幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい

マルシラガ

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第三幕 子猫はもっと遊びたい

伝試練寺の中の猫 3

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「霧殿!」

 百合丸が咄嗟に手を伸ばしたけれど僅かに届かない。

 霧と猫は突然の浮遊感に驚いて声も出せずに身を固まらせたまま、まるでダルマ落としのようにストンと綺麗に落ちていく。

「霧っ!」
「ちびっ子!」

 一拍の間を置いてポスッと軽い音が井戸の底からした。

「霧殿! 無事でござるか!?」

 百合丸が井戸の縁に手を掛けて下を覗き込んだが暗くて何も見えない。

「だ、大丈夫……なの。なんだか、柔らかいもの、いっぱい敷かれてる、なの」

 霧にしてはやや上ずった声だったが、すぐに返事があった事に百合丸はホッと胸を撫で下ろした。

「そのままジッとしているでござるよ。すぐに拙者が寺から縄梯子なわばしごを借りてくるでござる!」

 百合丸が韋駄天のような走りで宿坊へ走り去ると、

「あれ?」

 不意に霧が疑問形の呟きをしたことで地上に残っている二人は不吉な予感を覚えた。

「どうした霧。どこぞ痛めたところでもあるのか?」

 愛姫が井戸の縁に手を掛けて下を覗きながら問うが暗くて何も見えない。

「一両がいなくなってる、なの」

「一両? あ、猫のことかい? 抜け目のない子だね、いつの間に報酬額を名前にしたんだい」

「えーっと……霧? 言いたくはないのじゃが、一つの可能性として、そなたが落ちたそこの『柔らかいもの』は、もしかして――」

 愛姫は少し顔色を青くしてあることを指摘しようとしたが、全部を言い終わる前に霧がその可能性を否定した。

「それは違うなの。霧が落ちた『柔らかいもの』は猫のフワフワじゃなくて、おがくずみたいな木片がいっぱい積み重なっている柔らかさ、なの。朽ちた木が井戸の底に溜まっていたみたい、なの」

「そ、そうか。猫を敷いているわけじゃなかったか。危うく脳内で血まみれな想像図を描くところであったわ」

「それじゃあ猫はどこに行ったんだい? こんな井戸の底じゃあ逃げるところなんて……おや? おかしいね、井戸から風が吹き上がってきいてきているよ」

 愛姫と並ぶように井戸を覗き込んでいた青太郎の髪が井戸の底から吹きあがってくる風で逆立っている。

「おかしなことがあるものじゃな。空気の通り道の無い井戸の底から風が吹くなぞ……」

「あ、横に穴が、通路みたいのが空いている、なの」

 暗闇に目が慣れてきた霧が井戸の底に横穴があるのを見つけた。

 どうやら白猫はこの横穴の向こうに逃げたらしい。

「井戸の底に横穴? そんなものがあったらいつまでたっても水が溜まらなくて井戸としては使えないじゃないか。とんだ出来損できそこないだねぇ」

「いや待て。これは井戸に見せかけた隠し通路じゃなかろうか」

「隠し通路?」

「あ、もしかして殿が探していた『秘密の抜け路』ってこれ、なの?」

「おそらく。この風には僅かじゃが磯の匂いがまじっておるし、可能性は低くない」

 ぶぬぃー……。

 横穴の遥か先の方から、なんとも奇妙な動物の鳴き声がした。

「あ、鳴き声。一両がこの穴の奥に行っている、なの。けっこう遠くまで行ってる感じ、なの」

「やはりな。あの動きが鈍そうな猫でもすいすいと先に進めるほど道は平たんなのじゃろう。どうやらここが父上の言っておった『秘密の抜け路』で間違いないようじゃ。ならば霧、その付近に地上へと上がる仕掛けがあるはずじゃ。暗いじゃろうがちょいと調べてみよ」

「わかった、なの」

 霧は手探りで周囲を調べ始めた。

 ぼんやりとしか見えないけれど、この横穴は何かの偶然できた穴ではなく、明らかに人の手によって作られているもので、朽ちた木片に半ば埋もれているその入り口は城の石垣のように隙間の無い石の組み方で作られていた。

 その半円形の入り口の真上に不自然に飛び出た石がある。

 霧が無警戒にそれを押すとカタンと何かが外れる音がして、井戸の側面に人差し指ほどの長さの木の棒が何本も突き出てきた。

「うおっ!? ……何だいこれ?」

 突然井戸の内側から短い木の棒が何本も出てきたことに青太郎は驚いて顔を引いた。

「これは……おそらく井戸の底から地上に上がるための梯子はしごじゃな」

「梯子? この木の棒がかい?」

「正確には側面の溝に梯子を隠していた仕掛けの一部じゃな」

 井戸の側面から等間隔に短い木が突き出ている。確かにこの棒に掴まって地上に出ることは出来るかもしれないが、それにはかなりの腕力が必要そうだ。

 愛姫は手を伸ばしてその棒の一本に触れてみた。

 棒は柔らかく、ちょっと引いてみただけで音も無く折れた。手に残った木片を調べると非常に柔らかくて指先で突くだけで簡単に崩れる。

「やはりな。梯子の本体部分は長い年月の間に朽ちてしまったのじゃろう。腐り落ちた梯子が井戸の底に溜まって、落ちた霧をやんわりと受け止めてくれたのじゃな」

「うん。この横木を使って上に登ろうとしたけど簡単に折れる、なの」

 井戸の底でゴソゴソと動いていた霧がそう答える。

「それを使うのはめよ。じきに百合丸が戻って来る。それまでじっとしてるが良い」

 愛姫の言葉が終わらないうちに本殿のほうから百合丸が駆け戻ってくる足音が聞こえてきた。
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