明らかにヤンデレに向いていないと言ってるのに、私の婚約者は聞く耳を持ってくれない!

珀空

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私の婚約者はヤンデレになりたい、らしい

ヤンデレがこんなにキラキラしてるわけがない

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「__ねえ、ロティ。今、誰と喋ってたの?」


 ウィリアムはそう言って、私の腕を急に掴んだ。何だかいつもと雰囲気が違っていて、彼を見上げながら返答する。


「お、お兄様だけど」
「......」
「ウィル?」
「ロティは俺のことが好きなんだよね?何で、あんな笑顔で俺以外の人と話せるわけ?」


(えええ!?ウィル、どうしちゃったの......!?)


 いつものウィリアムと全然違う。こちらを睨みながらも、口元は笑っていて酷く違和感を感じた。

 にこにこと人懐っこい笑みだとか、心の中で「めんどくせー」と思いながら浮かべる曖昧な笑みだとか、困ったときに浮かべる愛想笑いだとかそういった私の知っているウィリアムの表情じゃない。

 小さい頃からずっと一緒にいるのにウィリアムのこんな笑い方見たことない。いつもキラキラしている目がどこかどんよりしていて、その奥に冷たさがある。


「ねえ、.....俺、ロティのこと好きだよ」
「そ、そう。私もよ、ウィル」
「.....そうだよね、ロティは俺のこと好きだよね。でも、じゃあなんで俺の隣にずっといないの。俺以外のために笑ったり泣いたりするの。俺以外の人とお揃いのもの買ったり、手紙のやり取りしたりしてさ.....!」


(ひいぃぃぃ!息継ぎなしで言い切った!怖いぃ!!)


 いつもウィリアムが言わないようなことを据わった目で、しかも至近距離で噛まずにノンストップで言い切りやがったためか、それとも彼の豹変についていけなかったためかぞわりと鳥肌がたつ。

 まずウィリアムの隣にずっといることは物理的に無理だし、そりゃあ生きているんだから誰かと泣いたり笑ったりする。それに友人とお揃いのものを買うこともあるだろうし、お手紙だって送り合いたい。

 本気で「誰だこいつ」と震えながら腕を離してもらおうとするが、更に強く握りこまれて逃れられない。


「ロティがそういう風ならどうしてやろうかな」
「な、何する気.....?」
「ふふ」
「ま、まさか監禁だとか一緒に死のうとかって言うつもりじゃ.....!」


 __ヤンデレがテーマの小説あるあるの監禁エンドとか心中エンドとかは無理だからやめてほしいのだけれど!

 不敵に笑った顔がいつもの幼さをなくしていて、妙にミステリアスなイケメンに仕立てあげていてキュンとする心と、これから何されるのか分からず怖くてギュンと縮み上がりそうな心を両立させるという無駄に高度なことをしながらウィリアムを見つめ返した。


「そうだねえ。これなんてどう?」
「.....は?」


 ウィリアムがそう言ってどこからともなくそれを取り出した。


「め、メイド服!?」
「そう。ほら、早くこれ来て"おかえりなさいませ、ご主人様"って言って」
「は?何言って.....」
「ね、ロティ」


(いや、全然"ね"じゃないんだけど.....。どうしちゃったの!)


 と、何故かメイド服片手に仁王立ちのような無駄に様になるポーズでこちらを見やるウィリアム。彼の片手にあるそれは業務する用のやつっていうより、無駄にフリフリしてるし、胸とか強調されてるし、スカート丈も短い。


(なんかおかしい。絶対おかしい。.....もしかして、これ夢なんじゃ)


「.....っ!」


 そこまで考えてそれにようやく気づく。


(夢だ。これ絶対に夢だわ.....)


 だってウィリアムはいつもぼけっと穏やかだし、どちらかというと筋肉バカでちょっと素直過ぎて、でもかっこいい所はかっこいいし、案外誰にも優しくはなれない人。小テストの解答欄ズレたことに気づかなくて歴史の教科で3点しか取れないとかいうおっちょこちょい。あと、メイド服を着ている子よりもシンプルで控えめにフリルのあるワンピースを着ている子の方が好き。


「ね、ロティできるでしょ」
「__.....ウィルはそんなキャラじゃなーーい!!」


 と、私は自分の夢に思わずツッコミを入れてしまった。


 ◇◆


「__っ!.....あ、やっぱり夢だった」
「.........おはよう、ロティ」
「え、おはよう?.....ウィル」


 眩しさに顔を顰めながら目を開ける。やはりさっきのやつは夢だったらしいと認識してほっとする。すると上から声が降ってきて、何故か目の前にはウィリアムがいることに気づいた。


(あれ、何してたんだっけ?)


 眠る直前の記憶を引っ張り出しながら周りを見る。彼の後ろの背景は葉っぱ。ウィリアムは木に背を預けて座っているらしい。そんな彼に私は膝枕をされていた。


「んん.....?」
「まだ寝惚けてるの?」


 なんて言って彼が私の髪を梳く。彼の綺麗な銀色の短髪と違って、金色の長い私の髪。彼は私の髪を梳くのが好きなのか、よくその動作をする。


(あ、そっかここは.....)


 ここはウィリアムと偶にピクニックをする丘だ。学園が休みだし、天気も良いからと誘いに来てくれたウィリアムと一緒にここに来てサンドイッチを2人で食べたあと、眠くなってウィリアムが「寝て良いよ」って言うから彼の太腿を枕にして寝てしまっていたんだっけ。

 ようやくそれを思い出しながら1つ欠伸をした。まだまだ眠いが、ウィリアムとのせっかくの時間なので起きなければと身体を起こす。


「ウィル、ありがとう。ずっとこの体勢だったからキツかったでしょ?」
「ん?全然良いよ。こういう時間が好きだし.....」
「そう?次は遠慮なく私の足使って寝てくれて構わないからね」
「じゃ、眠くなったら俺も膝枕してもらおうかな」
「いいわよ、その時は言ってちょうだいね」


 そう言って笑うとウィリアムも「うん」と言って穏やかに笑う。木漏れ日のお陰か妙にウィリアムがキラキラしているように見えてしまう。さっきの夢と真逆なので何だか変な気分になった。


「そういえば、一体どんな夢見てたの?俺の名前読んだり、急に震えたり、メイド服って叫んでたけど.....」
「.....えっと、あはは」


 先程の夢はいまだに忘れることなく鮮明に覚えていて、説明しようと思えば説明できたが、内容もあれなので適当に笑って誤魔化す。


(ヤンデレなウィルか.....。それになんでメイド服?)


 そんなことを考えながら首を傾げる。そしてとあることを思い出した。

 そういえば昨夜読んだ本が確かヤンデレ主人とそのメイドの恋愛小説だった。私に小説を貸してくれる友人のマイブームはヤンデレかマッチョであるから、そういう系を貸してくれる。そしてその小説の内容は結構インパクトがあったので、絶対それが今回の夢に反映されていた。


(夢で良かった。ヤンデレなウィルもだけど、メイド服片手に迫ってくるウィルとか様にはなるけど、キャラではないわ)


 ずっと一緒にいる私でさえいつまで見てても贔屓目なしにイケメンなウィリアムなので、ちょっと病んだ表情とかメイド服片手に仁王立ちしてても無駄に様になるだろう。いや、夢のウィリアムはなっていた。


(.....でも、)


 と、隣にいるウィリアムをぼんやりと見つめる。


「__.....ロティ、聞いてる?」
「.......」
「まだ眠いの?」
「.....ウィリアムにはやっぱりヤンデレは向いていないわね」
「えっ、なんで!?俺、頑張るよ!」


(うーん、ヤンデレを頑張るってなんだろう?)


 そういう発言になっている時点でやはり向いていないかもしれない。なんて考えながら、またまたおかしなことを言うウィリアムを見つめる。


(こんな風に穏やかな日が続けばいいのだけれど)


「ねえ、聞いてないよね!」
「うん」
「ひどい!」


 むっとしたウィリアムは今日もやはりいつも通りだ。私は思わずクスリと笑う。すると、彼は「え?急に何?」なんて言いながらもつられて笑いだした。




◇◆


タイトルは「ヤンデレ」というワードでゲシュタルト崩壊を狙っていくつもりです。

そして主人公の視点?偏見?で「ヤンデレとはこうだ!」だの「ヤンデレが○○なわけない!」と言った感じの表記やら表現などが出てくると思われ、それをそのまま書きます。なので普段キラキラしてる二面性ありのヤンデレもいるじゃん!という意見もあるかもしれないけれど、今回はスルーします。

あと主人公は兄の影響で時々口が悪い(主に心の中で)上に、「ツッコミ」などの異世界で存在してなさそうな言葉も普通に言います。ご都合主義なので。
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