【13万字完結】結婚相手は魔王の尖兵!

ジャワカレー澤田

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巨人族の足跡

10 文献調査は児童書コーナーで

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 翌日から真夜はデイラボッチ伝説についての文献調査を始めた。

 自宅の近所にある図書館へ行き、真っ直ぐ児童書コーナーにつま先を向ける。真夜は図書館に赴く際は、この世界の正装であるスーツをビシッと着ることにしている。なぜなら、彼女の世界の図書館は王侯貴族か知識階級のみが利用できる施設だからだ。

 知の宝庫である図書館に、平民の子供が遊び感覚で立ち寄ることは真夜の出身世界ではまずあり得ない。が、日本では老若男女問わず誰でも図書館を利用しているではないか! このあたり、真夜が日本に対して感心している点のひとつである。

 その上、児童書コーナーには魔術や魔物、各地の伝承などが記載された本がたくさん並べられている。

 以前、真夜は古田足日・田畑精一の『おしいれのぼうけん』<童心社>という本を読んだ。読み進めるうち、真夜の全身は恐怖で震えた。保育園の押入れが、日本とも闇の地とも違う未知の異世界に接続しているとは! しかもその世界には「ねずみばあさん」という、凶暴なネズミを何百匹も従えた魔王がいる。

 我が世界の魔王軍が日本を征服したら、今度はこの「ねずみばあさん」の軍と戦うことになるかもしれない。そう察した真夜は書店に行き、『おしいれのぼうけん』を購入してそれをデルガドに提出した。

 それはさておき、日本では階級問わず子供を魔操師にするための英才教育が広く行われているという事実は見逃せるものではない。が、そのための社会インフラがあるからこそ真夜は児童書コーナーを堂々利用して、日本の様々な情報を入手することができる。

「おばさ~ん、なんでここにいるの~?」

 子供たちが茶化す声を無視しつつ、真夜は『さがみはらのふるさと絵本第2集 でいらぼっち』<山主敏子 小島直 相模原市教育委員会>という絵本を読み進めた。ここは相模原市ではないが、幸いなことにこの図書館は神奈川県下の伝承について書かれた絵本をコンプリートしている。

 これによると、デイラボッチなる巨人が富士山を持ち上げた話は事実らしい。そして一休みしているうちに富士山に根が生え、それ以降は持ち上げられなくなったということも。

「おとなのくせにえほんよんでる!」

「おばさん、しょうがくせいなの~?」

 横槍を入れ続ける子供たち。そのうちのひとりが、真夜の長い黒髪を思いっきり引っ張った。

「痛いっ!」

 真夜は保育園児と思わしき男の子に、そのまま引きずられてしまう。

「こ、こら~っ! やめなさい! い、痛いっ! おのれ、異世界の子供め!」

 真夜は髪の毛を引きちぎらんとする男の子を抱き上げ、

「ぶ、無礼者! このまま闇の地に連れ去って、ドラゴンの餌にしてくれるわ!」

 と、まったく反省する様子のない男の子の顔を睨んだ。

 そこへ別の男の子が、

「まじょのババア、くたばれ~!」

 と、真夜の右膝の裏に飛び蹴りを一閃。不意を突かれた真夜は、そのまま児童書コーナーの床に敷かれたパネルマットの上に崩れ落ちてしまった。

「お……おのれ~っ!」

 毎日手入れをしている大事な髪の毛を引っ張られた上、ここ最近関節の動きが鈍くなってきた膝に攻撃を加えられた。真夜は激怒し、

「よくもよくもよくも! 覚悟なさい!」

 と、悪さをやめない子供たちを追いかけた。

 *****

「すまねぇなぁ、いつも迷惑かけちまって」

 図書館にやって来た孝介は、司書の女性にそう言った。

「いいえ、とんでもない。むしろこちらが助けられているくらいです。並木さんには、いつも子供たちの世話を任せてしまっていますから」

「そう言ってもらえると助かるってもんだ。……それと、実は最近役所に届けを出したんだよ。だからあいつの苗字は今じゃ松島だ」

「まあっ! おめでとうございます」

 そう話し合いながら、2人は児童書コーナーのパネルマットに歩み寄った。

 そこにいるのは、男の子を抱き締めながら横たわる真夜。彼女も男の子も、そして周りにいる幾人の子供たちも見事に熟睡している。

「気持ち良さそうに寝ちゃってますね、松島さんの奥さん。うふふ、まるでお母さんみたい」

「……いい加減、俺たちも本腰入れて子作りするかねぇ」

 孝介は真夜の無防備な寝顔を見つめながら、

「どうもこいつは、若い頃から見た目と中身にギャップがあるんだよな。何つーか、やる気だけ空回りしてばかりの面白おばさんっつーか」

「あら、奥さんはまだおばさんじゃないですわ」

「そうだな、まだ三十路だからな」

 すると孝介は踵を返し、

「1時間ほどしたらまた来る。眠ってる子供を無理やり起こすほど、俺は酷なオッサンじゃねぇからな」

 と、微笑みながらその場を立ち去った。
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