呪いで人狼(オオカミ男)になった王の所に嫁いで行くことになった件

矢野 零時

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5警護

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 一隊が動き出して、半時ほど過ぎた頃だった。
 馬車の脇に矢が刺さる音がした。思わず私は結納品が入っている箱を指に力を入れてかかえた。
「窓を閉めるんだ」と、ゾラの声がした。私はすぐに馬車の窓のブラインドをおろした。
 馬車は動きをとめている。
 耳をそばだてると警護隊の人たちも弓で矢をはなつ音をたてていた。矢が尽きたのか、今度は剣をもって戦う音が聞こえてきた。
 やがて、それも聞こえなくなると、「もう、窓を開けても大丈夫ですよ」と、ゾラに声をかけられた。
「はい」と言って、私はブラインドをあけた。馬にのったゾラが心配げに馬車の中をのぞいていた。
「怪我はありませんでしたか?」
 そう言っているゾラの頬は剣で切られたのか、傷跡がついていた。すぐに私は馬車の戸を開けて、馬車からおりた。外へ出た私は辺りを見回した。
 あちらこちらに見知らぬ男たちが切られて倒れていた。
「何者なのですか? この人たちは」
「あなたが嫁ぐ話がもれたのでしょう。嫁ぐ者がいれば、結納金や高級な品物を国が持たせることに間違いはない。それを奪い取ろうとする者がでてきてもおかしくはない」
 ゾラははきすてるように言っていた。
 私をカルゾ国を連れて行き、守ろうした警護兵たちも剣や矢で怪我をしていた。特に馬車を走らせ役の御者の体には五本の矢が刺さり、肩にも刀傷がつけられていた。仲間の警護兵は御者の体から矢を抜き出していた。
 すぐに、私は馬車の胴についている物入から、薬箱をとりだした。その引き出しの一つをあけて、塗り薬をとりだすと、まず最初にゾラの頬傷にぬってやった。すると、傷跡はすぐに消えていた。この塗り薬は傷口専用に祖母が開発した薬だった。
 次に、私は御者の所に行き、矢を抜いた後に塗り薬をぬり続けた。肩の切り傷には別の消毒薬をつけカバンから出してきた針と糸をだして縫ってあげた。また、別の警護兵は右腕をだらりとさげていた。腕のすじを切られているのだ。そのすじも消毒をしてから糸を使い私は縫い上げてやった。その後も、私は警護兵たちの傷に薬をぬりまわっていた。
 しばらくすると警護兵から声があがりだした。
「傷口が消えたぞ。すごい効き目だ」
「手を動かすことができる」と、すじを切られていた警護兵は立ち上がり、右手を見ていた。御者も「なんのこれしき」と言って、すでに馬車の御者席に戻っていた。
「隊長の頬の傷もなくなっておりますぞ」
 そう言われていたゾラが私のところにやってきた。
「ナターシャ様。ありがとうございます。この御恩は一生忘れません。傷の深い者は、このままでは警備兵をやめなければならなかったかもしれません」
「よかった。お役に立てて」
 やはり、祖母の作る薬は本物だと、私は改めて思っていた。

 ふたたび、警護隊は歩き出した。やがて、馬車が止まった。日が落ち出したからだ。
「ここで夕食にしたいと思います。男料理ですが、ご賞味を願います」
 彼らは辺りから取って来た薪で火をおこし、その上に馬車の胴に積んで持ってきた鍋に干し肉をいれて煮て汁物を作っていた。また塩漬けの豚肉を焼いてそれをライ麦パンにはさんだサンドイッチを作っていた。私は警護兵の人たちと火を囲んで美味しく食べることができた。
「ナターシャ様、私たちがご一緒できるのはここまででございます。明日になれば、カルゾの騎士たちが参ります。今度は彼らがカルゾの国までお連れすることになっております」と、ゾラが言っていた。
 思わず、私の顔に不安の表情が浮かんでいた。せっかく気心がしれ、私の警護を命がけでやってくれた人たちと別れたくなかったからだ。
「ナターシャ様、ご心配をめされるな。カルゾの騎士たちの方が我らよりも武力もあり、魔力にも対応できる力を持っておりますぞ。なにせ、これから先は、魔の力が及ぶ所、私らがいる方がナターシャ様をお守りするのに足を引っ張ることになるかもしれませんので」とゾラは笑っていた。

 そう言っていたゾラたちはその晩、一睡もしないで私がいる馬車を警護し続けてくれた。
 
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