刑事殺し・トラブル・ 抗争の渦

矢野 零時

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9残務

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「どうなっているんだ。これは?」
 成宮の大声で俺は眼をさました。俺の眼には、ステンドグラスがはまった天窓が目に入ってくる。美しいが天国ではなさそうだ。眼をさげると成宮が俺の傷を見ていた。
「多量の血が出る傷を負っていたはずだ。それに、あんたの体から、どうして銃弾が押し出されているんだ?」
 そう言って、成宮は俺に血で濡れた銃弾を見せた。俺は手で自分の腹をさわった。すでに傷はふさがっていた。
「脳震盪をおこしていたらしい」と言って俺は立ち上がった。
「そんな馬鹿なことがあるのか?」
「そちらの用心棒さんはどうかね?」
「頭を撃たれてしまっていた。どうやっても助けることはできなかった」
「そうだ。雨野はどうだった?」
「大丈夫だ。動脈血管を縫い終えてある。絶対に彼を殺させやしないよ」
 そう言った成宮は眼を細めていた。
「そりゃ、よかった」
 俺はもう普通の俺に戻っている。片手をあげ、雨野の住居を見まわした。大きな窓が南側にはめ込まれ、アジサイが咲く中庭が見えていた。
 俺は山田のいる病室にいくと、暗い顔をした高野が立っていた。
「あんたの相棒が殺されてたよ」
 ベッドの前に、相内が猫になったように顔を床につけ背をまるめていた。屈んで俺は、相内の額を見ると、やはり天紋を撃ち抜かれていたのだ。ナースコールのさげられていた壁を前に看護士が横たわっていた。俺は看護師を調べてみた。彼女は成宮を呼んだ携帯を持ってはいなかった。おそらく、暗殺者がそれを使って成宮を呼び出したに違いなかった。そう、きっと看護師の声をまねたのだ。
 だが、山田は殺されずに生きていた。雨野を殺害するのに、邪魔な者とは思われなかったのだろう。看護師がいなくなっても機械に寄って彼は生かされ続けていた。
 この病室に暗殺者が隠れていたのは間違いない。俺は病室に隠れることが出来る場所がないか、改めて調べてみた。すると、ベッドの下に包帯が結びあって人がのれるハンモックが作られていたのを見つけた。ここに張来は隠れていたのだ。
「市川と後藤は、どうしている?」
「彼らも殺されてしまったよ」
「俺たちだけが生き残ったということか」
「いや、目黒も生きているよ」
「そうか、それはよかった」俺はすなおに頷いていた。

 この日から二週間後、七月九日に山城一門会の使者、副総代の岡山正由がやってきた。この日に決まったのは成宮の力で雨野の体調がよくなったからだ。この後の本庁の対応はすごいものだった。岡山が家を出た時から、護衛のパトカーが付き、カモメ診療所に来た時も、本庁から派遣された機動隊が建物の周りを二重に囲んでいた。ともかく、この雨野と岡山の対談のおかげで、山城組の抗争は治まっていった。
 だが、これは本庁いや警察庁としては、一番望んでいない結末だと思う。本当は、十連会に雨野を殺させたかったのだ。そうすれば、雨野殺しで十連会を逮捕し、組織壊滅の手掛かりとすることができた。それがだめでも、雨野を殺しに来た者が十連会の指示であることがわかれば、山城組の組織に大幅な家入れを行い、それで一網打尽に逮捕ができると踏んでいたのだった。どちらにしても、俺たちは撒き餌にしか過ぎなかったということだ。

 しばらくして、署にいた俺は成宮から電話をもらった。
「どうしたんですか?」
「入院していた山田が昨日退院をしていったよ。車椅子での退院だったが、母親が迎えに来ていた」
「そうですか。それはよかった」
 俺たちがカモメ診療所にいる時に見舞いにきていた母親は、暗殺者、張来が化けた姿だった。残っていた顔を分析した科捜研からの報告で整形手術をしていたことがわかった。たとえ、本人の写真を前もって見ていたとしても、整形をされては暗殺者であることを見抜けなかったに違いない。
「たまに、カモメにも見回りにきてくれないかね」
「俺、盗犯係ですよ。ヤクザがらみで出かけることはない」
「有休はとれるんだろう?」
「とれば、とれますが。それが何か?」
「きみの健康診断がしたい。ぜひ、きてくれ」
「そうですね。具合が悪くなったら、うかがいますよ」
 俺は笑い出しながら、電話を切っていた。







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