カオル、白魔女になります!

矢野 零時

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イバラの森大戦

3 隣の家

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 新しい家での朝がきました。
 いつもよりは少し早く目がさめたようです。カオルはベッドから起きあがりパジャマから普段着に着がえると、階段をおりて洗面台に行きました。いつもなら、お父さんはパジャマ姿で洗面台のところで歯をみがいる頃です。でも、今日は違います。お父さんは、出かける服装をして居間のテーブルを前にテレビを見ていました。
 洗面台に新しいタオルをおきに、お母さんがやってきました。
「お母さん、おはよう。お父さんは早いのね?」
「そりゃ、そうよ。これからは車での通勤、二時間はかかるわ。だから、お父さんは早く家を出ないとならないの」 
「お父さん、何時に起きたの?」
「六時には、起きていたわよ」
 たしかに、会社に行くために、お父さんは午前七時には家を出て車にのっていなければならなりません。お父さんが起きていたことを知っているお母さんはそれよりも前に起きていたことになります。
 カオルは歯をみがき、顔を洗ってから居間に行きました。
「お父さん、おはよう」
「おはよう、カオル」
 すでに食卓の上にはトースト、ハムとポテトサラダがのせられた皿が並べられていました。その横にはコーヒーやミルクを入れたカップがおかれています。カオルが食べ始めると、自席についたお母さんが話しかけてきました。
「私は春香町の役場に行ってくるつもりよ。転入届を出して、住所を写しておかなければならないわ。それにカオルにここの学校を通えるように転入学通知書をもらってきておかなければならないの。カオルが通うことになる学校の校長先生に会ってカオルのクラスを決めてもらった方がいいと思うの。だから、十時には、出かけるわ。昼はおにぎりを作ってあるから、それを食べてね」
 お母さんは茶ダンスの上に布巾をかけてある大皿を指さしていました。にこにこしながらお母さんの話を横で聞いていたお父さんが立ちあがりました。
「そろそろお父さんは出かけなければならないな。じゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」と、お母さんとカオルは声を合わせました。
 お父さんが家から出ていき、しばらくすると家の外から車が動き出した音が聞こえ出し、やがてその音が遠ざかって行きました。
 お母さんはお父さんが出かけたのを知ると安心をして又話し出しました。
「前の学校では夏休みの宿題が出ていたけど、学校が変わったので、何もしなくていいと思っていないでしょうね? まずは、前の学校で習ったことをしっかりと復習をしときなさい。新しい学校の校長先生を訪ねた時には、夏休みに出されている宿題を教えてもらってくるつもりよ。二学期が始まったら、それを提出できるようにしとかなければならないわ。ともかく、新しい学校に行く前には、万全の体制にしておかないといけないのよ」
「分かっているわよ。お母さん」
 本当は、テレビでも少し見ようかなと思っていたのですが、お母さんを見ていると居間にいつまでもいるわけには行かないようです。
「ごちそうさま」
 食べ終わると、カオルはイスから立ちあがりました。カオルはお母さんの言う通りだと思っていたからです。すぐに居間を出て階段をかけあがり、自分の部屋に行きました。
 カオルは、急いで積んであるダンボール箱から中の物を取り出して前の部屋と同じようにおいてみました。でも、おく位置はだいぶ変えることになりました。それは、机は窓の真ん前においてもらいましたので、それに合わせて少し模様がえをしたからです。
 しばらくして、階段下からお母さんの声がしました。
「カオル、行ってくるよ。留守番たのむわね」
「お母さん、行ってらっしゃい」
 開けられた玄関のドアが閉まる音がしました。お母さんが家から出ていったのです。
 やっぱり勉強をしなければとカオルは思いました。
 そこで、カオルは机を前にイスにすわりました。その後、机の引き出しから、前の学校で使っていた国語の教科書を出して一学期で最初に習ったページを開き、そのページから漢字をひろって新しいノートに書き写し始めました。
 五ページも漢字を書いていると、ちょっと目が疲れてきました。
 目をやすめるために、窓から外をながめました。
 真正面に庭に咲いた赤いバラと白いユリが見えました。さらに、隣の家も見えていたのです。昨日の夜にお父さんとお母さんが挨拶に行ったのに、隣に住んでいる人とは会うことができませんでした。
 いったいどんな人が住んでいるのでしょうか?
 隣の家は白い家でモダンな建物でした。小さな美術館のようにも見えますし、屋根の一部が前につき出しているので、船のようにも見えました。
 隣の家はカオルの部屋の真正面にありますので、隣の家についている二階の窓もよく見ることができました。
 窓から棚の上に飾れているぬいぐるみたちが見えます。ぬいぐるみの中にクマのぬいぐるみがあってすわっていました。カオルは動けばいいなと思いながら見ていると、クマは立ちあがり、カオルの方に手をふって見せたのです。
「あっ」と、カオルは声をあげてしまいました。でも、すぐにクマは動かなくなりました。
 見間違いだったのでしょうか?
 もうカオルがいくら見つめていてもクマは動き出そうとはしません。
「ゼンマイがついているのかしら?」
 そう思うとカオルは確かめたくなりました。そこで自分の部屋から出て、階段をおり、居間に行きました。さらにガラス戸を開けてベランダに出ると、そこにあるサンダルをはいて庭に出ました。カオルは花壇のバラの間をかきわけて、隣の庭との境を作っている竹さくに近づきました。竹さくがなければ、庭同士がつながっているように見えたでしょう。
 

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