明らかにヤンデレに向いていないと言ってるのに、私の婚約者は聞く耳を持ってくれない!

珀空

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私の婚約者はヤンデレになりたい、らしい

まずヤンデレがどういうものか分かってない

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「__......俺、ヤンデレになる!」


 今日は、月に何回かある婚約者との2人っきりのお茶会の日。先程まで普通に過ごしていた私、ロティ・リータスの婚約者であるウィリアム・マシェイラは唐突にそう言った。

 急な宣言にポカンと彼を見やる。目が合うとそのキラキラとした青い目がさらに綺麗に輝いた気がする。

 そのキラキラとした目やら、明るい笑顔やら雰囲気を周囲に振りまいているウィリアムからは到底出たとは思えない発言に、私は反応するまで少しだけ時間を要した。


「......はい?」
「だから!俺、ヤンデレになる......!」


 やはり聞き間違いではないらしい。とりあえず熱でもあるのかと彼の傍に寄ってその額に手を当てる。しかし、特に熱もなく体調もいつものように良好そうだ。「ロティ?」とにこやかに首を傾げたウィリアムを見て、私は息を吐いた。


「......普通のヤンデレはわざわざそれを宣言するものなの?」
「え?」


 17歳にもなってキョトンとした顔はわりと子どもっぽい婚約者を横目に自分の席に戻って紅茶を啜る。ふむふむ、やはり我が家の領地の紅茶は特産ということもあってとっても美味しい。


「まず確認だけどヤンデレってあれよね?最近王都で流行っている恋愛小説とかに出てくるヤンデレよね?」
「恋愛小説.....?それは知らないけど多分それかなあ。そういえばヤンデレって何の略なの?」
「.....」


(もしかしてヤンデレが何か知らずに宣言したの.....?)


 頭は悪くないが、どちらかというと鍛錬をしている方が好きらしい私の婚約者。学園を卒業後は騎士団に入る予定だ。恋愛小説を読むくらいなら戦略やら体の鍛え方について書いてある本を読むだろうと思われるウィリアムが「ヤンデレとは何か」について深く知っているとは思えない。


(絶対アダム様辺りが変なこと吹き込んだんだわ.....)


 ウィリアムの友人の一人である公爵子息のニヤニヤ顔が頭に浮かぶ。先月も彼が何か吹き込んだせいで素直?というかバカ正直?というかそんな感じのウィリアムはよく分からないことを言っていた。


「ねえ、ロティ」
「なあに、ウィル」


 名を呼ばれたので彼の愛称を呼びながら再び目を合わせる。こんな何歳になってもキラキラ無駄に整った顔を緩めて子犬のように甘えてくる男が、ヤンデレなどという恋愛小説を少しは読む私でもよく分からないそれをできるとは思えない。


「ロティってもしかして俺よりもヤンデレについて分かる?アダムが恋人への愛情表現の1つって言ってたんだけど.....」
「そ、そうなの.....」


(やっぱりあの人か.....。というか、どちらかと言うと偏った愛情表現の1つだと思うわ)


 例えば、「はぁ.....、ヤンデレ素敵.....!」と騒いでいた友人のようにそれに悶える性癖が私にあれば全然構わない。しかし、残念ながらそんな趣味は私にはないし、ウィリアムも性格的にできないだろう。

 愛が溢れているのは素敵だが、小説の中に出てくるヤンデレ属性とか言われる人は割とバイオレンスな発言やら行動をしていて恐ろしく感じたものだ。


「ウィルはこまめに私の行動とか知りたい?監視したい?」
「まあ、ロティのこと好きだから知りたいとは思うけど、監視したいとは思わないかも」
「そ、.....そう」
「あ、好きって言葉に照れてる?」
「照れてないわよ.....」


 私とウィリアムは親同士が決めた婚約の割に仲はとても良好だ。幼いながらにお互い顔合わせで一目惚れしたこともあり、政略結婚というよりお互いに恋愛結婚を予定しているという認識の方が強い。そのため友人たちに羨ましがられるくらいにお互いの想いははっきり素直に言える。


「あはは、素直じゃないね」
「はあ.....。まあいいわ。それより、えっと、ウィルは私がもし男友達と話していたら怒る?」
「内容にはよるかなあ。世間話とか近況報告とか?そういうのなら仕方ないよ。人間関係は大事だし」


(うん、向いてないな)


「私のこと閉じ込めたいとかは?」
「と、閉じ込める?学園があるのに?なんで?ロティ、勉強が好きなのにそんなことする訳ないじゃん」


(やっぱり向いてない)


「じゃあもし私がウィルのこと嫌いになって婚約解消したいとか、好きな人できたとか言ったら.....」
「え、ロティが.....?」
「うん」


 今のところそんな予定はないが、人の心は時に変わるものだ。ここに来てようやく眉間に皺を寄せて考え込んだウィルを見ながらお菓子を摘む。


「.....まずは俺の何処がダメだったか聞いて、沢山話し合ってそれでも本当にどうしても無理なら.....」


 と、そこまで言って、ここ最近で1番暗い顔になる。喉を潤そうとしたのか紅茶のカップを持ったウィリアムの手はプルプルと震えているし、一口飲んでから咳き込んだ。私はまた席を立つと、彼の背を撫でてやる。


(__なるほど、全然向いてないかも。むしろ本気で別れたあとならその方面になるかもしれないけど)


「ゴホゴホ、.....ごめん。__ロティ、俺に今のところ何か不満は?」
「私の性格なら不満があったら言ってるわ。もしも、を信じすぎよ。今のところ貴方との仲を解消する予定はこれっぽっちもないわ」
「ロティ!」
「はいはい」


(どちらかというとただのお互いの想いを再確認し合ってるだけの時間になってしまった.....)


 そんなことを考えながら、相変わらずニコニコしているウィリアムを見やる。昔、小柄だったのが嘘なくらいに背は高くなったし、鍛えてることもあって引き締まった体格をしているのに彼は相変わらずだ。


「.....ウィル、やっぱり貴方にヤンデレは向いてないわ」
「なんで!?」
「ウィルはウィルのままで良いもの」
「__え?.....いや、でもやっぱりそれなら俺、ヤンデレになるから」


(アダム様は一体ウィルにどんな伝え方をしたの.....?)


 明らかにヤンデレについて何かしら誤解していそうなウィリアムは聞く耳を持たない。「いや、その必要はない」と伝えるのに何故か彼は譲らないのだ。


(暫くしたら落ち着くはず.....)


 アダムやらその友人やらに揶揄われて、こういう突拍子もないことを言うことが稀にあるので、私はもうこの話題はやめにしていつも通りにお茶を飲むことにした。
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