カオル、白魔女になります!

矢野 零時

文字の大きさ
27 / 57
天空魔人グール

3 町立図書館

しおりを挟む
 日曜日がきました。
 その日は、おかあさんもコンビニの仕事が休みの日でしたので、お父さんの車で三人いっしょに図書館に行きました。
 図書館は春香町役場のそばにある鉄筋コンクリートの建物でした。市役所と合同で使える駐車場に車を入れると三人で図書館に向かいました。

 図書館の中は静かで、真正面のところにカウンターがあって、そこに図書館員の女の人がすわっていました。お父さんはお母さんとカオルを連れてすぐに女の人に近づきました。本を借りることができる図書カード(貸出券)を作ってもらうためです。女の人の話では、町内では小学校以下の歳の人は本人がここに来てくれるだけで図書カードは作ってくれるそうです。中学生以上の人は住所と名前を証明できる物を持ってくればいいそうです。お父さんは役場からもらってきた住民票を女の人に渡していました。これに住所と家族みんなの名前が書いてあるからです。後はそれぞれ個人貸出登録申込書に記載をして女の人に提出しました。
 
 すぐに図書カードをお父さん、お母さん、そしてカオルも持つことができました。
 これで好きな本を借りることができます。
 お父さんもお母さんも自分で読みたい本を借りたのですが、家に持って帰る前に閲覧室に行ってその本を読み始めていました。
 お父さんやお母さんと別れたカオルは児童図書の置いてある本棚の方に行ってみました。本を選んで家に持って帰ってから、ゆっくりと読もうと思ったからです。宮沢賢治の本の一冊を取ろうとしたときに他の人の手が伸びてきました。思わずカオルの手と触れてしまった手の持ち主の方に顔を向けました。
 カオルと同じ年ごろの女の子でした。
「ごめんなさい。この本、あなたがとろうとしていたんですものね」
「いいのよ。その本にまだ決めてなかったもの。どうぞ、どうぞ」
「ほんとう私が借りていいの?」
 カオルはにっこりと笑ってみせました。
「もしかしたら、あなたも夏休みの宿題は、宮沢賢治なの?」
「そうらしいよ」
「そうらしいって、学校の先生からお話があったのでしょう?」
「夏休みの間に転校してきたばかりで、まだ新しい学校に通っていないのよ」
「通っていない学校なのに、そこの宿題をやるの。すごいのね!」
 何かわからないけれど、彼女に感動を与えてしまったようでした。
「私、加藤カオル。夏休みが終わったら鐘鳴小学校に行くことになるの。よろしくね」
「鐘成小学校ですって! 私が行っている学校よ。じゃ、学校で顔あわせをするわね。私は岩崎珠代」

 珠代は,ここにきて一番最初の友達になりました。

「カオルは自由研究どうするか決めたの?」
「去年は、折り紙でいろんな物を作って、それを台紙に張って出したわ」
「すてきじゃない!」
「でも、やっぱり迫力がないのよね」
「私、今年は、それをやってみるわ。そのアイデア貰ってもいい?」
「いいわよ。珠代は去年何を作っていたのかしら?」
「去年はね。恐竜の歴史を絵に描いてアルバムにしたのよ」
「それ、いいわ。私も恐竜を題材にしてみるかな?」
 珠代は笑いながら本を手にすると、カオルから離れていきました。でも、残念ながら、カオルは借りる本を決められなかったのでした。

 閲覧室に行ってみると、お父さんとお母さんは、真剣な顔をして借りた本を読んでいました。二人とも、あんまり真面目な顔をしていたので、しばらく声をかけることができませんでした。
 やがて、カオルに気がついたお父さんは顔をあげました。
「久しぶりに、本を読んだから、疲れたよ」
「そうね。読みだしたら、夢中になってしまうわ」
「そろそろ昼だろう。ここに来る時にラーメン屋を見つけたんだ。ラーメンを食べて帰ろうか?」
 思わず、カオルは大声を上げそうになっていました。でも、すぐに口を手で押さえました。ここは図書館であることを思い出したからです。

 次の日にもカオルは図書館に行きました。
 場所はわかっていますので、カオルはバスに乗って行きました。本を借りたのですが、お父さんたちと同じように図書館の閲覧室に行って読むことにしました。確かに、家で読むよりも話の内容が頭の中に入ってくるように思えました。

 カオルが読書感想文用に選んだのは『ヨタカの星』でした。
 ヨタカという鳥が阻害され、いじめにあいながらも空の星になる話は、前の学校でいじめに会っていたカオルには、身につまされる内容だったからです。

 本を読んだので、カオルは感想文を書くための原稿用紙を買いに街中にある文房具屋に行きました。
 文房具屋のショーウィンドーに、パンダやキリンの像が飾られていました。そこで、カオルは店の人に聞きました。
「おじさん、飾っているのは、どうやって作ったの?」
「あれかい。紙粘土だよ。誰でも作れる。置いてある奴は、きみらの先輩が自由研究で作ったのを置いてくれたものだよ」
「へえ、そうなの。私も紙粘土を買っていこうかな?」
「いい自由研究ができるよ」
「ほんとう?」
「でも、紙粘土を買うなら、できあがった後に色を付けるポスターカラーも買っていった方がいいよ」
 カオルは、すなおに店主のいう事を聞いて、それらの物を買いました。

 でも、家に帰って考えてみるとカオルは紙粘土で何を作るか、考えていなかったことに気がつきました。
 始めは、ぬいぐるみのクマをモデルにして、クマを作ろうと思ったのですが、クマはかわいすぎて他の生徒たちも作ってきそうです。
 それにカオルにとってのクマは、ぬいぐるいのクマだけで、他に同じ物があるべきでないと思ったのでした。

 そこでカオルは図書館に行ってみることにしました。
 図書館で絵本や図鑑を見れば、何を作ったらいいのか見つけられそうな気がしたからです。
 カオルは図書館でふたたび珠代に会いました。
「あら、こんにちは」
 すぐに、カオルは自由研究に紙粘土で何か作ることを考えている話をしました。
「何も決めていないのね。じゃ恐竜を作ってくれないかしら。学校の展示から戻ってきたら、それをちょうだい。本棚に飾りたいわ」
 そう言った珠代は、本棚に行って一冊の図鑑をもってきました。
 それは恐竜辞典でした。その辞典を開いて、中に描かれた絵を見せながら、珠代はいいました。
「この中のチラノサウルスか、ブロントサウルス、これなら、他の展示にまけないと思うわ」
「わかった。チラノサウルスにする。この怖い顏は私もすきだから」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...