康的な生活からくるもので、疲れとは関係なく眠けが襲う。それが横浜 米子という少女っぽいNPCの日常。

 本日も変わらず就眠前にあれこれ考えながらも、いつのまにやら深い眠りについていた……――――

 ――――――

 ――

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...