【13万字完結】結婚相手は魔王の尖兵!

ジャワカレー澤田

文字の大きさ
53 / 77
ヒルダと大松樹

53 俺が大松樹さんにこだわる理由

しおりを挟む
 ヒューは玲人と何度も話し合った。

 その末にヒューは、ようやくひとつの妥協案を玲人に認めさせた。

 ヒルダとの戦いは、王国の望む通り異世界即ち日本でやる。ただし、ヒルダを倒すことはしない。代わりに彼女の魔力を永遠に奪い、二度と元の世界へ戻れないようにするのだ。

「そんなこと、できるの?」

 当然ながら玲人はそう首を捻ったが、可能だ。

 相手の魔力を吸収する魔術、そして魔力回復を阻害する「鍵」の魔術を組み合わせれば、ヒルダは二度と「橋」を出せないはずだ。ふたつの世界を行き来するには魔力が必要。「橋」の魔術は魔力の消耗が些細な程度で済む、というだけだ。ならばそれを根こそぎ取り上げてヒューにしか外せない「鍵」をヒルダにかけてやれば、彼女は消滅したも同然である。

 もちろん、王国には「ヒルダを討伐した」と報告する。そして魔力を失ったヒルダは、その後の人生を日本で送ることになる。

 この手段しかない。だが、これを実行するにはひとつ問題があった。相手の魔力を吸収する魔術はともかく、「鍵」の魔術は未習得という点だ。

「どうするの?」

「今から覚えるんだよ。この魔術自体は、俺んちで保管してる魔導書にも載ってるから」

「習得できるの?」

「するしかないだろ!」

 ヒューは強い口調でそう返した。立て続けに質問され、若干イラついているというのもある。

 だが玲人は怪訝な顔で、

「どうしてヒューは、ヒルダ……いや、ヒルダの結婚相手にそこまでこだわるんだ?」

 と、さらに質問した。

「別にこだわってなんかいない。玲人は相撲のことなんか知らないだろうけど、大松樹さんはとにかくすごい人なんだ。俺たちがヒルダを攻撃したら大松樹さんが出てくるだろうし、そうなったら俺たちに勝ち目はない」

「……そんなのは理由にすらなってないよ、ヒュー。もっと他に理由があるんじゃないのか? ヒューが、その……ダイショウジュって人に突然こだわり始めた理由」

 玲人に問い詰められたヒューは、大きな溜め息を1回ついてこう言葉を綴り出した。

「……日本で他人のおっさんに親切にされたのは、あれが初めてだったんだ」

「え?」

「初めてだったんだよ、あそこまで優しくて丁寧なおっさんは」

「そ、そうなの?」

「そうだ! 俺が日本でエンカウントしたおっさんは、学校の教師もその辺のサラリーマンもみんな高圧的で、俺が10代と知ると嬉しそうに説教垂らすような奴ばっかりだった。今までに何度“社会人たるもの”だの“世の中甘くない”だの“お前のことを心配してるからこう言ってやってるんだ”だの、こっちが望んでない説教をぶつけられまくったか……。レイトだって、そのテのマウンティングオヤジが嫌だから極力日本に戻りたくないっていつだか言ってただろ?」

「ま、まあね」

「でも、大松樹さんはそんな雑魚とは全然違う。そう、何と言うか……俺と同じ目線に立ってくれるって感じなんだ。俺をバカになんかしなかったし、何度も何度も申し訳なさそうに“ありがとな”って言ってくれた。俺は大松樹さんに嘘をついたのに……」

 ヒューは今にも泣き出しそうな顔で、

「本当は記事なんて読んでなかったのに、俺はあの場を繕うために嘘ついて……」

 と、口にする。直後、ヒューは玲人の目を睨むように見つめ、

「そんな俺に、大松樹さんは上野の神社の歴史を教えてくれたり面白い話を聞かせてくれたりして、最後に1万円くれたんだ。“これで美味いもんでも食いな”って」

「ヒュー、君はヒルダの結婚相手からおカネもらったのか!?」

「ああ、もらった。でも、その時の俺はヒューじゃなくて篠原竜也だ。強調しておくけれど、ヒルダに買収されたわけじゃない!」

 ヒューは玲人を圧倒しながら、

「大松樹さんは何であんなに優しいのか……それはあの人の経歴を知って納得した。あれだけ理不尽な苦労を強いられたんだ。そして、そんな人と結婚したヒルダは……絶対に悪い人じゃない!」

 まるで食いちぎるようにそう言い切った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...