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イバラの森大戦
7 眠り姫さま
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カオルがおばあさんと話をしていると、小屋から背の高い女性が出てきて、おばあさんとカオルに近づいてきました。
女性は青い髪を背にたらし、薄青色の長いドレスを着ています。若くは見えましたが、本当はものすごく年を取っているような気がしました。
「サラ、みつかったかい?」
「この子だよ」と言って、サラはカオルの肩を軽くたたきました。青い髪の女性は、しばらくカオルをじっとみつめていましたが、再びほほえんでいました。
「なるほどね。素質はありそうだね。名前は?」
「カオルです」
「そうかい。私はエルザさ」
エルザが話をしている間にネコが集まってきたのです。十五匹はいそうです。ネコたちはカオルが抱いているクマに興味を持って、飛びかかってきます。さすがに、ネコに取られまいとして、カオルは頭の上まで両手でもちあげていました。
「これに入れてクマの顔を見えなくしたらいいわよ」と言って、エルザは、いつの間にか手品でもしているようにどこからかリュックを出してカオルに渡してくれました。言われるままに、クマをリュックに入れて、カオルは背負いました。
「ネコがたくさんいるんですね」
「あんたと同じ、魔法使い修行の者が、この中にいるんだよ」と言って、エルザは着ていたドレスの袂から、箸の長さしかない杖を取り出すと一番前にいるネコに向かって杖を振りました。
すると、ネコが立ち上がりだんだんと大きくなり出したのです。やがて人の姿に変わっていました。ちゃんと、ズボンに上着をはおった男の子です。カオルと同じ歳か、ふたつくらい上の歳に見えました。
「やあ、よろしく。トムだよ」と言って、トムは手を出してきました。カオルも手を出してトムの手をにぎりました。
「ぼくは、オーロラ姫さまにかわいがられていたんだ。だから、今はオーロラ姫さまを守りしなければならないと思っているんだよ」
「そろそろ、城の中を見回ってくる時間だろう。行っておいでよ」と、トムはエルザに声をかけられました。
「そうだね。いつもの時間だ」と、トムが空を見上げて、太陽の位置を確認しています。
「カオルもいっしょに城の中を見てまわるかい? まだ、魔法学校の開校までには時間があるからね」と、おばあさんが言ってくれたので、カオルはすぐにうなずいていました。城を見ていると、城の中に入ってみたいと、先ほどから思っていたからでした。
やがてトムが歩き出し、その後ろをカオルがついて行きました。さらに二人の後を、たくさんのネコたちが追っています。
花壇の間を通って歩いて行くと宮殿の正門が真正面に見えてきました。石段をあがり、宮殿の中に入りこみ、赤い絨毯のしかれた通路を通ると大広間に出ることができました。トムはネコたちに指示を出していました。ネコたちは数匹ずつに分かれて大広間にある東西南北の戸口から出て行きました。
「城は大きいから分業して、見回りをしてもらっているんだ」
大広間は東西にある見張り台につながり王たちの間にもつながっていました。
「ネコさんだけで、大丈夫なんですか?」
「ネコの姿の方がいいんですよ」
理由が分からないカオルは首をかしげていました。
「城の見回りで一番の大事なことは、なんだと思います」
「みんなが寝ているのだから、食べることは心配しなくていいですよね。黙っていてもほこりやチリがおちてきて床がよごれるわ。つまり掃除することじゃないかしら」
「掃除もやっていますが、それよりもネズミ退治の方が大事なんですよ」
「ネズミ退治?」
「城の中でたくさんの人たちが眠っている。ネズミが襲っても、彼らは何の抵抗もできません。ですから、ネズミを徹底的に人に近づけないように駆除しているんですよ。ネコのにおいがするだけでも、ネズミは出てきませんからね」
「そうなんだ」
「それにですね。餌がないはずなのにネズミたちがだんだん大きくなってくる。これはネズミたちが魔法にかかっているとしか思えない。だから、単なる見回役のぼくでも魔法使いになっておかないと、まずいと思っているのですよ」
トムは胸をはって腰に両手をあてています。
「ぼくはこれから宮殿の中央に行きますよ」
「じゃ、トムといっしょに行けば、眠っているお姫さまに会えるのね」
絵本で眠り姫の姿を見ることがありましたが、カオルは本当の眠り姫であるオーロラがどんな人なのか、まだ知りません。
トムは軽くうなずきました。カオルはトムについて通路を歩き王姫の寝室に入りました。
二人で寝ても楽に寝ていられると思えるほど大きなベッドにオーロラが顔を上にむけて寝ていました。思わず、カオルは顔を近づけ、のぞき込みました。
お姫さまは、金色の長い髪をしていて優しい表情のままで規則的な寝息をたてていました。
「お姫さまはね。いつもぼくに声をかけて、膝の上にのせてくれていたんだ。このベッドの端で前はいっしょに寝たこともあったんだぜ」と、トムは切なそうな声をあげました。
「今回はサラたちがオードリを撃退してくれたけど、オードリがまた襲ってくることは間違いない。でも前の戦いでサラたちは力を弱らせている。だから、今度襲ってきた時は、ぼくも魔法を使えるようになって、お姫さまを守るつもりなんだ。カオルも助けてくれるんだろう?」
「でも、私はまだ魔法使いになってはいないわ。なれるのかしら?」
「サラが見込んでいるんだろう。だったら、カオルも魔法使いになれるよ。いっしょにがんばろう」
オーロラ姫を見るまでは、カオルは、どうするか決めてはいなかったのです。でも、オーロラ姫を見てからは、カオルは助けてあげなければと思っていました。
その後、トムとカオルは宮殿の各部屋を見て歩きました。本来ならば、それら部屋にいる衛兵や侍女たちは立っていたのでしょうが、いまは壁によりかかり、または床に横たわって眠っていました。
カオルはトムについて、今度は王の寝室に入りました。
そこのベッドは、オーロラ姫のベッドよりもさらに大きな物でした。王さまの隣にお妃さまもいっしょに眠っていました。二人とも静かにやさしい寝顔をしています。百年後のお姫さまのめざめを信じているのです。お姫さまが眠るとすぐにオードリが襲ってきたことなど、まったく知らないに違いありません。
トムが連れてきたネコたちは、ベッドの下や寝室の暗がりに顔をのぞき込ませていました。ネズミたちがいないかどうか、警戒を続けていたのです。
王の寝室を出ると、二人は王の間のテラスにでました。
テラスから見ると、城がイバラの森で囲まれていることがよく分かります。
「外からは、この城を攻めることは難しいんだよ」
「木の間を分けて入ればいいんじゃないの?」と、カオルは尋ねました。
「それは、無理だね。イバラの森に入ると、イバラが伸びてきて、人が通るのをさまたげるんだよ」
「それは魔法がかかっているからなの?」
「そうだよ。それはグリスの魔法さ。でも、人でなければ通ることができる。だから、今は、ぼくたちならば通ることができるんだよ」
「こんなことを言ってごめんなさい。トム、あなたはネコでしょう。それとも、人なのかな?」
「そうだね。ネコだよ。でも、人と似た姿に変わることができ、人と変わらなく考えることができるよ。人ネコと言っていいのかな。これはエルザのおかげさ」
「エルザは魔法で動物を人に変えることができるのね」
トムは軽くうなずいた後、顔をあげて、空の太陽を見つめていました。どうやら、トムは空の太陽の位置を見るだけで時間が分かってしまうようです。
「そろそろ、小屋に戻らなければならない。魔法学校が始まってしまうよ」
「魔法学校は小屋で行われるの?」
カオルが尋ねると、トムは再びうなずきました。トムが宮殿から小屋の前に戻り出しましたので、カオルも後に続きました。
女性は青い髪を背にたらし、薄青色の長いドレスを着ています。若くは見えましたが、本当はものすごく年を取っているような気がしました。
「サラ、みつかったかい?」
「この子だよ」と言って、サラはカオルの肩を軽くたたきました。青い髪の女性は、しばらくカオルをじっとみつめていましたが、再びほほえんでいました。
「なるほどね。素質はありそうだね。名前は?」
「カオルです」
「そうかい。私はエルザさ」
エルザが話をしている間にネコが集まってきたのです。十五匹はいそうです。ネコたちはカオルが抱いているクマに興味を持って、飛びかかってきます。さすがに、ネコに取られまいとして、カオルは頭の上まで両手でもちあげていました。
「これに入れてクマの顔を見えなくしたらいいわよ」と言って、エルザは、いつの間にか手品でもしているようにどこからかリュックを出してカオルに渡してくれました。言われるままに、クマをリュックに入れて、カオルは背負いました。
「ネコがたくさんいるんですね」
「あんたと同じ、魔法使い修行の者が、この中にいるんだよ」と言って、エルザは着ていたドレスの袂から、箸の長さしかない杖を取り出すと一番前にいるネコに向かって杖を振りました。
すると、ネコが立ち上がりだんだんと大きくなり出したのです。やがて人の姿に変わっていました。ちゃんと、ズボンに上着をはおった男の子です。カオルと同じ歳か、ふたつくらい上の歳に見えました。
「やあ、よろしく。トムだよ」と言って、トムは手を出してきました。カオルも手を出してトムの手をにぎりました。
「ぼくは、オーロラ姫さまにかわいがられていたんだ。だから、今はオーロラ姫さまを守りしなければならないと思っているんだよ」
「そろそろ、城の中を見回ってくる時間だろう。行っておいでよ」と、トムはエルザに声をかけられました。
「そうだね。いつもの時間だ」と、トムが空を見上げて、太陽の位置を確認しています。
「カオルもいっしょに城の中を見てまわるかい? まだ、魔法学校の開校までには時間があるからね」と、おばあさんが言ってくれたので、カオルはすぐにうなずいていました。城を見ていると、城の中に入ってみたいと、先ほどから思っていたからでした。
やがてトムが歩き出し、その後ろをカオルがついて行きました。さらに二人の後を、たくさんのネコたちが追っています。
花壇の間を通って歩いて行くと宮殿の正門が真正面に見えてきました。石段をあがり、宮殿の中に入りこみ、赤い絨毯のしかれた通路を通ると大広間に出ることができました。トムはネコたちに指示を出していました。ネコたちは数匹ずつに分かれて大広間にある東西南北の戸口から出て行きました。
「城は大きいから分業して、見回りをしてもらっているんだ」
大広間は東西にある見張り台につながり王たちの間にもつながっていました。
「ネコさんだけで、大丈夫なんですか?」
「ネコの姿の方がいいんですよ」
理由が分からないカオルは首をかしげていました。
「城の見回りで一番の大事なことは、なんだと思います」
「みんなが寝ているのだから、食べることは心配しなくていいですよね。黙っていてもほこりやチリがおちてきて床がよごれるわ。つまり掃除することじゃないかしら」
「掃除もやっていますが、それよりもネズミ退治の方が大事なんですよ」
「ネズミ退治?」
「城の中でたくさんの人たちが眠っている。ネズミが襲っても、彼らは何の抵抗もできません。ですから、ネズミを徹底的に人に近づけないように駆除しているんですよ。ネコのにおいがするだけでも、ネズミは出てきませんからね」
「そうなんだ」
「それにですね。餌がないはずなのにネズミたちがだんだん大きくなってくる。これはネズミたちが魔法にかかっているとしか思えない。だから、単なる見回役のぼくでも魔法使いになっておかないと、まずいと思っているのですよ」
トムは胸をはって腰に両手をあてています。
「ぼくはこれから宮殿の中央に行きますよ」
「じゃ、トムといっしょに行けば、眠っているお姫さまに会えるのね」
絵本で眠り姫の姿を見ることがありましたが、カオルは本当の眠り姫であるオーロラがどんな人なのか、まだ知りません。
トムは軽くうなずきました。カオルはトムについて通路を歩き王姫の寝室に入りました。
二人で寝ても楽に寝ていられると思えるほど大きなベッドにオーロラが顔を上にむけて寝ていました。思わず、カオルは顔を近づけ、のぞき込みました。
お姫さまは、金色の長い髪をしていて優しい表情のままで規則的な寝息をたてていました。
「お姫さまはね。いつもぼくに声をかけて、膝の上にのせてくれていたんだ。このベッドの端で前はいっしょに寝たこともあったんだぜ」と、トムは切なそうな声をあげました。
「今回はサラたちがオードリを撃退してくれたけど、オードリがまた襲ってくることは間違いない。でも前の戦いでサラたちは力を弱らせている。だから、今度襲ってきた時は、ぼくも魔法を使えるようになって、お姫さまを守るつもりなんだ。カオルも助けてくれるんだろう?」
「でも、私はまだ魔法使いになってはいないわ。なれるのかしら?」
「サラが見込んでいるんだろう。だったら、カオルも魔法使いになれるよ。いっしょにがんばろう」
オーロラ姫を見るまでは、カオルは、どうするか決めてはいなかったのです。でも、オーロラ姫を見てからは、カオルは助けてあげなければと思っていました。
その後、トムとカオルは宮殿の各部屋を見て歩きました。本来ならば、それら部屋にいる衛兵や侍女たちは立っていたのでしょうが、いまは壁によりかかり、または床に横たわって眠っていました。
カオルはトムについて、今度は王の寝室に入りました。
そこのベッドは、オーロラ姫のベッドよりもさらに大きな物でした。王さまの隣にお妃さまもいっしょに眠っていました。二人とも静かにやさしい寝顔をしています。百年後のお姫さまのめざめを信じているのです。お姫さまが眠るとすぐにオードリが襲ってきたことなど、まったく知らないに違いありません。
トムが連れてきたネコたちは、ベッドの下や寝室の暗がりに顔をのぞき込ませていました。ネズミたちがいないかどうか、警戒を続けていたのです。
王の寝室を出ると、二人は王の間のテラスにでました。
テラスから見ると、城がイバラの森で囲まれていることがよく分かります。
「外からは、この城を攻めることは難しいんだよ」
「木の間を分けて入ればいいんじゃないの?」と、カオルは尋ねました。
「それは、無理だね。イバラの森に入ると、イバラが伸びてきて、人が通るのをさまたげるんだよ」
「それは魔法がかかっているからなの?」
「そうだよ。それはグリスの魔法さ。でも、人でなければ通ることができる。だから、今は、ぼくたちならば通ることができるんだよ」
「こんなことを言ってごめんなさい。トム、あなたはネコでしょう。それとも、人なのかな?」
「そうだね。ネコだよ。でも、人と似た姿に変わることができ、人と変わらなく考えることができるよ。人ネコと言っていいのかな。これはエルザのおかげさ」
「エルザは魔法で動物を人に変えることができるのね」
トムは軽くうなずいた後、顔をあげて、空の太陽を見つめていました。どうやら、トムは空の太陽の位置を見るだけで時間が分かってしまうようです。
「そろそろ、小屋に戻らなければならない。魔法学校が始まってしまうよ」
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