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18許婚出現
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日に三度、朝方、昼すぎ、そして夕餉の後、リチャード王の体に薬を塗る時間は、私の喜びの時だった。前はアンナがやっていたのだが、王がオオカミに変わらないいまは、私にその仕事をゆずってくれていた。
王の部屋に治療用の寝台をおいてもらい、その上で王に横になってもらう。
噴き出物が消え出した王の背は、なめらかでまるで鹿革を思わせた。その背にゴマ油を含んだ薬を手で塗りつけていく。薬の冷たさが心地いい。背を塗り終わった後は、前を向いてもらう。胸に出ていた吹き出物は消えたのだが、その後が斑点になって残っている。その上には、何度も薬を重ねて塗っていた。腕や足は、張り出した筋肉をなぞるように薬を塗った。顔では顎から首にかけて、斑点がまだついていて、そこに薬を塗ると、王はくすぐったそうに笑っている。
塗った後、薄い絹布で余分な油分を残さないように体全体をもう一度拭き取るのだった。
「もう、少しだな」と、王は部屋に持ち込んだ大鏡に自分の姿をうつして見ていた。その後、下着をつけガウンを羽織った。
王は、自分の体から吹き出物がなくなり、きれいになった時が、私と結婚できる時だと決めていたのだ。
そう思っている王は、私との正式な結婚式はどのようにするか話を初めていた。当日にはどのような料理にするのか、その日を祝うためのワインは遠くの国からとりよせようと言ってくれた。さらに、私が着ることになるウエディングドレスは、どんな服にしたいか、私に希望を言わせ、それを仕立てるために著名な服飾屋を呼び寄せる話もしていた。
結婚式をあげることよりも、その前に、それを夢見ることの方が、どんなに楽しいことで嬉しいことであるか、私は知り、喜びに満ちていた。
王の間で、私と王が、夢見る結婚の話をしていた時だった。
ドアが開き、二人の女が入ってきた。一人は私の母と同じくらいの年齢。もう一人は私と変わらない歳のようだった。その二人は、きちんとした服装。正装と言えるドレスを着て肩を隠すストールを羽織っていた。
私には見たことも無い人たちだ。だが、顔色を変えた王は知っている者のようだった。
「突然おいでになったが、どうかなされたのですかな?」と、王はよそよそしい言い方をしていた。
「何を言っていらしゃる。ロナジ家のリデをお忘れですか? それよりも、お亡くなりになられた王が私の父イダルと交わしたリチャード様とマリーナが結婚をするとしたお約束を忘れたというのですか?」
そう言いながら、リデは、自分の娘、私と変わらない年齢の女を王の前に立たせた。
私はその女がマリーナという名前であることを知ることになった。
すると、王は笑い声をたてた。
「リデよ。私が人狼となる呪いにかかったことを知ったあなたは、人でない者と結婚ができるわけがない。オオカミとの婚約は解消いたしますわと言って、出ていかれたではありませんか。いまさら、何を言っているのですか?」
「お母様、リチャード様がこんなこと言っておりますわ」と言って、マリーナはリデの方に顔を向けた。
「あの頃の王は、具合が悪かったので、私たちがどのようなことを言っていたのか、よく覚えてはいないのですよ。私どもは王のお体が良くなるまで、少し距離をおいて離れてみたいと言っただけですわ」
「何を言っている。ちゃんと覚えておりますぞ」と言って、王は顔をゆがめた。
「それに、そもそも、その時と事情が変わっておりますわ。今はリチャード様も病気は治られ健康になられております。そうなれば婚約は再会をしたのと同じですよ」
言いたいことを言い続けたリデは目の前にいる私に気がついた。いや、本当は気づいていたのだろうが、気づかぬふりをしていたのだ。
「こちらにおられる方はどなたかしら?」
「今こそ言おう。そこにいるナターシャこそ。私の妻となるべき者じゃ」と、リチャード王は声を大きくした。
「こちらは、側女の方。正室であるマリーナの世話をよろしくお願いいたしますわ」
「そんな者ではありませんわ。リチャード様、この場は失礼をいたします」
「あら、侍女の方でしたか。ちゃんと世話をしていただかなければなりませんわ」
私は王に向かって頭をさげると、くるりとうしろを向き、王の間を後にした。
残された王はレンズ国王の命令書を二人に見せた。すると、リデは大笑いをしたのだ。
「そこには、正室にするとの確約はされておりませんわ」
「いい方の問題だけだぞ。ならば、レンズ国王に確認の文を送ってみる。それではっきりさせることができよう」
すぐに、王はリカードを呼び寄せ、彼に確認のための照会文を作らせ、騎士のエフセンに持たせてレンズ国に早馬を走らせたのだった。
だが、そんな話を聞いてもリデは涼しい顔をしていた。
「証拠となる物でしたら、私も持っておりますのよ」と言って、リデは、リチャードの父とイダルの間で交わしたリチャードとマリーナとの婚約締結書を出して見せたのだ。
「いかがですか。マリーナは間違いなくあなたの許婚ですわ」
王が苦虫をかみつぶしたような顔をして、婚約締結書を見ているそばで、リデは声高に笑い声をあげていた。
王の部屋に治療用の寝台をおいてもらい、その上で王に横になってもらう。
噴き出物が消え出した王の背は、なめらかでまるで鹿革を思わせた。その背にゴマ油を含んだ薬を手で塗りつけていく。薬の冷たさが心地いい。背を塗り終わった後は、前を向いてもらう。胸に出ていた吹き出物は消えたのだが、その後が斑点になって残っている。その上には、何度も薬を重ねて塗っていた。腕や足は、張り出した筋肉をなぞるように薬を塗った。顔では顎から首にかけて、斑点がまだついていて、そこに薬を塗ると、王はくすぐったそうに笑っている。
塗った後、薄い絹布で余分な油分を残さないように体全体をもう一度拭き取るのだった。
「もう、少しだな」と、王は部屋に持ち込んだ大鏡に自分の姿をうつして見ていた。その後、下着をつけガウンを羽織った。
王は、自分の体から吹き出物がなくなり、きれいになった時が、私と結婚できる時だと決めていたのだ。
そう思っている王は、私との正式な結婚式はどのようにするか話を初めていた。当日にはどのような料理にするのか、その日を祝うためのワインは遠くの国からとりよせようと言ってくれた。さらに、私が着ることになるウエディングドレスは、どんな服にしたいか、私に希望を言わせ、それを仕立てるために著名な服飾屋を呼び寄せる話もしていた。
結婚式をあげることよりも、その前に、それを夢見ることの方が、どんなに楽しいことで嬉しいことであるか、私は知り、喜びに満ちていた。
王の間で、私と王が、夢見る結婚の話をしていた時だった。
ドアが開き、二人の女が入ってきた。一人は私の母と同じくらいの年齢。もう一人は私と変わらない歳のようだった。その二人は、きちんとした服装。正装と言えるドレスを着て肩を隠すストールを羽織っていた。
私には見たことも無い人たちだ。だが、顔色を変えた王は知っている者のようだった。
「突然おいでになったが、どうかなされたのですかな?」と、王はよそよそしい言い方をしていた。
「何を言っていらしゃる。ロナジ家のリデをお忘れですか? それよりも、お亡くなりになられた王が私の父イダルと交わしたリチャード様とマリーナが結婚をするとしたお約束を忘れたというのですか?」
そう言いながら、リデは、自分の娘、私と変わらない年齢の女を王の前に立たせた。
私はその女がマリーナという名前であることを知ることになった。
すると、王は笑い声をたてた。
「リデよ。私が人狼となる呪いにかかったことを知ったあなたは、人でない者と結婚ができるわけがない。オオカミとの婚約は解消いたしますわと言って、出ていかれたではありませんか。いまさら、何を言っているのですか?」
「お母様、リチャード様がこんなこと言っておりますわ」と言って、マリーナはリデの方に顔を向けた。
「あの頃の王は、具合が悪かったので、私たちがどのようなことを言っていたのか、よく覚えてはいないのですよ。私どもは王のお体が良くなるまで、少し距離をおいて離れてみたいと言っただけですわ」
「何を言っている。ちゃんと覚えておりますぞ」と言って、王は顔をゆがめた。
「それに、そもそも、その時と事情が変わっておりますわ。今はリチャード様も病気は治られ健康になられております。そうなれば婚約は再会をしたのと同じですよ」
言いたいことを言い続けたリデは目の前にいる私に気がついた。いや、本当は気づいていたのだろうが、気づかぬふりをしていたのだ。
「こちらにおられる方はどなたかしら?」
「今こそ言おう。そこにいるナターシャこそ。私の妻となるべき者じゃ」と、リチャード王は声を大きくした。
「こちらは、側女の方。正室であるマリーナの世話をよろしくお願いいたしますわ」
「そんな者ではありませんわ。リチャード様、この場は失礼をいたします」
「あら、侍女の方でしたか。ちゃんと世話をしていただかなければなりませんわ」
私は王に向かって頭をさげると、くるりとうしろを向き、王の間を後にした。
残された王はレンズ国王の命令書を二人に見せた。すると、リデは大笑いをしたのだ。
「そこには、正室にするとの確約はされておりませんわ」
「いい方の問題だけだぞ。ならば、レンズ国王に確認の文を送ってみる。それではっきりさせることができよう」
すぐに、王はリカードを呼び寄せ、彼に確認のための照会文を作らせ、騎士のエフセンに持たせてレンズ国に早馬を走らせたのだった。
だが、そんな話を聞いてもリデは涼しい顔をしていた。
「証拠となる物でしたら、私も持っておりますのよ」と言って、リデは、リチャードの父とイダルの間で交わしたリチャードとマリーナとの婚約締結書を出して見せたのだ。
「いかがですか。マリーナは間違いなくあなたの許婚ですわ」
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