乙女ゲーに転生!?ある日公爵令嬢になった私の物語

ゆーかり

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本編

22 カル視点

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我が主人グレンシュフォンティエル殿下は冷静にして聡明、上に立つものとして持ち得るべき冷酷さも備えた正に理想的な主君だ。

惜しむらくは複雑なお立場。殿下は第三王子ではあるが、隣国王女である正妃様唯一の御子。血筋としては王太子筆頭候補だった。正妃様が今なおご存命だったならば──

第一王子、第二王子の生母はそれぞれ身分が高くない妾妃だ。
第一王子の母アニエステ妃は子爵家の出、第二王子の母に至っては庶出だ。
大人しく慎まやかな第二王子の生母に反し、アニエステ妃は派手好きで強欲。王の寵愛を笠に一族で王宮に巣食う寄生虫の様相だ。

正妃様は殿下を出産後数ヶ月でお亡くなりになられたそうだ。アニエステ妃が見舞った後体調を崩された為、毒殺との噂が今なお残る。真相は不明のまま、現在アニエステ妃は正妃の如き権勢を誇っている。

第一王子が王太子となるまで、殿下は何度も命の危険に晒されてきた。毒で死にかけたことも一度や二度どころではない。
殿下付の騎士に任じられた俺の父が、生き延びさせる為護身術を仕込み、毒耐性をつけさせ、精神鍛錬を学ばせた。殿下は魔法の素養も高かったため、早くから優秀な魔導教授もつけた。殿下の英才教育は父によって為されたといっても過言ではない。

初めて殿下と引き合わされたのは俺が13の時。5歳下と聞いていたが、老成した大人の様な目をした、およそ子どもらしくない子どもだった。

「カルシファーです」

跪くのに躊躇いはなかった。まだ8歳の少年だと言うのに、殿下は既に他者を圧する威を備えていた。

「俺に忠誠を誓うというのか?」

「はい、お許し頂けるのなら」

「良いだろう。俺の手足となれカルシファー」

「はっ!身命を賭して殿下をお守りいたします」

そっと肩に剣が置かれる。俺はまだ正式な騎士ではない。だが殿下に将来を捧げる騎士たるを許された。嬉しかった。

それから9年。正規の騎士となってからは誰よりお側で殿下を見てきたと自負している。だから分かるのだ。殿下の様子がここ最近おかしいと。そう、婚約者であるアンジェリカ様が記憶をなくしてからだ。

物思いに耽ることが増えた。
滅多に感情を乱されない殿下の気が乱れる事が増えた。
何より驚いたのは日々楽しげであるということ。こんなに笑う殿下を俺は見たことがなかった。嘲笑や作り笑いの類ではない、心からの笑顔。一体誰が今まで殿下から引き出すことが出来ただろう?

記憶の喪失と共に随分と様変わりされたアンジェリカ様。そんな彼女が殿下は楽しくて仕方ない様だ。あんなに嫌っていたアンジェリカ様を嘘の様に殿下は好いている。きっと本人が自覚する以上に。

アンジェリカ様はややキツめのお顔立ちながら、おぐしの色からも薔薇と形容される華やかな美貌の持ち主だ。

記憶を失くされる前は近寄りがたい陰鬱な空気を纏っておられたが、今はお人が変わられた様に底抜けに明るく、物怖じせず平気で殿下をも罵倒される。それが殿下には心地いい様だ。

こんなに殿下が心を許し、自ら関わろうとする女性は他にはいない。俺はどうか末永く殿下のお側に……と願わずにいられないのだった。
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