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スケルトンの眠る海岸
3 スケルトンマスターもドラゴン医も存在する世界
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そして、正解の部分。即ち真夜が「いかにもコウの知り合い」と感じた者も確かにいた。
「勝明、お前これ以上メアリー以外の女に手ぇ出したら、去勢するしかねぇなぁ」
などと言いながらのっそり現れたのは、Tシャツを破かんばかりの太い筋肉で覆われた身体を持つ女性だった。そう、女性である。が、その肉体は闇の地に生息する下手なゴブリンなどよりもよほど頑強そうだ。
「よう、マックス! お前も元気そうで何よりだ」
孝介がそう声をかけると、
「会いたかったぞ、大松樹。あんたもあんたのロードスターも調子良さそうだな」
筋肉女は孝介と握手をし、まるで長年の友達同士のように笑い合った。
「お前のドラスタもな。……それはそうと、昔の名前で呼ばんでくれ。呼び捨てでいいから、松島孝介の名前で呼べ」
「ああ、悪かったな大松樹」
「……ったく」
孝介は俯きながら苦笑した。
「……真夜、お前はこいつに会うのも初めてだったな? 奴はマックス流子ってんだ。勝明の母ちゃんで、プロレスラーやってる。結構強ぇぞ」
「プロレスラー? ……ああ、素手で戦うのが仕事の、グラディエーターみたいな人たちね」
プロレスなら、真夜もスマホの動画で観たことがある。
巨大な肉体の者が1VS1、または2VS2でぶつかり合う果たし合いのようなもので、観客を集めて行う。剣闘試合に似てるが、プロレスは基本的に武器を使わない。たまに椅子やら木刀やらの武器を持ち出す者もいるが。
それにしても、マックス流子とやらは見るからに生命力と攻撃力に満ちた見た目をしている。これは肉体だけでなく、そこから放たれるオーラも加味した分析だ。何百という戦いを経験した上級ゴブリンやリザードマンがこんな感じ……いや、明らかにそれ以上だ。
そんな女が、
「あんたが関取の女将さんか。ずっと噂にしか聞いてなかったから、実在すら疑ってたんだがな。まあ、これから仲良くしてくれ」
と、爽やかな笑顔を浮かべながら真夜に握手を求めた。
*****
が、それ以上に真夜が驚いたのは、『デリンジャー・カスタムズ』とかいう連中である。
この世界の移動用家畜である自動車は、それを修理する職業も確立させている。デリンジャー・カスタムズは自動車修理工場で、どうやら孝介が関わる新しい雑誌とやらにも何か協力するらしい。
「今度の雑誌はクルマのことも取り上げるからな。名付けて『趣味の歴史研究 The Wheels』だとよ。恐らく、CS放送でやってるアメリカのクルマ番組に影響されたんだな」
孝介がそのようなことをぼやく最中、真夜はNAロードスターよりも遥かに大きく頑丈そうなクルマに目を見張った。
しかも、そのうちの1台——ボディに侍の鎧を着込んだスケルトンが大きく描かれているではないか!
(これはもしや、スケルトンマスターのクルマか……!?)
真夜はなるべく冷静を装いながらも、心の中で大いに驚愕した。今にも動き出しそうな見事な造形のスケルトンが、鼻先に「VW」と彫刻されたバスの左側面で刀を振り回さんとしている。もちろんこれは絵なのだから恐れることはないかもしれないが、それにしてもリアルだ……と真夜は感じてしまった。
「ようっ! 俺のスケルトンに見惚れてんの?」
真夜にそう話しかけたのは、真っ赤なモヒカン頭のガラの悪い男。両腕にタトゥーを施し、それを見せびらかすような黒のタンクトップを来ている。
「あんた、ロードスターのマッサンの奥さんだろ? 俺はケイジってんだ。スケルトンを再現するヘアブラシ・アーティストさ。よろしくな!」
と、ケイジと名乗った男は真夜に握手を求めた。
やはり、この男はスケルトンマスターだったのか!
闇の亡霊そしてアンデッド系モンスターであるスケルトンは、単独の意思では決して動かない。それを操るマスターが必ず存在する。言い換えれば、スケルトンを倒すにはスケルトンマスターを真っ先に倒せばいいのだが……ケイジとやらはこれほどリアルな、いや、もしかしたら本物かもしれないスケルトンをクルマのボディに描ける男なのだ。ここで戦いを挑んでも、すぐに倒せる相手ではないだろう。
ならば、今はケイジと顔見知りになるほうが賢明だ。
そのようなことを瞬時に察した真夜は、ケイジの右手を握った。
そこへ、
「おいケイジ、思いつきのようにオンナを口説くんじゃねぇぞ! がっはっはっはっはっ!」
と、豪快な笑い声を上げる中年男がやって来た。それも、2人。
こちらも腕にタトゥーを施した、岩のような肉体の男である。「がっはっはっはっ!」「へっへっへっへっ!」という癖の強い笑いを披露しながら、こちらに歩み寄ってきた。
「ジョーに俺のスケを紹介してなかったな。ちょどいい機会だ」
孝介がそう言うと、真夜は条件反射のように男どもに向かって軽く会釈をした。
「並木真夜です。以後、お見知りおきを」
「真夜、あいつらのツラを覚えておけよ。俺のロードスターの主治医だ。額にバンダナ巻いてるのが兄のチャージャー・ジョー、スキンヘッドが弟のロードランナー・ケンだ。あだ名はそれぞれの愛車から取ってる」
孝介は真夜にそう解説した。すると、
「この女傑がマツのスケか、兄弟!」
と、チャージャー・ジョーが孝介に話しかけた。
「もう5年も同棲してる女だ。未だに所帯を持ってないのは、俺の甲斐性のせいだ」
「がっはっはっはっはっ! 40過ぎなのに甲斐性なんか気にしてるのか、ええっ!?」
そこへロードランナー・ケンも、
「男ってなぁ勃つものがしっかり勃てばそれでいいんだぜ、兄弟!」
と、会話に割り込んだ。
「そりゃあ今のところ問題ねぇな。男としての義務はしっかり果たしてるぜ」
「がっはっはっはっはっ!」
「へっへっへっへっへっ!」
下世話な話に華を咲かせる中年男ども。その様子を窺いつつ、真夜はさらに思案を巡らせた。
闇の地の移動用ドラゴンに当たるものは、この世界では自動車である。それを修理できるというのは即ち、闇の地のドラゴン専門医師に相当する職業ということだ。
なるほど、これは面白い。先ほどは少し慌てもしたが、今日このギルドに来て正解だった!
この短時間の間に、真夜は異世界の魔女と上級ゴブリンとスケルトンマスターとドラゴン医に知り合うことができたのだ。今はこの連中に取り入っておき、魔王軍侵攻の段になったらとことんまで利用させてもらおう。
真夜は高笑いしたい気持ちを抑えつつ、間近にあった孝介の太い腕を抱き寄せた。
「勝明、お前これ以上メアリー以外の女に手ぇ出したら、去勢するしかねぇなぁ」
などと言いながらのっそり現れたのは、Tシャツを破かんばかりの太い筋肉で覆われた身体を持つ女性だった。そう、女性である。が、その肉体は闇の地に生息する下手なゴブリンなどよりもよほど頑強そうだ。
「よう、マックス! お前も元気そうで何よりだ」
孝介がそう声をかけると、
「会いたかったぞ、大松樹。あんたもあんたのロードスターも調子良さそうだな」
筋肉女は孝介と握手をし、まるで長年の友達同士のように笑い合った。
「お前のドラスタもな。……それはそうと、昔の名前で呼ばんでくれ。呼び捨てでいいから、松島孝介の名前で呼べ」
「ああ、悪かったな大松樹」
「……ったく」
孝介は俯きながら苦笑した。
「……真夜、お前はこいつに会うのも初めてだったな? 奴はマックス流子ってんだ。勝明の母ちゃんで、プロレスラーやってる。結構強ぇぞ」
「プロレスラー? ……ああ、素手で戦うのが仕事の、グラディエーターみたいな人たちね」
プロレスなら、真夜もスマホの動画で観たことがある。
巨大な肉体の者が1VS1、または2VS2でぶつかり合う果たし合いのようなもので、観客を集めて行う。剣闘試合に似てるが、プロレスは基本的に武器を使わない。たまに椅子やら木刀やらの武器を持ち出す者もいるが。
それにしても、マックス流子とやらは見るからに生命力と攻撃力に満ちた見た目をしている。これは肉体だけでなく、そこから放たれるオーラも加味した分析だ。何百という戦いを経験した上級ゴブリンやリザードマンがこんな感じ……いや、明らかにそれ以上だ。
そんな女が、
「あんたが関取の女将さんか。ずっと噂にしか聞いてなかったから、実在すら疑ってたんだがな。まあ、これから仲良くしてくれ」
と、爽やかな笑顔を浮かべながら真夜に握手を求めた。
*****
が、それ以上に真夜が驚いたのは、『デリンジャー・カスタムズ』とかいう連中である。
この世界の移動用家畜である自動車は、それを修理する職業も確立させている。デリンジャー・カスタムズは自動車修理工場で、どうやら孝介が関わる新しい雑誌とやらにも何か協力するらしい。
「今度の雑誌はクルマのことも取り上げるからな。名付けて『趣味の歴史研究 The Wheels』だとよ。恐らく、CS放送でやってるアメリカのクルマ番組に影響されたんだな」
孝介がそのようなことをぼやく最中、真夜はNAロードスターよりも遥かに大きく頑丈そうなクルマに目を見張った。
しかも、そのうちの1台——ボディに侍の鎧を着込んだスケルトンが大きく描かれているではないか!
(これはもしや、スケルトンマスターのクルマか……!?)
真夜はなるべく冷静を装いながらも、心の中で大いに驚愕した。今にも動き出しそうな見事な造形のスケルトンが、鼻先に「VW」と彫刻されたバスの左側面で刀を振り回さんとしている。もちろんこれは絵なのだから恐れることはないかもしれないが、それにしてもリアルだ……と真夜は感じてしまった。
「ようっ! 俺のスケルトンに見惚れてんの?」
真夜にそう話しかけたのは、真っ赤なモヒカン頭のガラの悪い男。両腕にタトゥーを施し、それを見せびらかすような黒のタンクトップを来ている。
「あんた、ロードスターのマッサンの奥さんだろ? 俺はケイジってんだ。スケルトンを再現するヘアブラシ・アーティストさ。よろしくな!」
と、ケイジと名乗った男は真夜に握手を求めた。
やはり、この男はスケルトンマスターだったのか!
闇の亡霊そしてアンデッド系モンスターであるスケルトンは、単独の意思では決して動かない。それを操るマスターが必ず存在する。言い換えれば、スケルトンを倒すにはスケルトンマスターを真っ先に倒せばいいのだが……ケイジとやらはこれほどリアルな、いや、もしかしたら本物かもしれないスケルトンをクルマのボディに描ける男なのだ。ここで戦いを挑んでも、すぐに倒せる相手ではないだろう。
ならば、今はケイジと顔見知りになるほうが賢明だ。
そのようなことを瞬時に察した真夜は、ケイジの右手を握った。
そこへ、
「おいケイジ、思いつきのようにオンナを口説くんじゃねぇぞ! がっはっはっはっはっ!」
と、豪快な笑い声を上げる中年男がやって来た。それも、2人。
こちらも腕にタトゥーを施した、岩のような肉体の男である。「がっはっはっはっ!」「へっへっへっへっ!」という癖の強い笑いを披露しながら、こちらに歩み寄ってきた。
「ジョーに俺のスケを紹介してなかったな。ちょどいい機会だ」
孝介がそう言うと、真夜は条件反射のように男どもに向かって軽く会釈をした。
「並木真夜です。以後、お見知りおきを」
「真夜、あいつらのツラを覚えておけよ。俺のロードスターの主治医だ。額にバンダナ巻いてるのが兄のチャージャー・ジョー、スキンヘッドが弟のロードランナー・ケンだ。あだ名はそれぞれの愛車から取ってる」
孝介は真夜にそう解説した。すると、
「この女傑がマツのスケか、兄弟!」
と、チャージャー・ジョーが孝介に話しかけた。
「もう5年も同棲してる女だ。未だに所帯を持ってないのは、俺の甲斐性のせいだ」
「がっはっはっはっはっ! 40過ぎなのに甲斐性なんか気にしてるのか、ええっ!?」
そこへロードランナー・ケンも、
「男ってなぁ勃つものがしっかり勃てばそれでいいんだぜ、兄弟!」
と、会話に割り込んだ。
「そりゃあ今のところ問題ねぇな。男としての義務はしっかり果たしてるぜ」
「がっはっはっはっはっ!」
「へっへっへっへっへっ!」
下世話な話に華を咲かせる中年男ども。その様子を窺いつつ、真夜はさらに思案を巡らせた。
闇の地の移動用ドラゴンに当たるものは、この世界では自動車である。それを修理できるというのは即ち、闇の地のドラゴン専門医師に相当する職業ということだ。
なるほど、これは面白い。先ほどは少し慌てもしたが、今日このギルドに来て正解だった!
この短時間の間に、真夜は異世界の魔女と上級ゴブリンとスケルトンマスターとドラゴン医に知り合うことができたのだ。今はこの連中に取り入っておき、魔王軍侵攻の段になったらとことんまで利用させてもらおう。
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