カオル、白魔女になります!

矢野 零時

文字の大きさ
6 / 57
イバラの森大戦

6 イバラに守られた城

しおりを挟む
 おばあさんが手を振ると、小さなバッグを手に持っていました。次にバッグからドアのノブを取り出し、それを手に持って白い壁に近づき押しつけると木枠のドアが壁に浮かびあがったのです。
 おばあさんがドアを引いて開けると、開けられた場所に青い空とその下にあるお城が見えていました。
「さあ、ここは魔法が力を持っている世界だよ。ここでならカオルは魔法の勉強ができる」と言って、おばあさんは戸口に立ち笑っています。
 でも、カオルは不安です。そうだ。一緒に来てくれる者がいれば、こころづよいよね。そう思うと、テーブルにのっているぬいぐるみのクマが目に入ってきました。
「一緒に行こう」と言って、カオルはクマを抱きしめ、おばあさんの後に続いて城のある世界に入って行きました。
「おばあさん、もしかしたら、ドラえもんのどこでもドアを持っているのかしら?」
「ドラえもんはマンガの話だけど未来からきたロボットということになっているんだろう。科学も進むと、魔法と同じことができるようになると私も思うよ。でも、まだ科学は魔法の領域に達成してはいないね。どこでもドアは、まだ空想の話だろう。だが、私のは違うよ。念じれば、すぐにそこに本物のドアを作り出してしまう。創成魔法じゃよ。でも、時間を超え、異空間へも行けるドアを作り出せるのは私だけかもしれないけどね」と言って、おばあさんは片眉をあげていました。

 イバラの森に囲まれた城の中には庭園が見え、そこには花壇や畑が作られていました。庭園の前にはロッジ風の家が建てられていました。でも山の中にある小屋にしか見えません。
「ここはデズニーランドじゃないよ。あんたらが物語の世界だと思っていたことが実在する世界なんだよ」
「私たちが物語と思っていた世界って、どんな世界なのかしら?」
「そうだね。いろんな物話が伝わっていたようだが、カオルも眠り姫と言ったら、だいたい話が分かるんじゃないかな」
「眠り姫?」
 おばあさんに言われたので、カオルは記憶をまさぐり始めました。
 カオルが思い出した眠り姫の話はこんな話です。

 ある国に十三人の魔法使いがいました。その国にお姫さまが生まれ、その誕生のお祝いに呼ばれた魔法使いは十二人だけだったのです。呼ばれた魔法使いたちは祝福の恵みを生まれたお姫さまに授けるためにやってきたのですが、一人の魔法使いだけは呼ばれていませんでした。その魔法使いがお祝いの場にやってきて、十五歳になったらお姫さまは死んでしまうと呪いをかけたのです。まだお姫様への祝福の恵みを授けていなかった魔方使いは、死ぬことではなく十五歳になったら百年間の眠りにつくことに変えたのでした。さらに、その魔法使いは、王さまの願いを聞いてお姫さまが眠り出した時に、王様を始め城に働いている人たちみんなを一緒に眠らせたのでした。百年が経って王子さまがやってきて、お姫さまに口づけをするとお姫さまは眼をさまし、二人は結婚をして、幸せに暮らしました。もちろん、お姫さまが目をさましたので、王様たちも目をさまし眠る前と変わらない活動を始めたのでした。

「だいたいは間違いないようだね。でも、少し補足させてもらわなければならないね」と、おばあさんは言いました。
 カオルは頭で思っただけで、声に出してはいません。それなのに、おばあさんは、カオルが思い出した記憶を読み取っていたのです。
「ここはシズカ王国。生まれたのはオーロラ姫。誕生会で、かけられた死の呪いから百年の眠りに変えたのは、私じゃよ。だけど、最初から私がその場にいたわけではない。呪いをかけられた後に、何とかしてほしいと相談をされて呼ばれたんじゃよ。それにオーロラ姫が十五歳になった時に、王様をはじめ、城にいた者たちを眠りにいざなったのも、この私だよ。だから、オーロラ姫さまが目をさますまで、私はみんなを守らなければならないことになってしまった」
「思い出したわ。眠りについたお姫さまは、たしかにオーロラという名前だったわね。オーロラ姫を殺そうとした魔法使いは、なんて言う名前だったのかしら? それに、どうしてオーロラ姫を殺そうとした魔法使いは誕生会に呼ばれなかったのかしら?」
「殺そうとしたのはオードリ。オードリを呼ばなかったのは、明らかな理由があったからさ」
「どんな理由?」
「その前に、カオルにはあいまいに使っている言葉をちゃんと覚えてもらう必要があるので、説明をさえてもらうよ。魔法を使える人は誰でも魔法使いだよ。生まれつき魔法としか思えない力を持っていて使える人たちがいる。超能力者だね。だから超能力者は魔法使いなんだよ。カオルのいる科学で割り切ろうとする世界でも、超能力を認めているだろう。だが、人ではない物たちの力を借りて魔法を使う者たちがいる。それをすれば、大きな魔法を手にすることができるからだよ。私らはその仲間なんだよ、神や精霊と心を通わせて頂いた力で魔法を使っている。これを白魔法または白魔術とも呼ばれているようだが」
「白魔術?」
「だが、オードリたちは悪魔やその配下の魔人たちに服従を約束して魔力をもらっている。この魔法を黒魔法または黒魔術と呼んでいるがね」
「悪魔や魔人に服従?」
「オードリは魔人グールに服従を結び、グールの支配地にいる人々を捕まえてグールに命を食べさせていたんだよ。それを知った国王はオードリと付き合わないようにしていたのさ」
「そうだったんだ」
「黒魔術を使う者を黒魔女、白魔術を使う者を白魔女と呼ばれている。もう少し言葉の話をしておくとね。魔法を使う者であれば、誰でも、そう男でも魔女と言われてしまっているようだね」
 カオルは思わす、眉を八の字に寄せていました。おばあさんの言ったことをちゃんと覚えようと思ったからです。
「ともかく、オーロラ姫を殺そうと思ったオードリをカオルの世界で伝えられているお話では甘く見ているね。大人になる前にオーロラ姫を殺そうとしたくらいだよ。ただの眠りに変えられたと知ったら、黙っていると思うかい?」
「きっと黙っていないと思うわ」
「そうだろう。オーロラ姫が死なないと知ったオードリは、巨人たちを連れて、攻めてきたんだよ」
「そんなことがあったんですか?」
「そうだよ。だから、私たち白魔女も集まって、オードリたちを向かえうったのさ」
「それは、いつのことですか?」
 おばあさんは、笑い声をたてていました。
「ここの時間でいえば、一週間前のことだが、オードリを相手に魔法大戦をやっていたんだよ」
 カオルは再びイバラの森に囲まれた城の中を見渡しました。別に戦争で壊れたとか、焼け焦げたと思える所は見えません。
「戦いの後なんて、見ただけでは分かりづらいからね。それにひどいところはすでに私が直してしまっている。ともかく、次のオーロラ姫の誕生日までには、また襲ってくるつもりなんだよ」
「悪い魔女のオードリは倒したのでしょう?」と、カオルは聞きました。
「倒したよ。だから、逃げ出していった」
「えっ、どういうこと?」
「そうそう、最も重要なことを教えてなかったね。オードリは命を三つ持っていたんだよ。大昔に命を一つ亡くしていたのだが、今度でまた一つを亡くしてしまったね。でも、残っている命を使って逃げ出したということさ」
「魔女って命を三つも持っていられるの?」
「そうだよ」
「でも、いまは命一つになったのだから、もう襲ってこないのじゃないかしら?」
「また、やってくると、オードリは言っていたからね。だから、襲ってくると思うよ。こんな時だから、魔法学校を開いて、魔法を使える者たちを養成しておくことにしたのさ。危機に陥っている人たちはたくさんいる。その人たちは魔法を習いたくて仕方がないはずさ」
 そう、私も危機に陥っている。だから、魔法を使えるようになりたいと思っていたんだと、カオルは気づきました。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...