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スケルトンの眠る海岸
4 異世界の魔操師は不老不死!?
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神奈川県鎌倉市にある由比ガ浜は、東京都から日帰りで行ける海水浴場でもある。
この日は気温も夏らしく上がり、海岸には親子連れやカップルが集合している。海の家も営業中だ。真夜は海の家の更衣室で着替え、青色基調のビキニ姿になる。これは先月、孝介の言われるがままに買ったものだ。
「あら、その水着可愛いじゃない」
「世界の隅々まで把握している魔女」こと山木田美生が、そう話しかけてきた。
「それ、まだ新しいわね。私のも最近買ったばかりなの」
などと話す山木田の水着……というより魔操服は、真夜が闇の地で着ているそれよりも生地の面積が少ない。見事な張りを保った乳房と引き締まった臀部が、120%の自己主張をしている。しかしそれでいて、山木田は50代半ばだという。
闇の魔操師は大抵の場合40代で戦闘任務から退き、その後は魔操服からローブに着替えて後進の指導や回復アイテムの作成、魔術の研究に従事する。闇の魔操師は女にしかできない職業で、「体型が崩れたら引退の頃合い」と言われている。それだけ体力を使う職業、ということだ。
今年で35歳の真夜は、今も体型を保っているとはいえ、そろそろ引退の時を想定しておかなければならない年頃だ。
ところが、山木田の肢体はどう見ても20代の艶やかさ。いかに魔操師とはいえ、加齢という宿命から逃れた者は存在しないはずだが……。
もしやこの女、不老不死の魔術を研究している……!?
山木田の顔には多少の加齢が出ているから、まだ完全な不老不死には至っていないのだろう。しかし部分的だとしても、この魔術を具現化させているとは!
闇の地でも不老不死の研究は数千年前から行われているが、未だその欠片すら実現していない。つまり、この分野では異世界——日本のほうが闇の地よりも何歩も先を進んでいるのだ。
「ミウさん、すごい水着持ってきたわね」
メアリーが山木田にそう声をかけた。が、そんなことを言うメアリーもかなり面積の小さい赤いビキニを着ている。
「メアリーの水着もなかなか大胆だと思うわ。それで綾部くんを元気にさせてあげるのね?」
「単に動きやすいから、この水着を選んだだけですわ」
そう言って笑うメアリー。
単に動きやすい……?
そういえば、光の地の女戦士はたまにメアリーのような格好、つまりビキニアーマーを着ていたりする。何でも「俊敏性が確保される装備」ということだが、メアリーの水着ももしかしたらそのような意図なのではないだろうか。
日本の魔操師にイギリスの女戦士。どうやら今の私は、この世界の猛者どもと早速ながら対峙しているようだ。
「この海の家、ボールを貸してくれるそうだから取ってくるわ。みんなでビーチバレーやりましょ」
*****
この世界では、ボールを使って身体を鍛錬する習慣がある。野球やらサッカーやらバスケットボールやらテニスやらの競技で運動能力を鍛え、いつ訪れるか分からない異世界からの侵攻に備えているのだろう。
山木田とメアリーも、ビーチバレーという競技で身体を鍛え始めた。真夜はこれをやるのは初めてだが、実際経験してみると予想以上に辛い。足場が砂浜だからなかなか上手に走れず、足腰のパワーを無駄に消費してしまう。その上で飛来するボールを追っかけなければならないのだ。
「マヨさん、そっち行ったわよ!」
メアリーにそう言われるまでもなく、真夜はボールを追跡する。しかし、砂の窪みに足を取られて転倒してしまった。それに追い打ちをかけるように、ゴム製の大きなボールが真夜の頭にポテッと落下する。
「お……おのれ!」
真夜はそう吐き捨て、即座に立ち上がろうとする。が、プレイを初めて早1時間弱。途中のドリンク休憩を挟んでいるとはいえ、結構ガチでやったから真夜の下半身が笑っている状態だ。
膝を伸ばそうとしてふらつき、もう一度砂浜の上に転倒。それを見かねた山木田が、
「真夜ちゃん、この辺で休憩しましょうか」
と、声をかけた。
ナメるな、異世界の魔女! と返したいところだが、それができないほど真夜の脚は悲鳴を上げている。にもかかわらず、山木田とメアリーが未だピンピンしているのはなぜなんだ?
「ミウさんも疲れたでしょ?」
「私? 嫌ねぇ、このくらいじゃ疲れないわよ。伊達に趣味でマラソンやってるわけじゃないもの。その言葉、メアリーに返してあげる」
「私もカンタベリーに帰ったら7人制ラグビーで鍛えてるから、このくらい何ともありません」
そう笑い合う2人は、とんでもない体力と運動神経の持ち主らしい。
真夜は悔しくなった。それはメアリーよりも、山木田に対する感情だ。自分と同じ魔操師の山木田に、体力でここまで差をつけられている。悔しい。あまりに悔しい。同時に、一体どうやったらこんな体力を身につけることができるのかと真夜は思案した。
――やはりこれも、不老不死の魔術の効果か?
おのれ、日本の魔操師! 私だって、いずれは必ず不老不死の魔術を開発してやる! その時まで待っていろ!
「真夜ちゃん、立てる? 私が肩貸してあげるわよ」
山木田は未だ立ち上がれないでいる真夜に、そう声をかけた。それに対し、
「け、結構!」
と、真夜は強い口調で断った。
「あら、そう? ……でも、ここで倒れたままだといざという時に逃げられないわよ」
「え?」
「ここはね、出るらしいのよ。夜だけじゃなく、昼でも」
突如、山木田はそのようなことを口にし出した。
「で、出るって……?」
「そりゃあ、もちろん——」
山木田は不敵な笑みを浮かべ、
「悪霊とか、落ち武者とか、彷徨う骸骨がね」
と、真夜の耳元で告げた。
この日は気温も夏らしく上がり、海岸には親子連れやカップルが集合している。海の家も営業中だ。真夜は海の家の更衣室で着替え、青色基調のビキニ姿になる。これは先月、孝介の言われるがままに買ったものだ。
「あら、その水着可愛いじゃない」
「世界の隅々まで把握している魔女」こと山木田美生が、そう話しかけてきた。
「それ、まだ新しいわね。私のも最近買ったばかりなの」
などと話す山木田の水着……というより魔操服は、真夜が闇の地で着ているそれよりも生地の面積が少ない。見事な張りを保った乳房と引き締まった臀部が、120%の自己主張をしている。しかしそれでいて、山木田は50代半ばだという。
闇の魔操師は大抵の場合40代で戦闘任務から退き、その後は魔操服からローブに着替えて後進の指導や回復アイテムの作成、魔術の研究に従事する。闇の魔操師は女にしかできない職業で、「体型が崩れたら引退の頃合い」と言われている。それだけ体力を使う職業、ということだ。
今年で35歳の真夜は、今も体型を保っているとはいえ、そろそろ引退の時を想定しておかなければならない年頃だ。
ところが、山木田の肢体はどう見ても20代の艶やかさ。いかに魔操師とはいえ、加齢という宿命から逃れた者は存在しないはずだが……。
もしやこの女、不老不死の魔術を研究している……!?
山木田の顔には多少の加齢が出ているから、まだ完全な不老不死には至っていないのだろう。しかし部分的だとしても、この魔術を具現化させているとは!
闇の地でも不老不死の研究は数千年前から行われているが、未だその欠片すら実現していない。つまり、この分野では異世界——日本のほうが闇の地よりも何歩も先を進んでいるのだ。
「ミウさん、すごい水着持ってきたわね」
メアリーが山木田にそう声をかけた。が、そんなことを言うメアリーもかなり面積の小さい赤いビキニを着ている。
「メアリーの水着もなかなか大胆だと思うわ。それで綾部くんを元気にさせてあげるのね?」
「単に動きやすいから、この水着を選んだだけですわ」
そう言って笑うメアリー。
単に動きやすい……?
そういえば、光の地の女戦士はたまにメアリーのような格好、つまりビキニアーマーを着ていたりする。何でも「俊敏性が確保される装備」ということだが、メアリーの水着ももしかしたらそのような意図なのではないだろうか。
日本の魔操師にイギリスの女戦士。どうやら今の私は、この世界の猛者どもと早速ながら対峙しているようだ。
「この海の家、ボールを貸してくれるそうだから取ってくるわ。みんなでビーチバレーやりましょ」
*****
この世界では、ボールを使って身体を鍛錬する習慣がある。野球やらサッカーやらバスケットボールやらテニスやらの競技で運動能力を鍛え、いつ訪れるか分からない異世界からの侵攻に備えているのだろう。
山木田とメアリーも、ビーチバレーという競技で身体を鍛え始めた。真夜はこれをやるのは初めてだが、実際経験してみると予想以上に辛い。足場が砂浜だからなかなか上手に走れず、足腰のパワーを無駄に消費してしまう。その上で飛来するボールを追っかけなければならないのだ。
「マヨさん、そっち行ったわよ!」
メアリーにそう言われるまでもなく、真夜はボールを追跡する。しかし、砂の窪みに足を取られて転倒してしまった。それに追い打ちをかけるように、ゴム製の大きなボールが真夜の頭にポテッと落下する。
「お……おのれ!」
真夜はそう吐き捨て、即座に立ち上がろうとする。が、プレイを初めて早1時間弱。途中のドリンク休憩を挟んでいるとはいえ、結構ガチでやったから真夜の下半身が笑っている状態だ。
膝を伸ばそうとしてふらつき、もう一度砂浜の上に転倒。それを見かねた山木田が、
「真夜ちゃん、この辺で休憩しましょうか」
と、声をかけた。
ナメるな、異世界の魔女! と返したいところだが、それができないほど真夜の脚は悲鳴を上げている。にもかかわらず、山木田とメアリーが未だピンピンしているのはなぜなんだ?
「ミウさんも疲れたでしょ?」
「私? 嫌ねぇ、このくらいじゃ疲れないわよ。伊達に趣味でマラソンやってるわけじゃないもの。その言葉、メアリーに返してあげる」
「私もカンタベリーに帰ったら7人制ラグビーで鍛えてるから、このくらい何ともありません」
そう笑い合う2人は、とんでもない体力と運動神経の持ち主らしい。
真夜は悔しくなった。それはメアリーよりも、山木田に対する感情だ。自分と同じ魔操師の山木田に、体力でここまで差をつけられている。悔しい。あまりに悔しい。同時に、一体どうやったらこんな体力を身につけることができるのかと真夜は思案した。
――やはりこれも、不老不死の魔術の効果か?
おのれ、日本の魔操師! 私だって、いずれは必ず不老不死の魔術を開発してやる! その時まで待っていろ!
「真夜ちゃん、立てる? 私が肩貸してあげるわよ」
山木田は未だ立ち上がれないでいる真夜に、そう声をかけた。それに対し、
「け、結構!」
と、真夜は強い口調で断った。
「あら、そう? ……でも、ここで倒れたままだといざという時に逃げられないわよ」
「え?」
「ここはね、出るらしいのよ。夜だけじゃなく、昼でも」
突如、山木田はそのようなことを口にし出した。
「で、出るって……?」
「そりゃあ、もちろん——」
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と、真夜の耳元で告げた。
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