刑事殺し・トラブル・ 抗争の渦

矢野 零時

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8異変

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 次に、十連会は自衛隊を辞めた者たちでカモメ診療所を襲わせるという話が入ってきた。彼らは手榴弾を用意し、ロケット弾まで持ってくるという話なのだ。
 六月二十日。
 本庁も今度は本格的に多くの機動隊を出動させてよこした。その上、スパット(狙撃隊)も出動させたのだ。これで遠くにいる侵入者へも射撃することができる。そのおかげで建物への攻撃はまるでできないはずであった。
 さすがに、成宮も患者の安全を考えてカモメ診療所を閉院することにしたのだ。閉院のことは地元の新聞に載せて市民に知らせた。同時に医療関係者や受付に従事する者たちもカモメ診療所に来なくてもいいとしたのだ。
 万全の体制ができたと暴対課も俺たちにも安堵感が漂い出していた。
 だが、その晩、俺たちがいる病室一一五号室に総務課の高野がやってきた。
「さすがに、カモメはすごい建物ですね。あれだけ火にあたっても燃えないし、バイクをぶつけられてもびくともしない。まさに雨野の城、要塞だ。これができるのも二代目組長時代に多額の富をためていたからできる技だ」
 カモメ診療所をほめているが、どこかおかしい。
「何か言いたいことがあってきたんじゃないのかね」俺は流暢に話す高野の口をさえぎるように言った。
「わかりましたか。私の同期が本庁にいるんですが、彼からメールをもらいました」
「ほう、それが何かね?」
「十連会は中国の暗殺者、張来を雇っているという情報をメールに書いてよこしたんです」
「暗殺者?」と、俺は額に三本の横じわを作った。
「雨野を暗殺する気だね。張来は謎の人物だよ。正体がわからない。男であるのか、女であるのかもわからない。裏の世界で活躍をする有名な人物だよ」と相内は聞きかじっている知識をひろうした。
「何故、そんな重要な情報が俺たちに届いてこない。もしかしたら、暗殺者がカモメ内にもう潜り込んでいるかもしれないと言うことかい」と、俺は高野に言った。
「分かりません」
「後で、夕飯の後、俺たち内部警護班で打ち合わせをしておかないか?」
 午後九時。
 第三手術室に俺たち六人が集まった。総務という立場上、高野は仕切りたがっていた。
「建物内部に残っているのは、7人です。入院患者3人、看護師1人、清掃人1人、調理担当は2人。それに誰かが侵入してくる可能性を考えると裏口の二つも問題です」
「出入口は外には機動隊がいる。出入りはないと考えていい。そうなると、七人の中に暗殺者がいる可能性がある。俺たちで七人を見張るしかないね」
「まず入院患者の一人、一〇二号室の山田には、私がつくよ」と、相内が言った。
「じゃ、他の二人、一一七室の藤田と一〇六号室の秋川には、私たちがつこうか?」と、交通安全課の二人が申し出てくれた。
「炊事担当の二人には、俺がつくよ」俺がそう言ったのは、食べ物に毒を盛られる可能があるからだ。それに、いざと言う時のために俺は肉を食べて体に力を蓄えておきたかった。
「じゃ、清掃人には私がつくよ」と目黒が言った。
「残りの看護師には、私がつけばいいんだね」と高野が言っていた。

 次の日から俺は調理場に張りついた。食べ物を調理するのを見るのは楽しい。カモメ診療所にたくさんの人たちが来なくなったので、雨野辰夫、成宮、そして雨野の側に付いて警護している影。それら三人の分の他、診療所にいる七人の分、そして俺たち六人、合わせて十六人の食事を考えればいいだけになっていた。

 その日も時間の余った調理担当の二人は余った豚肉で俺が頼んでいない焼き肉を作ってくれたのだ。俺をテレビなどに出てくるフードファイターと同じだと見てくれたのだろう。俺はおどけながらも、二人が作ってくれたトンテキを食べていた。
 そんな時だった。
 成宮が調理場から見える通路を走ってきたのだ。
「どうしたんですか?」と言いながら、俺は通路に出た。
「ナースから連絡があったんだ。山田の容態が悪化したらしい」
 そう言いながら、成宮は小走りで消えて行った。何かが変だ? 俺の体は緊張し、アドレナリンが流れた。すると、潜在意識の下で眠っていたあいつを起こしてしまった。俺のパラサイト(寄生体)だ。 
 俺の後頭部に寄生体がつけた眼が開いた。おかげで360度全部が見えだした。
 すると、俺の後ろを動く者がいて、俺の前を走る成宮の背を見つめていた。その者は、
俺が見たことのある人物。山田の母親、山田良枝だったのだ。動きはすばやく年寄りには
見えない。機敏な動きで待合室に向かっていた。俺はくるりと廻って後ろを向くと良枝を
追って走り出した。
 いつも成宮がいる診察室につながった奥の部屋が雨野の隠れ住処だった。成宮や病院関係者の話を聞いているうちに、俺にもそこが雨野の居場所であると推理ができていた。確かに、そこならば、成宮がいつもいて雨野へ行くおかしな者から守ることができる。
 しかし、今は成宮が診察室にいない。 
 俺が待合室に駆け付けると、診察室のドアが開けっぱなしになっていた。俺は腰にさげていた拳銃を手にとった。
 待合室の壁の一つに仕掛けられた長方形の隠しドアが開いていた。俺は中に入る。中は通路になっていて、その先にさらにドアがついていた。脇に暗証番号を打ち込む文字盤があるが、すでにうち込まれたと見え、そこのドアも開いていた。
 微かな発射音聞こえた。それは消音器付の銃の音だった。
 俺が入っていくと、良枝、いや暗殺者の背が見えた。俺が見たこともない男が顔を上に向けて床に倒れているのが見えた。雨野辰夫の護衛をしている影に違いなかった。額の真ん中に点があった。そこが撃ち抜かれた所だった。俺はすぐに横に飛びながら、暗殺者の胴をねらった。銃音が響いた。横に飛んだのは、車椅子にすわっている雨野に銃弾が当たる恐れがあるからだ。胴を狙ったのは、間違いなく暗殺者を斃すためだった。
 暗殺者は倒れていた。俺はころがっている暗殺者の拳銃を蹴って、壁際に飛ばした。そして俺は暗殺者に近づき、腰をかがめて顔をのぞきこんだ。
 それが油断だった。
 暗殺者は腰に別の小型拳銃を持っていたのだ。それを使い、俺の腹を下から撃ってきた。防弾チョッキでは、この位置からの銃弾は防げない。俺は糸を切られたマリオネットのように体を崩し床に顔を打ちつけていた。
「ちっ」と、暗殺者は舌打ちをして立ちあがった。暗殺者は下半身にも防弾できる物を着こんでいたのだ。暗殺者は大きな深呼吸を一つすると、手にしていた小型拳銃で車椅子にすわっている雨野を撃った。
 すぐに雨野は膝に抱えていた物で顔をおおった。暗殺者が撃った弾ははじけていた。雨野の顔を覆った物は、鉄でできたお盆だったからだ。
「しゃれた真似をするな」
 すぐに暗殺者はお盆で隠せない首すじを狙って撃った。動脈を狙ったのだ。血がシャワーのように吹き出されていった。
 だが、吹き出た血が床に達する前に重音が響いた。
 暗殺者の頭はカボチャで出来ていたかのようにくだけちっていた。成宮が戻ってきていたのだ。その手にライフルが握られていた。頭を失くした暗殺者は丸太のように倒れていった。
 成宮は雨野の所にかけよって、すぐに簡易な血止めをしていた。。
「殺させやしないぞ」
 成宮は雨野をのせた車椅子をおして手術室に運んでいった。俺が覚えているのは、そこまでだ。俺の中で何かが蠢いている。寄生体が活動を始めたのだ。俺の意識は完全に無くなっていた。

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