カオル、白魔女になります!

矢野 零時

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イバラの森大戦

11 ドナ 火の精霊使い

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 エルザの部屋で気持ちをよく授業を終えることができたカオルは、他の生徒たちいっしょにドナの部屋に向かいました。
 赤い色のドアを開けて中に入ると、すぐに美味しそうな匂いがしてきたのです。思わず、カオルは顔をあげて、鼻をならしました。
 この部屋には大きなかまどがあって、その上に鍋やフライパンがのせられていました。ドナはエプロンをさげてフライパンを振っていたのです。そんなドナをここにきた生徒たちは笑顔で見つめています。よく見ると、生徒たちみんなが皿とフォークを手に持って立っていたのでした。
 カオルがみんなの後ろに立っているとフォークをのせた皿が飛んできました。
「どうぞ。お持ちください」と、皿が声を出したのです。
 言われるままに、カオルはフォークと皿を手に取りました。
「ソーセージ入りのスパゲッティだよ。皿を前にお出し」と言って、ドナは皿を出した生徒の上にフライパンをかたむけて、スパゲティを分け入れています。
「もらえなかった人は待ってておくれよ。すぐに別にスパゲッティをいためるからね」
 そう言ったドナは再びフライパンの上に、ソーセージと玉ねぎを切った物をオリーブオイルでいため出しました。それらに火がとおってしなやかになったので、その上に前もってゆでておいたスパゲティを入れフライパンを何度も振り出しました。最後にケッチャプをたっぷりと瓶から振りかけ、さらに塩と胡椒を振って味を整えていました。
「さあ、できたよ」
 思わず、カオルも他の生徒と一緒に皿をさし出していました。ドナからもらったナポリタンを食べ出すと笑顔になっていました。
「だめよ。ママ、ここはお料理教室じゃないんだから」と、ニーナが怒っています。どうやら、ニーナはドナの教室で、お手伝いをしていたようです。
「ここで食事をしてもらえば、昼の心配はしないですむし、授業時間がむだにもならないわ。ともかく、火を使うことがいかに楽しいか、まず知ってもらう必要があるんだよ」
「ママ、ちゃんと敵とたたえる魔法を教えてあげなければダメよ」
「そうかね。火の魔法は、本当は人を温かく優しくするためのものなんだけどね」
 そこでドナは少し首をかしげていました。
「それじゃ、次の授業に進みましょう。みなさんは魔法の杖をすでにお持ちでしょう? 持っていない方がいればお貸しします」と言って、ドナは生徒たちを見まわしていました。
 カオルは他の生徒たちと同じように、杖を出して手に持ちました。
「みなさんは、どうやら杖をお持ちのようですね」と言ったドナは自分の杖を振りました。すると、杖の先に炎がともったのです。
「まずは、心に炎あれと思うことです。やってください」
 すぐにカオルは心に念じました。でも、炎はともりません。隣にいるニーナはちゃんと杖の先に炎をともして、自慢げにカオルに杖の先を見せてくれました。他の生徒たちを見ると、杖に炎をともしている生徒は三分の一ぐらいでした。レイモンドはちゃんと炎をつけていました。
「この後、あそこに立っている大岩に向かって炎をぶつけてみましょう」と言って、ドナは杖を振りおろしました。  ドナの杖の先にできていた炎は飛んでいき、岩の真ん中に大きな音をたててぶつかっていました。でも、岩は燃える物ではありませんので、炎はすぐに消えていきました。
「さあ、やってみてください」
 生徒たちの間から、「えい」とかけ声が聞こえてきます。でも炎をともすことができた生徒の半分しか、炎を大岩にぶつけることができていませんでした。もちろんニーナは見事に炎を大岩にぶつけて、意気揚々としています。
「この教室では、炎の力の勉強もしてもらいます。まずは、炎をあの大岩にまで飛ばせるまでになってもらいたいと思っています。それでは、杖の先に炎をともせた方々と炎を作ることができなかった方々に分かれてください」
 ドナの指示を受けて、生徒たちは二つに分かれました。
「それでは、杖に炎を灯すことができた人たちは大岩に向かって炎を放つ練習を続けてください。その間に炎ができなかった人たちには、私の方から指導をして行きたいと思います」
 ドナがそういうと炎を作れる生徒たちは大岩に向かって炎を飛ばし出しました。
 ドナは、杖の先に炎が灯すことができない生徒たちの所にやってきました。
 もちろん、炎の作れない生徒の中にカオルもいます。
「大切なのは、声を出すことではなく、強く心の中で念じることですよ」 
「強く念じているつもりなんですけど」と、気の弱そうな生徒が声をあげました。
「まず何度も続けて念じてみてください。念じる前に大きく深呼吸をしてみるのもいいかもしれません」と言いながら、ドナは指揮をするように手を振って、生徒に念じるタイミングを指示していました。
 すると、杖の先端に炎を作れるようになった生徒が出てきたのです。
「はい、頑張りましたね。あなたは、大岩に炎をあてているグループに行って、練習をしてください」
 ドナに、そう言われた生徒たちは嬉し気に「はい」と言って、そちらのグループに移って行きました。

「念を込めながら、ゆっくりと杖をあげてください」
 ドナの指導の元にさらに枝の先に炎をつける生徒たちが出てきました。炎をつけることができる人たちは増え出していきましたが、最後まで杖の先に炎ができない者たちがカオルを入れて五人残ってしまいました。

 カオルは手をあげて、「先生、いくら念をこらしてもダメみたいなんです」と、悲しい声をあげました。
「この力は魔法使いとなる方にはぜひ持って欲しいものです。戦うことが起きた時に炎を使う武器になるからです。本当は、自分の念だけで炎を作ってほしいのですが、炎を作れない方のために実は前から研究をしていたことがあります」
「なんですか?」
「念の力がある者ならば、必ず炎を作れるようにしたい。そのために、シンドにたのんで魔道具の開発をしていただきました」と言いながら、ドナはエプロンのポケットから小指ぐらいの指サックのような物を出してみせました。
「これは火弾砲と呼んでおりますが、それを枝の先につけて使ってみてください」と言って、ドナは五人の生徒たちに指サックのような物を渡しました。
 カオルはさっそくドナの教えられるままに、火弾砲を杖の先にかぶせました。
 そして、他の生徒と同じように念じると杖の先にすぐに炎がうまれたのです。
「さあ、みなさんも大岩に向かって、炎をぶつけてみてください」
 ドナに言われるままに、五人は大岩のところに行きました。
 他の生徒はもう十分に練習を終えたのか、芝生の上に腰を下ろしています。
 彼らの前で五人は立ち、交代で炎を枝につけ大岩に炎をぶつけて見せたのでした。周りで見ていた生徒たちは、パチパチと手をたたいてくれました。
「すごい道具だわ」と、カオルは喜びの声をあげていました。


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