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雪うさぎと元冬将軍
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*めちゃくちゃ長いのでお布団に包まってぬくぬくしながら読みましょう。
*R18です。
◇◇◇
「......寒い、寒過ぎる」
雪のような真っ白い髪に葉っぱの髪飾りを付け、南天の赤い実のような色をした目を持つ可愛らしい兎の獣人は灰色の空を見上げた。
(冬なんて早く過ぎて......)
友人がからかい半分にくれた葉っぱの髪飾りも相まってその容貌は、雪の日にたまに誰かが作るような雪うさぎのようだとよく言われる。しかし、残念ながら彼女、真白はとても寒がりで季節の中でも特に冬は大の苦手だった。
こたつも温いお布団も、スープも大好きだし、誰よりも早く着込み始める。そして誰よりも夏仕様の服になるのが遅かった。
そんな様子なのでよく友人たちから「そんなんじゃ溶けちまうぞ」と揶揄われるが正直冬の間は温もりの中に埋もれて溶けていたいと心底思う。
しかし、残念ながら獣人は冬眠する習性を持つものはほとんどいないので、結局どうにか家の中を暖かくして、準備しておいた食べ物を少しずつ食べながら春をぼんやりと待つしかないのだった。
◇◇
「............」
__その日、真白は絶望していた。
先程届いた手紙を見ながらため息をつく。
「.....まじか」
冬が大嫌いで必要最低限は家から出たくないことと、一人暮らしの寂しさから、他人よりも動ける日は沢山働き、それによって買い込んだ食べ物は随分と備えがある。冬には特に大切な火を焚べる薪やらそれを一定の期間維持するための魔石だって沢山準備していた。
他にも両親が亡くなって広い家にひとりぼっちなってしまったのが嫌で、仕事をして買い込んだものや両親の遺品が空いた部屋には沢山転がっている。
薬棚には常備薬から街では滅多に売ってない珍しい薬草なども入れられており、麻袋には様々な効果を持つ未使用の魔石が溢れんばかりに入っている。その他も日常で使うものやら暇を潰す娯楽など冬どころか1年程は何もしなくても良いほどの物が家の中には溢れていた。
しかし、それだけ備えて家から出ないようにしていたというのに、本日はそれができそうにないらしいです。
「薬が足りてないのかぁ......」
どうも近隣の村の子供や老人たちの間で何やら病気が流行っているらしい。その病気の治療薬に必要な薬草は冬もあるにはあるが、雪に埋もれて見つけることは難しく村は割と危機的な状況のようである。
昔はこの家の隣にある建物で両親が薬屋を営んでいたことや、真白自身、その村や近隣の町村に春から秋にかけて様々な薬草を売っていることを知っているためか、もしも真白が必要な分を除いて少しでもあまりがあるのなら売って欲しいとのことだった。
「仕方ない、よね」
真白そう呟きながら窓の外を見やる。一面銀世界で寒そうだが、いつもお世話になっている村が危機的状況であるというのならそれくらい我慢しなければ。そんなことを考えながら薬やら薬草を大量に保存している部屋へと足を運ぶ。
譲って欲しいと書かれていた薬草は、物の劣化を遅らせながら保存することに長けた魔石とともに思っていたよりも多く出てきた。それらを選別しながら丁寧に纏めて薬草をいつも売る時に入れる袋の1番大きなものに入れた。それから薬屋を営んでいた方の建物へ繋がる廊下を行き、貯蔵庫をみるとこれまた多くの薬草が出てきたので同じようにする。
それから、今年はまだまだ流行していないようだが冬の終わりから春先にかけて流行る病に効く薬草も同じように纏めて袋に入れると真白はまた外を見た。
「明るいうちに行こう」
正直外には出たくないが、今なら雪も降っていないし日も高い。雪道というものはとても危険であるが、真白は寒いのが嫌いなだけなのでそれさえなければ安全な道を経由しながら簡単に村へと行くことが出来る。
今から村へと向かっても日が暮れる前には帰って来れるだろうから、と直ぐに外出の準備を始めた。荷物を纏め、暖かい厚手の服を着込んだり、魔力を通すと暖かくなる魔石を布に包んだものを服と服の間に忍ばせたりして防寒をしてから家を出る。
安全のために普段使う道から外れながら歩いていくと約1時間ほどで村へと辿り着いた。こちらもやはり銀世界だ。村を行く人は病の流行もあってか数年前の雪の日に来た時と違ってほぼ居ない。
真白は通い慣れた村の医者の元へと薬草を運ぶ。激務からか目に隈が浮かぶ梟の獣人の医者はそれはもう嬉しそうに感謝の言葉を述べる。それから真白に「暖まっていくかい?」と言うけれど、「雪が降り出すと家に帰れなくなる可能性もあるから」と断った。代わりに医者はとても暖かそうな毛皮の上着をくれたので有難く頂戴して来た道へと戻る。
薬草の代金(いつもよりも格段に割り引いて売った)と毛皮の上着を薬草を売ったことでできたスペースにし舞い込んで道を行けば、チラホラと雪が降り始めた。
「帰る頃には大雪かも......」
やはり村に留まらなくて良かった、と安堵しながら足早に歩く。家まであと少しのところに来たところで、彼女の足跡はすぐに埋まるくらいに降り始めた。どうにか無事に家には辿り着きそうだ。真白は、白い息を吐きながらふと何を思ったのか周りを見回した。
「.....!」
(何か黒い物体が落ちてる)
そして視界にそれが映りこんだ。動物の死骸だろうか?そんなことを考えながら道を外れてそれに近づく。
「え、ヒト!?」
真白は落ちていたものを見下ろして思わずそう叫んだ。先程まではいなかったような気がするから、真白が村へと出向き帰ってくる間に倒れたのだろうか。
すぐさま雪の降り積もった地面に膝をつける。うつ伏せに倒れたそのヒトをどうにか仰向けにする。どうやら男らしい。フードを被っているので、獣人なのか人間であるのか、将またその他の種族なのかは分からないし、この際どうでもいい。
浅いが息があることを確認し、先程村で貰った毛皮の上着を掛けてやり、そのヒトの肩を揺さぶったり、声をかけたりする。手足がとても冷たい。
「あの!大丈夫ですか!」
「......っ、う......」
すると少しだけ反応が返ってきた。薄くだが目も開く。ガタガタと震える身体に温い魔石を当ててやりながら、真白は更に声をかけ続ける。
(このまま眠らせてはいけない!)
「眠らないで!......う、少し先に私の家があります!そ、そこまでどうにか立てませんか?」
「.....っ」
彼は細身ではあるが身長が高いように思える。真白の言っていることは理解できたらしく、少しだけ体を動かす素振りがあったのでその力を利用して起き上がらせると、先程の上着をしっかりと落ちないように掛けてやる。それから自分の荷物と彼の荷物らしきものをひと塊にして置き、彼の腕を肩に回させた。
「せーの、で立ちますよっ」
そう声をかけながら、彼の肩に回していない方の手を近くの細い木に当てさせた。こうして男が少しでも幹に体重を掛けてくれることで、体重が分散して立ち上がれないかと思ったのだ。真白のしようとしていることが彼に伝わったのか、彼は手を震わせながらもしっかりとその木の幹を握った。
「せーの」
そう声をかければ、どうにか2人で立ち上がることができた。少々ふらついたし重かったが、それを考える暇もない。小さく息を吐きながら、あとほんの少しのところにある家へと向かって1歩ずつ歩き出した。
時間をかけてどうにか家へと辿り着き、彼を一階の客間のベッドに寝かせた。もっと近いところにあるリビングのソファに寝かせようかとも思ったが、あの部屋は客間よりも暖かくなるのが遅いし、彼の看病がしにくくなる。
ぐったりとベッドに横になっている男に声をかけながら毛布を被せようとしたところで真白は手を止める。
(服が濡れているから脱がせないと.....)
相手が異性であるため戸惑った。しかし、このまま濡れた衣服を着せておくのは良くないだろう。
「すいません。服が濡れているので脱がせますね」
真白は深呼吸してから彼に声をかけ、手早く彼の服を脱がせていく。彼はまだどうにか意識を保っているらしいが、されるがままだ。
毛布を上手く使いながらできるだけ彼の体を見ないよう配慮しつつ脱がせるところまで出来たがさすがに服を着せられない。男を毛布でくるんでから、残していた父の衣服から新品の下着を取りだした。それからバスローブのような形をした厚手の上着も出てきたのでそれを手に部屋へと戻る。
そしてそれらをどうにか着せると、何枚か毛布を掛けてやる。そして次は部屋を温めるために暖炉に火をくべて魔石にも魔力を通して投げ込んだ。こうすることで煙突はなくとも魔石が煙などを吸ってくれるほか、効率よく火を燃やし続けてくれるので魔石様々である。
部屋を温めると次はキッチンへと行き、朝作ったスープを温めた。その横のコンロでは水を温める。少々塩と砂糖も入れた。水の方はあまり熱くならないうちに火を止めマグカップへと移す。そうしている間にスープも良い感じになったので、それらをお盆に乗せて客間に戻る。
彼が起きているか確認すると反応があった。反応がなければ無理に起さない方が良いかと思っていたが起きていたようなので、彼を座位に起き上がらせてから比較的にぬるい水をゆっくりと飲ませた。
「スープもあるんですけど食べれそうですか?」
「う、ん」
そう尋ねると、頷き返してくれたのでスプーンを口元に持っていってやると口に含んでくれる。それを何回か繰り返し、スープが半分ほどに減ったくらいで反応も鈍くなってきたので食べさせるのをやめた。
(食べたあとってそのまま寝かせていいのかしら)
発熱ならまだしも、雪の中に倒れている人の看病などしたことがないためどうして良いか戸惑う。しかし、彼をこのまま座らせておいても疲れるだろうからと横たえる。彼は直ぐに眠ってしまった。
「ふう……」
身体を温もったことで震えもある程度収まり、手足の冷たさもマシになったように思える。顔色はまだ青白いがどうにかなったらしい。しかし、まだまだ危険な状態ではあるだろうから、とできるだけ温かくなるように毛布や暖炉の火を見ながら調節し、それが終わると外に放置した荷物をサッと取りに行った。雪に埋もれ掛けていたが、自分の荷物も彼の荷物らしきものも無事だ。
「え、血?」
それらを家へ持って帰って、彼の荷物らしきものを客間に運び込んだ時今更それに気づいた。荷物には血がついていた。まさか、と思いながら彼の着ていた衣服を見る。黒い服で分かりずらいが冷水に浸けると赤黒く濁った。
(彼を着替えさせた時、怪我はないように見えたけれど)
返り血?それとも治癒の魔法か何かで治したのだろうか?と思考を巡らせるが、彼は眠ってしまっていて聞くことができない。仕事上造血の効果のある薬草はあるにはあるが勝手に使う訳にもいかず、真白はせっせと彼の看病をしながら様子を見ることにした。本当は医者を呼びに行きたかったが、ここから遠すぎるし、外は大吹雪であるため彼から離れるのも憚られた。何より1番近い村は病が流行っている。気軽には行けない。真白は「どうしたものか」と頭を抱えた。
そのうちには数日が経ち、彼の低体温も改善した。発熱もない。しかし、何故か彼は時折目覚めるもののぐったりしていた。
(やっぱり、医者を呼びに行こう)
数日続いた吹雪も今朝は止んでいた。看病するために客間の床に敷いた寝具から抜け出して真白は外の様子を伺う。
「...、ううっ」
「焚周さん?おはようございます。調子は.....、良さそうではありませんね」
真白は声をかけながら彼の様子を見る。随分マシにはなったが、まだまだ病人だ。先日、意識が戻った時に自己紹介をすると焚周と名乗った男は、よく見るとそれなりに整った顔をしている。
彼についてこの数日で分かったことといえば彼の名前と彼が狼の獣人であるということだ。
(彼ってやっぱりあの"冬将軍様"なのかな。いや、まさかね)
名前と狼獣人であること、そして銀色の髪やら水色の目から浮かぶのは有名過ぎる軍人のことだった。
この国では英雄扱いだが、他国では彼が戦場に来ると場が一瞬のうちに物理的に凍るだの、目が合っただけで凍死するだの物騒な噂がチラホラ飛び交っている。中には近くにいたら、そっと死んだふりをするか物陰に隠れて、ひたすらに生き残ることのみ祈れ、というものもあるらしい。熊かな。怖すぎる。そういえば、数年前に隣国が仕掛けてきた時も凄い活躍だったとか。
「焚周さん、今日は医者を呼びに行こうとおもいます」
水色の目を見つめていると、彼もこちらをじっと見る。先日よりも意識がしっかりとしているようだ。真白は彼にそう声を掛けると、彼は暫し考えたのち何故か首を振った。そしてゆっくりと口を開く。
「__.....く」
「え?」
彼が掠れた声で何かを言ったので、真白は耳を彼の口元に近づけた。
「まりょく」
「魔力?.......__あっ!もしかして魔力が枯渇してて体調が……」
真白がそこまで言うと彼はこくりと頷いた。
(盲点だった.....。魔力の枯渇なら確かに行くところは医者ではない)
低体温であったり、その後の発熱であったりといったものに意識が向いていて、一向に良くならない原因が魔力枯渇であるという思考が真白には全くなかった。魔力は普通なら食事や睡眠で回復することができる。しかし、使い過ぎるとそれだけでは回復させることができなくなってしまう。
(この場合は神殿か.....。彼を連れて行けるほど近くにはないし.....)
ある一定の魔力量から下回ると、神殿に行って神官たちからの治療を受けなければならない。しかし、ここは大きな町や王都ならまだしも田舎だ。神殿もなければ神官や元神官も知り合いにはいない。
基本的に生活に必要な分くらいの魔力しか使わないため、普段生活しているだけなら魔力が枯渇することなどほぼないのだ。そのためか、1番近い神殿は真白の足で1日ほどかかる。病人を連れてこの時折吹雪いている寒い雪道を行くのは難しいだろう。
「.....」
(となると、手段は.....)
真白羞恥心を通り越して遠い目をした。神殿での治療が行えない場合、他の手段は2つ。世界のどこかにあるらしい魔力が得られる魔石に触れるか、性行為か。そんな珍しい魔石などを一般人が持っているわけもないため必然的に選択肢は一つになった。
真白は再び焚周と目を合わせる。そして彼の腕にそっと触れた。魔力のある者が魔力を手に集めて触れるだけでも微々たるものではあるが、魔力を渡すことができるらしいと本で読んだことがあったからだ。
「神殿はここからだと遠いし、外は雪です。魔石なんてないですし、その.....えっと.....」
そこまで言うと焚周は全てを理解したらしい。そして、やはりふるふると首を左右に振る。
恋人であるなら「よし」と思えるが、残念ながらただの病人とそれをたまたま助けただけの他人だ。お互いに微妙な気分である。
(しかし、だからといって魔力の枯渇を長時間放っておくと死んでしまうし.....)
折角助けたのだ。真白は彼を殺したくはなかった。両親との思い出の詰まったこの家で死なせたくはないし、かといって寒い銀世界に放り出そうなんて考えるほど残酷でもない。
数分色々と思考を巡らせてから小さく息を吐く。熟考している間、彼女のうさ耳は可愛らしくピクピクと動くので、焚周はぼんやりとそれを見つめた。その顔には諦めの表情がある。
(どうせ私には恋人もいないし、初めてが人助けというのは何とも言えないけれど、ひとりのヒトを助けられたと思えばこれくらい安いか。初めてをイケメンで捨てられる、と前向きに考えよう)
近隣の町村などに友人は多かったし、真白の可愛さもあって色々な手段で迫ってくる男もいたが、両親の居ない彼女は一人で生きていくのに必死でそれどころではなかった。そして、ようやく様々な面で余裕を持てた頃には、安定した生活のせいで恋人を作る気が寧ろ生まれずただ淡々と好きなように生きてきた。
恋だの愛だのにうつつを抜かしやすい兎の獣人であるというのにそういう気質がないのは、数代前の先祖が兎ではなかったからかもしれない。
まだまだ17歳と若いが、他の同世代のような好きな人と結婚することへの憧れもなく、ましてや初夜への思いもない。
「.....焚周さん、恋人はいらっしゃいますか?」
ある程度心の準備が出来た真白は、焚周にそう尋ねた。突拍子もなくそれを尋ねられた焚周は一瞬固まったが、直ぐに首を振る。何となくだがその様子から本当に居なさそうだと考える。
「私は貴方に死んで欲しくない。でも神殿も遠ければ、魔石もない現状、できることは一つだけです」
「.....」
焚周はまた首を振る。真白はそんな彼の頬に手を置いた。すると、彼の肩がビクッと揺れる。
「その、.....私は生娘です。あと方法は1つと言っていますが、性行為がどういうものか正直よくは分かってません」
「.....」
(我ながら色気の欠片もない.....)
なんて呆れながら真白はベッドに乗りあげると、焚周の胴をできるだけ体重をかけないようにして跨いだ。しかし、今言ったことは真実なのでどうしようもない。
「.....」
「.....」
「.....私が相手で申し訳ないとは思いますが、どうしようもないので我慢してください」
真白はそのままの体勢で彼と見つめ合う。静寂が場を包んでいるため少々気まずい。
(最初は何するんだっけ?キス?)
何て考えながら顔を近付ける。彼に触れる際、魔力を渡すことをイメージしながら頬に触れたままゆっくりとその唇に己のそれを重ねる。やはり甘いだのなんだのヒトは言うが、何も味はしなかった。
「.....っ」
「うっ」
(魔力、思ったよりも持っていかれた.....!)
しっかりと口と口を合わせると己から魔力が抜けていく感覚がして、真白は生理的に顔を真っ赤にする。魔力供給や魔力交換は発情しやすいだなんてことを知らない真白は一瞬固まった。焚周は焚周で、急に思っていたよりも多くの魔力が供給されたことに驚いたらしく目を見開いている。
「っ、びっくりした...。はあ、魔力多くてよかったかも」
「.....はあ、.....はあ」
口を外し、呆然としながらそう言う。真白は他人よりも随分と魔力量が多いらしいが、今の今までそれが役に立つことなどなかった。他人だったら今の接吻で供給した量で少し疲労感を覚えるだろう。しかし、真白は初めての感覚に驚くだけでわりと元気だ。
2人して肩で息をしながら見つめ合う。たったこれだけの接吻で、本能が互いを求めてしまっていた。まさかそうなっていることなど知らない真白は、何故だかぼんやりとしてきた思考をそのままに焚周を見る。
「.....真白、さん。.....ほんと、に、続けるんですか?」
幾分か身体の状態がマシになり、焚周は掠れた低い声でそう問うた。焚周も他人に比べて魔力量が多いタイプのためか、危機的状態を抜けるためには他人よりも多く魔力が供給される必要があった。そのため、まだまだ供給してもらう必要はあるが、それでもどうにかある理性で彼女を見やる。生娘だと言っていたから、できれば好いた人と交わるべきだと言ってやりたかった。
接吻だけでは最低ラインまで回復する前に、身体の構造上エネルギーを使うことと一緒で何もしなくても一定量自然に抜けてしまう。それを知っている焚周は説得しようと真白を見やるのだが、真白は心を決めているためか、彼の言葉が発される前にもう一度焚周にキスをした。
「はあ、.....んっ、んんっ」
「ふ、う、.....っん」
それを何回か続けていくうちに、2人とも発情しきる。魔力を多く枯渇している分供給する方もされる方も本能が互いを求めるように呼吸を貪り合うようになってしまう。
(なにこれ、きもちいい.....)
よく回らない頭でそう考えながら、深いキスを繰り返していると急に焚周に身体を抱きしめられた。真白は驚いて唇を外す。すると、世界が反転した。
「.....っ」
「は、はぁ.....んんっ」
焚周に押し倒される形になり驚く間もなく再びキスされた。どこにそんな力が残っていたのか、と真白は思ったが再びのキスでそんな思考はドロドロに溶けた。
そしてその間に服に手をかけられる。まだまだ倦怠感が強いのか、それとも焦っているのか覚束無い手がボタンを外そうとするので、真白は自分から服を脱いだ。そして焚周の服にも手を掛ける。
2人とも羞恥心だとかそういうものは既に頭にない。ただ互いを求めることに必死だった。2人揃って一糸まとわぬ姿になると、再び唇をくっつける。
「んんぅっ!」
すると、その間に焚周の手が真白の胸に触れる。真白はビクッと身体を震わせたが、すぐに力を抜いた。それを感じながら、焚周はそっと胸の頂きを優しく摘む。
それから柔らかい膨らみを揉まれ、初めての刺激に驚きながら真白は身体を触れられる度にビクリビクリと震わせていると唇が離れた。二人の間に透明の線がつーっと伸びる。
「はあ、かわいい」
「っ!ひ、ひあぁ.....」
至近距離でそう言われて真白は甘い声を返してしまった。そんな声、どこから出たのかなんて深く考えることもできず、身体を滑っていく唇やら手やらに翻弄される。
胸の頂きに吸いつかれたり、弾かれたり、擦られたりしたかと思えば、首筋を吸われ赤い痕を残される。
先程までぐったりしていたとは思えない様子に驚くが、時折顔を顰めたりもしているので、やはり本調子ではないらしい。
「あ、や、やらぁ!.....ひぁあんっ!んぁあ」
「はあ、.....ほらもうこんな風になって.....」
胸を弄っていた手が、腹を滑りその下の秘部へと伸びる。滑るように割れ目をなぞられ、濡れたそこを確かめると焚周があまりに妖美に笑うので真白は足を閉じようとするが焚周がいてどうすることもできない。
それから割れ目を手で開かれ、女の1番感じる芽を擦られて真白は一段と声を上げた。
「そ、そこいや、んやぁ!ああ、...あんっ!は、あ.....」
「ヒクヒクしてる。.....指、挿れるよ?」
身体を捩るが押さえつけられていてどうしようもない。発情しきった声を上げながら彼の唇を受け止め、それが離れると口からあられもない声が飛び出していく。赤い目を潤ませた真白は実に美しかった。うさ耳に触れてやればさらに良い声を上げる。
焚周はそれを堪能したあと、ヒクヒクとひくつくその穴に指をゆっくり入れる。生娘と彼女が言っていたようにそこは狭かったが、よく潤んでいた。
「あ、あぁ、そこだめ!...はぁあんっ、あぁ、ん、ぁ.....」
「ここがいい?」
「うん、きもちい。.....ひぁ!ま、まって、たかねさ、ぁあ!」
程なくして指が2本に増え、何かを探るようにナカの壁を押したり、擦ったりしてくるので堪らず腰をくねらせる。そのうち違和感しかなかったはずの所から気持ちいいものが溢れてきて真白はまた声を上げた。初めてそんなところに指を入れられた訳だが、この上なく昂っているからかすぐに刺激に気持ちよくなってしまう。
「んゃぁあっ!あ、は、.....あぁんっ!はぁ、ひゃぁああっ!ま、まって、何かきちゃ、.....っ!」
「いいよ、真白。イって」
「んゃ、んああぁぁっ!~~~っ!」
気がつけば指は3本に増え、ヌチュヌチュと水音をさせながら真白を高めていく。そしてより敏感な花芯に触れられてしまえば、腰や足がガクガク震え、どこかよく分からない所へ登っていくような、深い深い穴に落とされるようなそんな正反対な感覚に陥った。
突然のことに「まって」と声をかけるが、目が合った焚周はにこやかに笑ってそう言った。その声に呼応するようにそれはやって来る。縋り付きながら見た彼の水色の目は欲を孕んでいて、どこか恐ろしい獣のようだ。声音は穏やかなのに、戸惑いなく触れられ気持ちよくされてしまう。しかも真白のことを"真白"と呼び捨てにするので、不覚にもキュンとしてしまった。
(なんだろう、吊り橋効果ってやつ?)
友人が言っていたその言葉の意味はイマイチ分からないので使いどころが合っているかは知らないが、頭の片隅でそんなことを考える。
「真白、挿れていい?」
「んん?.....い、いよ」
初めての快感に翻弄されてぼやぼやしてしまっていたが、焚周の声に引き戻される。言われた言葉に了承すると、焚周はうっそりと微笑んだ。相変わらず水色の目は恐ろしいくらいにギラギラしている。
「あ、う、んんっ」
「は、はぁ、.....せまい」
「焚周さんのがおっきいのっ、やぁあっ、いた、い.....」
「ごめん、ね。...は、ぁ、んっ」
ゆるゆると膣口に熱いそれが当てられ、真白から出てきた愛液と馴染ませるとゆっくりと入り始めた。慣らされたとはいえ、今日まで誰も踏み入ったことのないそこは焚周のそれをぎゅうぎゅうと締め付けてくる。
ゆるゆると腰を揺らしながら分け入って、純潔を失う痛みでぽろぽろ涙を零す真白の眦にキスをする。ぐすっと鼻を鳴らす彼女を見て、元からあった罪悪感が更に膨らんだが、それと同時に焚周はとてつもなく彼女が愛おしく思えた。
軍人として生活をしながら一応交際した経験もあったが戦地へと向かっている間に気持ちが離れていたり、"冬将軍"とかいう謎のあだ名のせいで恐れられたりして、誰かに対してこういう気持ちになるはとても久しぶりだった。
「ま、だ.....?」
「あと少し、だ」
もうあと少しで彼女と深く繋がれる。しかし、焦りすぎると真白に負担がかかる。それを頭の片隅で考えながら焚周は時間をかけてゆっくりと全てを収めていった。
「.....は、ぁあ、んんっ」
「入った.....、はあ」
全てが入り焚周は彼女に口付けを落とした。魔力はここまでの触れ合いで結構貰い、あと少しで自力で回復できる所まで戻るだろう。自分について来れる魔力があるなんて、と心底焚周は驚いていた。普通のヒトならばもうとっくにキツいだろうに、と。
「.....動い、ていい」
「大丈夫?」
「うん……」
真白はある程度息が整うと焚周にそう言った。その表情は未だに少し辛そうでまだあと少し待とうとするが、彼を見上げる真白の期待するような眼差しを見て焚周はごくりと唾を飲み込んだ。
ゆっくりと腰を動かせば真白は苦しそうな、でも気持ちよさそうな声を上げる。発情している獣人のこういった行為は初めてでも割と快感が拾えるらしいが、今回はそれだけでなく魔力供給までしているので気持ちいいのかもしれない。
「んぁ、やぁあんっ!あ、あぁ、ああ、は、んっ」
「あ、はぁ……、ん、っ」
焚周は今にも精を吐き出しそうな己をどうにか制しながら、腰を動かし続ける。じわじわと供給されてくる魔力を感じながら焚周は息をついた。魔力にもお互いの相性があるが、真白と焚周はそれはもう良いらしい。戦場や戦闘後に神殿や基地などで受けた淡々とした神官による治療とは全く違う。
足をビクビクと震わせ、焚周に縋り付き、あられもない声を上げ、目に涙を浮かべながら、焚周のそれを奥へ奥へと誘い込む。その身体の全てが愛らしく思えて、またその唇を奪った。
「あ、んんっ、んむぅ、は、ぁんっ」
「ん、はあ、すごっ」
恋人でも夫婦でもないただの他人同士、どちらかというとこの行為は治療のようなものであるはずなのに、2人の口付けはどこか甘い。
最初はゆったりとした腰使いであったが、段々と互いに高まってくるとそれが激しくなる。魔力も随分と蓄積されてきた頃にはお互いにあと少しでその高まりへと辿り着く目前だった。
「ああっ!奥、そんなにしないれぇ!やあぁん!だ、めっ!あ、はぁん」
「ココ突き上げるとナカがうねって、はぁ、気持ちいいよ」
「ひぁあっ!ま、まって、また来るからぁ!そこ、そこばっかりぃ!やぁああっ!」
「出、そう……。さすがにナカにはマズイから…、ちょ、離れないとっ」
「良い、出して良い、よ。使う予定なかったけど、はあ…、避妊薬は持ってる……、はぁ、んんっ」
あと少しで出そうになったくらいで焚周は理性を一瞬取り戻して抜こうとするが、真白の足が腰に巻きついて離れることができなかった。それに焦るが、真白が避妊薬について話すと巻きついた足を外すのを止めて焚周はひたすらに彼女のそこに腰を打ち付けた。
「あ、ぁああっ!~~っ、はぁ、ひぁああっ、んぁああっ!」
「は、く、出る、ううっ」
今までで1番激しいその動きに真白は思わず腰を浮かすが、焚周がそれを押さえつける。彼の手が胸やら花芽に触れて更に甲高く鳴きながら絶頂へと達すると、少しして焚周もナカに精を放った。
「は、…ぁ、はぁあ」
「はぁ、はぁ、……ある程度回復した。真白、ありがとう……」
焚周は本能的に精を子宮へと押し流すために緩やかに打ち付ける。それが終わる頃には、どうにか魔力は食事や睡眠で回復できるくらいにまで受け取れていた。
これ以上は親しくもない他人と交合うのは可哀想だとまだ少し怠い身体に言い聞かせて己を抜く。赤い鮮血と白濁したそれが混じったものを見て焚周は大きくなった罪悪感を更に膨らませた。
「た、かねさん」
真白が焚周を呼ぶ。焚周が彼女に目を合わせれば、その瞳にはまだまだ欲が残っていた。その目には見覚えがある。今まで性行為なんてしたことがなかった獣人がその快楽を知ると、しばらくは発情しやすくなったり、1回の行為だけでは性欲が発散されず寧ろ膨らんでせがむようになる。こればかりはどの獣人にもありうることなのだが、焚周は「どうしたものか」と考える。
「ねえ、もっと……」
「……っ」
不意に伸びてきた手が焚周の頭を抱え込み、彼女のその首筋に誘導する。白い項から甘い酔ってしまいそうな匂いがして、焚周の欲が再び溢れだしそうになった。しかし、先程純潔を失ったばかりの身体にあまり無理を強いたくはない。
「真白さん、これ以上は貴女が辛いですよ」
「ん、やあ。まだするの」
しかし、本能でドロドロに溶かされた彼女の頭の中にはしっかりとそれが届かない。焚周の手を掴んで秘部に誘導しようとするので焚周はまた息を吐く。
「本当に良いんですか?」
「うん。気持ちよくなりたい」
確認すればすぐに返事が返ってくる。このまま放置してもそれはそれで辛いだろう。彼女の可愛らしい仕草やおっとりとしているようで、しかしどこか色っぽい艶のある声やら表情に焚周にも火がつく。
「こちらに背を向けて」
「せ?……せなか?」
焚周がそう言えば、ゆったりとした動きでこちらに背を向ける。しかも、何も言わなくても腰を持ち上げ尻を差し出すような形になった。
「あ、あっ、そこやぁ!気持ち良すぎるのっ!」
「はは、ドロドロしてる」
膣に指を2本入れて掻き混ぜてやると、その腰が淫靡に揺れた。先程探し当てた良い所はどこだったかと壁を擦り、彼女の反応が良くなった所でそこばかりを責めると声が大きくなる。
「あ、あぁぁんっ!や、きちゃ、きちゃう!うぁあっ、んぁあ!!」
「上手にイケたね」
「はあ、止めて、……あ、ぁん、指止めてっ!」
「まだまだイケそうだよ?」
「は、ぁあっ!やぁああっ!ん、ま、そこも一緒ダメ!」
腰の動きが更に激しくなった所で敏感な芽に触れれば、更に反応が良くなる。
「あ、あ、擦らないでっ、だめ、きもちいい!ね、やら、やぁあっ!むり、も、あ、は、んぅっ、~~っ!」
「よし、イったね。ナカの動き凄い……」
激しくぎゅうぎゅうと伸縮し、焚周の指をまるで捕食するようにしながら達したので焚周はにっこり笑う。立て続けにイカされ、ガクガクと揺れる腰を支えきらず体勢の崩れた真白の腰をしっかりと掴むと焚周は己を入れ込んだ。
「あ、さっきより大きい……!あ、あぁあっ、や、んやぁあっ!」
「どう?さっきとは違うところにあたるでしょう?」
「これ、やら!気持ち良くなりすぎる!焚周さ、腰止めて、むり、無理ぃ!!」
「そう言いながら俺のをぎゅうってた咥えこんで、気持ちよさそうにしてるよね」
「あ、ああっ!う、はぁああっ!あ、あん、ああ、あぁっ!」.
「もう、魔力は供給しなくていい。そろそろ君の方がマズイだろう?」
「あ、まりょ、く。はい……」
ガツガツと貪るように腰を打ちつけ、揺れる胸に触れたり、背中に唇を滑らせたりすると真白は可愛らしく声を上げて鳴いた。
焚周はそれを聞きながら、後背位や正常位だけでなく他の体位へも変えながら彼女を貪った。魔力を供給しなくて良いと言ったけれど、それでも微量に伝わってきていて、ようやく二人の欲が落ち着く頃には真白が元々持っていた魔力の半分が焚周に流れ、焚周は随分と元気になっていた。
(あったかい.....)
行為が終わり、真白は焚周に抱きついた。すると焚周も彼女を抱きしめる。焚周に抱きしめられて眠るとお互いに体温を共有し合ってる気がして心も体もぬくぬくだ。焚周に擦り寄り大きく息を吸い込むと、彼の匂いがして安心してしまう。
(この匂い.....__)
「すき、かも.....」
「.....え?」
真白はぽつりとそう呟くと、驚く焚周を他所に欠伸を一つしてからそのまま縋り付いて眠ってしまった。
◇◇
「.....__っ!」
「.....っ!」
(ひぃぃ!なにっ!?)
真白が目を開けると、目の前に肌色のものがあった。無意識に擦り寄るとピクリと動いたので、それによってようやく覚醒した頭で眠る前の記憶を思い出し、真白は声にならない叫びを上げた。
「た、焚周さん」
「真白さん」
顔を真っ赤にしながら彼の顔を見やれば、同じようにたった今起きたらしい焚周が真っ赤になってこちらを見ている。
「あ、あの、そのっ!」
「本当にすいませんでした。そして救っていただき、ありがとうございます」
何を言えば良いのか困り、あたふたしていると焚周が口を開きそう言った。行為の時とは違い、丁寧な物言いに不覚にもドキッとした。行為の終盤では本性なのかは知らないが、少々意地悪だった気もする。
「い、いえ、元気になられたのなら、その、良かったです」
「えっと、お陰様でこの通りです」
二人で照れながらそんなことを言い合う。それから真白はふと思っていたことを尋ねることにした。
「えっと、その……焚周さんって、有名な"冬将軍様"ですか?、」
「……あ、ああ。はい」
(やっぱりそうなんだ……)
目が合ったら凍死するだの、近くにいたら生き残るために祈れだの、彼がいたら物理的に色々と凍るだのと色々有名だが、真白の知る焚周は雪山で寧ろ凍死しかけていたように思う。
いや、しかしそれは置いておいて、まさかとは思っていたが、救った男が例の冬将軍らしい。彼の様子からして先程述べたような噂のような冷たさは感じられないが、軍人だからかよく見ると身体つきはとても良い。
何故こんなところにいるのかと話を聞けば、軍の中の色々なゴタゴタに巻き込まれて辞めさせられたらしい。しかも追っ手つきで。そいつらを追い返しているうちに怪我をして、慣れない治癒魔法を使って治したのは良いが、加減をミスして魔力が枯渇寸前に。焦りながら追っ手を撒きつつ土地勘のない山を彷徨ううちに休む場所が見つからず大雪に見舞われ、そしてそのまま魔力が枯渇して倒れていたらしい。衣服や荷物についた血の謎と魔力枯渇の原因は分かった。
実力はどうか知らないが、あれだけの噂がある男を辞めさせるとかあるのか、と真白は驚く。どうも彼が若い上に何もかも強いしでき過ぎて、よく思わない人達に追い出されたらしい。焚周は、焚周で家が軍人の家系だから軍に入っただけで、特に思い入れもなかったらしくさっさと辞めたのだという。
(この国、大丈夫なのかな)
真白は、こんな田舎まで名が広まるような男を追い出す軍に割と不安になる。
「それにしても、冬将軍が雪山で遭難.....」
「氷魔法は得意ですが、実は寒いのは嫌いです。雪も無理」
(.....な、なるほど。どこかで聞いた話だ)
ぽつりとふと思ったことを呟くと焚周が苦笑した。その内容に既視感を抱く。
「わ、私もこんな見た目ですが、冬は嫌いです」
「確かに助けられた時にも思いましたが、真白さんは雪うさぎさんのようです」
雪うさぎ"さん"だなんて照れながら言う焚周に、真白はまたドキリとした。そしてそれと同時にむず痒さも覚える。
「あれですね。真白"さん"って呼ばれると変な感じがします。昨日は呼び捨てだったのに」
「ああ、確かにそうですね。.....では、真白と呼びます。俺も焚周で良いですよ」
「た、たかね」
「はい」
まるで恋人同士かのように見つめ合いながら、そんな照れくさいやり取りをしてしまった。それを認識して、赤の他人と寝てしまった、とも思ったが、こんな風にそれなりに元気な様子を見れば助けられた安堵感が強い。
「.....いたっ」
真白はそろそろ起きようと、身体を起こそうとする。しかし、その瞬間、身体中に鈍い痛みを感じた。そして1度感じるとさっきまでの調子が嘘のようだ。
(え、痛すぎる……。起き上がれないっ!)
「す、すいません!や、やり過ぎました」
「い、いえ」
隣から慌てる声がする。しかも「やり過ぎました」という言い方が直接的で気恥しい。
初体験だったこと、そしてお互いに求め合いすぎてしまったせいで身体はなかなか思うように動いてくれないらしい。
しかも、その後約1日、先日までとは打って変わって焚周に看病されるとは真白は思いもしなかった。
そしてようやく真白も元気になった頃には外は今年1番の猛吹雪。
看病をしてもらったこと、薬草や食料をいくつか買って貰ったことで貸し借りなしだと真白が伝えて、「それだけでは足りない」と渋る焚周を言いくるめはしたが、住み慣れた真白とは違い、いくら軍人と言えども見知らぬ雪山では、家から中々容易に出ることもかなわず約2週間が過ぎる。
その期間で互いを知り、趣味やら嗜好があったことで気心の知れた仲となり、気が付けば吹雪が終わっているというのに共に生活していた。
それが当たり前になり、互いに離れがたくなると話し合って交際することになり、雪うさぎやら冬将軍やらとあだ名がつくというのに、暖かい春を待ちわびて2人は温もりを分け合うようになった。
「__焚周、春だ!春だよ!」
「ええ、やっと温かくなりましたね」
__ようやく春が来た。
2人が出会った山桜の木の下で花見をしながら真白と焚周は笑い合う。暫くは二人の苦手な冬が来ないので、にこにこと機嫌よく笑いながら寄り添い合った。
◇◇
(あとがき)
寒くなってきたのでお布団という名の楽園にぬくぬく入りながら、書いてたら約16000字です.....。読みにくかったら行間あけるので教えてください。時々寝惚けながら書いてるので誤字いっぱいあるかも。
2人の名前のイメージは、白いうさぎなので真白、恐れられていてでもイケメンな高嶺の花みたいな感じなので焚周にしました。周と書いて「かね」と読むのが何故か知らないけど大好きです。
兎と狼のそれぞれの交尾の特徴は調べたけれど、頭が回らなかったので人間準拠です。ちなみにちゃんと後から避妊薬も飲んだよ。
◇真白 (17歳)
・白い髪に赤い目の兎の獣人
・「雪うさぎ」みたい、と人から言われるが、寒い冬は大の苦手
・友人からからかい半分で貰った葉っぱの髪飾りをつけるとさらに雪うさぎ感が増す
・可愛らしいので男にモテるが、袖にしていた。
・見た目の割に逞しく、野山を駆け回って薬草や木の実、キノコなどを採取して近隣の町村を回って売ったり、頼まれたら店の手伝いなどをしている
・両親はどこかのお金持ちで駆け落ちしており、他の親族は知らない
・1番近い村から冬じゃない日に歩いて30分の山の中に住んでいる。昔は両親が薬屋をしていた
◇焚周 (23歳)
・灰色の短髪に水色の目をした狼の獣人
・寒いのが苦手なのに魔法の適正で氷が一際強く出て正直泣いた。他の家族のように火や雷が良かった
・軍人の家系なので成り行きで軍人になった。魔力量も多く、幼い頃からの教育により、割と何でもできるし強かったので異例の出世を遂げ、大人たちから嫉妬の眼差しを受けまくっていた。父親もお偉いさんで助けてくれようとしたが、相手が悪かった
・寒いのが苦手なため、早く戦いを終わらせて帰りたいと氷魔法をぶっぱなして戦っていたら「冬将軍」と恐れられるように。自国だけでなく近隣国でも有名。
・軍人の時はそれなりに強めに話すし、顔も作っている。イケメンではあったが、噂も相まって怖がられた
・根は割と穏やかで丁寧。表情豊かで怖い印象はない。意外と天然でおっちょこちょい
・普段は敬語男子、夜のあれこれの時は崩れる。ドS疑惑あり
・真白と暮らすようになって「軍に戻ってきて欲しい」と部下が次々に尋ねてきたが、軍に思い入れがないし追っ手を掛けられたこともあって、適当にあしらって、真白とイチャイチャしていた。
・真白との生活では暑い夏以外に本当は嫌いだった氷魔法を使わなくていいのでとても嬉しい。
*R18です。
◇◇◇
「......寒い、寒過ぎる」
雪のような真っ白い髪に葉っぱの髪飾りを付け、南天の赤い実のような色をした目を持つ可愛らしい兎の獣人は灰色の空を見上げた。
(冬なんて早く過ぎて......)
友人がからかい半分にくれた葉っぱの髪飾りも相まってその容貌は、雪の日にたまに誰かが作るような雪うさぎのようだとよく言われる。しかし、残念ながら彼女、真白はとても寒がりで季節の中でも特に冬は大の苦手だった。
こたつも温いお布団も、スープも大好きだし、誰よりも早く着込み始める。そして誰よりも夏仕様の服になるのが遅かった。
そんな様子なのでよく友人たちから「そんなんじゃ溶けちまうぞ」と揶揄われるが正直冬の間は温もりの中に埋もれて溶けていたいと心底思う。
しかし、残念ながら獣人は冬眠する習性を持つものはほとんどいないので、結局どうにか家の中を暖かくして、準備しておいた食べ物を少しずつ食べながら春をぼんやりと待つしかないのだった。
◇◇
「............」
__その日、真白は絶望していた。
先程届いた手紙を見ながらため息をつく。
「.....まじか」
冬が大嫌いで必要最低限は家から出たくないことと、一人暮らしの寂しさから、他人よりも動ける日は沢山働き、それによって買い込んだ食べ物は随分と備えがある。冬には特に大切な火を焚べる薪やらそれを一定の期間維持するための魔石だって沢山準備していた。
他にも両親が亡くなって広い家にひとりぼっちなってしまったのが嫌で、仕事をして買い込んだものや両親の遺品が空いた部屋には沢山転がっている。
薬棚には常備薬から街では滅多に売ってない珍しい薬草なども入れられており、麻袋には様々な効果を持つ未使用の魔石が溢れんばかりに入っている。その他も日常で使うものやら暇を潰す娯楽など冬どころか1年程は何もしなくても良いほどの物が家の中には溢れていた。
しかし、それだけ備えて家から出ないようにしていたというのに、本日はそれができそうにないらしいです。
「薬が足りてないのかぁ......」
どうも近隣の村の子供や老人たちの間で何やら病気が流行っているらしい。その病気の治療薬に必要な薬草は冬もあるにはあるが、雪に埋もれて見つけることは難しく村は割と危機的な状況のようである。
昔はこの家の隣にある建物で両親が薬屋を営んでいたことや、真白自身、その村や近隣の町村に春から秋にかけて様々な薬草を売っていることを知っているためか、もしも真白が必要な分を除いて少しでもあまりがあるのなら売って欲しいとのことだった。
「仕方ない、よね」
真白そう呟きながら窓の外を見やる。一面銀世界で寒そうだが、いつもお世話になっている村が危機的状況であるというのならそれくらい我慢しなければ。そんなことを考えながら薬やら薬草を大量に保存している部屋へと足を運ぶ。
譲って欲しいと書かれていた薬草は、物の劣化を遅らせながら保存することに長けた魔石とともに思っていたよりも多く出てきた。それらを選別しながら丁寧に纏めて薬草をいつも売る時に入れる袋の1番大きなものに入れた。それから薬屋を営んでいた方の建物へ繋がる廊下を行き、貯蔵庫をみるとこれまた多くの薬草が出てきたので同じようにする。
それから、今年はまだまだ流行していないようだが冬の終わりから春先にかけて流行る病に効く薬草も同じように纏めて袋に入れると真白はまた外を見た。
「明るいうちに行こう」
正直外には出たくないが、今なら雪も降っていないし日も高い。雪道というものはとても危険であるが、真白は寒いのが嫌いなだけなのでそれさえなければ安全な道を経由しながら簡単に村へと行くことが出来る。
今から村へと向かっても日が暮れる前には帰って来れるだろうから、と直ぐに外出の準備を始めた。荷物を纏め、暖かい厚手の服を着込んだり、魔力を通すと暖かくなる魔石を布に包んだものを服と服の間に忍ばせたりして防寒をしてから家を出る。
安全のために普段使う道から外れながら歩いていくと約1時間ほどで村へと辿り着いた。こちらもやはり銀世界だ。村を行く人は病の流行もあってか数年前の雪の日に来た時と違ってほぼ居ない。
真白は通い慣れた村の医者の元へと薬草を運ぶ。激務からか目に隈が浮かぶ梟の獣人の医者はそれはもう嬉しそうに感謝の言葉を述べる。それから真白に「暖まっていくかい?」と言うけれど、「雪が降り出すと家に帰れなくなる可能性もあるから」と断った。代わりに医者はとても暖かそうな毛皮の上着をくれたので有難く頂戴して来た道へと戻る。
薬草の代金(いつもよりも格段に割り引いて売った)と毛皮の上着を薬草を売ったことでできたスペースにし舞い込んで道を行けば、チラホラと雪が降り始めた。
「帰る頃には大雪かも......」
やはり村に留まらなくて良かった、と安堵しながら足早に歩く。家まであと少しのところに来たところで、彼女の足跡はすぐに埋まるくらいに降り始めた。どうにか無事に家には辿り着きそうだ。真白は、白い息を吐きながらふと何を思ったのか周りを見回した。
「.....!」
(何か黒い物体が落ちてる)
そして視界にそれが映りこんだ。動物の死骸だろうか?そんなことを考えながら道を外れてそれに近づく。
「え、ヒト!?」
真白は落ちていたものを見下ろして思わずそう叫んだ。先程まではいなかったような気がするから、真白が村へと出向き帰ってくる間に倒れたのだろうか。
すぐさま雪の降り積もった地面に膝をつける。うつ伏せに倒れたそのヒトをどうにか仰向けにする。どうやら男らしい。フードを被っているので、獣人なのか人間であるのか、将またその他の種族なのかは分からないし、この際どうでもいい。
浅いが息があることを確認し、先程村で貰った毛皮の上着を掛けてやり、そのヒトの肩を揺さぶったり、声をかけたりする。手足がとても冷たい。
「あの!大丈夫ですか!」
「......っ、う......」
すると少しだけ反応が返ってきた。薄くだが目も開く。ガタガタと震える身体に温い魔石を当ててやりながら、真白は更に声をかけ続ける。
(このまま眠らせてはいけない!)
「眠らないで!......う、少し先に私の家があります!そ、そこまでどうにか立てませんか?」
「.....っ」
彼は細身ではあるが身長が高いように思える。真白の言っていることは理解できたらしく、少しだけ体を動かす素振りがあったのでその力を利用して起き上がらせると、先程の上着をしっかりと落ちないように掛けてやる。それから自分の荷物と彼の荷物らしきものをひと塊にして置き、彼の腕を肩に回させた。
「せーの、で立ちますよっ」
そう声をかけながら、彼の肩に回していない方の手を近くの細い木に当てさせた。こうして男が少しでも幹に体重を掛けてくれることで、体重が分散して立ち上がれないかと思ったのだ。真白のしようとしていることが彼に伝わったのか、彼は手を震わせながらもしっかりとその木の幹を握った。
「せーの」
そう声をかければ、どうにか2人で立ち上がることができた。少々ふらついたし重かったが、それを考える暇もない。小さく息を吐きながら、あとほんの少しのところにある家へと向かって1歩ずつ歩き出した。
時間をかけてどうにか家へと辿り着き、彼を一階の客間のベッドに寝かせた。もっと近いところにあるリビングのソファに寝かせようかとも思ったが、あの部屋は客間よりも暖かくなるのが遅いし、彼の看病がしにくくなる。
ぐったりとベッドに横になっている男に声をかけながら毛布を被せようとしたところで真白は手を止める。
(服が濡れているから脱がせないと.....)
相手が異性であるため戸惑った。しかし、このまま濡れた衣服を着せておくのは良くないだろう。
「すいません。服が濡れているので脱がせますね」
真白は深呼吸してから彼に声をかけ、手早く彼の服を脱がせていく。彼はまだどうにか意識を保っているらしいが、されるがままだ。
毛布を上手く使いながらできるだけ彼の体を見ないよう配慮しつつ脱がせるところまで出来たがさすがに服を着せられない。男を毛布でくるんでから、残していた父の衣服から新品の下着を取りだした。それからバスローブのような形をした厚手の上着も出てきたのでそれを手に部屋へと戻る。
そしてそれらをどうにか着せると、何枚か毛布を掛けてやる。そして次は部屋を温めるために暖炉に火をくべて魔石にも魔力を通して投げ込んだ。こうすることで煙突はなくとも魔石が煙などを吸ってくれるほか、効率よく火を燃やし続けてくれるので魔石様々である。
部屋を温めると次はキッチンへと行き、朝作ったスープを温めた。その横のコンロでは水を温める。少々塩と砂糖も入れた。水の方はあまり熱くならないうちに火を止めマグカップへと移す。そうしている間にスープも良い感じになったので、それらをお盆に乗せて客間に戻る。
彼が起きているか確認すると反応があった。反応がなければ無理に起さない方が良いかと思っていたが起きていたようなので、彼を座位に起き上がらせてから比較的にぬるい水をゆっくりと飲ませた。
「スープもあるんですけど食べれそうですか?」
「う、ん」
そう尋ねると、頷き返してくれたのでスプーンを口元に持っていってやると口に含んでくれる。それを何回か繰り返し、スープが半分ほどに減ったくらいで反応も鈍くなってきたので食べさせるのをやめた。
(食べたあとってそのまま寝かせていいのかしら)
発熱ならまだしも、雪の中に倒れている人の看病などしたことがないためどうして良いか戸惑う。しかし、彼をこのまま座らせておいても疲れるだろうからと横たえる。彼は直ぐに眠ってしまった。
「ふう……」
身体を温もったことで震えもある程度収まり、手足の冷たさもマシになったように思える。顔色はまだ青白いがどうにかなったらしい。しかし、まだまだ危険な状態ではあるだろうから、とできるだけ温かくなるように毛布や暖炉の火を見ながら調節し、それが終わると外に放置した荷物をサッと取りに行った。雪に埋もれ掛けていたが、自分の荷物も彼の荷物らしきものも無事だ。
「え、血?」
それらを家へ持って帰って、彼の荷物らしきものを客間に運び込んだ時今更それに気づいた。荷物には血がついていた。まさか、と思いながら彼の着ていた衣服を見る。黒い服で分かりずらいが冷水に浸けると赤黒く濁った。
(彼を着替えさせた時、怪我はないように見えたけれど)
返り血?それとも治癒の魔法か何かで治したのだろうか?と思考を巡らせるが、彼は眠ってしまっていて聞くことができない。仕事上造血の効果のある薬草はあるにはあるが勝手に使う訳にもいかず、真白はせっせと彼の看病をしながら様子を見ることにした。本当は医者を呼びに行きたかったが、ここから遠すぎるし、外は大吹雪であるため彼から離れるのも憚られた。何より1番近い村は病が流行っている。気軽には行けない。真白は「どうしたものか」と頭を抱えた。
そのうちには数日が経ち、彼の低体温も改善した。発熱もない。しかし、何故か彼は時折目覚めるもののぐったりしていた。
(やっぱり、医者を呼びに行こう)
数日続いた吹雪も今朝は止んでいた。看病するために客間の床に敷いた寝具から抜け出して真白は外の様子を伺う。
「...、ううっ」
「焚周さん?おはようございます。調子は.....、良さそうではありませんね」
真白は声をかけながら彼の様子を見る。随分マシにはなったが、まだまだ病人だ。先日、意識が戻った時に自己紹介をすると焚周と名乗った男は、よく見るとそれなりに整った顔をしている。
彼についてこの数日で分かったことといえば彼の名前と彼が狼の獣人であるということだ。
(彼ってやっぱりあの"冬将軍様"なのかな。いや、まさかね)
名前と狼獣人であること、そして銀色の髪やら水色の目から浮かぶのは有名過ぎる軍人のことだった。
この国では英雄扱いだが、他国では彼が戦場に来ると場が一瞬のうちに物理的に凍るだの、目が合っただけで凍死するだの物騒な噂がチラホラ飛び交っている。中には近くにいたら、そっと死んだふりをするか物陰に隠れて、ひたすらに生き残ることのみ祈れ、というものもあるらしい。熊かな。怖すぎる。そういえば、数年前に隣国が仕掛けてきた時も凄い活躍だったとか。
「焚周さん、今日は医者を呼びに行こうとおもいます」
水色の目を見つめていると、彼もこちらをじっと見る。先日よりも意識がしっかりとしているようだ。真白は彼にそう声を掛けると、彼は暫し考えたのち何故か首を振った。そしてゆっくりと口を開く。
「__.....く」
「え?」
彼が掠れた声で何かを言ったので、真白は耳を彼の口元に近づけた。
「まりょく」
「魔力?.......__あっ!もしかして魔力が枯渇してて体調が……」
真白がそこまで言うと彼はこくりと頷いた。
(盲点だった.....。魔力の枯渇なら確かに行くところは医者ではない)
低体温であったり、その後の発熱であったりといったものに意識が向いていて、一向に良くならない原因が魔力枯渇であるという思考が真白には全くなかった。魔力は普通なら食事や睡眠で回復することができる。しかし、使い過ぎるとそれだけでは回復させることができなくなってしまう。
(この場合は神殿か.....。彼を連れて行けるほど近くにはないし.....)
ある一定の魔力量から下回ると、神殿に行って神官たちからの治療を受けなければならない。しかし、ここは大きな町や王都ならまだしも田舎だ。神殿もなければ神官や元神官も知り合いにはいない。
基本的に生活に必要な分くらいの魔力しか使わないため、普段生活しているだけなら魔力が枯渇することなどほぼないのだ。そのためか、1番近い神殿は真白の足で1日ほどかかる。病人を連れてこの時折吹雪いている寒い雪道を行くのは難しいだろう。
「.....」
(となると、手段は.....)
真白羞恥心を通り越して遠い目をした。神殿での治療が行えない場合、他の手段は2つ。世界のどこかにあるらしい魔力が得られる魔石に触れるか、性行為か。そんな珍しい魔石などを一般人が持っているわけもないため必然的に選択肢は一つになった。
真白は再び焚周と目を合わせる。そして彼の腕にそっと触れた。魔力のある者が魔力を手に集めて触れるだけでも微々たるものではあるが、魔力を渡すことができるらしいと本で読んだことがあったからだ。
「神殿はここからだと遠いし、外は雪です。魔石なんてないですし、その.....えっと.....」
そこまで言うと焚周は全てを理解したらしい。そして、やはりふるふると首を左右に振る。
恋人であるなら「よし」と思えるが、残念ながらただの病人とそれをたまたま助けただけの他人だ。お互いに微妙な気分である。
(しかし、だからといって魔力の枯渇を長時間放っておくと死んでしまうし.....)
折角助けたのだ。真白は彼を殺したくはなかった。両親との思い出の詰まったこの家で死なせたくはないし、かといって寒い銀世界に放り出そうなんて考えるほど残酷でもない。
数分色々と思考を巡らせてから小さく息を吐く。熟考している間、彼女のうさ耳は可愛らしくピクピクと動くので、焚周はぼんやりとそれを見つめた。その顔には諦めの表情がある。
(どうせ私には恋人もいないし、初めてが人助けというのは何とも言えないけれど、ひとりのヒトを助けられたと思えばこれくらい安いか。初めてをイケメンで捨てられる、と前向きに考えよう)
近隣の町村などに友人は多かったし、真白の可愛さもあって色々な手段で迫ってくる男もいたが、両親の居ない彼女は一人で生きていくのに必死でそれどころではなかった。そして、ようやく様々な面で余裕を持てた頃には、安定した生活のせいで恋人を作る気が寧ろ生まれずただ淡々と好きなように生きてきた。
恋だの愛だのにうつつを抜かしやすい兎の獣人であるというのにそういう気質がないのは、数代前の先祖が兎ではなかったからかもしれない。
まだまだ17歳と若いが、他の同世代のような好きな人と結婚することへの憧れもなく、ましてや初夜への思いもない。
「.....焚周さん、恋人はいらっしゃいますか?」
ある程度心の準備が出来た真白は、焚周にそう尋ねた。突拍子もなくそれを尋ねられた焚周は一瞬固まったが、直ぐに首を振る。何となくだがその様子から本当に居なさそうだと考える。
「私は貴方に死んで欲しくない。でも神殿も遠ければ、魔石もない現状、できることは一つだけです」
「.....」
焚周はまた首を振る。真白はそんな彼の頬に手を置いた。すると、彼の肩がビクッと揺れる。
「その、.....私は生娘です。あと方法は1つと言っていますが、性行為がどういうものか正直よくは分かってません」
「.....」
(我ながら色気の欠片もない.....)
なんて呆れながら真白はベッドに乗りあげると、焚周の胴をできるだけ体重をかけないようにして跨いだ。しかし、今言ったことは真実なのでどうしようもない。
「.....」
「.....」
「.....私が相手で申し訳ないとは思いますが、どうしようもないので我慢してください」
真白はそのままの体勢で彼と見つめ合う。静寂が場を包んでいるため少々気まずい。
(最初は何するんだっけ?キス?)
何て考えながら顔を近付ける。彼に触れる際、魔力を渡すことをイメージしながら頬に触れたままゆっくりとその唇に己のそれを重ねる。やはり甘いだのなんだのヒトは言うが、何も味はしなかった。
「.....っ」
「うっ」
(魔力、思ったよりも持っていかれた.....!)
しっかりと口と口を合わせると己から魔力が抜けていく感覚がして、真白は生理的に顔を真っ赤にする。魔力供給や魔力交換は発情しやすいだなんてことを知らない真白は一瞬固まった。焚周は焚周で、急に思っていたよりも多くの魔力が供給されたことに驚いたらしく目を見開いている。
「っ、びっくりした...。はあ、魔力多くてよかったかも」
「.....はあ、.....はあ」
口を外し、呆然としながらそう言う。真白は他人よりも随分と魔力量が多いらしいが、今の今までそれが役に立つことなどなかった。他人だったら今の接吻で供給した量で少し疲労感を覚えるだろう。しかし、真白は初めての感覚に驚くだけでわりと元気だ。
2人して肩で息をしながら見つめ合う。たったこれだけの接吻で、本能が互いを求めてしまっていた。まさかそうなっていることなど知らない真白は、何故だかぼんやりとしてきた思考をそのままに焚周を見る。
「.....真白、さん。.....ほんと、に、続けるんですか?」
幾分か身体の状態がマシになり、焚周は掠れた低い声でそう問うた。焚周も他人に比べて魔力量が多いタイプのためか、危機的状態を抜けるためには他人よりも多く魔力が供給される必要があった。そのため、まだまだ供給してもらう必要はあるが、それでもどうにかある理性で彼女を見やる。生娘だと言っていたから、できれば好いた人と交わるべきだと言ってやりたかった。
接吻だけでは最低ラインまで回復する前に、身体の構造上エネルギーを使うことと一緒で何もしなくても一定量自然に抜けてしまう。それを知っている焚周は説得しようと真白を見やるのだが、真白は心を決めているためか、彼の言葉が発される前にもう一度焚周にキスをした。
「はあ、.....んっ、んんっ」
「ふ、う、.....っん」
それを何回か続けていくうちに、2人とも発情しきる。魔力を多く枯渇している分供給する方もされる方も本能が互いを求めるように呼吸を貪り合うようになってしまう。
(なにこれ、きもちいい.....)
よく回らない頭でそう考えながら、深いキスを繰り返していると急に焚周に身体を抱きしめられた。真白は驚いて唇を外す。すると、世界が反転した。
「.....っ」
「は、はぁ.....んんっ」
焚周に押し倒される形になり驚く間もなく再びキスされた。どこにそんな力が残っていたのか、と真白は思ったが再びのキスでそんな思考はドロドロに溶けた。
そしてその間に服に手をかけられる。まだまだ倦怠感が強いのか、それとも焦っているのか覚束無い手がボタンを外そうとするので、真白は自分から服を脱いだ。そして焚周の服にも手を掛ける。
2人とも羞恥心だとかそういうものは既に頭にない。ただ互いを求めることに必死だった。2人揃って一糸まとわぬ姿になると、再び唇をくっつける。
「んんぅっ!」
すると、その間に焚周の手が真白の胸に触れる。真白はビクッと身体を震わせたが、すぐに力を抜いた。それを感じながら、焚周はそっと胸の頂きを優しく摘む。
それから柔らかい膨らみを揉まれ、初めての刺激に驚きながら真白は身体を触れられる度にビクリビクリと震わせていると唇が離れた。二人の間に透明の線がつーっと伸びる。
「はあ、かわいい」
「っ!ひ、ひあぁ.....」
至近距離でそう言われて真白は甘い声を返してしまった。そんな声、どこから出たのかなんて深く考えることもできず、身体を滑っていく唇やら手やらに翻弄される。
胸の頂きに吸いつかれたり、弾かれたり、擦られたりしたかと思えば、首筋を吸われ赤い痕を残される。
先程までぐったりしていたとは思えない様子に驚くが、時折顔を顰めたりもしているので、やはり本調子ではないらしい。
「あ、や、やらぁ!.....ひぁあんっ!んぁあ」
「はあ、.....ほらもうこんな風になって.....」
胸を弄っていた手が、腹を滑りその下の秘部へと伸びる。滑るように割れ目をなぞられ、濡れたそこを確かめると焚周があまりに妖美に笑うので真白は足を閉じようとするが焚周がいてどうすることもできない。
それから割れ目を手で開かれ、女の1番感じる芽を擦られて真白は一段と声を上げた。
「そ、そこいや、んやぁ!ああ、...あんっ!は、あ.....」
「ヒクヒクしてる。.....指、挿れるよ?」
身体を捩るが押さえつけられていてどうしようもない。発情しきった声を上げながら彼の唇を受け止め、それが離れると口からあられもない声が飛び出していく。赤い目を潤ませた真白は実に美しかった。うさ耳に触れてやればさらに良い声を上げる。
焚周はそれを堪能したあと、ヒクヒクとひくつくその穴に指をゆっくり入れる。生娘と彼女が言っていたようにそこは狭かったが、よく潤んでいた。
「あ、あぁ、そこだめ!...はぁあんっ、あぁ、ん、ぁ.....」
「ここがいい?」
「うん、きもちい。.....ひぁ!ま、まって、たかねさ、ぁあ!」
程なくして指が2本に増え、何かを探るようにナカの壁を押したり、擦ったりしてくるので堪らず腰をくねらせる。そのうち違和感しかなかったはずの所から気持ちいいものが溢れてきて真白はまた声を上げた。初めてそんなところに指を入れられた訳だが、この上なく昂っているからかすぐに刺激に気持ちよくなってしまう。
「んゃぁあっ!あ、は、.....あぁんっ!はぁ、ひゃぁああっ!ま、まって、何かきちゃ、.....っ!」
「いいよ、真白。イって」
「んゃ、んああぁぁっ!~~~っ!」
気がつけば指は3本に増え、ヌチュヌチュと水音をさせながら真白を高めていく。そしてより敏感な花芯に触れられてしまえば、腰や足がガクガク震え、どこかよく分からない所へ登っていくような、深い深い穴に落とされるようなそんな正反対な感覚に陥った。
突然のことに「まって」と声をかけるが、目が合った焚周はにこやかに笑ってそう言った。その声に呼応するようにそれはやって来る。縋り付きながら見た彼の水色の目は欲を孕んでいて、どこか恐ろしい獣のようだ。声音は穏やかなのに、戸惑いなく触れられ気持ちよくされてしまう。しかも真白のことを"真白"と呼び捨てにするので、不覚にもキュンとしてしまった。
(なんだろう、吊り橋効果ってやつ?)
友人が言っていたその言葉の意味はイマイチ分からないので使いどころが合っているかは知らないが、頭の片隅でそんなことを考える。
「真白、挿れていい?」
「んん?.....い、いよ」
初めての快感に翻弄されてぼやぼやしてしまっていたが、焚周の声に引き戻される。言われた言葉に了承すると、焚周はうっそりと微笑んだ。相変わらず水色の目は恐ろしいくらいにギラギラしている。
「あ、う、んんっ」
「は、はぁ、.....せまい」
「焚周さんのがおっきいのっ、やぁあっ、いた、い.....」
「ごめん、ね。...は、ぁ、んっ」
ゆるゆると膣口に熱いそれが当てられ、真白から出てきた愛液と馴染ませるとゆっくりと入り始めた。慣らされたとはいえ、今日まで誰も踏み入ったことのないそこは焚周のそれをぎゅうぎゅうと締め付けてくる。
ゆるゆると腰を揺らしながら分け入って、純潔を失う痛みでぽろぽろ涙を零す真白の眦にキスをする。ぐすっと鼻を鳴らす彼女を見て、元からあった罪悪感が更に膨らんだが、それと同時に焚周はとてつもなく彼女が愛おしく思えた。
軍人として生活をしながら一応交際した経験もあったが戦地へと向かっている間に気持ちが離れていたり、"冬将軍"とかいう謎のあだ名のせいで恐れられたりして、誰かに対してこういう気持ちになるはとても久しぶりだった。
「ま、だ.....?」
「あと少し、だ」
もうあと少しで彼女と深く繋がれる。しかし、焦りすぎると真白に負担がかかる。それを頭の片隅で考えながら焚周は時間をかけてゆっくりと全てを収めていった。
「.....は、ぁあ、んんっ」
「入った.....、はあ」
全てが入り焚周は彼女に口付けを落とした。魔力はここまでの触れ合いで結構貰い、あと少しで自力で回復できる所まで戻るだろう。自分について来れる魔力があるなんて、と心底焚周は驚いていた。普通のヒトならばもうとっくにキツいだろうに、と。
「.....動い、ていい」
「大丈夫?」
「うん……」
真白はある程度息が整うと焚周にそう言った。その表情は未だに少し辛そうでまだあと少し待とうとするが、彼を見上げる真白の期待するような眼差しを見て焚周はごくりと唾を飲み込んだ。
ゆっくりと腰を動かせば真白は苦しそうな、でも気持ちよさそうな声を上げる。発情している獣人のこういった行為は初めてでも割と快感が拾えるらしいが、今回はそれだけでなく魔力供給までしているので気持ちいいのかもしれない。
「んぁ、やぁあんっ!あ、あぁ、ああ、は、んっ」
「あ、はぁ……、ん、っ」
焚周は今にも精を吐き出しそうな己をどうにか制しながら、腰を動かし続ける。じわじわと供給されてくる魔力を感じながら焚周は息をついた。魔力にもお互いの相性があるが、真白と焚周はそれはもう良いらしい。戦場や戦闘後に神殿や基地などで受けた淡々とした神官による治療とは全く違う。
足をビクビクと震わせ、焚周に縋り付き、あられもない声を上げ、目に涙を浮かべながら、焚周のそれを奥へ奥へと誘い込む。その身体の全てが愛らしく思えて、またその唇を奪った。
「あ、んんっ、んむぅ、は、ぁんっ」
「ん、はあ、すごっ」
恋人でも夫婦でもないただの他人同士、どちらかというとこの行為は治療のようなものであるはずなのに、2人の口付けはどこか甘い。
最初はゆったりとした腰使いであったが、段々と互いに高まってくるとそれが激しくなる。魔力も随分と蓄積されてきた頃にはお互いにあと少しでその高まりへと辿り着く目前だった。
「ああっ!奥、そんなにしないれぇ!やあぁん!だ、めっ!あ、はぁん」
「ココ突き上げるとナカがうねって、はぁ、気持ちいいよ」
「ひぁあっ!ま、まって、また来るからぁ!そこ、そこばっかりぃ!やぁああっ!」
「出、そう……。さすがにナカにはマズイから…、ちょ、離れないとっ」
「良い、出して良い、よ。使う予定なかったけど、はあ…、避妊薬は持ってる……、はぁ、んんっ」
あと少しで出そうになったくらいで焚周は理性を一瞬取り戻して抜こうとするが、真白の足が腰に巻きついて離れることができなかった。それに焦るが、真白が避妊薬について話すと巻きついた足を外すのを止めて焚周はひたすらに彼女のそこに腰を打ち付けた。
「あ、ぁああっ!~~っ、はぁ、ひぁああっ、んぁああっ!」
「は、く、出る、ううっ」
今までで1番激しいその動きに真白は思わず腰を浮かすが、焚周がそれを押さえつける。彼の手が胸やら花芽に触れて更に甲高く鳴きながら絶頂へと達すると、少しして焚周もナカに精を放った。
「は、…ぁ、はぁあ」
「はぁ、はぁ、……ある程度回復した。真白、ありがとう……」
焚周は本能的に精を子宮へと押し流すために緩やかに打ち付ける。それが終わる頃には、どうにか魔力は食事や睡眠で回復できるくらいにまで受け取れていた。
これ以上は親しくもない他人と交合うのは可哀想だとまだ少し怠い身体に言い聞かせて己を抜く。赤い鮮血と白濁したそれが混じったものを見て焚周は大きくなった罪悪感を更に膨らませた。
「た、かねさん」
真白が焚周を呼ぶ。焚周が彼女に目を合わせれば、その瞳にはまだまだ欲が残っていた。その目には見覚えがある。今まで性行為なんてしたことがなかった獣人がその快楽を知ると、しばらくは発情しやすくなったり、1回の行為だけでは性欲が発散されず寧ろ膨らんでせがむようになる。こればかりはどの獣人にもありうることなのだが、焚周は「どうしたものか」と考える。
「ねえ、もっと……」
「……っ」
不意に伸びてきた手が焚周の頭を抱え込み、彼女のその首筋に誘導する。白い項から甘い酔ってしまいそうな匂いがして、焚周の欲が再び溢れだしそうになった。しかし、先程純潔を失ったばかりの身体にあまり無理を強いたくはない。
「真白さん、これ以上は貴女が辛いですよ」
「ん、やあ。まだするの」
しかし、本能でドロドロに溶かされた彼女の頭の中にはしっかりとそれが届かない。焚周の手を掴んで秘部に誘導しようとするので焚周はまた息を吐く。
「本当に良いんですか?」
「うん。気持ちよくなりたい」
確認すればすぐに返事が返ってくる。このまま放置してもそれはそれで辛いだろう。彼女の可愛らしい仕草やおっとりとしているようで、しかしどこか色っぽい艶のある声やら表情に焚周にも火がつく。
「こちらに背を向けて」
「せ?……せなか?」
焚周がそう言えば、ゆったりとした動きでこちらに背を向ける。しかも、何も言わなくても腰を持ち上げ尻を差し出すような形になった。
「あ、あっ、そこやぁ!気持ち良すぎるのっ!」
「はは、ドロドロしてる」
膣に指を2本入れて掻き混ぜてやると、その腰が淫靡に揺れた。先程探し当てた良い所はどこだったかと壁を擦り、彼女の反応が良くなった所でそこばかりを責めると声が大きくなる。
「あ、あぁぁんっ!や、きちゃ、きちゃう!うぁあっ、んぁあ!!」
「上手にイケたね」
「はあ、止めて、……あ、ぁん、指止めてっ!」
「まだまだイケそうだよ?」
「は、ぁあっ!やぁああっ!ん、ま、そこも一緒ダメ!」
腰の動きが更に激しくなった所で敏感な芽に触れれば、更に反応が良くなる。
「あ、あ、擦らないでっ、だめ、きもちいい!ね、やら、やぁあっ!むり、も、あ、は、んぅっ、~~っ!」
「よし、イったね。ナカの動き凄い……」
激しくぎゅうぎゅうと伸縮し、焚周の指をまるで捕食するようにしながら達したので焚周はにっこり笑う。立て続けにイカされ、ガクガクと揺れる腰を支えきらず体勢の崩れた真白の腰をしっかりと掴むと焚周は己を入れ込んだ。
「あ、さっきより大きい……!あ、あぁあっ、や、んやぁあっ!」
「どう?さっきとは違うところにあたるでしょう?」
「これ、やら!気持ち良くなりすぎる!焚周さ、腰止めて、むり、無理ぃ!!」
「そう言いながら俺のをぎゅうってた咥えこんで、気持ちよさそうにしてるよね」
「あ、ああっ!う、はぁああっ!あ、あん、ああ、あぁっ!」.
「もう、魔力は供給しなくていい。そろそろ君の方がマズイだろう?」
「あ、まりょ、く。はい……」
ガツガツと貪るように腰を打ちつけ、揺れる胸に触れたり、背中に唇を滑らせたりすると真白は可愛らしく声を上げて鳴いた。
焚周はそれを聞きながら、後背位や正常位だけでなく他の体位へも変えながら彼女を貪った。魔力を供給しなくて良いと言ったけれど、それでも微量に伝わってきていて、ようやく二人の欲が落ち着く頃には真白が元々持っていた魔力の半分が焚周に流れ、焚周は随分と元気になっていた。
(あったかい.....)
行為が終わり、真白は焚周に抱きついた。すると焚周も彼女を抱きしめる。焚周に抱きしめられて眠るとお互いに体温を共有し合ってる気がして心も体もぬくぬくだ。焚周に擦り寄り大きく息を吸い込むと、彼の匂いがして安心してしまう。
(この匂い.....__)
「すき、かも.....」
「.....え?」
真白はぽつりとそう呟くと、驚く焚周を他所に欠伸を一つしてからそのまま縋り付いて眠ってしまった。
◇◇
「.....__っ!」
「.....っ!」
(ひぃぃ!なにっ!?)
真白が目を開けると、目の前に肌色のものがあった。無意識に擦り寄るとピクリと動いたので、それによってようやく覚醒した頭で眠る前の記憶を思い出し、真白は声にならない叫びを上げた。
「た、焚周さん」
「真白さん」
顔を真っ赤にしながら彼の顔を見やれば、同じようにたった今起きたらしい焚周が真っ赤になってこちらを見ている。
「あ、あの、そのっ!」
「本当にすいませんでした。そして救っていただき、ありがとうございます」
何を言えば良いのか困り、あたふたしていると焚周が口を開きそう言った。行為の時とは違い、丁寧な物言いに不覚にもドキッとした。行為の終盤では本性なのかは知らないが、少々意地悪だった気もする。
「い、いえ、元気になられたのなら、その、良かったです」
「えっと、お陰様でこの通りです」
二人で照れながらそんなことを言い合う。それから真白はふと思っていたことを尋ねることにした。
「えっと、その……焚周さんって、有名な"冬将軍様"ですか?、」
「……あ、ああ。はい」
(やっぱりそうなんだ……)
目が合ったら凍死するだの、近くにいたら生き残るために祈れだの、彼がいたら物理的に色々と凍るだのと色々有名だが、真白の知る焚周は雪山で寧ろ凍死しかけていたように思う。
いや、しかしそれは置いておいて、まさかとは思っていたが、救った男が例の冬将軍らしい。彼の様子からして先程述べたような噂のような冷たさは感じられないが、軍人だからかよく見ると身体つきはとても良い。
何故こんなところにいるのかと話を聞けば、軍の中の色々なゴタゴタに巻き込まれて辞めさせられたらしい。しかも追っ手つきで。そいつらを追い返しているうちに怪我をして、慣れない治癒魔法を使って治したのは良いが、加減をミスして魔力が枯渇寸前に。焦りながら追っ手を撒きつつ土地勘のない山を彷徨ううちに休む場所が見つからず大雪に見舞われ、そしてそのまま魔力が枯渇して倒れていたらしい。衣服や荷物についた血の謎と魔力枯渇の原因は分かった。
実力はどうか知らないが、あれだけの噂がある男を辞めさせるとかあるのか、と真白は驚く。どうも彼が若い上に何もかも強いしでき過ぎて、よく思わない人達に追い出されたらしい。焚周は、焚周で家が軍人の家系だから軍に入っただけで、特に思い入れもなかったらしくさっさと辞めたのだという。
(この国、大丈夫なのかな)
真白は、こんな田舎まで名が広まるような男を追い出す軍に割と不安になる。
「それにしても、冬将軍が雪山で遭難.....」
「氷魔法は得意ですが、実は寒いのは嫌いです。雪も無理」
(.....な、なるほど。どこかで聞いた話だ)
ぽつりとふと思ったことを呟くと焚周が苦笑した。その内容に既視感を抱く。
「わ、私もこんな見た目ですが、冬は嫌いです」
「確かに助けられた時にも思いましたが、真白さんは雪うさぎさんのようです」
雪うさぎ"さん"だなんて照れながら言う焚周に、真白はまたドキリとした。そしてそれと同時にむず痒さも覚える。
「あれですね。真白"さん"って呼ばれると変な感じがします。昨日は呼び捨てだったのに」
「ああ、確かにそうですね。.....では、真白と呼びます。俺も焚周で良いですよ」
「た、たかね」
「はい」
まるで恋人同士かのように見つめ合いながら、そんな照れくさいやり取りをしてしまった。それを認識して、赤の他人と寝てしまった、とも思ったが、こんな風にそれなりに元気な様子を見れば助けられた安堵感が強い。
「.....いたっ」
真白はそろそろ起きようと、身体を起こそうとする。しかし、その瞬間、身体中に鈍い痛みを感じた。そして1度感じるとさっきまでの調子が嘘のようだ。
(え、痛すぎる……。起き上がれないっ!)
「す、すいません!や、やり過ぎました」
「い、いえ」
隣から慌てる声がする。しかも「やり過ぎました」という言い方が直接的で気恥しい。
初体験だったこと、そしてお互いに求め合いすぎてしまったせいで身体はなかなか思うように動いてくれないらしい。
しかも、その後約1日、先日までとは打って変わって焚周に看病されるとは真白は思いもしなかった。
そしてようやく真白も元気になった頃には外は今年1番の猛吹雪。
看病をしてもらったこと、薬草や食料をいくつか買って貰ったことで貸し借りなしだと真白が伝えて、「それだけでは足りない」と渋る焚周を言いくるめはしたが、住み慣れた真白とは違い、いくら軍人と言えども見知らぬ雪山では、家から中々容易に出ることもかなわず約2週間が過ぎる。
その期間で互いを知り、趣味やら嗜好があったことで気心の知れた仲となり、気が付けば吹雪が終わっているというのに共に生活していた。
それが当たり前になり、互いに離れがたくなると話し合って交際することになり、雪うさぎやら冬将軍やらとあだ名がつくというのに、暖かい春を待ちわびて2人は温もりを分け合うようになった。
「__焚周、春だ!春だよ!」
「ええ、やっと温かくなりましたね」
__ようやく春が来た。
2人が出会った山桜の木の下で花見をしながら真白と焚周は笑い合う。暫くは二人の苦手な冬が来ないので、にこにこと機嫌よく笑いながら寄り添い合った。
◇◇
(あとがき)
寒くなってきたのでお布団という名の楽園にぬくぬく入りながら、書いてたら約16000字です.....。読みにくかったら行間あけるので教えてください。時々寝惚けながら書いてるので誤字いっぱいあるかも。
2人の名前のイメージは、白いうさぎなので真白、恐れられていてでもイケメンな高嶺の花みたいな感じなので焚周にしました。周と書いて「かね」と読むのが何故か知らないけど大好きです。
兎と狼のそれぞれの交尾の特徴は調べたけれど、頭が回らなかったので人間準拠です。ちなみにちゃんと後から避妊薬も飲んだよ。
◇真白 (17歳)
・白い髪に赤い目の兎の獣人
・「雪うさぎ」みたい、と人から言われるが、寒い冬は大の苦手
・友人からからかい半分で貰った葉っぱの髪飾りをつけるとさらに雪うさぎ感が増す
・可愛らしいので男にモテるが、袖にしていた。
・見た目の割に逞しく、野山を駆け回って薬草や木の実、キノコなどを採取して近隣の町村を回って売ったり、頼まれたら店の手伝いなどをしている
・両親はどこかのお金持ちで駆け落ちしており、他の親族は知らない
・1番近い村から冬じゃない日に歩いて30分の山の中に住んでいる。昔は両親が薬屋をしていた
◇焚周 (23歳)
・灰色の短髪に水色の目をした狼の獣人
・寒いのが苦手なのに魔法の適正で氷が一際強く出て正直泣いた。他の家族のように火や雷が良かった
・軍人の家系なので成り行きで軍人になった。魔力量も多く、幼い頃からの教育により、割と何でもできるし強かったので異例の出世を遂げ、大人たちから嫉妬の眼差しを受けまくっていた。父親もお偉いさんで助けてくれようとしたが、相手が悪かった
・寒いのが苦手なため、早く戦いを終わらせて帰りたいと氷魔法をぶっぱなして戦っていたら「冬将軍」と恐れられるように。自国だけでなく近隣国でも有名。
・軍人の時はそれなりに強めに話すし、顔も作っている。イケメンではあったが、噂も相まって怖がられた
・根は割と穏やかで丁寧。表情豊かで怖い印象はない。意外と天然でおっちょこちょい
・普段は敬語男子、夜のあれこれの時は崩れる。ドS疑惑あり
・真白と暮らすようになって「軍に戻ってきて欲しい」と部下が次々に尋ねてきたが、軍に思い入れがないし追っ手を掛けられたこともあって、適当にあしらって、真白とイチャイチャしていた。
・真白との生活では暑い夏以外に本当は嫌いだった氷魔法を使わなくていいのでとても嬉しい。
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