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果たし状と言うなのラブレターはきちんと果たしている

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「果たし状?」

「どったの? 拓」

 俺の親友、神凪かんな神威かむいという名前の男が俺の下駄箱を覗き込んで来る。
 下駄箱の中には上履きの他に、果たし状があった。
 いや、俺は一瞬「ら、ラブレター! ついに俺にも春が!」と思った。
 だけど、あったのは長方形の紙を適当に折っただけの物だった。
 しかも、上の方に堂々と『果たし状』と書いてある。
 中身は薄いもんで、放課後体育館裏で待つと書いてあった。

「無視するか」

「おいおい拓~そこは行こうぜ! 面白そうじゃん!」

「他人事だと思って、神威め」

「え、他人事じゃん?」

 殴って良いかな?


 俺が中2の時に母親が事故にあった。
 しかも、それが政治家だったようで罪などが揉み消された。
 慰謝料としてかなりの金を貰ったが、俺達の気は晴れなかった。
 父親はその金を持って行方不明になった。
 元々頼りなるような父親ではなかったので、俺達は諦めた。
 俺達、俺と2人の妹を含めている。

 そして、葬式を終えて、親戚の人と一緒に住んで良いと言う事で、その事に甘えて東京に上京して来た。
 そして、小さなボロいアパートを渡されて働けるまでの金は援助されたが、俺が高校生に成ってからはそれが無くなった。
 バイトして何とかやって行けている。
 親戚の人は母親の遺産目当てだったようだと、その時確信した。


 そして現在、俺はバイトの方に行きたいのでさっさと終わらせようと体育館裏へと来ている。
 ちなみに体育館の影に神威とその他2人の親友がニヤニヤして隠れている。
 その事を丁寧に教えてくれたよ。クソが。

「えっと君が果たし状を下駄箱の中の上履きの下に入れた人?」

「は、果たし状だなんて。わ、私は、私、は。らぶ、らら、ラブレターのつもりだったんですが?」

 じゃあ、果たし状って書くなよ!

 現在俺の目の前に居るのは、俺らの『正統学園』のクール系美少女と呼ばれて密かにある美女ランキングの1、2を争う人であった。
 確か名前は西園寺さいおんじ雪姫ゆきめだったはず。
 銀髪をヒラヒラさせて、モジモジしているとクール系のイメージが崩れる。
 さらに、透き通る蒼い瞳はキッチリと俺を捉えていた。
 何か、俺の中で引っかかるモノがあった。

 あ、同じクラスだ。
 高校1年。現在もうすぐゴールデンウィーク。クラスの人、全然把握してない!

「で、なんですか?」

 帰らせてぇバイト行かせてぇ。

「あ、あの。今から私が言う事を復唱してくれませんか」

「あーはいはい。良いですよ」

 速く終わらせよう。
 西園寺の声を聞きながらきちんと復唱する。

「貴女の事を人目見て私の心はガラス瓶を落とした時のような音を鳴らして崩れました。貴女の仕草1つ1つにときめいて夜も朝も寝れません。是非ともこの思いを伝えたいと思います。貴女は貴女が持っているよりもとても可愛いです。小さいですが、私の命を捧げますのでどうか、お付き合いしてくれませんか?」

 ⋯⋯俺は何を言っているんだああああ!
 いやまぁ、後ろの3名の顔を思い浮かべて殴りたいと思いたいと思ったくらいで、なにも問題ないな。
 ささ、帰ろ。

「も、もう。そこまで言うなら、良いですよ。お付き合いしましょう」

「⋯⋯え」

「あ、父様や母様への挨拶は何時にしますか? 何時、我が家に引っ越しますか? どんな料理が好みですか? どんな髪型が好きですか? これから永遠を共にするのです。色々と聞かせてください!」

「ちょ、ちょっと待って西園寺さん」

「そんな西園寺なんて、私達はもう、その、深い仲なんですから名前で呼んでください!」

「え、なんか、暴走してません?」

「え、なんの話ですか? 私は長文の告白を受けて、それをYESと答えだけですよ?」

「え、俺、告白してな⋯⋯」

 西園寺雪姫は何処からか取り出したボイスレコーダーを再生した。

『貴女は貴女が持っているよりもとても可愛いです。小さいですが、私の命を捧げますのでどうか、お付き合いしてくれませんか?』

 そう、再生された。

「告白してくださったのに、実は罰ゲームだったのですか!」

 もう一度再生された。
 後ろの3人のゴソゴソ話が何となく聞こえて来る。
 それに本格的にそろそろバイトに行かないと!

「では、お試しと言う事で」

「⋯⋯ッ! はい! これから末永くお願いしますね」

 俺はこれを軽く見ていた。
 まさかあんな事になるなんて、思っても見なかった。
 そもそもアレを予想出来たら俺は凄いだろう。


 バイトを終えてボロアパートへと帰還した。
 扉を開けると中から声が飛んで来る。

「お兄ちゃまおかえりなさい!」

「おぉ、海華うみかただいま」

 海華は小学五年生の俺の妹である。
 とにかく可愛い。本当に可愛い。1つ1つの動作が天使のように見える。
 青色の髪をしている。
 海華の頭を撫でてやると目を細めて喜んでくれる。
 五年生になっても反抗期なくて俺、感動感激の日々。

「お兄ちゃん。晩御飯出来てるよ」

「そうか。ありがとう愛海あみ

 中3の妹。水色の髪が特徴的でお料理担当である。
 バイトで大変な俺の事を思って家事等を1人で行っているいい子だ。
 友達と遊びたいだろうに。

 晩御飯を食べて風呂に入り、寝る。
 寝る時、右に海華、左に愛海が居る。
 布団が1枚しか無いので許し欲しい。
 妹に言うのはなんだが、美少女2人に挟まれて毎晩寝ている俺は罪深いだろう。
 最近愛海の発育が良い気がする。新たな下着の為に金を渡さないと。

「「「スピー」」」

 明日は土曜日、俺の人生が変わる日である。
 そんな事を微塵も思わない俺達は健やかな夢を見て、起きるのであった。

「⋯⋯良かった。Gは出て来ていないようだな」

 俺の口の中に大量のGが入って来る夢を見た。
 びっくりしたぜ。

「お兄ちゃん、海華、朝食出来てるよ」

「わーい! お姉ちゃんありがとう!」

「ありがとう」

「うん。私に出来ることはこれくらいだから」

 3人で食パン1枚を綺麗に分けて食べ始める。
 俺は食パンをさらに3等分して2人に渡す。
 この場合、大抵拒否されるのだが、2人は育ち盛りなので、押し付ける。
 そんな何時もの普通な生活を送っていると、チャイムが鳴る。

「はーい」

 大家さんかな? でも、滞納してないけどな?
 ドアを開けて見ると、外には黒服のガタイの良い人が複数人居た。

「⋯⋯⋯⋯どちら様で?」

「雪姫様の命により、旦那様をお迎えにあがりました!」

「人違いです帰ってくださいそして二度と来ないでください! じゃ!」

 ドアを閉めて中に入ると、不思議そうな2人の顔があった。

「お兄ちゃま大丈夫? またクソジジイの借金取り?」

「クソジジイとかダメな言葉遣いはしないの」

「お兄ちゃんまた自称助けている優しい近所のおばさんのお金の催促?」

「違うよ」

 やばい。2人は家に来る人イコール泣け無しの金を奪う人になってる。

「大丈夫。今回は人違いだったから」

『あの! 旦那様! 伊集院いじゅういん拓海たくみ様!』

「お兄ちゃん名前呼ばれてない」

「他人の名前似さ。気にするな」
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