呪いで人狼(オオカミ男)になった王の所に嫁いで行くことになった件

矢野 零時

文字の大きさ
24 / 27

24亡霊

しおりを挟む
 次の日の朝、私はいつものようにリチャード王の体に薬を塗りに行った。
 その時に竜山に私も同行をさせていただきたいと言ってみた。
 すると「そう言うと思っていた。わしらは一緒じゃ」と言って、王は笑って同行を認めてくれた。

 王について、宮殿を出ると、すでに馬が四頭用意され、二人の者が待機していた。ひとりは騎士ルイズ、もうひとりは下男で調理人のサブだった。サブが選ばれたのは、私と一緒に泥棒市場に行って、占いの言葉も聞いていたからだ。
 私たちが馬に乗ると、ルイズは先に立って馬を歩かせ出し、次に王と私が続き、サブは私たちの後に続いた。サブの馬には料理を作る材料と道具、それに水が積まれていた。

 城を出て一時間もすると登山口についた。この先は馬で登ることはできない。近くにある木に馬をつなぐと、四人は歩いて山を登り出した。サブは馬にのせてきた荷物をリュックにいれて背負っていた。坂は急になり、前かがみでしか歩けなくなっていく。やがて、平坦な所に出ると、あたりは霧におおわれていた。

「どうやら、頂にはついたようでござるな」とルイズが言った。
「だが、こんなに霧が深くては何も見えん」と言って、王は顔を私の方に向けた。こんな近くに顔をよせられると、思わずどきどきする。王の掘りの深い顏は、やはり美しいと思ってしまう。
「頂の端は崖になっていると思われますので、ご注意してください」と、ルイズがみんなに聞こえるように大声を出していた。
「分かったわ。気をつけるわよ」と言った私は方向を何度も変えて、すり足で歩いてみる。だが、ちゃんと探せているかどうか分からない。王も同じことをしているはずだが、ぶつかりあうこともない。もしかしたら、同じ所を行ったり来たりしているだけかもしれない。

「場所がわかるように、わしがここで火を起こしてみます。霧の中でも火の赤い色はよく見えるので、目印になると思いますよ。どうせ、昼のために食事の用意をする必要がありますので」
 サブは、そう言って集めてきた枯草と灌木に火をつけた。火は煙を起こし空気を上に登らせ出したのだ。すると、霧が薄れ出し、頂上をしるす墓標が見え出した。
「こんな所に」と言って、王は墓標に近づき墓標の前に立った。

「リア王様、お知恵とお力をお借りいたしたくて、やってまいりました。どうぞ、お姿をおしめしください」

 すると、霧の中に人影が見え出し、それがリチャード王の方に近づいてきた。
 その姿は王冠をかぶり、背に赤いマントをはおり、腰に剣もさしていた。
「リア王様、リア王様でございますね」
「リチャード王。よくぞ、私を訪ねてきてくだされた。そちも、私と同じに魔人と戦い続けてくれる者、よく存じておりますぞ。この世界から魔人を追い出さなければ、真の人の世を作ることはできない」
「ご理解をいただき、有難うございます。しかし、今相手にしている魔人は強く、一度倒したはずなのに、ふたたび蘇ってきております。それも今度は口を二つ持つ怪物に生まれ変わっている。このままでは、また私は呪いをかけられてしまいます。なにとぞ、それを防ぐ力をお与えください」
「リチャード王よ。私に向けて剣を差し出しなさい」
 言われるままに、リチャード王は腰から剣を抜いて、リア王の方に向けた。すると、リア王は右手をあげて、リチャード王の剣の柄の上にかざした。
 すると、剣につけられたクリスタルが光り出したのだ。光りながらクリスタルは紫色になっていた。
「おう、わが剣のクリスタルはパープルクリスタルに変わりましたぞ」
「リチャード王よ。必ず、魔人に勝ってくだされ。そして、魔人たちがやってくることができる魔界とつながっている穴をふさいでくだされ。その穴はゾンド国の中にある」
「リア王よ。必ず魔人に勝って、魔界に通じる穴をふさいで見せますぞ」
 すると、リア王は嬉しそうに笑った。

「頼みましたぞ」と言ったリア王は、突然砂になったように崩れ出していた。やがて、リア王から生まれた黒いチリは吹いている風に飛んで消えていった。
「不思議ですわ。霧が薄れ出していく」と、私が声をあげた。
「たしかに、霧が消えていく」と、王も顔を上げていた。青い空が見え出していたからだ。

 すると、サブは火の始末を始めたのだ。
「何もなければ、ここで食事をされるのでしょうが、皆様はそんなことを望んでおられない。一刻も早く、城に戻りたいと思われているのでは」と言ってサブはにやりと笑った。
「察しのいい男じゃのう」と、王もまた笑っていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

処理中です...