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6取調室
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その日、角田が覆面パトカーにのせて連れてこられた。
取調室の真ん中にあるテーブルを前に佐川がすでにすわっていた。また、部屋の角すみに机を置き、それを前にして近藤がすわっていた。すでに机の上には書類が置かれ、手にボールペンを握っていた。
別の刑事が角田を連れてきて、テーブルをはさんで佐川の反対側にすわらせた。
「任意だからというんで、連れてこられてやったけどね。なんなんだい、この扱いは」
佐川は相手をにらみつけてから、口を開いた。
「角田さんは、望月薫につきまとっていたんだろう!」
「望月薫って、誰ですか?」
「とぼけても無駄だぞ。あんたのスマホで望月薫とメールでやり取りをしたことが残っていたぞ」
すると角田は口を開けた。そんな馬鹿なという顔をしていたのだ。
「あんたね。科学は進歩しているんだよ。メールを消しても復元ができるようになっている。県警のサイバー捜査班の力を借りて、復元してもらったよ。メールで『必ずに殺しにいく』と言っているね」
「メールでは言ってみただけですよ。本気でそんなことをする気はまったくなかったさ」
「ほう、じゃ。8月20日の午後は何をしていたんですか?」
「配達用バイクを店に置きに行きましたよ。でも、具合が悪くなったので、午後は自宅に帰らしてもらった」
「タクシーを使っているね?」
「ええ、そうですよ」
「私らも、タクシー運転手に会って話を聞きに行っている。タクシー運転手の話では、車を自宅の前でとめさせて待たせていた。しばらくして部屋から何かケースに入った物を持って出てきた。そして、タクシーにのると、再び寿マンションに戻った。なぜ戻ったのかね?」
角田は青い顔をして何も言えないでいる。
「寿マンションにもう一度入るためだったのではないかね?」
「何を言っているんだ。たしかに寿マンションに戻らせたよ、それはもう一度マンションを見たくなったからだよ」
「じゃ、望月薫さんがマンションにいることは知っていたのだね」
「知っていて悪いかい。だが、ピザを届けに行った時が、初めて寿マンションの中に入った時だよ」
「あんたが、このマンションをいつ知ったのか、私たちには関係がない。知ったマンションの非常階段を上がって五階のドアから入り、その後、望月薫さんの部屋に入って首吊り自殺に見せかけて殺したんだ」
すると、角田は笑った。
「非常階段をあがっても、各階のドアを開けて入ることはできないよ。知らないのかい?」
「ほう、非常階段の各踊り場についているドアが外から開けることができないことを知っているのは、どうしてなんだね?」
角田は、はっとした顔をしていた。
「それにタクシーで運んできたケースはガサ入れした物品の中にはなかった。私たちがガサ入れをした時にはすでに捨てていたようだね。その中にシッピング用の道具が入っていた。違いますか?」
角田の顔からうす笑いの表情が完全に消え青白い塑像の上部が、佐川の前に置かれているようだった。
「あなたが投げる事ができなかった物があった。あなたがいつも履いていたスニーカー。ナイグのエアタイプ、定価は2万5千円、それが、いまのオクションでは百万円を超えているそうだね。だから、いつもはいていた。エレベーターの監視カメラにも映っていた。その靴を履いて非常階段をのぼる前に木々の間を通らなければならなかった。そこには和らいだ黒土がある。そこを通った時にスニーカーの靴底の跡が残ってしまった。黒いから跡が付いたのが分からなかったのだろう。それに靴のひだの間に土がはまり込んでいった。土はマンション503号室の玄関内の床に微量だが落ちていたよ。これは科捜研の分析力のおかげで判ったことだが」
「あの女は俺の物のはずなのに、『もう別れましょう』だなんて言い出しやがって。だから、そんなことなどできないことを教えてやったのさ」
「スニーカーを洗えば、犯罪の痕跡を消せると思っていたのかな? あなたが大事にしていた靴があなたの犯罪のすべてを印してくれていた」
佐川は、肩眉をあげて、角田を見つめていた。
終
取調室の真ん中にあるテーブルを前に佐川がすでにすわっていた。また、部屋の角すみに机を置き、それを前にして近藤がすわっていた。すでに机の上には書類が置かれ、手にボールペンを握っていた。
別の刑事が角田を連れてきて、テーブルをはさんで佐川の反対側にすわらせた。
「任意だからというんで、連れてこられてやったけどね。なんなんだい、この扱いは」
佐川は相手をにらみつけてから、口を開いた。
「角田さんは、望月薫につきまとっていたんだろう!」
「望月薫って、誰ですか?」
「とぼけても無駄だぞ。あんたのスマホで望月薫とメールでやり取りをしたことが残っていたぞ」
すると角田は口を開けた。そんな馬鹿なという顔をしていたのだ。
「あんたね。科学は進歩しているんだよ。メールを消しても復元ができるようになっている。県警のサイバー捜査班の力を借りて、復元してもらったよ。メールで『必ずに殺しにいく』と言っているね」
「メールでは言ってみただけですよ。本気でそんなことをする気はまったくなかったさ」
「ほう、じゃ。8月20日の午後は何をしていたんですか?」
「配達用バイクを店に置きに行きましたよ。でも、具合が悪くなったので、午後は自宅に帰らしてもらった」
「タクシーを使っているね?」
「ええ、そうですよ」
「私らも、タクシー運転手に会って話を聞きに行っている。タクシー運転手の話では、車を自宅の前でとめさせて待たせていた。しばらくして部屋から何かケースに入った物を持って出てきた。そして、タクシーにのると、再び寿マンションに戻った。なぜ戻ったのかね?」
角田は青い顔をして何も言えないでいる。
「寿マンションにもう一度入るためだったのではないかね?」
「何を言っているんだ。たしかに寿マンションに戻らせたよ、それはもう一度マンションを見たくなったからだよ」
「じゃ、望月薫さんがマンションにいることは知っていたのだね」
「知っていて悪いかい。だが、ピザを届けに行った時が、初めて寿マンションの中に入った時だよ」
「あんたが、このマンションをいつ知ったのか、私たちには関係がない。知ったマンションの非常階段を上がって五階のドアから入り、その後、望月薫さんの部屋に入って首吊り自殺に見せかけて殺したんだ」
すると、角田は笑った。
「非常階段をあがっても、各階のドアを開けて入ることはできないよ。知らないのかい?」
「ほう、非常階段の各踊り場についているドアが外から開けることができないことを知っているのは、どうしてなんだね?」
角田は、はっとした顔をしていた。
「それにタクシーで運んできたケースはガサ入れした物品の中にはなかった。私たちがガサ入れをした時にはすでに捨てていたようだね。その中にシッピング用の道具が入っていた。違いますか?」
角田の顔からうす笑いの表情が完全に消え青白い塑像の上部が、佐川の前に置かれているようだった。
「あなたが投げる事ができなかった物があった。あなたがいつも履いていたスニーカー。ナイグのエアタイプ、定価は2万5千円、それが、いまのオクションでは百万円を超えているそうだね。だから、いつもはいていた。エレベーターの監視カメラにも映っていた。その靴を履いて非常階段をのぼる前に木々の間を通らなければならなかった。そこには和らいだ黒土がある。そこを通った時にスニーカーの靴底の跡が残ってしまった。黒いから跡が付いたのが分からなかったのだろう。それに靴のひだの間に土がはまり込んでいった。土はマンション503号室の玄関内の床に微量だが落ちていたよ。これは科捜研の分析力のおかげで判ったことだが」
「あの女は俺の物のはずなのに、『もう別れましょう』だなんて言い出しやがって。だから、そんなことなどできないことを教えてやったのさ」
「スニーカーを洗えば、犯罪の痕跡を消せると思っていたのかな? あなたが大事にしていた靴があなたの犯罪のすべてを印してくれていた」
佐川は、肩眉をあげて、角田を見つめていた。
終
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