王子だって、一体どうなるのか?物語

矢野 零時

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3 晩餐会

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 部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
「サルタン王子様、晩餐会の用意ができました」と、女性の声がしてドアが開いた。忠司が部屋をでてみると、女の人と花音がたっていた。花音がいるのは、女の人が先に、花音に声をかけ部屋から連れ出したからに違いなかった。女の人を見たことがあると思ったのは、日本で忠司がいつも買っていたタイ焼き屋のおばさんに似ていたからだ。
 忠司が、あまりじろじろと見たからだろう。
「あの私は侍女のアマリスと申します」と名のってくれた。

 アマリスは階段をおり、二人を大広間につれていった。
 そこには、たくさんの人が列をなして待っていた。忠司が入って行くと、拍手でむかえられた。そしって、並んでいた人たちは順番に忠司の前にやってきて、名前をなのり、忠司と会えたことを喜んでくれていた。だが、あまりにも多すぎて、誰が誰だか、覚えることはできなかった。テレビに出ているタレントがサインをして握手した人たちのことをよく覚えているようだが、忠司にはそんなことはできそうにもない。やはり、俺は芸能関係で生きてはいけないなと、思った。

 挨拶が終わるとルソーの案内で。忠司は長いテーブルの右端、後ろにノラの祭壇のある場所にすわらせられた。花音は当然のように俺の左前にすわっている。
 テーブルの上にはすでにすごいご馳走がのっていた。
 だが、すぐに食事は始まらない。まずノラ様に食事ができることの感謝の祈りをささげなければならない。やっと、そんな気持ちになることができたが、忠司はまだくすぐったい気分になる。

 やがて、食事が始まる。
 洋食は食事マナーがあるのだろうが、前におかれたスープだけは最初に飲んでおいた。しかし、後は目の前にいろんなご馳走があるのだから、適当に食べていった。
 チキンの丸焼き。ローストビーフ。どうしても、肉類の料理を先に手をだしてしまう。しばらくして、ステーキがでることになって、焼き加減を聞いてきた。当然、忠司はレアを頼んだが、花音はウエルダンを頼んでいた。焼いたばかりのステーキが運ばれてきた。
 それを食べた後、粉物も食べたくなった。そこでスパゲッティを取り皿にとって食べだした。思わず、すすって音をたててしまった。子供のころから、麺類は、そうやって食べているので、その習慣は変えることはできない。いや、そうしないと食べても美味しくないのだ。花音はどうやら音をたてないで食べることができるようだ。
 蓋のついているカップに入れた料理がおかれた。蓋をあけて、思わず忠司は声をあげた。
「茶碗蒸しだ」
 茶碗蒸しは、俺流のこだわりの食べ方があった。それは白いご飯の上に、茶碗蒸しをすべて開けてのせ、ご飯と混ぜ、それをかっ込むのだ。そこで、新たな料理を運んできた給仕役の男に声をかけた。
「すいません。白いご飯をもらえませんか?」
「はあ、わかりました。少しお待ちください」
 だいぶ無理をいったようだ。俺がポテトサラダをたべ、最後のデザートと思えるヨーグルトのイチゴジャム添えが出た頃に、小どんぶりにのったご飯がでてきた。おそらく、ご飯は新たに炊いていたに違いない。
 だが、忠司はご飯をたべないとご飯が終わったきにはならない。すぐに、ご叛の上に冷えた茶碗蒸しをのせて、かっ込んでいた。

 忠司が、食事で満足を覚えだした頃だ。
「お食事中のところ、すいません」と、ルソーが声をかけてきた。
「なにかな?」
「サルタン王子様には、これから、お父上の後をついで、よき王になっていただきたいと思っております」
「ちょっと、待ってよ」と、忠司は声をあげた。本当の父を助けなければと思ってここにやってきてはいる。だが、王になりたいと思ってはいない。それどころか、父を助けた後は、元の世界にどうやったら戻れるか、養父に連絡を取って、教えてもらいたいと思っていたくらいだ。

 そんな忠司の気持ちなど知る由もないルソーは話をすすめる。
「それでは、サルタン王子様をご指導してくれる先生方を改めてご紹介いたします」
 ルソーが顔を向けた先には、銀髪を頭の後ろに優雅に束ねた老女がすわっていた。高齢の女性が50代なのか、60代なのか、70代なのか、忠司には、まったくわからない。
「礼儀、作法の指導を行う者として、エリザベス・ルイ・ダグラスさま」
「サルタン王子様、お見知りおきを。よき王となられるように、ご指導をさせていただきます」
 とりあえず、忠司はうなずいた。

「その隣にいるのが、武術の指導を行う。シンザン・ボブ・タイト」
 確かに、武術家らしく眼光がするどく、鍛えた体は贅肉がない。半そでの衣服をきていて、腰に短剣をさしていた。
「サルタン王子様。真の武術とはいかなるものなのか、ご指導いたしますぞ」
 やはり、忠司はうなずくしかない。

「シンザン様の隣におられるのは、博学者のフロイト・ドーア・フオード」
 ルソーが紹介をした老人の口周りや顎に白いひげをはやし、頭髪も白く額の前でカールを巻いていた。忠司の記憶では、こんな顔の者は一人しか知らない。そう、サンタクロースだ。違いはある。サンタクロースは赤い帽子をかぶり、着ている服も真っ赤であったが、シンザンは灰色の服をきていた。
「サルタン王子様、よろしくお願いもうしあげます。王となれば、この世界がどうなっているのか、また他の世界とどうかかわっているのか、学んでいただかなければなりません。それを知っていただくようにご指導をいたしますぞ」
 この人に対しても、忠司はうなずいてみせるしかない。

「最後ですが、王は医学の知識も必要なはず、まず健康に注意をしていただき、長寿をお願いいたしたい。さらに戦などで、体を傷つけた時には、すみやかな治療が必要です。その知識の権威、サムソンから、ご指導をしてもらいます」
「すでに、サルタン王子様とはお顔合わせができておりますが、戦の時代を生きる王として治療のイロハはぜひ学んでおいていただきたいと思ってはおります」  
 今度も忠司はうなずくしかなかった。

 先生方は、忠司と挨拶ができたからか、満足をしたような笑顔を浮かべいた。

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