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イバラの森大戦
9 シンド 風の精霊使い
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カオルがシンドの部屋に入るとシンドはうやうやしく黒いマントを翻して、カオルたちを迎えてくれました。思ったとおり三十人ぐらいの生徒がいました。
「みなさんが魔法使いになってほしい物はこれだと思いますよ。これは魔法の杖です」と言ったシンドは手に持っている木の棒を見せました。長さはそう食べ物をつかむ箸ぐらいです。所々節目があるので、その辺にある木々の枝を折ってきたようにしか見えません。
みんなの顔を見まわした後、シンドは手品のように箱を出して見せました。それを近くにいる生徒のひとりに渡しましたが、箱の中には木の棒がたくさん入っていました。
「ひとり、一本ずつにしてください」
シンドに言われたので、生徒は一本ずつ、木の棒を手に取っていました。レイモンドはチョコのついたポッキーのような棒をえらんでいました。カオルの前に箱が回ってきて時には、木の棒は五本しか残っていません。カオルは少し考えた後、白樺の枝のように周りに白い皮がついている木の棒を選びました。
空になった箱がシンドの所に戻っていきました。そこでシンドは手を振ると、今度は箱の中にたくさんの小石が入っていたのです。それをみんなに一個取るようにシンドは言いました。
「いま、あなたが持っている棒は魔法の杖です。そして、手に持った石はただの石です。石をまず足元においてください」
シンドは生徒たちが小石を足元におき終わったのを確かめると、シンドは自分が足元においた石に向かって「浮きあがれ」と言いました。
すると、石がシンドのひざの高さまで浮きあがったのです。生徒たちは思わず「おー」と声をあげていました。
「さあ、私と同じようにみなさんは自分の石に向かって声をかけてみてください」と、シンドに言われて、生徒たちは一斉に声をかけ出しました。
もちろん、カオルも声をかけました。
他の生徒の前にある小石は浮きあがっていきましたが、カオルの前の小石は少しも動きません。でも、ここにくる前、おばあさんの家で、ぬいぐるみのクマを動かすことができていたのです。それを考えれば、小石ぐらいは動かせるはずです。必死にカオルは念じ続けました。
すると、小石は浮かびあがり出しました。でも、すぐに地面の上に落ちてしまいます。
「だいたいうまくいっているようですね。後は何度も繰り返して練習を続けてください」
やがてカオルは小石を自分の膝の高さまで、持ちあげることができるようになりました。でも、そんなに長くは続きません。おそらく十秒くらいでしょうか?
生徒の中には、自分の頭の高さまで持ちあげることができる者もいました。レイモンドも、それが、うまくできる者たちの中に入っていました。
「それでは、次は、ホウキにのってもらうことの練習をしましょう。できれは空を飛びまわってほしいのですが、それまでにはなれなくても、ホウキにのって空に浮かぶまでにはなってほしいです」
そう言ったシンドは、こんどは大きな箱を手にしていました。
その箱の中には、いろんなホウキが入っています。シンドはその箱を生徒たちにまわして一本選んで取るように言いました。
まわされてきた箱を見て、カオルは困ってしまいました。ホウキにはいろいろな物があったからです。長さだけでも自分の背を超える物や、腰までにしかない物があり、材質を見れば、竹、木、それに藁であんだとしか思えない物があり、また柄には中国風な絵が描かれている物や異国の彫刻がほられている物などがありました。
そこで、カオルは竹の柄がついたホウキを選びました。
これを選んだ理由は柄の部分の2か所を通るように紐がついていて、背中に背負うことができたからでした。
「みなさん。一本ずつ取ってくれましたね。いま持っていただいたホウキはあなたの物になります。大切にしてくださいね」
みんなは嬉しそうに手にとったホウキを見ていました。レイモンドはただの木の太い木の棒にしか見えない物を選んでいました。
「さきほどは、小石を念で持ち上げてもらいましたが、今度は自分を念で持ちあげてもらいます。たしかに、小石よりは重たいと思いますが、自分の体であることのメリットもありますよ。それは自分で念じたことは自分の体ですので、すぐに伝わるからです。さあ、ホウキにまたがって練習を始めてください」
みんながホウキにまたがり、空に浮かぶ練習を始めました。カオルもホウキにまたがって見ましたが、まったく浮き上がらないのでホウキを股にはさんだまま飛びあがって見ました。少し浮き上がっていたように思えました。でも、それは気分だけだったようです。
しばらくして、シンドは手をあげて練習をしている生徒たちをとめました。
「ホウキにのることができない人たちもいるようですね。ともかく練習を続けてください。こつをお教えします。飛ぶためには、風の力を借りることです。それができれば、ホウキの上にのったあなたを風がどこへでも運んでくれます。さあ風と仲良くなってください」
「風と仲良くなるって、どうすればいいんですか?」と、生徒の一人が手をあげて聞きました。
「風に願いをかけることです。それができれば、こんなことができますよ」と言ったシンドが手をあげると、風が音をたてて吹き出したのです。生徒たちの髪は揺らぎ出し、足元のスカートは揺れていました。
シンドが手をさげると風がやみました。再び手をあげて軽く振ると、再び風が吹き出しました。
でも、その風は、カオルの耳元を通るとくすぐったくなるほど、柔らかい風でした。
「風と心を一つにすると、どこへでも飛んでいけますよ」
そう言ってシンドは顔を空に向けていました。
「みなさんが魔法使いになってほしい物はこれだと思いますよ。これは魔法の杖です」と言ったシンドは手に持っている木の棒を見せました。長さはそう食べ物をつかむ箸ぐらいです。所々節目があるので、その辺にある木々の枝を折ってきたようにしか見えません。
みんなの顔を見まわした後、シンドは手品のように箱を出して見せました。それを近くにいる生徒のひとりに渡しましたが、箱の中には木の棒がたくさん入っていました。
「ひとり、一本ずつにしてください」
シンドに言われたので、生徒は一本ずつ、木の棒を手に取っていました。レイモンドはチョコのついたポッキーのような棒をえらんでいました。カオルの前に箱が回ってきて時には、木の棒は五本しか残っていません。カオルは少し考えた後、白樺の枝のように周りに白い皮がついている木の棒を選びました。
空になった箱がシンドの所に戻っていきました。そこでシンドは手を振ると、今度は箱の中にたくさんの小石が入っていたのです。それをみんなに一個取るようにシンドは言いました。
「いま、あなたが持っている棒は魔法の杖です。そして、手に持った石はただの石です。石をまず足元においてください」
シンドは生徒たちが小石を足元におき終わったのを確かめると、シンドは自分が足元においた石に向かって「浮きあがれ」と言いました。
すると、石がシンドのひざの高さまで浮きあがったのです。生徒たちは思わず「おー」と声をあげていました。
「さあ、私と同じようにみなさんは自分の石に向かって声をかけてみてください」と、シンドに言われて、生徒たちは一斉に声をかけ出しました。
もちろん、カオルも声をかけました。
他の生徒の前にある小石は浮きあがっていきましたが、カオルの前の小石は少しも動きません。でも、ここにくる前、おばあさんの家で、ぬいぐるみのクマを動かすことができていたのです。それを考えれば、小石ぐらいは動かせるはずです。必死にカオルは念じ続けました。
すると、小石は浮かびあがり出しました。でも、すぐに地面の上に落ちてしまいます。
「だいたいうまくいっているようですね。後は何度も繰り返して練習を続けてください」
やがてカオルは小石を自分の膝の高さまで、持ちあげることができるようになりました。でも、そんなに長くは続きません。おそらく十秒くらいでしょうか?
生徒の中には、自分の頭の高さまで持ちあげることができる者もいました。レイモンドも、それが、うまくできる者たちの中に入っていました。
「それでは、次は、ホウキにのってもらうことの練習をしましょう。できれは空を飛びまわってほしいのですが、それまでにはなれなくても、ホウキにのって空に浮かぶまでにはなってほしいです」
そう言ったシンドは、こんどは大きな箱を手にしていました。
その箱の中には、いろんなホウキが入っています。シンドはその箱を生徒たちにまわして一本選んで取るように言いました。
まわされてきた箱を見て、カオルは困ってしまいました。ホウキにはいろいろな物があったからです。長さだけでも自分の背を超える物や、腰までにしかない物があり、材質を見れば、竹、木、それに藁であんだとしか思えない物があり、また柄には中国風な絵が描かれている物や異国の彫刻がほられている物などがありました。
そこで、カオルは竹の柄がついたホウキを選びました。
これを選んだ理由は柄の部分の2か所を通るように紐がついていて、背中に背負うことができたからでした。
「みなさん。一本ずつ取ってくれましたね。いま持っていただいたホウキはあなたの物になります。大切にしてくださいね」
みんなは嬉しそうに手にとったホウキを見ていました。レイモンドはただの木の太い木の棒にしか見えない物を選んでいました。
「さきほどは、小石を念で持ち上げてもらいましたが、今度は自分を念で持ちあげてもらいます。たしかに、小石よりは重たいと思いますが、自分の体であることのメリットもありますよ。それは自分で念じたことは自分の体ですので、すぐに伝わるからです。さあ、ホウキにまたがって練習を始めてください」
みんながホウキにまたがり、空に浮かぶ練習を始めました。カオルもホウキにまたがって見ましたが、まったく浮き上がらないのでホウキを股にはさんだまま飛びあがって見ました。少し浮き上がっていたように思えました。でも、それは気分だけだったようです。
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シンドが手をさげると風がやみました。再び手をあげて軽く振ると、再び風が吹き出しました。
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そう言ってシンドは顔を空に向けていました。
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