呪いで人狼(オオカミ男)になった王の所に嫁いで行くことになった件

矢野 零時

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7カルゾ国の城到着、王との対面

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 背後に山から続いた森があり、前には街を見下ろせる丘の上にカルゾの城があった。城の周りをグルリと高さが三メートルはあろうかと思える塀で囲んでいた。いつどこから攻めてくる者がいるか、分からないからだ。
 城に入るための門は、正門と裏門の二ヶ所作られていて、裏門からは食料や衣料品などを納入してくれる商人たちがもっぱら使っていた。正門は王や騎士たちが出入りをするための門だった。

 馬を走らせ続けたおかげで、日が暮れる前に馬車は城の正門から入ることができた。
 私が馬車から降りると、老齢の男が供の者を連れて私を迎えてくれた。
「ようこそ、わが国においでいただきました。心より歓迎をいたしますぞ。私は執事のリカードでございます。先代の王の頃からお仕えを申し上げております」
「私はナターシャ、これからお世話になります。リチャード様にお会いをしたいのですが、リチャード様はどちらにおいでになりますか?」と、すぐに私は聞いた。
「その前に、お荷物を運ばさせていただきましょう」と言って、リカードは供の者たちに命じて馬車に乗せておいた荷物を運ばせていた。
「これから、リチャード王にお会いしていただくつもりです。まずは歩きながら、お会いする前にお話をしておかなければならないことがございます」
 そう言ったリカードは笑顔で私の前を歩き出した。私は彼の背を見ながら後に続いた。

「ナターシャ様はお忘れかもしれませんが、私は前に一度、あなたと会っているのですよ」
「えっ」
 私はリチャード様と一緒にライズ王国に行ったことがございます。その時に、あなたがリチャード様と親しく話をされた姿を見ておりますよ」
「そうだったのですか」

 城の中に入ると、そこは石造りだった。それぞれの部屋も頑丈で、どこか監獄の部屋を思わせた。
 すぐに、その訳をリカードから聞くことになる。
「隣にゾンド国がある。その国では魔人を雇って、私たちの国を手に入れようと、戦いをしかけてきているのです。魔人の中にアンという魔女がいて、王たちによって倒されました。しかし、相手は魔女。倒れていく中で、王や騎士たちに呪いをかけたのです。その一つが、アンに傷を負わせた者すべてが人狼(オオカミ男)になってしまうという物でございました。その呪いにかかった者は、昼間はよろしいのですが、日が落ちて、夜になったらオオカミに変わってしまうのです。オオカミに変わると、その間何をしたのか、覚えてはいない。そして、人を見れば襲ってしまう。そこで、魔女アンに傷を負わせた者たちを夜は出さないように、それぞれの部屋を頑強な物に作りかえ、戸口に簡単に開けることができない鍵をつけたのでございますよ」
「でも、ここまで案内してくれた騎士たちは私を襲ったりしませんでしたわ」
「そうでしょうな。それは、まだ夜になっておりませんでしたし、騎士たちはクリスタルを身につけているからです」
「じゃ、呪いの心配はもうないじゃありませんか?」
「いやいや、アンはリチャード王にだけ、さらに二つの呪いをかけたのです。その一つは、王の体が腐り出して行くというものです。時間をかけて、王を殺すことを考えたのですな。そのため、王は、自分が滅ぶ前に、跡取りを作りたいと考えたのですよ。あなたに来てもらったのは、王との愛により、子をもうけたいと思ったからです」
 思わず、私はうなずいていた。
「だが、アンはもう一つ恐ろしい呪いをかけたのです。もし、子を作ることができる伴侶が彼に近づくことがあったならば、彼の中にある人狼はよみがえり、伴侶を食い殺してしまうという呪いです」
「それは、本当に恐ろしい呪いですね」
「アンは、王に絶対子孫を残させないつもりなんです。そこで、こんな呪いを思いついたのでしょう」

 やがて、牢のような部屋の前でリカードはとまった。
「リチャード王がおられる場所はここですよ。入りましょうか」
「お願いします」
 リカードは戸口の鍵を差し込んで廻し、ドアを開けた。
 ドアは音をたて開いた。
 部屋の真ん中に玉座がおかれ、その椅子に男がすわっていた。だが、両手、両足は天井から吊るされた鎖につながっていたのだ。
 王の顔は、私が覚えていた幼い頃の面影が残っていた。赤毛の髪が額の前でカールをしていて、額は知的な感じに少しはりだしている。まつげは長く目元が涼しかった。だが、右頬にはぶつぶつと吹き出物が出て、はれ上がっていた。
「リチャード様」と、私は自分でも驚くほど悲しみに満ちた声を出していた。
「ナターシャか。本当によく来てくれた」と言ったリチャードは嬉しそうだった。
 だが、その笑顔はすぐに崩れ出した。
 たちまち、目が吊り上がり、鼻と口先が伸びていった。さらに手足の爪も伸び出していた。
 牙が見えるほど口を大きく開けている。
 叫び声をあげ、私に飛びかかろうとしたのだ。手足に鎖がつながれているので、王はそれ以上私の所にくることができない。
「王よ。ナターシャ様ですぞ」と、リカードは悲し気な声をあげた。
「正気に戻ってくだされ!」
 だが、オオカミになった王は暴れ続ける。
「機会はまだまだございます」と言って、リカードは私の肩に手をおいた。そして、私をこの部屋から出るように促していた。
 されるままに、私は王の部屋をでた。
 私は泣いていた。王は人狼になってから、人であろうとし続けてきた苦しみを知ることができたからだ。
 リカードは私にハンカチを渡しながら、「まずは、ナターシャ様のお部屋にお連れいたしますよ」と言っていた。
 私はうなずく。いつまでも、泣いてはいられない。しっかりしなければならない。
 リカードは歩き出し、私は再び後に続いた。

 やがて、二階への階段をのぼり、そこにある部屋に私を連れて行ってくれた。
 そこは、素晴らしい部屋だった。漆塗りの大きなテーブルを囲むようにソファがおかれ、その部屋に連なるように二つの部屋があった。一つは寝室。もう一つはベランダが付いていて、外に出ると眼下にこの国の町が見えるようになっていた。
「ここは、リチャード様の母君、亡くなられた王妃様が使われていたお部屋です。そこの戸を開けますと、図書室につながっております。王妃様は本がお好きで、図書室に入りいつも本を読まれておりました」
 リカードの話を聞きながら私はうなずき、図書室へのドアをみつめていた。

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