アリバイ(刑事 佐川 敏 殺人事件捜査リポート)

矢野 零時

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2聞き込み

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 最初に死体を発見した木村良子にまず話を聞く必要がある。だが、木村はもう店にいなかった。先に応対をした田中から電話番号を聞き出し、佐川が警官用携帯で木村に電話をかけると、店にいても仕事にならないので自宅に戻っているとのことであった。すぐに覆面パトカーに乗り込むと彼女のアパートにいった。彼女が住んでいたアパートは旧住宅地で三階以上の建物は病院以外はない地域だった。
 ドアをあけた木村に、佐川と近藤はすぐに警察手帳を見せた。
「さっそくだが、殺された岡田沙織さんはどんな人だったのかな?」
 佐川はありきたりの質問を木村にした。
「私、尊敬していましたよ。だから、あの店に入ったんです。普段の経営もしっかりやっていましたし、先を見る目もあった。今度は、読者モデルの緑川玲子さんと組んでミドリブランドを立ち上げた。大評判になっていますので、これが売り上げの主流になることは時間の問題ですよ」
「沙織さんは緑川さんとうまくやっていたのですか?」
「そりゃ、そうよ。ミドリブランドを立ち上げたおかげで、緑川さんはテレビに出ることも増えて、沙織さんに本当に感謝していたと思うわ」」
「じゃ、玲子さんが誰かに嫌われていたり、恨まれていたりしていませんでしたか?」
 佐川がそう言うと本村は顔を曇らした。
「誰か、思いついた方がいますね。もしおられれば、教えていただけませんか。お聞きしたことは、他に漏らすようなことはいたしません」
「副社長になっている本間勇作さんとはうまくいってなかったと思うわ」
「本間さんは、どんな人なんですか?」
「岡田沙織さんの甥、お姉さんの子供ね」
「じゃ、肉親ですね」
「そうですよ。お姉さんのコネで入って来た。でも、お姉さんが二年前に亡くなったら、押さえがきかなくなったみたい。勇作さん、個人的に使った分も店の経費で落とそうとして、請求書を経理に廻すようになったのよ。それを社長の沙織さんに見つかって大喧嘩になったことがあったわ。それに、なんにお金を使っているのか、お金の取りたてにおかしな男が来たこともあったわね」
「そうですか。ありがとう。また、なにかあったら、お話を聞かさせてもらいます」
 佐川が頭を下げると、近藤はメモを続けていた手帳の背に鉛筆をさしこんで胸ポケットにしまいこんでいた。
 二人は車に向かって歩き出した。
「やはり、次に行くとすれば、本間勇作のところですね」
「そうだな。鑑識でも、指紋の関係で行っていると思うが、ともかく住所は押さえているはずだ。聞いてくれるかい?」
「いいですよ」と言って、近藤はすぐに警察用携帯をだして聞いてくれた。
「さすがに副社長ですね。街中の高層マンションに住んでいるそうですよ。あそこは賃貸では、月六十万円はとられますよ」
「ともかく、行くしかない」
 マンションの駐車場に覆面パトカーを置かせてもらうと、管理人に聞いた部屋708号室のドアをノックすると中にいた本間がドアを開けてくれた。いつものように二人は警察手帳を明示した。
「さっそくですが、昨日。あなたは午後八時から午後十時頃なにをやっていました?」
「アリバイしらべですか?」と言った本間はにやりと笑っていた。
「鑑識課の人は指紋を取っていくし、刑事さんたちは、ぼくのことを疑っているということですね」
「いえ、誰にでも同じことを聞いていますので」
「昨日でしょう。その時間帯なら、ぼくにはアリバイがありますよ」
「ほう、アリバイですか?」
「飯を食べた後、すぐに帰るきにもなれなくて、ムーンソナタに行って飲んでいましたよ。時間は時計を見ましたから、八時からですね」
「ムーンソナタといいますと」
「繁華街の嬉野小路に麻井会館がある。そこに入っているスナックですよ。君原健太郎がやっている」
「君原さん以外の方は店におれなかったのですか? たとえば、店の女の子とか」
「いや、彼一人で経営をしている店ですからね。その代わり、私と同じ客がいましたよ」
「誰です?」
「井上五郎がいましたね」
「井上五郎とは、どんな人なんですか?」
「井上不動産の社長ですよ。あちらこちらにビルを持っていて、テレビでそのビルのコマーシャルもやっている。まあ左手に内輪を持つ生活をしていますよ」
「そうですか。店を出たのはいつですか?」
「確か十時だった。腕時計を見たからね。タクシーを呼んでもらい、それに乗って家に帰りましたよ」
「そうですか」と言った佐川は肩眉をあげていた。近藤に向かった佐川はうなずいてみせた。そろそろここを切り上げようと思ったからだ。近藤はメモしていた手帳を胸ポケットにしまっていた。
「ご協力、どうもありがとうございました。お手数をおかけいたしました」
 部屋から出て、この回のエレベーターホールに立った近藤は顔をしかめた。
「うさんくさいですね」
「すぐに裏をとる必要があるな」と佐川が言うと、近藤はうなずいていた。

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