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天空魔人グール
12 侵入開始
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カオルは、老婆から生まれた浮き草の上にのせられていました。
他の浮き草にも女の子たちがのせられています。女の子たちも下の世界からやって来たに違いはありません。でも、老婆たちに暗示をかけられているためか、静かにしていて微笑さえ浮かべていました。
幸せな世界にきたと思っているようでした。
「だめよ。しっかりして!」と、カオルは声をあげました。でも、女の子たちには、まるで聞こえていないようです。
そんな女の子たちに男たちがボートにのって近づいてきました。
男たちは鉄かぶとをかぶり鎖かたびらをつけていましたので、兵士にまちがいはありません。
女の子のそばにやってきた兵士たちは、次から次へと女の子に頭から大きな袋をかぶせ、足まで入れると袋の口をひもで縛っていました。ボートの上が袋でいっぱいになると兵士たちはボートを岸辺に近づけ、袋をボートからおろし荷車にのせていました。
荷車はそこにいた他の兵士たちにひかれて運ばれて行きました。
岸辺に残った兵士たちはふたたびボートにのると、今度はカオルの方に近づいてきたのです。
カオルのそばまで来ると、やはり袋を頭からかぶせようとしました。カオルは背中からホウキをおろし、それをふって、袋をはらいのけ兵士の一人を池に突き落としていました。
「こいつ、抵抗をするぞ」と言って、兵士は驚いていました。ボートに残っていた兵士もカオルは突き落としました。
兵士たちは他の浮き草まで泳いでいき、その上にのっています。カオルはオールのこぎ方は知っていましたから、オールをこいでボートを岸につけました。遠くに家が立ち並ぶ街が見えましたので、ボートからおりたカオルは、そこに向かって走り出して行きました。
街の中に入ると、カオルは左右の家々を見ながら走っていました。
おばあさんから預かったドアノブをつける場所を探していたのです。でも貧しいからなのか、どの家も木や藁でできていたのです。試しに藁や板壁にドアノブを押しつけてみましたが、そこにドアはできあがらなかったのです。もちろん、それぞれの家の出入口には木のドアがついていました。そのドアにドアノブを押しつけてもみましたが、やはりおばあさんの所に通じるドアができませんでした。
おかしな者が入り込んだという連絡が兵士たちの間で伝わったのでしょう。兵士たちは手に剣を持って歩きまわり出していました。ともかくカオルは見つからないように逃げるしか方法はありません。
ムシロをたらしている藁小屋の陰にかくれた時です。
「こっちへおいでよ」と言われ、カオルは腕をひっぱられました。思わず、手を引いた人の方に顔を向けました。
高校生としか思えない年上の男の子がカオルを見つめていました。
でも、カオルが知っている高校生と違っているところもありました。ハーフなのか、瞳が大きくで鼻筋がとおっていたのです。
年上の男の子の後ろに、別の男の子が一人ついていました。その子は中学生のようでしたが、やはり異国の血が混じっているようでした。
「逃げる勇気のある女の子に出会わしたのは、久しぶりかもしれないな」
「あなたは誰?」
「オリバーというんだ。こいつはデイック。ここにきて五年が経ってしまったよ」
「そんな長い間ここにいるの?」
おばあさんからは、「それぞれの世界で時間の流れは違っているからね」と聞かされていました。ですから、カオルの世界では、どのくらい時間が経っているのか心配になっていました。
でも、いまは壁にドアノブをとりつけることに専念しなければなりません。
「そうだよ。逃げ出した時には、仲間がいたんだが、グールを見ると自分から奴の前に出て行ってしまったんだ。残っているのは、俺とこいつだけになってしまった」
「どうして、あなたたちは大丈夫だったのかしら?」
「よく分からないが、俺は全色盲だからね。見える物すべてに色がない。そのせいだと思う。こいつは乱視らしいんだ」
「でも、どうして、ここに、くることになったの?」
「前に一度ここに来ていた奴がいたんだ。俺の友達のジャックだよ。彼が、ここにくれば金の卵を産むガチョウが手に入るというので、ガチョウを捕まえに来たんだ。だが、グールに見つかってしまった。でも、今いるグールじゃない。前にいた奴だよ。そいつは誰が見ても人食い鬼としか思えない顔を持つ奴さ。ジャックは、天空まで生えてきた豆の木をつたって逃げることができた。だけど、俺はできなかった。だから、ここにまだいるんだよ」
「ジャックは助けにきてくれなかったの?」
「それができなくなってしまった。ジャックを追って、グールが下の世界に行こうとしたからだよ。それをされては、下の世界までグールに支配をされてしまう。だから、天空まで伸びていた豆の木をジャックは斧で切り倒してしまった」
「だけど豆の種がまだ地上にあったはずよ? それをつかえば、ジャックは下から天空にくることができたわ」と、カオルは疑問をぶつけました。
「豆の種を売っていた老人のことを言っているのだろう。たしかに、その老人は黒魔女でいつも豆の種を持っていた。だけど、ジャックが老人に近づいていくと、老人はとつぜん燃え上がりだして、持っていた豆の種といっしょに燃えてしまったそうだよ」
「誰が、そんなこと言ったの?」
「グールだよ。誰にも聞こえるように、宮殿で叫んでいたからね」
「えっ、グールは地上に落ちて死んだはずでしょう? それに、ジャックは天空から金の卵を産むガチョウを持って地上に行ったので、裕福な暮らしができた」と言いながら、カオルは、昔話に、ジャックと豆の木、という話があったことを思い出していました。
他の浮き草にも女の子たちがのせられています。女の子たちも下の世界からやって来たに違いはありません。でも、老婆たちに暗示をかけられているためか、静かにしていて微笑さえ浮かべていました。
幸せな世界にきたと思っているようでした。
「だめよ。しっかりして!」と、カオルは声をあげました。でも、女の子たちには、まるで聞こえていないようです。
そんな女の子たちに男たちがボートにのって近づいてきました。
男たちは鉄かぶとをかぶり鎖かたびらをつけていましたので、兵士にまちがいはありません。
女の子のそばにやってきた兵士たちは、次から次へと女の子に頭から大きな袋をかぶせ、足まで入れると袋の口をひもで縛っていました。ボートの上が袋でいっぱいになると兵士たちはボートを岸辺に近づけ、袋をボートからおろし荷車にのせていました。
荷車はそこにいた他の兵士たちにひかれて運ばれて行きました。
岸辺に残った兵士たちはふたたびボートにのると、今度はカオルの方に近づいてきたのです。
カオルのそばまで来ると、やはり袋を頭からかぶせようとしました。カオルは背中からホウキをおろし、それをふって、袋をはらいのけ兵士の一人を池に突き落としていました。
「こいつ、抵抗をするぞ」と言って、兵士は驚いていました。ボートに残っていた兵士もカオルは突き落としました。
兵士たちは他の浮き草まで泳いでいき、その上にのっています。カオルはオールのこぎ方は知っていましたから、オールをこいでボートを岸につけました。遠くに家が立ち並ぶ街が見えましたので、ボートからおりたカオルは、そこに向かって走り出して行きました。
街の中に入ると、カオルは左右の家々を見ながら走っていました。
おばあさんから預かったドアノブをつける場所を探していたのです。でも貧しいからなのか、どの家も木や藁でできていたのです。試しに藁や板壁にドアノブを押しつけてみましたが、そこにドアはできあがらなかったのです。もちろん、それぞれの家の出入口には木のドアがついていました。そのドアにドアノブを押しつけてもみましたが、やはりおばあさんの所に通じるドアができませんでした。
おかしな者が入り込んだという連絡が兵士たちの間で伝わったのでしょう。兵士たちは手に剣を持って歩きまわり出していました。ともかくカオルは見つからないように逃げるしか方法はありません。
ムシロをたらしている藁小屋の陰にかくれた時です。
「こっちへおいでよ」と言われ、カオルは腕をひっぱられました。思わず、手を引いた人の方に顔を向けました。
高校生としか思えない年上の男の子がカオルを見つめていました。
でも、カオルが知っている高校生と違っているところもありました。ハーフなのか、瞳が大きくで鼻筋がとおっていたのです。
年上の男の子の後ろに、別の男の子が一人ついていました。その子は中学生のようでしたが、やはり異国の血が混じっているようでした。
「逃げる勇気のある女の子に出会わしたのは、久しぶりかもしれないな」
「あなたは誰?」
「オリバーというんだ。こいつはデイック。ここにきて五年が経ってしまったよ」
「そんな長い間ここにいるの?」
おばあさんからは、「それぞれの世界で時間の流れは違っているからね」と聞かされていました。ですから、カオルの世界では、どのくらい時間が経っているのか心配になっていました。
でも、いまは壁にドアノブをとりつけることに専念しなければなりません。
「そうだよ。逃げ出した時には、仲間がいたんだが、グールを見ると自分から奴の前に出て行ってしまったんだ。残っているのは、俺とこいつだけになってしまった」
「どうして、あなたたちは大丈夫だったのかしら?」
「よく分からないが、俺は全色盲だからね。見える物すべてに色がない。そのせいだと思う。こいつは乱視らしいんだ」
「でも、どうして、ここに、くることになったの?」
「前に一度ここに来ていた奴がいたんだ。俺の友達のジャックだよ。彼が、ここにくれば金の卵を産むガチョウが手に入るというので、ガチョウを捕まえに来たんだ。だが、グールに見つかってしまった。でも、今いるグールじゃない。前にいた奴だよ。そいつは誰が見ても人食い鬼としか思えない顔を持つ奴さ。ジャックは、天空まで生えてきた豆の木をつたって逃げることができた。だけど、俺はできなかった。だから、ここにまだいるんだよ」
「ジャックは助けにきてくれなかったの?」
「それができなくなってしまった。ジャックを追って、グールが下の世界に行こうとしたからだよ。それをされては、下の世界までグールに支配をされてしまう。だから、天空まで伸びていた豆の木をジャックは斧で切り倒してしまった」
「だけど豆の種がまだ地上にあったはずよ? それをつかえば、ジャックは下から天空にくることができたわ」と、カオルは疑問をぶつけました。
「豆の種を売っていた老人のことを言っているのだろう。たしかに、その老人は黒魔女でいつも豆の種を持っていた。だけど、ジャックが老人に近づいていくと、老人はとつぜん燃え上がりだして、持っていた豆の種といっしょに燃えてしまったそうだよ」
「誰が、そんなこと言ったの?」
「グールだよ。誰にも聞こえるように、宮殿で叫んでいたからね」
「えっ、グールは地上に落ちて死んだはずでしょう? それに、ジャックは天空から金の卵を産むガチョウを持って地上に行ったので、裕福な暮らしができた」と言いながら、カオルは、昔話に、ジャックと豆の木、という話があったことを思い出していました。
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