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本編
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しおりを挟む「……私、この世界を旅して見て回りたいな」
ふと思ったことそのまま口にしてみたら、何か妙にストンって胸に落ちてきた。そうか、私今いる現実を目で見て感じて触れたいんだ。元々感覚的な人間だったしな。
「旅、か」
グレンは顎に手当てて何か考え込んでた。私はそれを尻目に温くなった紅茶をごくごく飲み干す。わーわー泣いたし叫んだし喉渇いちゃったよ。そしたらグレンが紅茶注いでくれた。へー意外とマメなんだな。
「お前との旅は面白そうだな。結婚したら連れて行ってやるよ」
「え、結婚が条件なの?」
「当たり前だ」
ならグレンと結婚するのって悪くないんじゃないかな?私のことは知った上で信じて受け入れてくれてるみたいだし。
「……考えとく」
「ふん、本来ならお前の同意なんて必要ないんだけどな」
悪魔みたいに笑うのやめて下さい。何だろな、近づけば近づくほどグレンの仮面がボロボロ剥がれてく。親しくなれば当然なんだけど、得体の知れない私をそんな簡単に受け入れていいの?ってちょっと心配になる。いや、戸惑いの方が大きいかな。「簡単に女性に心を許さない」王子様が何で?ってね。
「お前は考えてることが分かりやすいな」
「え!?あんた心読めるの!?」
「いや、お前は全部顔に出てる」
アズにも同じようなこと言われたな。そして杏梨時代もよく言われてたんだ、考えてること分かりやすいって。
「……気をつける」
紅茶ふぅふぅしながら唇とんがらせたらグレンが吹き出した。いや変顔ちゃうから!
「俺の前では構わない。むしろそのままでいろ。変に気取られても気持ち悪りぃしな」
気持ち悪りぃだと!?失敬な!にしてもなんかグレンってたまに私並みに口悪くない?
「グレンも何か時々王子様っぽくない言葉混じってるけど?」
「ああ、良く城抜けて市井の子どもたちと遊んでたからな。気抜くとお前みたいに口悪くなるんだ」
「気抜かなくても十分悪いと思うけど」
「お前に気取ってもしょうがないだろ」
何か腹立つけどその通りだなあって思ってしまった。今更グレンに気取られても気持ち悪りぃや。それにさ、グレンとの言い合いって気遣わないし、むしろ楽しいって思えるようになってた。
私グレンといるの楽しいんだ。男友達って実はいたことないから分かんないけど、こんな感じなのかな?
そこでふっと思い出す。グレンまだ私の質問に答えてないじゃん!
「グレン、私の質問まだ答えもらってないよ」
「なんだ覚えてたのか」
グレンは顔にかかった金髪を気怠げに掻き上げた。悔しいけど映画のワンシーンみたいに様になってる。
「正直に言うと……アンジェリカは好きではない……むしろ鬱陶しかった。嫌いな相手から毎日熱烈にアプローチされたらどう思う?」
想像してみる。気分がどんよりしてきた。
「しんどい……」
「ああ、毎日しんどかった。むしろ嫌われたくて嫌がらせ紛いのこともしてきたが、どれも効果はなかったな」
やっぱり下僕扱いはわざとだったのか。好きな人にこんな嫌われるって何やらかしたんだよ元アンジェリカさん……
「私元アンジェリカの性格知らないから無責任なこと言えないけど、何でそんな嫌ってたの?」
途端にグレン物凄い渋い顔。強烈に酸っぱい梅干しでも食べたんかってレベルだよ。
「……アンジェリカは陰気で癇癪持ちだったんだ。俺のことが好きで仕方なかったらしく、いつもいつも監視されてて息苦しかったな。俺は現状から逃げることばかり考えてた」
監視とか重っ!グレンの態度もどうかと思うけどさ、もうどっちがどうってレベルじゃないよね。何かこの2人ってやることなすこと負のスパイラルだ。
「うん、2人のことは何となく分かった。イヤなこと思い出させてごめん」
グレン何とも言えないって顔してた。相当積もり積もってたんだな……元アンジェリカも頑張れば頑張るほど報われない感じで、もう君達相性最悪じゃないですか……
「アンリになってからは一緒にいるのが楽しくて仕方なかったから、不思議でしょうがなかったんだ」
「それで別人って思ったんか」
「そうとしか思えなかったな」
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「今度神様会ったら文句言っとく」
「ああ、ただ神は人を試すとも言われてる。アンリに接触してくる意図は何だろな」
ん?私何か試されてるの?でもそう考えると取り違え自体実はミスじゃなくて……イヤイヤそこ深く考えるのはやめよう。だって文句だけじゃ済まなくなりそうだしさ!
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