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24亡霊
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次の日の朝、私はいつものようにリチャード王の体に薬を塗りに行った。
その時に竜山に私も同行をさせていただきたいと言ってみた。
すると「そう言うと思っていた。わしらは一緒じゃ」と言って、王は笑って同行を認めてくれた。
王について、宮殿を出ると、すでに馬が四頭用意され、二人の者が待機していた。ひとりは騎士ルイズ、もうひとりは下男で調理人のサブだった。サブが選ばれたのは、私と一緒に泥棒市場に行って、占いの言葉も聞いていたからだ。
私たちが馬に乗ると、ルイズは先に立って馬を歩かせ出し、次に王と私が続き、サブは私たちの後に続いた。サブの馬には料理を作る材料と道具、それに水が積まれていた。
城を出て一時間もすると登山口についた。この先は馬で登ることはできない。近くにある木に馬をつなぐと、四人は歩いて山を登り出した。サブは馬にのせてきた荷物をリュックにいれて背負っていた。坂は急になり、前かがみでしか歩けなくなっていく。やがて、平坦な所に出ると、あたりは霧におおわれていた。
「どうやら、頂にはついたようでござるな」とルイズが言った。
「だが、こんなに霧が深くては何も見えん」と言って、王は顔を私の方に向けた。こんな近くに顔をよせられると、思わずどきどきする。王の掘りの深い顏は、やはり美しいと思ってしまう。
「頂の端は崖になっていると思われますので、ご注意してください」と、ルイズがみんなに聞こえるように大声を出していた。
「分かったわ。気をつけるわよ」と言った私は方向を何度も変えて、すり足で歩いてみる。だが、ちゃんと探せているかどうか分からない。王も同じことをしているはずだが、ぶつかりあうこともない。もしかしたら、同じ所を行ったり来たりしているだけかもしれない。
「場所がわかるように、わしがここで火を起こしてみます。霧の中でも火の赤い色はよく見えるので、目印になると思いますよ。どうせ、昼のために食事の用意をする必要がありますので」
サブは、そう言って集めてきた枯草と灌木に火をつけた。火は煙を起こし空気を上に登らせ出したのだ。すると、霧が薄れ出し、頂上をしるす墓標が見え出した。
「こんな所に」と言って、王は墓標に近づき墓標の前に立った。
「リア王様、お知恵とお力をお借りいたしたくて、やってまいりました。どうぞ、お姿をおしめしください」
すると、霧の中に人影が見え出し、それがリチャード王の方に近づいてきた。
その姿は王冠をかぶり、背に赤いマントをはおり、腰に剣もさしていた。
「リア王様、リア王様でございますね」
「リチャード王。よくぞ、私を訪ねてきてくだされた。そちも、私と同じに魔人と戦い続けてくれる者、よく存じておりますぞ。この世界から魔人を追い出さなければ、真の人の世を作ることはできない」
「ご理解をいただき、有難うございます。しかし、今相手にしている魔人は強く、一度倒したはずなのに、ふたたび蘇ってきております。それも今度は口を二つ持つ怪物に生まれ変わっている。このままでは、また私は呪いをかけられてしまいます。なにとぞ、それを防ぐ力をお与えください」
「リチャード王よ。私に向けて剣を差し出しなさい」
言われるままに、リチャード王は腰から剣を抜いて、リア王の方に向けた。すると、リア王は右手をあげて、リチャード王の剣の柄の上にかざした。
すると、剣につけられたクリスタルが光り出したのだ。光りながらクリスタルは紫色になっていた。
「おう、わが剣のクリスタルはパープルクリスタルに変わりましたぞ」
「リチャード王よ。必ず、魔人に勝ってくだされ。そして、魔人たちがやってくることができる魔界とつながっている穴をふさいでくだされ。その穴はゾンド国の中にある」
「リア王よ。必ず魔人に勝って、魔界に通じる穴をふさいで見せますぞ」
すると、リア王は嬉しそうに笑った。
「頼みましたぞ」と言ったリア王は、突然砂になったように崩れ出していた。やがて、リア王から生まれた黒いチリは吹いている風に飛んで消えていった。
「不思議ですわ。霧が薄れ出していく」と、私が声をあげた。
「たしかに、霧が消えていく」と、王も顔を上げていた。青い空が見え出していたからだ。
すると、サブは火の始末を始めたのだ。
「何もなければ、ここで食事をされるのでしょうが、皆様はそんなことを望んでおられない。一刻も早く、城に戻りたいと思われているのでは」と言ってサブはにやりと笑った。
「察しのいい男じゃのう」と、王もまた笑っていた。
その時に竜山に私も同行をさせていただきたいと言ってみた。
すると「そう言うと思っていた。わしらは一緒じゃ」と言って、王は笑って同行を認めてくれた。
王について、宮殿を出ると、すでに馬が四頭用意され、二人の者が待機していた。ひとりは騎士ルイズ、もうひとりは下男で調理人のサブだった。サブが選ばれたのは、私と一緒に泥棒市場に行って、占いの言葉も聞いていたからだ。
私たちが馬に乗ると、ルイズは先に立って馬を歩かせ出し、次に王と私が続き、サブは私たちの後に続いた。サブの馬には料理を作る材料と道具、それに水が積まれていた。
城を出て一時間もすると登山口についた。この先は馬で登ることはできない。近くにある木に馬をつなぐと、四人は歩いて山を登り出した。サブは馬にのせてきた荷物をリュックにいれて背負っていた。坂は急になり、前かがみでしか歩けなくなっていく。やがて、平坦な所に出ると、あたりは霧におおわれていた。
「どうやら、頂にはついたようでござるな」とルイズが言った。
「だが、こんなに霧が深くては何も見えん」と言って、王は顔を私の方に向けた。こんな近くに顔をよせられると、思わずどきどきする。王の掘りの深い顏は、やはり美しいと思ってしまう。
「頂の端は崖になっていると思われますので、ご注意してください」と、ルイズがみんなに聞こえるように大声を出していた。
「分かったわ。気をつけるわよ」と言った私は方向を何度も変えて、すり足で歩いてみる。だが、ちゃんと探せているかどうか分からない。王も同じことをしているはずだが、ぶつかりあうこともない。もしかしたら、同じ所を行ったり来たりしているだけかもしれない。
「場所がわかるように、わしがここで火を起こしてみます。霧の中でも火の赤い色はよく見えるので、目印になると思いますよ。どうせ、昼のために食事の用意をする必要がありますので」
サブは、そう言って集めてきた枯草と灌木に火をつけた。火は煙を起こし空気を上に登らせ出したのだ。すると、霧が薄れ出し、頂上をしるす墓標が見え出した。
「こんな所に」と言って、王は墓標に近づき墓標の前に立った。
「リア王様、お知恵とお力をお借りいたしたくて、やってまいりました。どうぞ、お姿をおしめしください」
すると、霧の中に人影が見え出し、それがリチャード王の方に近づいてきた。
その姿は王冠をかぶり、背に赤いマントをはおり、腰に剣もさしていた。
「リア王様、リア王様でございますね」
「リチャード王。よくぞ、私を訪ねてきてくだされた。そちも、私と同じに魔人と戦い続けてくれる者、よく存じておりますぞ。この世界から魔人を追い出さなければ、真の人の世を作ることはできない」
「ご理解をいただき、有難うございます。しかし、今相手にしている魔人は強く、一度倒したはずなのに、ふたたび蘇ってきております。それも今度は口を二つ持つ怪物に生まれ変わっている。このままでは、また私は呪いをかけられてしまいます。なにとぞ、それを防ぐ力をお与えください」
「リチャード王よ。私に向けて剣を差し出しなさい」
言われるままに、リチャード王は腰から剣を抜いて、リア王の方に向けた。すると、リア王は右手をあげて、リチャード王の剣の柄の上にかざした。
すると、剣につけられたクリスタルが光り出したのだ。光りながらクリスタルは紫色になっていた。
「おう、わが剣のクリスタルはパープルクリスタルに変わりましたぞ」
「リチャード王よ。必ず、魔人に勝ってくだされ。そして、魔人たちがやってくることができる魔界とつながっている穴をふさいでくだされ。その穴はゾンド国の中にある」
「リア王よ。必ず魔人に勝って、魔界に通じる穴をふさいで見せますぞ」
すると、リア王は嬉しそうに笑った。
「頼みましたぞ」と言ったリア王は、突然砂になったように崩れ出していた。やがて、リア王から生まれた黒いチリは吹いている風に飛んで消えていった。
「不思議ですわ。霧が薄れ出していく」と、私が声をあげた。
「たしかに、霧が消えていく」と、王も顔を上げていた。青い空が見え出していたからだ。
すると、サブは火の始末を始めたのだ。
「何もなければ、ここで食事をされるのでしょうが、皆様はそんなことを望んでおられない。一刻も早く、城に戻りたいと思われているのでは」と言ってサブはにやりと笑った。
「察しのいい男じゃのう」と、王もまた笑っていた。
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