愛のライオン・ポポ

矢野 零時

文字の大きさ
上 下
1 / 6

1おもいで

しおりを挟む
 ライオンのポポは、ヒルサイド動物園で生まれました。お母さんライオンは、ポポが生まれると、すぐに乳を与えてくれ、ポポの側にきては毛づくろいもしてくれます。ポポも、ねむる時はお母さんライオンの柔らかいお腹の下に入って寝ていました。
「どうして、ぼくはお母さんと一緒にいるとおだやかで幸せな気持ちになれるんだろう?」
「それは、お母さんがポポを愛しているからですよ」
「そうだ。お父さんもいたような気がしたけど」
 思わず、顔をあげて、お父さんライオンの匂いをさがしてしまいました。

 少し前、ポポの目が開いて、やっと見えるようになったころのことです。
 高い岩場の上にすわっている、たてがみのあるライオンの記憶がありました。そのライオンは、岩場でいつも遠くの方を見つめていたのでした。この動物園はこの町の丘の上にあって、眼下に家々が並んでいるのが見え、さらにその先には海も見えています。
 
「覚えているのかい?そうね、お父さんはいましたよ」
 お母さんライオンに言われて、ポポは、岩場にいたライオンにやさしい瞳でみつめられていたことを思い出していました。飼育員のエズレさんが持ってきてくれたお肉も、そのライオンは、かんで柔らくしてからポポの前に置いてくれたのでした。
「でも、今はお父さん、いないね?」

 お母さんライオンはため息を一つついてから話しだしました。
「それはね。どうしてもライオンが欲しいという、よその動物園があってね。そこにもらわれて行ってしまったの。それに、この動物園も経営をしていくのがたいへんだったらしいわ。そう、人間がよくいうお金が欲しかったらしいのよ」
「じゃ、お父さんは、しかたなく行ってしまったんだ」
「そうよ。お父さんも本当はポポと離れたくはなかったの。ポポのことを、ほんとうに愛していましたからね」
 そう言ってお母さんライオンは微笑みかけてくれました。
「そうか、お父さんも、お母さんと同じにぼくを愛してくれているんだ」
 ポポは顔をあげて、鼻を風にむけました。どこからか、お父さんライオンのにおいがしてくるような気がしたからです。そして、お父さんライオンのにおいを思い出すことできたのです。
「これだ。お父さんのにおいだ」
 ポポは元気がわいてきて、思わずライオン広場の中を走り回ってしまいました。そんなポポを見ながら、お母さんライオンは少しだけ口を開けて、笑っていました。
 
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...