どうやら魔王様と噂の皇太子殿下の溺愛から逃げられない運命にあるようです

珀空

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◆1章.永遠の微睡みを揺蕩う

006.合言葉は「ま、なんとかなるよね」

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「……疲れた」
「お疲れ様です。お嬢様」


 婚約が決まってからのここ数ヶ月間、私は本当に疲れていた。

 いつの間にか色んな人に私が隣国の皇太子殿下と婚約することは知られていて、色々な準備や勉強の合間にあるお茶会やパーティーなどで色々な質問を頂くのだ。しかも、それだけでなく色々なお手紙も頂く。

 女性だけでなく男性まで群がって話しかけてきたり、手紙を出してくるので、それへの対応だけで時間が取られ本当に辛かった。今もちょうど色々と送られてきていた手紙の返信を書き終わった所である。


 ちなみに1番多く聞かれた質問は「どこで出会われたのですか?」とか「どちらから申し込まれたのですか?」とかそんなやつだ。残念ながら私は皇太子殿下に会ったことはないこと、そして婚約は向こうからだと言う話を噂好きの人を特に狙って話した。

 それで話が広まって落ち着いたかと思えば、次は「向こうの一目惚れですか?」だ。いや、だから会ったことないって、と思ったが、どうも噂が変に改変されて広まっているらしい。勝手にラブストーリーまで作られていて本当に恥ずかしかった。

 勝手に捏造しないで欲しいし、噂の中心にして「オホホ」とするのも切実にやめていただきたいが、残念ながら社交の場は噂話で腹を満たす人がいるのでどうしようもなかった。


「皆さんの好奇心が強すぎて、私潰れちゃいそう」
「先日、招待されたパーティーは規模も大きかったからか凄かったですね」
「ええ。確かにこんなに若くに結婚する人もいないし、相手は皇太子殿下だけれど、さすがに限度というものがあるわよねぇ」


 最終奥義「兄2人(シスコン)とヴィルデ、そして父を生贄にした壁」を作って母や従兄弟たちと話している振りをして耐え忍んだが、それすらも越えてこようとする猛者もいた。あまりの勢いだったためか、若干トラウマになりつつある。


「それにしても皇太子殿下のことに関して、物凄く心配されてたわよね」
「そうですね。まあ噂もありますが、皇太子殿下は色々とお凄いですので」


 特に男性陣だが、みんな揃って顔色を悪くして「本当に大丈夫なのか」と聞いてくるのだ。いや、流石に失礼だろうと言いたい。あと自分を今更売り込むのもやめて欲しい。どう考えても貴方たちを選べるわけがないのだから。


「……そっか、エミリーは見たことがあるんだっけ。みんな口を揃えて言うけれどそんなに凄いの?」
「はい。なんというかオーラがあるというか。敵意なんて向けられていないはずなのに恐ろしく感じるというか」


(それ、色んな人が言ってたな……)


 どうも私の婚約する相手である皇太子殿下は、顔は頗る整った、顔立ちは優男風な男であるというのに纏っているオーラが怖すぎるらしい。20代にして何故か大陸中から恐れられているだけあってか、パーティーなどで色々な人から聞く彼の話は中々のものだった。

 「慣れないと近くに寄れない。いや、やっぱり慣れても無理」だの「美しいがそれを認識する前に意識が遠のく」だの「あまりに美しすぎる悪魔」だのみんな言いたい放題だ。相手は皇太子殿下だぞ?と思ってしまう。あと何もしてないのにそんなふうに言われてしまうのは可哀想だ。

 まあ怖いものがほぼないヴィルデでさえ本気で「皇太子殿下をはいつ見ても怖い」なんて言ってたから相当だろう。もしかしたら、彼の魔法の付属性質デメリットが「相手に恐怖を与えてしまう」とかそういった類のものかもしれない。


(私、向こうでやって行けるのかな)


 まだ会ってすらいないのに、人から聞く噂のせいで少々不安だ。人の不安を煽るだけ煽っておいて「まあ、セシーリア嬢なら大丈夫!」となんの根拠もなく続けるのだ。寧ろそれを言われると本当に参ってしまう。


「まあ、お嬢様ならどうにかなりそうですけどね」
「エミリーまでそれを言うのね」
「まあ、はい。ある日突然ドラゴンに攫われてこちらは心底心配していたのに、見つかったときはドラゴンの子どもと泥だらけになって遊んでいたり、一緒に昼寝をしておられましたし……」
「……」


 ……そんなこともあったね。


「盗賊に攫われた時には、一緒にチェスで遊んだり、お菓子食べたのだと話されていましたね。心底気に入られて、挙句の果てには説き伏せて出頭させてましたし……」
「……」


 うん、懐かしいねー。


「極めつけはどこからともなく元暗殺者を拾ってきたことでしょうか?」
「__あれ?呼びましたー?」
「いえ、呼んでないです」


 エミリーがそう言うとちょうど部屋に入ってきたヴィルデが首を傾げた。もちろんその元暗殺者は彼のことである。確かに何気なく拾ってきた時には全く表情が動かないラーシュですら酷く驚いていたっけ?

 ヴィルデが全身血濡れていたのもあるし、昔の彼は目が完全に虚ろでこんなにニコニコもしていなかった。あと何やら世間に轟かせた異名も中々にバイオレンスらしい。


「ヴィルは、うん。何か色々あって拾っちゃったよね」
「普通、そんな風に人を拾ったりしませんからね……」


 エミリーは当時を思い出してため息をついた。懐かしいな。「元の場所に返して来なさい!」だの「名前を付けたら愛着がわくでしょう!」だのみんな混乱でヴィルデのことを捨てられた猫か犬扱いだった。


「はあ……。まあ、今までの経験上、お嬢様なら誰相手だろうと大丈夫ですよ。例え色々噂のある皇太子殿下だったとしても」
「確かにお嬢ならどんな人相手でも大丈夫そうですね」


 何となく何の話をしていたのか分かったらしいヴィルデも会話に入ってくる。逆にそこまで言われると何だかさらに不安になってきた。が、今更そんなことを考えたってもう遅い。


「まあ、なんとかなるわよね」


 なんて結局そんな風に考えることができてしまうのだから、確かにどうにかなりそうだ、なんてぼんやりと考えた。


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