勇者置き去りの案内人

雪蟻

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第2章

☆大好きな姉の子を待つために

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リリーシャ姉様は、魔王を倒す前に勇者ダンジョンを知る者へと姿を変え、聖女の秘密を知り、確実に死ぬか何かでいなくなることを想定し、私のためにこの不思議な楽器を残してくれた。
なんでも、リリーシャ姉様のいた世界にある楽器のようで、予め用意していた音楽に合わせて奏でる場所を教えてくれるきーぼーどと言うものらしい。
それをこの世界風にアレンジして作り上げたようで、精霊に協力して欲しい魔法を選択、その精霊が好む波長に合わせて魔力を調整してくれる魔道具となっている。
少し前までなら、精霊術を扱う演奏士にとって全ての財を投げ打ってでも欲しいものだっただろう。
精霊の好きな波長を感じ取るだけでなく、それに合わせてこちらの魔力を合わせてくれるのだ。
私達演奏士は、ただ心を込めて演奏するだけでいいのだから。
そんな魔道具だが、リリーシャ姉様はしっかりと普及できるようにその技術を広めていた。
お陰様で、私の魔道具を奪おうなどという不届き者が出てこないので助かっている。
「ミアちゃん、それ動きにくくないかい?」
「私は冒険者ではないので、こちらの方が仕事をする上で都合がいいんですよ」
前までなら、剣舞を使っていたが、今は演奏して精霊に力を貸してもらった方が調査はスムーズに進むのだ。
そんな今の私は、採算度外視のドレスを着ている。
見た目は薄い青を基調とした貴族の令嬢が出かける時に着るようなドレスだが、使っている素材が違うのだ。
布にあたる部分は全て白銀布と呼ばれるとある魔物の糸だけで作ったもので、魔力の通りがとても良く、熟練のソーサラーなどが魔力を流せば、ドラゴンのブレスですら容易に防ぐと言われている。
さらに、フリルの部分には妖精糸と呼ばれる、一つ一つの糸が魔法を保存する特徴を持つ特殊な糸に防御系と回復、浄化と修復の魔法を保存しており、魔力を流すことでそれが発動する。
精霊から魔力を借りられる私は文字通りの要塞となっているわけである。
ただ、採算度外視と言った通り、このドレスは国ひとつの予算ぐらいは平気で飛んでいく金額になる。
リリーシャ姉様が用意してくれていたから買わなくて済んだが、どうやってこれだけの素材とそれを扱える職人を用意できたのかは謎のままである。
しかし、これのおかげで、私は魔力さえ続けば、汚れない、怪我しないと至れり尽くせりな状態で調査員としての仕事が出来るわけである。
「またヒラヒラな服着てんのかよ、仕事舐めてんのか?」
そんな私は、ギルドの調査員を続けているのですけれど、最近は魔物の調査より冒険者の中のバカを調査することが多くなりました。
不正にランクを上げるなど当たり前で、女性を食い物にする者達や、ダンジョン内で盗賊行為を繰り返す犯罪者など、多岐にわたります。
そんな者達を調べ、必要であればその場で処断などもあります。
もちろん、私一人で全てを担当するのは難しいので、今ではギルドの調査員は冒険者ほどではないにしろ、多くなってきました。
それ故に、問題児も増えましたが。
「おい、あんたに言ってんだよ! 今からダンジョンに潜るんだぞ! 遊びなら帰れよ」
「貴方こそ帰りなさい、なんですか、その無駄な装備は? 貴方はポーターですよ、それも魔物素材を持ち帰るだけの荷物持ち。にも関わらず余計な物資を持ち込んで何がしたいのですか」
パンパンに入った背負いカバンを持つ理由はなんですか、本職のポーターであれば、連日のアタックに備え、食料、予備の武器、ポーションなどの回復アイテム、魔力の節約のためにランタンなどの灯り。
持ち込む物資はとんでもない寮になるだろう。
しかし、持ち帰り専門で付いていくはずのポーターが同じように持ち込む理由はなんだというのでしょうか?
「な、必要なものは自分たちで持ち込むのが当然だろう!」
「……本職のポーターが2人付いている大型のクランが行う間引きのための連日アタックです。あなたの役割は彼らが持てない報酬となる素材や魔石を持ち帰ること。余剰となる物資を持ち込み、序盤の魔石を諦める必要性がどこにあるのですか」
こんなのが、ギルドの調査員になるぐらいには、人手が足りてないのが原因ですが、クランに迷惑をかけてしまいますね。
「お、ミアちゃん相変わらずのフル装備だね、今日ぐらいオシャレしてきても良かったのに」
「これは、エルドラ様、ご冗談を。今回は戦力としてついていきますのでこれ以外にありえませんよ」
クランの皆さんは、私の服が要塞クラスの装備だと知っているので、いつも通りのやり取りである。
そもそも、汚れないのだから連日アタックにおいて私はかなり身軽になれる。
「皮肉にも気づかねぇのか、これだから貴族様は」
「元、王族です」
まったく、これから命を預ける相手に喧嘩をふっかけるとは、いいご身分ですこと。
「あはは、こりゃまた。……喋る荷物が」
怖いですね、さすが名の知れたクランのマスターですね。
息をするかのように殺気を纏わせるとは。
残念ながら彼は気づいておりませんが。
「他の皆さんはどちらに」
「もう安全地帯で待機してるよ、道中に放置した魔石を回収してもらおうと思ってね、余裕で往復できる俺が迎えに来るという形を取ったというわけだ」
末恐ろしいことをするものである。
「では、駆け足で向かいましょう。彼は物資を供給したくて仕方が無いようなので、素材の回収は私が行います」
「必要ねぇ、ポーターとして雇ったのはそいつだ。回収はそいつの仕事。ミアちゃんは下層での支援をお願いしたいから、余計な魔力や体力は使わなくていいよ。それこそ無駄だ」
手厳しい。

今回のダンジョンの安全地帯は10階層にある。
ダンジョンは塔ではないので、この場合地下に潜っていくことになる。
当然だが、暗い。
魔物たちの中には真っ暗では困る生態のものもいるため、明かりがないわけではない。
それでも、薄暗いのは確かなのですが。
「おい、だれがのんきに松明使えなんて言った? ここからは遊びじゃねぇんだ。上層で余計な魔物を狩る必要がねぇ、余計なことしてねぇで魔石だけでも回収しろ、何のために呼んだと思ってんだ。ギルドの公正な判断のためだけなら、ミアちゃんだけで良いんだよ」
下層で松明は牽制になるが、上層の魔物は人間がいる所に向かってくるため、松明なんてものを持ち歩いていたら、魔物がどんどんよってくる。
ちゃんと、説明したのにも関わらずだ。
たぶん、暗くて見えななかったから照らそうと思ったのだろう。
この程度の暗闇に目を慣らす努力すらしてないとは、情けない。
「エルドラ様、これこそ時間の無駄です、彼には10階層以下で普通のポーターとしてお使いください、それまでは私が回収していきます」
「……必要ねぇと言ったはずだが?」
「役立たずを捨てたいのは分かりますが、ギルドに喧嘩を売るつもりですか? 私が相手になりますよ」
エルドラ様はダンジョン内では、容赦がない。
生き死にが掛かってるのだから当たり前ですけど。
「勘弁してくれ、案内人の妹に手を出すバカになったつもりはねぇ、分かった。任せる」
そこからは、私がガンガン拾って、どんどん進むという形となり気づけば合流地点に到着していた。
「マスター、おせぇって何してたんだよ」
「荷物持ちが荷物抱えてきたんだから仕方ねぇよ」
「はぁ? 案内人の妹がそんな馬鹿なことするわけないだろ」
すみません、お荷物持ってきました。
「ところで、そこのポーターは何だ? 見るからに素人だが」
「私は今回、戦力として参加しますので、彼が私の代わりの荷物持ちですよ。何故かポーターのつもりで来てしまいましたが」
「あんたのそのふざけた装備よりマシだろ」
これ、見た目以外は化け物クラスなんですけどね。
「ギルドの調査員も落ちたな」
「まぁ、弱くなりましたよ。リリーシャ姉様がいてくれたらと思います」
そんな愚痴を話ながら私達は下層へと降りていく。
「これはまた、大量ですね」
「スケルトンの群れ、だったら楽なんだがな」
私もそう思います。
目の前にいるのは、個であり群であるというアンデッド系の魔物。
ダンジョン内でしか発生しない固有種である。
名前は、デッドスライム。
別名、地獄フロア。
その階層全域に埋め尽くすように発生するのだが、厄介なことにそのフロアに入らないと出てこない。
対処法は核を見つけて破壊することなのだが。
「相変わらずですが、それぞれが核を持ってるのでどれが大元か分からないんですよね」
「だな、悪いがミアちゃん。任せていいか?」
もちろんです。
私は今回戦力ですからね。
と楽器を出したら叩き落とされました。
「こんな時にふざけてんのか!」
無視します。
壊れましたね、仕方ありません。
「次、邪魔したら焼き殺します、いいですね?」
代わりの楽器ぐらい持ってます。
というより、リリーシャ姉様から貰った方だったら、既に焼き殺してます。
「薙ぎ払え」
命令句と共に、演奏を開始する。
今回は笛を吹きます。
ぴーひゃららと。
「いや、ミアちゃんの演奏がそんな素っ頓狂な音なわけないからな」
「突然どうしました?」
変な人ですね。
演奏を気に入った精霊たちがこれでもかという威力でフロアを燃やしてくれました。
困りましたね、どうやって探索を続けましょうか。
「……ミアちゃんしかこの先に進めなさそうだな」
「精霊達が張り切ってしまいました。面目ないです」
いつもなら加減してくれるのですが。
「でもってそこの役立たずの方のポーター、いい加減分かったか? ミアちゃんは単独でダンジョンを踏破できる力があるんだよ。そして、てめぇが散々バカにしてるそのドレスな、魔力さえ流してれば、死なねぇとまで言われる希少な素材を駆使して作ってあるんだよ、お前さんはずっとフル装備の精霊術師をバカにしてたことになる。まずは目を養え、お前みたいなのがいると険悪な空気になるんでな」
と言いつつ殴ってませんか、死にますよ。
「とりあえず、この先に行きます。精霊達が早く行けと伝えてくるので、私が行く必要があるようです」
「分かった、俺たちはここで待機する。地獄フロアじゃなくなったと分かりゃ、周辺に隠れてた魔物がここに来るだろうからな」
軽く手を振って、私は奥へと進んだ。


「ほう、あれを突破する人間がいるとはな、面白い味見ぐらいはして行くか」

これでも、かなり強くなったと思っていたんですけれどね。
何も見えませんでした。
気づいたら後ろにそれがいて、私はそれに蹂躙されました。

「ふむ、なかなかに美味であるな。変異に狂わなければまた味わえるのだがな」
「いいえ、また会うことは無いです。吸血鬼」





「なぁ、ミアちゃん。俺は出来ればタチの悪い冗談だと思いたいんだが」
「残念ながら、見た通りになってしまいました。大丈夫です、私を襲った方は倒しましたので、命令されてなんてことにはなりませんから。見逃してくれません? 大丈夫、死んだことにして報告してくれたら万事解決ですよ」
私を襲った魔物はアンデッド系の魔物の頂点。
吸血鬼。
これと言った弱点はなく、人型の魔物と分類を変えても頂点に近い魔物である。
死ににくいなんてものは、上位の魔物なら当たり前なのでアンデッドとしての強みは脅威に含まない。
ただ、吸血鬼には厄介な力がある。
それが、吸血による変異である。
変異するのはされた側という、はた迷惑極まりない力なのだが、私のように変異によって狂うことがなかった者は、新たな吸血鬼となる。
その場合、私は噛んできた吸血鬼の奴隷のような存在になるのだが、油断していたところをグチャッとしたので問題ない。
ちなみに殺すには頭を潰して、燃やす必要がある。
炎とはそれ自体に浄化の力があるので、アンデッドには有効である。
「牙を折れ、それなら従魔として連れて出られる」
「リリーシャ姉様から頼まれるのなら喜んで従魔でも奴隷でもなりますけれど、貴方の持ち物にはなりたくありませんよ?」
そういうつもりなら全面戦争と行きますが。
「まて、俺も馬鹿じゃねぇ、ようは従魔になるつもりがあるとギルドに見せろって言ってんだ。魔物のまま放置したとありゃ俺らが殺される」
なるほど、それならば仕方ありませんね。
ペキっと折りましょう。
「あっさりと折るな、よし全員かかれ、魔物だあれは」
「やると思いましたよ、残念です。でも、私も諦めていた事が叶うんです。死ぬつもりはありませんよ」
リリーシャ姉様の楽器があれば、私は無敵ですよ。



「日差しが気持ちいいですね。ふふ、リリーシャ姉様の子のような存在と言ってましたから、楽しみです。待ってられるようになったので待ってますね、リリーシャ姉様」
「……やるんじゃなかったなぁ」
「ギリギリでしたよ? さすがですね」
でも私の勝ちです。
(いや、何しちゃってんのこの子。まぁ、いいやもう関われないしな。出会うことがあれば、ゲンコツするように教育しておこう)
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