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5 囮(おとり)
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その日の午前10時頃。俺は刑事課にいて、机を前にしていた。俺だって、たまに字を書くことがある。報告書の作成だ。口をきくことも少なくなった相方、相馬がトイレに立っていった。
そんな時に、大和がやってきた。もしかしたら、相馬が席を立ったのを見て、やってきたのかもしれない。そして、小声で話をし出した。
「コンビニ強盗犯の安井春雄。逃げまわったときに、拳銃の音を聞いたと言っているようなんだ」
「えっ、本当ですか?」
「それで、池をさらわせてみた」
ただ、黙って聞くしかない。
「すると、こんな物が出てきた」
そう言って、大和はビニール袋に入れた銃弾を俺に見せた。
「この銃弾だけでは、どの拳銃から放たれたものかは分からない。だが、警察用拳銃から発射することができる口径だよ」
「えっ、本当ですか。ところで、それをどうされるんですか?」
「いや、何もしない。今回のコンビニ強盗とは何の関係もないからね。捜査中に池から見つけた異物として、科捜研に預けておくつもりだよ」
そう言った大和は片眉を上げて見せると、刑事課の部屋から出て行った。
ふたたび、品田町にある住宅街の東地区に空き巣が2件起きた。そこは同じ住宅地だが、今までとは反対側で想定をしていない場所だった。マスコミは署長の青山に会いに来て警察の対応が遅いと非難を始めた。すぐに署長は刑事課長の渡辺を呼びつけ、早急に逮捕をするように命じたのだ。さっそく渡辺は課員を会議室に集め、犯人逮捕への激を行った。強行犯係から、本来の業務でない仕事をさせられるので不満の声があがっていた。
それでも、とりあえず明日から刑事課全員参加で、住宅街をパトロールして回ることになった。俺は空き巣がすでに入っていて犯人が現れそうもない西地区の方をパトロールしたいと申し出た。そこは手柄をたてられそうもない場所だったから、すぐに認められた。もちろん、相棒の相馬は不満げであった。
俺がそこを選んだのは、そこに小公園がたくさんあるからだ。小公園の中に入り込めば、どこからでも俺を狙うことができる。どちらにしても、俺を殺したがった奴らは、俺が生きていることが気に食わないはずだ。隙をつくってやれば、もう一度襲ってくる。今度は、撃たれた時に撃った奴の正体を見てやるつもりでいる。だが、それは自分の命をかける方法だった。
それを考えた時、俺の侵入者が声をあげた。
(リュックに生肉を10キロ入れて、持って歩け)
侵入者は自分で思ったとおりに俺にさせようとしている。それに逆らう力は俺になかった。すぐに、俺は、まるで主婦のように、二十四時間営業のスーパーに行って生肉を買い、それを400グラム二切れと200グラム一切れに切り分けてもらい家の冷蔵庫の中に入れておいた。
次の日、俺は侵入者の言うままに、10キロの生肉を入れたリュックを背負い、パトカーに乗り込んだ。同僚の中には、そのスタイルに怪訝そうな顔をしている者もいたが、それを気にするわけにはいかない。
担当地区でパトカーから降ろされると、すぐに俺は相方の相馬と別れて別々にパトロールすることを申し出た。その案は中島公園では相馬が言い出していたやり方だ。反対をすることなどできるわけがない。相馬と反対方向、小公園のある地区に向かって俺は歩き出していった。
まずは住宅街を歩きまわった。真昼の街は太陽が真上に出ているせいか、道路は乾ききって白くさえ見える。もし空き巣と思える者がいたら、もちろん追いかけるつもりでいた。しかし、そんな姿はどこにも見つけることができなかったのだ。そのうちに、俺は小公園に来てしまっていた。
小公園は、ブランコや砂場、それにシーソーがあるだけの小さな公園だった。その中に入り、周りにある住宅を見まわした。誰かが俺を狙っているとしたら、こんなチャンスはないはずだ。だが、そんな人影は見えない。
やはり、無駄だったかと思い出した時に、プシュ―と音がした。胸が狙われたのだ。俺はリュックを背にしたままで倒れていた。まるでカメだ。遠くから狙えるライフルで撃たれたのだ。それも消音器つきのライフルだった。
俺の意識が薄れ出していく。間違いなく心臓をぶち抜かれていた。今度こそ死んでしまうのか?
誰かが、近づいてくる足音がした。俺の背にあるリュックを見下ろしているようだ。俺が見えるのは靴だけだった。死ぬにしても、犯人の顔だけは見たい。そう思った途端、男は足で俺を転がして、ひっくり返した。顔を上に向けてくれたのだ。おかげで俺は背おっていたリュックの上に載せられたような形になっていた。
「間違いないな。ちゃんと心臓をぶち抜いた。谷口組の者と会っているところなど見られてしまっては、こうするしかないさ」
その声は、暴対課の丸山だった。俺は薄目を開けていた。丸山はまだ俺の心臓の上を見ていた。遠くから、声がかかった。
「死んでいるなら、早くここを後にしようや」
その声にも俺は聞き覚えがあった。しかし、その時は誰だかは思い当ることはできないでいた。やがて丸山たちの足音が遠くなり出していった。
俺は動くことができなくなっていたが、侵入者はすでに動き出していた。リュックに開いた穴から侵入者は触手を作って入り込み、そこにある肉を溶かし、アミノ酸に分解して心臓に送り込み、心臓の修復を始めたのだ。それが終わると、他に壊されている組織も作り直していった。そして、最後に血管を元に戻し、直した血管に血を流し出した。
この公園に幼子をつれて、一人の母親が入ってきた。しかし、ひっくり返されたカメのように背中のリュックを下にして寝ている俺を見て驚いていた。
「ごめんね。ごめんね。驚かしてしまって」
そう言って、俺は体に反動をつけて、立ちあがった。俺が起き上がると、親子はほっとしたような顔をしている。そんな二人に俺は軽く頭をさげて、小公園を後にした。
そんな時に、大和がやってきた。もしかしたら、相馬が席を立ったのを見て、やってきたのかもしれない。そして、小声で話をし出した。
「コンビニ強盗犯の安井春雄。逃げまわったときに、拳銃の音を聞いたと言っているようなんだ」
「えっ、本当ですか?」
「それで、池をさらわせてみた」
ただ、黙って聞くしかない。
「すると、こんな物が出てきた」
そう言って、大和はビニール袋に入れた銃弾を俺に見せた。
「この銃弾だけでは、どの拳銃から放たれたものかは分からない。だが、警察用拳銃から発射することができる口径だよ」
「えっ、本当ですか。ところで、それをどうされるんですか?」
「いや、何もしない。今回のコンビニ強盗とは何の関係もないからね。捜査中に池から見つけた異物として、科捜研に預けておくつもりだよ」
そう言った大和は片眉を上げて見せると、刑事課の部屋から出て行った。
ふたたび、品田町にある住宅街の東地区に空き巣が2件起きた。そこは同じ住宅地だが、今までとは反対側で想定をしていない場所だった。マスコミは署長の青山に会いに来て警察の対応が遅いと非難を始めた。すぐに署長は刑事課長の渡辺を呼びつけ、早急に逮捕をするように命じたのだ。さっそく渡辺は課員を会議室に集め、犯人逮捕への激を行った。強行犯係から、本来の業務でない仕事をさせられるので不満の声があがっていた。
それでも、とりあえず明日から刑事課全員参加で、住宅街をパトロールして回ることになった。俺は空き巣がすでに入っていて犯人が現れそうもない西地区の方をパトロールしたいと申し出た。そこは手柄をたてられそうもない場所だったから、すぐに認められた。もちろん、相棒の相馬は不満げであった。
俺がそこを選んだのは、そこに小公園がたくさんあるからだ。小公園の中に入り込めば、どこからでも俺を狙うことができる。どちらにしても、俺を殺したがった奴らは、俺が生きていることが気に食わないはずだ。隙をつくってやれば、もう一度襲ってくる。今度は、撃たれた時に撃った奴の正体を見てやるつもりでいる。だが、それは自分の命をかける方法だった。
それを考えた時、俺の侵入者が声をあげた。
(リュックに生肉を10キロ入れて、持って歩け)
侵入者は自分で思ったとおりに俺にさせようとしている。それに逆らう力は俺になかった。すぐに、俺は、まるで主婦のように、二十四時間営業のスーパーに行って生肉を買い、それを400グラム二切れと200グラム一切れに切り分けてもらい家の冷蔵庫の中に入れておいた。
次の日、俺は侵入者の言うままに、10キロの生肉を入れたリュックを背負い、パトカーに乗り込んだ。同僚の中には、そのスタイルに怪訝そうな顔をしている者もいたが、それを気にするわけにはいかない。
担当地区でパトカーから降ろされると、すぐに俺は相方の相馬と別れて別々にパトロールすることを申し出た。その案は中島公園では相馬が言い出していたやり方だ。反対をすることなどできるわけがない。相馬と反対方向、小公園のある地区に向かって俺は歩き出していった。
まずは住宅街を歩きまわった。真昼の街は太陽が真上に出ているせいか、道路は乾ききって白くさえ見える。もし空き巣と思える者がいたら、もちろん追いかけるつもりでいた。しかし、そんな姿はどこにも見つけることができなかったのだ。そのうちに、俺は小公園に来てしまっていた。
小公園は、ブランコや砂場、それにシーソーがあるだけの小さな公園だった。その中に入り、周りにある住宅を見まわした。誰かが俺を狙っているとしたら、こんなチャンスはないはずだ。だが、そんな人影は見えない。
やはり、無駄だったかと思い出した時に、プシュ―と音がした。胸が狙われたのだ。俺はリュックを背にしたままで倒れていた。まるでカメだ。遠くから狙えるライフルで撃たれたのだ。それも消音器つきのライフルだった。
俺の意識が薄れ出していく。間違いなく心臓をぶち抜かれていた。今度こそ死んでしまうのか?
誰かが、近づいてくる足音がした。俺の背にあるリュックを見下ろしているようだ。俺が見えるのは靴だけだった。死ぬにしても、犯人の顔だけは見たい。そう思った途端、男は足で俺を転がして、ひっくり返した。顔を上に向けてくれたのだ。おかげで俺は背おっていたリュックの上に載せられたような形になっていた。
「間違いないな。ちゃんと心臓をぶち抜いた。谷口組の者と会っているところなど見られてしまっては、こうするしかないさ」
その声は、暴対課の丸山だった。俺は薄目を開けていた。丸山はまだ俺の心臓の上を見ていた。遠くから、声がかかった。
「死んでいるなら、早くここを後にしようや」
その声にも俺は聞き覚えがあった。しかし、その時は誰だかは思い当ることはできないでいた。やがて丸山たちの足音が遠くなり出していった。
俺は動くことができなくなっていたが、侵入者はすでに動き出していた。リュックに開いた穴から侵入者は触手を作って入り込み、そこにある肉を溶かし、アミノ酸に分解して心臓に送り込み、心臓の修復を始めたのだ。それが終わると、他に壊されている組織も作り直していった。そして、最後に血管を元に戻し、直した血管に血を流し出した。
この公園に幼子をつれて、一人の母親が入ってきた。しかし、ひっくり返されたカメのように背中のリュックを下にして寝ている俺を見て驚いていた。
「ごめんね。ごめんね。驚かしてしまって」
そう言って、俺は体に反動をつけて、立ちあがった。俺が起き上がると、親子はほっとしたような顔をしている。そんな二人に俺は軽く頭をさげて、小公園を後にした。
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