39 / 47
慈悲の刃・ギロチン
しおりを挟む
※今回、結構残酷な表現がありますので苦手な方はスルーを推奨します。
俺の名前は奥洲天成。
俺は無実の罪で死刑になった。
存在を知られていない双子の弟が、連続殺人をして逃げてしまい、DNAが同じ俺が捕まってしまったというわけだ。「戸籍にも住民票にもないのに、双子などいるわけがない」と、裁判でも揺るぎはなかった。
『取ってつけたような無理のある展開ねぇ……』
俺もそう思う。作者が五分で考えた冤罪死刑の話だから仕方がない。
『……まあいいわ。死刑になってしまったのだから、さぞや悔しいことでしょう。今度は死刑にする側にしてあげるわ』
「いや、その展開も極端すぎないか? 冤罪にした連中は憎いが、別に誰かを死刑にしたいわけでは」
『行ってらっしゃい!』
女神は相変わらずいい加減で強引だった。
かくして、俺はフランスの死刑執行人として名高いサンソン家に転生することになった。
「おまえもサンソン家の者として覚悟を決めなければならない」
と、幼少の頃から色々語られることになる。
死刑執行人は大変なのよ、という話を。
泣き喚いたり、冤罪だと主張する連中も大変だが、死刑執行人にとって一番大変なのは「失敗した時」だ。
と言っても、絞首刑の場合は失敗は少ない。
時々装置が老朽化していて壊れたとか、縄が弱くて千切れたというケースはあるが、それは極まれだ。
問題は斬首の場合である。
剣を振り下ろして失敗した場合、まず本人が苦痛でのたうち回るから、次の斬りつけも失敗する可能性が高い。こうなってくると大変なことになる。見物人は死刑が終わらないことに激怒するし、死刑囚は更に暴れるし、下手すると執行人もケガするなどの危険性が出て来る。
まさに誰も得をしないという話だ。
……見る側は面白いのだろうが、執行する側には色々苦労があるということだ。
ところが、である。
1789年、フランス革命が起きて、身分は画一的ということになった。
今までは身分によって死刑のやり方が変わっていたが、これが統一されたものだから、死刑の方法も統一しようなんていう話が出てきた。
「全員斬首刑がいいのではないだろうか?」
ギヨタン議員がどや顔で決める。
いや、いや、いや!
冗談じゃねえよ!
あんたらは見る側だから、適当に送ればいいと思っているのかもしれないが、斬る側の身にもなってくれ!
一日に数人なんて斬れるわけないだろ! マジで殴るぞ!
俺は必死に抵抗した。
どうせなら全員絞首刑にしてくれ。そっちならまだ楽だ。
「絞首刑は執行人は楽かもしれないが、される側は苦しいだろう」
そうかもしれないが、斬首も失敗したら大変だよ。
「ならば、斬首刑でも装置を作ればいいのではないか?」
何だって……?
確かにそういう発想自体はなきにしもあらずだった。誰もやろうと思わなかったというのが大きいのだろう。
「今後、フランスはみんな平等に首チョンパだから」
という形で意見が統一されると、頭の良い連中が考えて、程なくギロチンなるものが完成した。ギヨタンの発案を元に作られたからギロチンというわけだな。
「おぉ……」
不謹慎だが、俺は感動した。
確かにこれなら失敗の心配がほとんどない。みんなが平等にサックリと死ねる。
何より、俺の負担がドーンと減ることになる。
もっとも、俺はこの時気づいていなかった。
簡単に死刑執行が出来るようになったことで、革命がますます血を欲するようになるということを。
ある日、検事が俺のもとにやってきた。
「君は以前は自分の剣で斬っていたのに、ギロチンのロープには手をつけていないね。怖気づいたのか?」
「検事さん、それは違いますよ。革命以降は件数も多いし、執行には色々予期せぬ出来事が起こります。ロープを引くのは誰だってできます。監督して不測の事態を避ける役割の方が死刑執行のためには重要です」
検事は一応納得したようだが。
「もし、それで失敗があったら、職務怠慢の罪で君自身がギロチンに送られるかもしれないよ」
「……!」
この野郎、人の仕事にケチをつけやがって。
この時はそう思っていたのだが……
しばらくして、政局が変わった。
その数日後、俺は死刑囚から声をかけられた。
「やあ。職務怠慢で君がギロチンに送られるより先に、私が送られることになってしまったよ」
その言葉を聞いて、俺は目の前の男が以前俺にケチをつけてきた元検事だったことを思い出した。
「はあ、どうも……」
俺には答える言葉がなかった。
"女神の一言"
作者は、ギロチンが人道的なものだったという話を初めて聞いた時、ものすごいショックを受けましたが、実際知れば知るほど中々大変なものだということが分かってきました。
やる側の負担も相当なものですからね。
日本の現行ルールでは数人が同時にボタンを押すということで直接的な負担を軽減しようとしているという話があるわけですし。
ちなみに昔のヨーロッパでは失敗した後、死ぬまでトライするという悲惨極まりない状況になっていましたが、現在、失敗したらどうするかというのは議論の余地があるようです。
その場で押さえてもう一度執行は負担が大きすぎるので日を置いて執行する地域もあれば、執行自体は終わったので再度の執行をせず、減刑するという地域もあるそうです。
俺の名前は奥洲天成。
俺は無実の罪で死刑になった。
存在を知られていない双子の弟が、連続殺人をして逃げてしまい、DNAが同じ俺が捕まってしまったというわけだ。「戸籍にも住民票にもないのに、双子などいるわけがない」と、裁判でも揺るぎはなかった。
『取ってつけたような無理のある展開ねぇ……』
俺もそう思う。作者が五分で考えた冤罪死刑の話だから仕方がない。
『……まあいいわ。死刑になってしまったのだから、さぞや悔しいことでしょう。今度は死刑にする側にしてあげるわ』
「いや、その展開も極端すぎないか? 冤罪にした連中は憎いが、別に誰かを死刑にしたいわけでは」
『行ってらっしゃい!』
女神は相変わらずいい加減で強引だった。
かくして、俺はフランスの死刑執行人として名高いサンソン家に転生することになった。
「おまえもサンソン家の者として覚悟を決めなければならない」
と、幼少の頃から色々語られることになる。
死刑執行人は大変なのよ、という話を。
泣き喚いたり、冤罪だと主張する連中も大変だが、死刑執行人にとって一番大変なのは「失敗した時」だ。
と言っても、絞首刑の場合は失敗は少ない。
時々装置が老朽化していて壊れたとか、縄が弱くて千切れたというケースはあるが、それは極まれだ。
問題は斬首の場合である。
剣を振り下ろして失敗した場合、まず本人が苦痛でのたうち回るから、次の斬りつけも失敗する可能性が高い。こうなってくると大変なことになる。見物人は死刑が終わらないことに激怒するし、死刑囚は更に暴れるし、下手すると執行人もケガするなどの危険性が出て来る。
まさに誰も得をしないという話だ。
……見る側は面白いのだろうが、執行する側には色々苦労があるということだ。
ところが、である。
1789年、フランス革命が起きて、身分は画一的ということになった。
今までは身分によって死刑のやり方が変わっていたが、これが統一されたものだから、死刑の方法も統一しようなんていう話が出てきた。
「全員斬首刑がいいのではないだろうか?」
ギヨタン議員がどや顔で決める。
いや、いや、いや!
冗談じゃねえよ!
あんたらは見る側だから、適当に送ればいいと思っているのかもしれないが、斬る側の身にもなってくれ!
一日に数人なんて斬れるわけないだろ! マジで殴るぞ!
俺は必死に抵抗した。
どうせなら全員絞首刑にしてくれ。そっちならまだ楽だ。
「絞首刑は執行人は楽かもしれないが、される側は苦しいだろう」
そうかもしれないが、斬首も失敗したら大変だよ。
「ならば、斬首刑でも装置を作ればいいのではないか?」
何だって……?
確かにそういう発想自体はなきにしもあらずだった。誰もやろうと思わなかったというのが大きいのだろう。
「今後、フランスはみんな平等に首チョンパだから」
という形で意見が統一されると、頭の良い連中が考えて、程なくギロチンなるものが完成した。ギヨタンの発案を元に作られたからギロチンというわけだな。
「おぉ……」
不謹慎だが、俺は感動した。
確かにこれなら失敗の心配がほとんどない。みんなが平等にサックリと死ねる。
何より、俺の負担がドーンと減ることになる。
もっとも、俺はこの時気づいていなかった。
簡単に死刑執行が出来るようになったことで、革命がますます血を欲するようになるということを。
ある日、検事が俺のもとにやってきた。
「君は以前は自分の剣で斬っていたのに、ギロチンのロープには手をつけていないね。怖気づいたのか?」
「検事さん、それは違いますよ。革命以降は件数も多いし、執行には色々予期せぬ出来事が起こります。ロープを引くのは誰だってできます。監督して不測の事態を避ける役割の方が死刑執行のためには重要です」
検事は一応納得したようだが。
「もし、それで失敗があったら、職務怠慢の罪で君自身がギロチンに送られるかもしれないよ」
「……!」
この野郎、人の仕事にケチをつけやがって。
この時はそう思っていたのだが……
しばらくして、政局が変わった。
その数日後、俺は死刑囚から声をかけられた。
「やあ。職務怠慢で君がギロチンに送られるより先に、私が送られることになってしまったよ」
その言葉を聞いて、俺は目の前の男が以前俺にケチをつけてきた元検事だったことを思い出した。
「はあ、どうも……」
俺には答える言葉がなかった。
"女神の一言"
作者は、ギロチンが人道的なものだったという話を初めて聞いた時、ものすごいショックを受けましたが、実際知れば知るほど中々大変なものだということが分かってきました。
やる側の負担も相当なものですからね。
日本の現行ルールでは数人が同時にボタンを押すということで直接的な負担を軽減しようとしているという話があるわけですし。
ちなみに昔のヨーロッパでは失敗した後、死ぬまでトライするという悲惨極まりない状況になっていましたが、現在、失敗したらどうするかというのは議論の余地があるようです。
その場で押さえてもう一度執行は負担が大きすぎるので日を置いて執行する地域もあれば、執行自体は終わったので再度の執行をせず、減刑するという地域もあるそうです。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる