カオル、白魔女になります!

矢野 零時

文字の大きさ
2 / 57
イバラの森大戦

2 引っ越しもたいへん

しおりを挟む
 一学期の終業式が終わったので、これからは夏休みに入ります。転校することで、いじめから脱出ができ、その上、夏休みに出された宿題も出さなくてもよくなった(?)と思うといいことばっかりです。ルンルン気分で家に帰ると、お母さんは、頭にタオルをまき、エフロンをして食器ダンスから食器を取り出し、新聞紙にくるんではダンボール箱に入れていました。
 カオルが家に帰ると、待っていたようにお母さんから声をかけられました。
「あんたの部屋にもダンボールをおいたから、部屋にある物をダンボールにつめておきなさいよ」
 言われてすぐに、カオルは階段をあがって、自分の部屋に行きました。
 たしかに、部屋の真ん中に使われていないダンボール箱が積み上げられ、そのわきに新聞紙、ガムテープや、はさみがおかれていました。引っ越し業者のトラックは、明日来ることになっています。ですから、今日のうちに、カオルがすべきことは、自分の部屋にある物をかたっぱしからダンボール箱につめて、部屋の真ん中に積み上げておくことでした。
 家に帰って来るまでは、ルンルン気分だったのですが、いまは風船がしぼんでしまった感じです。
「じゃ、やるかな!」と、カオルは自分に向かって声をかけました。
 最初に、部屋のあちらこちらに置いていたキティちゃん、キツネやパンダなんかのモフモフなぬいぐるみたちをダンボール箱に入れて開かないようにガムテープをはりました。
 次に学習机の引き出しを開けて、中にあるいろいろな物を分けることもしないで、どんどんとダンボール箱に入れて、箱がいっぱいになったところでガムテープをはりました。それを繰り返すと三箱になりました。後は本箱に入っている本を入れるだけです。本には絵本、マンガ雑誌や子供百科辞典なんかもありましたので、これらを入れるのにダンボール箱を七箱使いました。部屋の真ん中にダンボール箱を積み上げてピラミッドを作ることができたので、カオルは下におりていきました。お母さんの手伝いをしようと思ったからです。カオルが居間に入って行くと、お父さんが帰ってきたところでした。
「お父さん、お帰りなさい」
 お父さんは、引っ越しする前にやるべきことを、してきてくれたのです。市役所に行って、転出届を出し、会社に行っては社宅から出るための手続きをしていました。
 お父さんは帰ってくるとすぐに背広をぬいで、ジーパンをはき頭に手ぬぐいを巻いてお母さんの手伝いを始めました。
 家族みんなで頑張りましたので、引っ越しの荷造り準備はどうやら終えることができました。
「今夜は、お寿司にするか。でも、スーパーマーケットで売っているパック物でがまんしようと思っているけどな」と言って、お父さんは笑っていました。カオルは万歳と思わず叫びました。お父さんも本当は出前を取りたかったのでしょうけれど、これからどんなお金がかかってくるか分かりません。それを考えて節約をすることにしたのです。  
 お父さんの車に家族みんなでのりスーパーマーケットに買い物に行きました。そこで、食後に食べるにイチゴケーキや、明日、車の中でつまむためのポテトチップも買いました。
 その晩は、お寿司を食べて、お腹一杯になって、カオルはぐっすりと眠ることができました。
 
 次の日の朝、冷蔵庫を空にするために中に入っていた物全部を出しての朝食になりました。おかげで卵を使っての料里がメイン、目玉焼きとたまご巻き、それにゆで卵十個。ゆで卵は四個も食べてしまい、カオルはしばらく卵を食べたくありません。

 朝食の後、お父さんやお母さんの後についてカオルも近所の人たちの家々を最後の挨拶をしに行きました。
 午前十時頃、制服を着た引っ越し業者の人たちが四トントラックで、やってきました。業者の人たちはお父さんと話をしていましたが、やがて最初にダンボール箱を積み木のように積んだ後、冷蔵庫や洗濯機、タンスやソファなどを積んでいました。この順は、おろす時のことを考えていたからでした。
 さすがに、業者の人たちは一時間もすると家の中にあった荷物を全部トラックにのせ、トラックが走り出していきました。
 お母さんとカオルをのせた車をお父さんは運転して、トラックの後についていきます。
 市街地からはずれて国道に入ると周りに家がだんだんとまばらになっていき、緑色の木々も増えていきました。
 やがて遠くに見えていた山並みが近づき出しました。
 再び商店のある街並みが見えてきました。でも、小さな店ばかりが並んでいます。春香町に入ったのです。道路を左に曲がると、畑や水田も見えてきました。開けていた車窓から草の甘い匂いも入ってきます。

「ほら、新しく住む家が見えてきたぞ」と、お父さんはバックミラー越しに、カオルの方を見ながら言いました。カオルも前を向いて、道沿いに見える家をみつめました。
 見えてきた家はかわら屋根の二階建ての家でした。隣の家との間に庭があって、そこに花壇が作られ、赤いバラや白いユリの花が咲いていました。アメリカにいった借主、お父さんの友だちが庭の手入れをして、花を植えてくれていたのでした。

 家の正面玄関前に、引っ越しトラックがとまりました。すぐにトラックから業者の人たちはおりてきて待っています。お父さんは、トラックの後ろに車をとめておりると、すぐに家の玄関の前にいきました。そこで、ズボンのポケットから鍵をだして、鍵穴に鍵を入れてまわし玄関ドアを開けました。すると、業者の人たちは、玄関ドアが閉まらないようにストッパーを玄関ドアの下にはさんでいました。これで玄関ドアは勝手に閉まることはありません。業者の人たちはお父さんに置く場所を確認しながらトラックから荷物を次から次ぎへと家の中に運びこんでいました。
 やがて、お父さんはカオルを連れて階段をあがり二階にいきました。
「カオルの部屋は前と同じに二階の部屋がいいと思うんだが、どちらがいい?」
 二階には洋室が二つありましたが、花の咲いた庭が見える部屋をカオルは選びました。そこで、お父さんは、もう一つの部屋を自分の書斎にすることに決めました。
 下には居間、それにつながる台所があり、居間はベランダにつながっていて、庭に出られるようになっています。客間や寝室、クロウゼットがついている化粧室、お風呂、洗面台つきの脱衣室やそれにトイレもありました。お父さんは二階の部屋を誰が使うのか決めたので、業者の人に指示を出して、次から次へと二階へも荷物を運び込ませていました。
 カオルは、学習机や本箱、さらにわき机を業者の人たちに運んでもらうと、ダンボール箱はとりあえず部屋の真ん中に積み木のように積んでもらいました。ゆっくりと後で考えながら整理しようと思ったからです。
 引っ越し業者の人たちは手際よく一時間の間に荷物をおろすと、トラックにのって帰っていきました。お父さんとお母さんも引っ越し荷物の片づけまだ終わってはいませんでしたが、後は時間をかけてゆっくり片付けることにしたようです。
 春香町の商店街の中にあったコンビニにお父さんは家族をつれて車で買い物にいきました。
 夕食もそこで買いました。カオルはシュウマイ弁当を選び、お父さんは焼肉弁当、お母さんは幕の内弁当を選んでいました。他にお茶やコーヒー、カオルはアップルジュースを買って、新しい家に帰り夕食をとりました。
 
 その後、隣の家にお父さんとお母さんは、前もって引っ越し挨拶用に買った缶詰の詰め合わせを持っていったのですが、玄関のチャイムを押しても誰も出てきません。しかたなく、お父さんとお母さんは帰ってきました。缶詰は日持ちがしますので、誰かが家の中にいると分かったら、また尋ねようと二人は話をしていました。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...