どうやら魔王様と噂の皇太子殿下の溺愛から逃げられない運命にあるようです

珀空

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◆1章.永遠の微睡みを揺蕩う

004.うちのお嬢様は知らぬうちに物凄くやらかす

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「いやあ、お嬢って、いくら魔力の性質のことはあれど、なんだかんだ言ってこんな風に普通にいつも通り寝れるんだから凄いよねー」


 夕食後、眠ってしまったセシーリアを見ながらヴィルデはぽつりと呟いた。ここ数ヶ月、色々悩んだり不安そうにしている割に、このお嬢様は何だかんだで睡眠サイクルがほぼ変わらないので、ある意味図太い気がする。


「ええ、確かにこういうところは尊敬します」
「……確かに。……それにしてもヴィル、お嬢様と皇太子殿下との接点は分かったのか?」


 セシーリア付きの侍女エミリーはヴィルデの言葉にうんうんと頷いた。それにラーシュも賛同する。そして気になっていたことについてヴィルデに問うた。

 セシーリアは社交界へのデビューが若干遅かったことと、隣国の王太子が招かれるパーティーに関しては階段から転落だの、熱だの、その他諸々で欠席しており、彼らが知っている限り彼女は皇太子と直接的に関わってはいないはずだ。


 なによりこの家自体が隣国とはそこまで強いつながりはなく、セシーリアはまだ18歳と結婚するにはあまりにも若いこともあって、どういう理由で求婚してきているのか今回の件は色々と不思議だった。

 そんな訳で、想定外の所からの求婚だったのでヴィルデはそれなりに調べていたのだ。


「んー、大体はね。多分これだろうってやつだけど」


 主にいつもセシーリアの近くにいるヴィルデ、エミリー、ラーシュの3人は眠ってしまったセシーリアを横目にそんな会話をする。手慣れたようにヴィルデが彼女を運び、さっとベッドに移すと、3人は声量を抑えて彼女の近くでそんな会話を始めていた。

 本当は別の部屋で話し合いをしたいが、実はセシーリアは色々な方面から色々な理由で"大人気"なのであまり離れないようにしている。

 セシーリアはセシーリアで「私、寝てる時間も回数も多いからみんな暇よね。好きにお菓子とかお茶飲んでいいから」と普通に言う。流石にお茶会はしないが、情報共有はある程度この時間に行うことが多かった。


「で、なんだったの?」
「お嬢が時々手伝ってる酒場で出会ってるかもしれない」
「リーカさんとこの?」
「そうそ」


 セシーリアの侍従や護衛だけでなく、情報収集などもお手の物であるヴィルデはうんと頷く。

 リーカというのは以前はこの屋敷で料理人をしていた男だ。長年働いて資金を貯め、念願の酒場を数年前から領地で始めている。この屋敷で現在働いている料理人の中にはリーカの弟子のような料理人もいるし、昼は屋敷、夜は酒場で働く者だっている。

 この世界では人生が長いからか色々な趣味やら活動をする者たちが基本的にある程度のお金があるものには限るが貴族・平民など問わず居る。中には平民に紛れて数年生活したり、冒険者をして各国を回ったり、音楽に励んだり、研究をしたりなど人それぞれだ。


 セシーリアは幼い頃から仲の良かったリーカが始めた酒場に興味を持ち、平民の女の子に成りすまして時々酒場の手伝いをしていた。


「1年半前、皇太子はうちの国にお呼ばれして来てるんだよね」
「……1年半前」
「お嬢が急に高熱出して王家主催のパーティを欠席したときのやつ」
「ああ、あったなそんなこと」


 確かに1年半前、セシーリアは高熱を出して数日行われていた王城でのパーティを全て欠席している。あの時はどうも魔力の循環が滞っていたことが原因らしくパーティーが開催される少し前から1週間と少し寝込んでいた。が、熱が引くと有り得ないくらい元気になっていて、それから数日して確かに酒場にも手伝いに行っていた。

 


「あの時に皇太子はこの領地に1日滞在してて、その時にあの酒場に立ち寄ったみたいだしお嬢はその日は酒場の手伝いをしてたみたい」
「なるほど、そこで出会ったと……」
「おそらくね。……はあ、丁度俺が屋敷警護の時だったんだよな。皇太子の姿は知ってるし、見れば多少変装しててもピンと来てたかもな」


 この領地はアーシェラスの者たちがアーシェラスへ帰る時に通ることがある。そのため皇太子が滞在してても可笑しくない。普通の時には、領主が住むこの屋敷でもてなすのだが、その時は件のパーティで領主含めて、熱で寝込んだセシーリア以外はみんな王都にいた。

 最初はここを通るルートに決まった時に、領主であるセシーリアの父と母だけでも戻ってもてなすつもりだったが、この領地の宿泊施設は設備も安全もとても良いと評判であることと、皇太子はパーティの最終日は国での公務の都合上欠席して帰国予定だったので、そこまで気を遣わなくて良いと予め伝えられていたのだ。


 ヴィルデは当時、セシーリアの護衛だけでなく、どうしても警備が薄くなる屋敷の警護も担当していた。セシーリアも少し前まで寝込んでいたので屋敷にいて欲しかったのだが、それはもう元気が有り余りすぎていたので、無理しないことを条件にリーカの酒場の手伝いだけは許可した。

 ちなみにリーカの酒場は、リーカや領主と何らかの繋がりがある者たちがいつも多く屯していることと、屋敷の非番の警備の者たちや中々腕っ節も強い住人たちがいるので、下手な場所に行かせるよりも心強かったのだ。


 この領地で馬車なら王都から暫し時間がかかるため、どうやらセシーリアが元気になって酒場の手伝いをしていた日と、皇太子がこの領地に滞在した日は同じだったらしい。


「でもよくそこで会ったかもしれないって分かったな」
「うん。お嬢に当時付けてた影たちからの報告で、あの近辺に皇太子の護衛やら影が居たってことを思い出したんだ。しかもお嬢のいる酒場に近くなるほど強固になってたから、お忍びで来たんだろうってね」


 基本互いに敵意がなければ影同士は見て見ぬふりをするので、念の為に上に報告はしてもそれだけで終わる。セシーリアのように平民に紛れて色々する貴族も珍しくないので、向こうもこの酒場に貴族が働いているもしくは客に紛れていると分かっただろう。

 ちなみにセシーリア自身、紛れているつもりだろうが正直平民の女の子にしては仕草も身の振り方も言葉遣いも綺麗すぎるし、何よりオーラがあるので、顔見知りたちが多く屯している酒場で緩く受け止められていなければ普通にもっと浮いてるだろう。なので相手方にはセシーリアが貴族であるという点に関してはバレているだろう。


「エミリーとラーシュは当時はお嬢に付いてただろ?なんかないの?」
「何かねえ。あの頃は病み上がりなのに元気が有り余りすぎてるお嬢様が倒れないか、とかで心配過ぎて逆に記憶が……」
「私もだわ。お屋敷でも酒場でもあまりにも元気な嬢様が心配過ぎて、記憶が薄い」


 ヴィルデの言葉にラーシュとエミリーは顔を見合わせてそれから首を傾げる。意外と1年半前といえども記憶は曖昧だった。


「確かあの時2日続けて手伝いに行かれたのよね。1日目は確かヴィルがいたから、きっと会うなら2日目のはず……」
「2日目か。そういやお嬢様あの時誰かの手当したりしてたよな。そのうち何人かは見慣れない男だった」
「酔っ払いたちが騒いだ拍子にグラスが割れて何人かに破片が飛んで怪我したのよね。それをお嬢様が魔法でさっと治してた。……もしかしてあれで目をつけられたというの?いや、でも治癒魔法は珍しいけど、隣国でもそれなりには使える方がいるでしょ?」


 どうにか記憶を辿りながら会話をするエミリーとラーシュの言葉にヴィルデは片手を顎に添えて考える。確かに彼らの言う通り、お嬢の最も得意な治癒魔法は隣国でも王族たちの周りならそれなりに使える人数はいるはずだ。


(……となると)


「うちのお嬢、また俺らの知らない間に何かやらかしたんだろうな」
「……だろうな」
「ええ」

 セシーリアは幼い頃から時々周りの人間にも知られない所で、ものすごーくやらかしてくれることがある。しかも本人は気づいていないことも多い。

 例え色んな方面で優れているヴィルデやエミリー、ラーシュ、そして家族たちが近くにいてもいつの間にか何かしらに巻き込まれて、いつの間にか好かれている。


 何か相手の気に入ることを言ったとか、それとも一目惚れしたか、皇太子の興味を惹くようなことをしでかしたのだろう。


 例え、出会いが本当に酒場ではなかったとしても、今回の婚姻はきっとその"やらかし"の延長線だろう。


 3人は心の中で同じことを考えながら、今後は隣国で色々とやらかしそうだなと不安になった。
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