幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい

マルシラガ

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第三幕 子猫はもっと遊びたい

伝試練寺の中の猫 2

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 三人が本殿の裏に回ると百合丸が石灯籠の後に隠れていた。

「あそこ、なの」

 霧が指差したのは百合丸の位置から二十歩ほど離れたところにある井戸で、随分前から使っていないのを示すように木の板で封がされている。

 その板の上にぽっちゃりと太った白猫が丸くなって昼寝をしていた。

「あれがそうなのかい? 遠くて模様までは見えないけど」

「間違いない。霧もウリ丸も見た。黒い丸が頭に、茶色の柏葉の模様が尻尾の付け根から三枚広がっている、なの」

「もう確認してあるのかい。良い仕事をするね」

「当然、なの」

「それにしてもあの猫、随分と太っておるな。あんな体ではネズミも獲れまい」

「飼い猫なんだろう。飼い主に大事にされすぎてブクブク太ってしまったんじゃないかな」

「そうか、飼い主に愛され過ぎたためにあんなに太ってしまったのか。……哀れじゃな。妾はいくら愛されても、ああいうふうにはなりとぉ無い。座敷猫のように誰かの愛玩物になって生きとぉは無い。甘やかされるままのダメ人間にはなりとぉは無いのじゃ……」

 愛姫は何かしら心に思うところがある様子で忌々しそうにそう呟いた。

「なんでかな。まるで槍で突かれたかのように急に私の胸がずきりと痛んだよ」

 甘やかされ放題でヌクヌクと育てられたうえに、そんな環境に欠片ほども疑問を持たなかった青太郎はなんだか遠回しに責められているような気分になった。

 裏手に来たまま固まって喋っている三人に対して少々苛立った様子の百合丸からパパパと手信号が送られる。

 それを見て霧が頷いた。

「ウリ丸が『早く猫を囲め』と言ってる、なの。青太郎ははここ、お愛ちゃんそこの植木の陰に、霧は本堂のほうに行く、なの。位置に着いたらウリ丸の合図で少しずつ包囲を狭めて確実に捕獲。とウリ丸が言ってる、なの」

「今の手信号でそこまで伝わったのか?」

「この手信号は借金の取り立てが来た時に身を隠すためのすべ、なの。猫柳家の者はみんな使える。お愛ちゃんもそのうち教える、なの」

「あ、あはは。それはまたの機会にじゃな……」

 何にでも興味を持つ愛姫だったが、借金取りから逃げるための術まではさすがに学びたいとは思わなかったらしい。珍しく言葉を濁して指示された繁みに向かって歩き出した。

 井戸を中心にして東西南北に配置が済んだのを確認した百合丸。振り上げた手をゆっくりと下ろして無言の号令を下すと、全員でじりじりと白猫との距離を詰めはじめる。

 すると、ほとんど無音で近づいたのに不穏な気配に気づいたか白猫がむくりと頭を上げた。

 近くまで来ていた百合丸の鬼気迫る迫力にギョッと目を見開く白猫。毛が一瞬で膨らんで逃げ出そうとしたが、周囲は既に子供たちに囲まれていた。

 白猫が逃げられそうな隙を探して井戸の蓋の上でグルグルと回っていると――、

 ミシッ……。

 井戸の蓋が不穏な音を軋ませた。

「えいっ、なの!」

 霧が気合いの声を上げて白猫に飛びかかる。

 白猫は太い体を捩って霧から逃れようとしたが、この中で誰よりも素早い霧は白猫に逃げる間を与えずにがっちりと両腕で白猫を抱きしめて完全に拘束した。

「おお! やったな霧!」

「すごいぞ、ちびっ子!」

「でかしたでござる!」

「う……この子けっこう重い、なの」

 霧の腕の中で猫は「ぶぬぃー」と奇妙な鳴き声を発してもがいていたけれど、爪で引掻ひっかこうとしても短い前足は霧の腕に届かないし、噛みつこうとしても自分の首まわりの弛んだ肉が邪魔をして噛みつけないようだった。

 白猫は体に贅肉がついているだけでなく、元々あったはずの野性とか闘争本能とかにもたっぷりと贅肉がついていたようで、早々と抵抗することを諦めてダラーンと体の力を抜いた。

 その無気力なだらけっぷりが逆に霧の細腕へ負荷をかける。

「お、おもっ! この猫、重い、なのぉぉ」

 井戸の蓋の上に立っている霧が細い足をカクカク震えさせた。

「まだ放してはダメでござる。拙者が代わるでござ――」

 百合丸が霧から猫を受け取ろうとしたその時、

 ボクッ!

「――っ!?」

 半ば程朽ちていた木蓋の湿った破砕音と同時に、霧が猫を抱えたまま井戸の底に向かって垂直に落下した。
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