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6カルゾの騎士
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次の日の朝。朝霧の中から馬の足音が聞こえてきた。すぐに霧の間から馬に乗った五人の男たちが現れた。
彼らはカルドの騎士たちだった。
私が不思議に思ったことが、ひとつあった。
最後にきた男は自分の馬に連なるように二頭の馬をつないで引いていたことだ。すぐには分からなかったが、馬車を残してもらうことになると、それに乗ってきた御者や従者二人はライズ王国に戻るためには馬で帰るしかない。そうなると三頭の馬が必要だ。騎士の一人が馬車に乗るとしても、それでは馬一頭に空きが生じるが、他に二頭が足りないことになる。それを補うため、二頭の馬を連れてきたのだった。
カルゾの騎士たちは、馬から降りるとナタ―シャの前に並んだ。
一番最初に、私の前に立ったのは、ナマズのような髭を八の字にたらした男だった。
「ナターシャ様、初めてお目にかかります。私はロバート。騎士隊長をさせていただいております。これから城までの道のりをご同行させていただきます」と言って、背筋を伸ばしてから頭をさげた。
その後、次々と他の騎士たちが、私に挨拶をしていった。
「私はエフセン。ナターシャ様、お見知りおき願います。この後は、私が御者を務めさせていただきます」と言ったのは、一番背が低い男だった。
「私はコリア、お初にお目にかかります。輿入れをしていただく方がこのようにお美しい方とは思っておりませんでした」
コリアはダンディな人らしく女性の扱いも心得ているようだった。髪は黒く天然だろうがカールを巻いていて、目も黒かった。
「私はルイズと申します。以後、お見知りおき願います」
ルイズは背が高く金髪で白い肌をしていた。北欧のバイキングの血が流れているのかもしれない。
「私はワキタ。ナターシャ様、よろしくお願いいたします」
ワキタは肉付きがよく、胸板は普通の人の倍はあろうかと思われる体格をしていた。
騎士たちは、私との挨拶を終えると、今度はライズ王国の警護隊と話をしていた。やがて引継ぎの打ち合わせが終わったのだろう。警備隊の面々は私に別れの挨拶を終えると、御者や従者たちも騎士隊が用意した馬に乗って、ライズ王国に戻っていった。
エフセンが馬車の御者席にすわったのを確かめると、ロバートは手を取り私を馬車に乗せた。その後、ロバートは自分の馬に乗ると「それでは、まいりますぞ」と言って先頭にたち馬を歩かせ出した。
コリアは馬車と並ぶようにして馬を歩かせている。そして、馬に乗ったルイスとワキタは馬車の後ろについていた。
森近くに来た時、馬車の隣で一緒に歩いていたコリアの顔が強張った。
「どうかしたのですか?」と私は聞いた。
「敵が現れたようですよ」と言ったコリアは私のそばから離れない。もし、敵が来たら私を守ろうと考えているのだ。
その間に、三人の騎士たちは馬を走らせて、木々の間から出てきた者に向かっていた。
私は馬車の窓から顔を出して、それを見つめた。
人のように手足がついている。だが、間違いなく人ではない。緑色をして目が四つもあるのだ。
騎士たちの二人は馬の上から切りつけ、隊長のロバートは馬から飛び降りると緑色の者を切り倒していた。切り倒された緑色の者は二ツに分かれた後も蠢いていた。生命力がまだあるのだ。騎士たちは、剣をあげて、頭と思える場所に何度も突き立てていた。
「一体、あれはなんだったのですか?」
「物の怪ですよ」
「物の怪?」
「私どもはこの辺りでも魔人たちと戦っております。物の怪は、倒れた魔人たちの無念や体から切り取られた肉片から産まれた物たちですよ」
「やはり、この辺りでは人が住めないわ」
「いや、私どもは暮していますよ。ナターシャ様」
「どうして、あなたがたは、物の怪を簡単に切り倒すことができるのですか?」
「私たちはクルスタルの力に守られているからですよ」と言って、剣を抜いて、私に見せた。
その剣のつばには、クリスタルがはめ込まれていた。それは私に向かって、挨拶をするかのようにキラリと光っていた。
やがて、草原にやってきた。
すると、草原が大地から浮き上がりだした。それは塊り、馬の背を超える物に変わった。草から生み出された怪獣だった。長い鼻のような物がついていて、レンズ王国の大広間の壁に描かれたゾウを私に思いださせた。だが、額に目がひとつ、足は六本ついていた。やはり、異形の姿だ。
それが馬車に向かって走り出してくる。すぐにエフセンは馬に向かって鞭をふるった。怪獣が馬車に体当たりをかけようとしていたからだ。馬は勢いをつけて走り出していく。他の騎士たちは馬から降り、馬車の後ろに並び、やってくる草の怪物を阻止することにした。
ふり下ろしてきた鼻をルイスが剣で切り下ろした。切られた鼻は飛んで馬車の屋根の上に落ちていった。だが、スピードをあげていたので、鼻は馬車の上から滑り落ち、草原の中に消えていった。
ロバートは草の怪物の前足を切り裂いた。草の怪物は倒れて転がり出していった。
騎士たちは馬に乗ると走らせ、馬車の後を追った。危険を感じた騎士たちは、馬車に追いついてもスピードを落とさせはしない。そのまま馬車を走らせ続けたのだ。
そのために、私は馬車の中で何度も天井に頭をぶつけることになった。
彼らはカルドの騎士たちだった。
私が不思議に思ったことが、ひとつあった。
最後にきた男は自分の馬に連なるように二頭の馬をつないで引いていたことだ。すぐには分からなかったが、馬車を残してもらうことになると、それに乗ってきた御者や従者二人はライズ王国に戻るためには馬で帰るしかない。そうなると三頭の馬が必要だ。騎士の一人が馬車に乗るとしても、それでは馬一頭に空きが生じるが、他に二頭が足りないことになる。それを補うため、二頭の馬を連れてきたのだった。
カルゾの騎士たちは、馬から降りるとナタ―シャの前に並んだ。
一番最初に、私の前に立ったのは、ナマズのような髭を八の字にたらした男だった。
「ナターシャ様、初めてお目にかかります。私はロバート。騎士隊長をさせていただいております。これから城までの道のりをご同行させていただきます」と言って、背筋を伸ばしてから頭をさげた。
その後、次々と他の騎士たちが、私に挨拶をしていった。
「私はエフセン。ナターシャ様、お見知りおき願います。この後は、私が御者を務めさせていただきます」と言ったのは、一番背が低い男だった。
「私はコリア、お初にお目にかかります。輿入れをしていただく方がこのようにお美しい方とは思っておりませんでした」
コリアはダンディな人らしく女性の扱いも心得ているようだった。髪は黒く天然だろうがカールを巻いていて、目も黒かった。
「私はルイズと申します。以後、お見知りおき願います」
ルイズは背が高く金髪で白い肌をしていた。北欧のバイキングの血が流れているのかもしれない。
「私はワキタ。ナターシャ様、よろしくお願いいたします」
ワキタは肉付きがよく、胸板は普通の人の倍はあろうかと思われる体格をしていた。
騎士たちは、私との挨拶を終えると、今度はライズ王国の警護隊と話をしていた。やがて引継ぎの打ち合わせが終わったのだろう。警備隊の面々は私に別れの挨拶を終えると、御者や従者たちも騎士隊が用意した馬に乗って、ライズ王国に戻っていった。
エフセンが馬車の御者席にすわったのを確かめると、ロバートは手を取り私を馬車に乗せた。その後、ロバートは自分の馬に乗ると「それでは、まいりますぞ」と言って先頭にたち馬を歩かせ出した。
コリアは馬車と並ぶようにして馬を歩かせている。そして、馬に乗ったルイスとワキタは馬車の後ろについていた。
森近くに来た時、馬車の隣で一緒に歩いていたコリアの顔が強張った。
「どうかしたのですか?」と私は聞いた。
「敵が現れたようですよ」と言ったコリアは私のそばから離れない。もし、敵が来たら私を守ろうと考えているのだ。
その間に、三人の騎士たちは馬を走らせて、木々の間から出てきた者に向かっていた。
私は馬車の窓から顔を出して、それを見つめた。
人のように手足がついている。だが、間違いなく人ではない。緑色をして目が四つもあるのだ。
騎士たちの二人は馬の上から切りつけ、隊長のロバートは馬から飛び降りると緑色の者を切り倒していた。切り倒された緑色の者は二ツに分かれた後も蠢いていた。生命力がまだあるのだ。騎士たちは、剣をあげて、頭と思える場所に何度も突き立てていた。
「一体、あれはなんだったのですか?」
「物の怪ですよ」
「物の怪?」
「私どもはこの辺りでも魔人たちと戦っております。物の怪は、倒れた魔人たちの無念や体から切り取られた肉片から産まれた物たちですよ」
「やはり、この辺りでは人が住めないわ」
「いや、私どもは暮していますよ。ナターシャ様」
「どうして、あなたがたは、物の怪を簡単に切り倒すことができるのですか?」
「私たちはクルスタルの力に守られているからですよ」と言って、剣を抜いて、私に見せた。
その剣のつばには、クリスタルがはめ込まれていた。それは私に向かって、挨拶をするかのようにキラリと光っていた。
やがて、草原にやってきた。
すると、草原が大地から浮き上がりだした。それは塊り、馬の背を超える物に変わった。草から生み出された怪獣だった。長い鼻のような物がついていて、レンズ王国の大広間の壁に描かれたゾウを私に思いださせた。だが、額に目がひとつ、足は六本ついていた。やはり、異形の姿だ。
それが馬車に向かって走り出してくる。すぐにエフセンは馬に向かって鞭をふるった。怪獣が馬車に体当たりをかけようとしていたからだ。馬は勢いをつけて走り出していく。他の騎士たちは馬から降り、馬車の後ろに並び、やってくる草の怪物を阻止することにした。
ふり下ろしてきた鼻をルイスが剣で切り下ろした。切られた鼻は飛んで馬車の屋根の上に落ちていった。だが、スピードをあげていたので、鼻は馬車の上から滑り落ち、草原の中に消えていった。
ロバートは草の怪物の前足を切り裂いた。草の怪物は倒れて転がり出していった。
騎士たちは馬に乗ると走らせ、馬車の後を追った。危険を感じた騎士たちは、馬車に追いついてもスピードを落とさせはしない。そのまま馬車を走らせ続けたのだ。
そのために、私は馬車の中で何度も天井に頭をぶつけることになった。
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