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ヒルダと大松樹
54 天狗の住処へ
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茨城県笠間市に所在する愛宕神社。その名の通り愛宕山に鎮座し、火防即ち「火災除けの神社」としても知られている。
だがそれ以上に、ここ愛宕神社は「十三天狗」の住処として有名だ。
松島夫妻にとって幸いなことに、愛宕神社前には駐車場が設けられている。ここは山の上だが、徒歩で斜面を登る必要がないということだ。
「ここが天狗の住む神社ね?」
「ああ、寅吉が天狗修行をした場所だ。上野のあの神社からここまで、天狗の背に乗って毎日往復してたってぇところさ」
「ついに来たわね——」
真夜は覚悟を決めるように深く溜め息をついた。若干緊張している。何しろここには、まだ見ぬ異世界へつながる「橋」があるのかもしれないのだから。
*****
決して大きくはないがどっしりとした印象の木造の社殿。その中を窺うと、大きな赤い天狗の面が飾られているのが確認できた。
太く長い鼻を持った日本の魔物、天狗。
知能は極めて高く、人間をも凌駕するほど。しかも高速で空を駆ける飛行能力を持ち、様々な魔術を使いこなし、他の魔物を操ることもできる。天狗という魔物は恐ろしくオールマイティな性質で、敵に回せば極めて厄介だ。ここは戦うよりも、何かしらの方法で籠絡して味方につけたほうがいいのではないか。真夜は天狗の面を見上げながら、そのようなことを思案した。
すると、
「真夜、こっちに来いよ」
賽銭箱の前に立つ孝介が、真夜に呼びかけた。
「何?」
「神様に俺たちがここに来たことを報告するぞ。お前も手を合わせろ」
そう言われた真夜は、
「神様? ここにいるのは魔物じゃないの?」
「バカヤロ! ここには神様がいるんだよ。……いや、天狗も神様も変わりねぇや」
「どういうこと?」
「とにかくこっちに来い!」
孝介はまるで引っ張るように、真夜を自身の傍らに移動させた。
小さな財布から1,000円札を抜き、賽銭箱に押し入れる。孝介の大きな両手は、2度大きな柏手を打った。目をつむり、軽く俯いて立ったまま瞑想を始める。真夜も渋々とそれに倣った。
「……どうしてこんなことしなきゃならないの?」
真夜の不満げな言葉に、
「自然を尊ぶためだ」
孝介は目を閉じたまま、そう返した。
「日本人は基本的に自然信仰だ。山の自然がなけりゃ、俺たちは生きていられない」
「そうなの?」
「周りをよく見てみな」
そう言われた真夜は、目を開けて自身の周囲の光景に視線を移した。
だがそれ以上に、ここ愛宕神社は「十三天狗」の住処として有名だ。
松島夫妻にとって幸いなことに、愛宕神社前には駐車場が設けられている。ここは山の上だが、徒歩で斜面を登る必要がないということだ。
「ここが天狗の住む神社ね?」
「ああ、寅吉が天狗修行をした場所だ。上野のあの神社からここまで、天狗の背に乗って毎日往復してたってぇところさ」
「ついに来たわね——」
真夜は覚悟を決めるように深く溜め息をついた。若干緊張している。何しろここには、まだ見ぬ異世界へつながる「橋」があるのかもしれないのだから。
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決して大きくはないがどっしりとした印象の木造の社殿。その中を窺うと、大きな赤い天狗の面が飾られているのが確認できた。
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すると、
「真夜、こっちに来いよ」
賽銭箱の前に立つ孝介が、真夜に呼びかけた。
「何?」
「神様に俺たちがここに来たことを報告するぞ。お前も手を合わせろ」
そう言われた真夜は、
「神様? ここにいるのは魔物じゃないの?」
「バカヤロ! ここには神様がいるんだよ。……いや、天狗も神様も変わりねぇや」
「どういうこと?」
「とにかくこっちに来い!」
孝介はまるで引っ張るように、真夜を自身の傍らに移動させた。
小さな財布から1,000円札を抜き、賽銭箱に押し入れる。孝介の大きな両手は、2度大きな柏手を打った。目をつむり、軽く俯いて立ったまま瞑想を始める。真夜も渋々とそれに倣った。
「……どうしてこんなことしなきゃならないの?」
真夜の不満げな言葉に、
「自然を尊ぶためだ」
孝介は目を閉じたまま、そう返した。
「日本人は基本的に自然信仰だ。山の自然がなけりゃ、俺たちは生きていられない」
「そうなの?」
「周りをよく見てみな」
そう言われた真夜は、目を開けて自身の周囲の光景に視線を移した。
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